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25枚目

 首から下げた魔導式カメラを夜空に構え、標準を合わす。キラキラと輝く光はカメラ越しでもありありと見えた。


 パシャ。


 光緋蒼星と言う特殊な星の色は暗がりの夜空で一際色鮮やかに輝き、その存在感たるや天晴れ。


 これが月の光が強い時は見えないというのはとても勿体ないと思う程である。


(あ、そう言えばさっきの書斎……撮るの忘れちゃった……カッコよかったのになぁ)


 写真好きのオレでも流石に恐怖には打ち勝てず、綺麗だと思った景色を画角に収める事が頭から根こそぎ抜けていた事に少し笑いが込み上げた。


 しょうがない。ここはヘルの錬金術による視覚記憶共有で目に焼き付いけておいた風景として現像しよう……


 ◆


「天体に興味があったらまた何時でもおいで。紅茶ぐらいならご馳走するから」


 上品に手を振り見送ってくれた月夜見さんを背にまた、光耀が隣で照らし出す森の中を三人で歩く。


 夜も深まり数時間後には恐らく朝焼けが見えるだろう。


 これは確実にオールコース。


 うん。明日は授業中に爆睡するのかもしれない。いや、最早今日と言う時間帯なのかもしれない。




「流石に帰って寝る〜?」


「待って、肝心の声の正体解明できてない」

「あ、そもそもそれが目的だったね」


 萌餅が眠そうな声でそう言ったが、今この状況を作った元凶を突き止めるための調査をしていた筈なのに、怒涛な勢いの悪六の発生にすっかりと忘れていた。


「それで結局何処でその声を聞いたの?」


 先程二人が食堂からくすねてきたであろうフライドポテトをかじりながら萌餅が尋ねると光耀が答えようと口を開く。


「校舎近くの……」


 コソコソ…………ゴニョニョ…………



 クスクス…………


「「「!!!?!?」」」


 どこからとも無く体全体に響き渡るような囁き声が静かに響き渡り始め、緊張が解けていた空気が途端に引き締まり全員でその場に硬直する。


 ヒソヒソ…………ゴニョニョ………



 クククッ…………


「「「!!!!!!」」」


 冷や汗が背中を伝い、光耀と萌餅がオレの服の裾と袖をそれぞれ力強く握り視線だけを動かし声の主が何処にいるのかを探している。


 辺りを見回しても付近には四季の大樹が佇んでいるだけで何も異変は無い。


 この場にこれ以上居れば最悪、光耀が気絶しかねない。正直オレも怖い。


 少しでもこの場から離れようと恐怖で硬直した筋肉に力を入れ一歩踏み出すと同時に、視界に映った遠くの暗闇にはっきりと見える色素があった。



 ()()()()()()()()だ。




『青い煙が辺りを漂い始めている』




 この言葉が脳内で形成された瞬間オレの服を掴んでいた二人の手を両手で鷲掴み、寮の方面へ脳内クラウチングスタート。


「全力ダッシュだ二人共!!!!」

「「瞳ぃぃいいい!!!!」」


 一気に駆け抜け後もう少しで寮という所で、近くの水晶宮に暖色の明かりが灯っているのを見つけ反射的にそちらへと向かう。


 ガシャッ!


「わっ!びっくり!」


 水晶宮の扉を開け中に駆け込むと植物の手入れをしていた人物が驚きの声を上げる。


 聞き覚えがあると思い、近くに寄ってみるとそこには馴染みの艶やかな菫色の髪が目に入ってきた。


「菫!」


「わぁ、瞳君だ!それと萌餅ちゃんと光耀君も。こんな時間にどうしたの?凄い慌ててたけど」


 そこに居たのは泥に塗れながら苗の植え替えをしていた菫だった。手に持っていたスコップを地面に置きこちらへ駆け寄ってくる。


 夜も更けた今の時間帯に急に慌てて入ってきたオレ達に疑問を持った菫は首を傾げその疑問に萌餅が今まで経緯を説明してくれた。ついでに今のこの状態も。


「青い煙かぁ……私もそれは分かんないなぁ……」

「じゃあほんとにあれはなんだったんだ………」


 光耀の気を紛らわそうと菫が行っていた苗の植え替えを手伝いながら話す。一連の流れを聞いた上でも余り怖がらず真剣に話をしてくれる菫はとても良い子だ。


 ビビりまくってるオレ達とは違うや。


「でもね、囁き声って言うならそれは『ササヤ木』って言う植物だと思うよ?」


「ササヤ木???」


「笹の葉が枝から生えてる見た目はごく一般的な樹木なんだけど笹の葉同士が擦り合わさっちゃうと人の囁き声に聞こえるって言う植物なの」


「ほらあそこにあるのがササヤ木だよ」と水晶宮の樹木が植えられているブースの一番右側を指差す。


 じっと見てみると確かに、生えている葉っぱが普通の葉ではなく笹の葉の樹木が有るのが見えた。


 ふと水晶宮に静寂が訪れるとサラサラ、サワサワと不自然に葉が靡き、どこからとも無く声が聞こえてきた。


「おぉ、、これが囁き声……」

「あぁ〜良かった〜幽霊じゃなくて〜」


 これで光耀の恐怖の対象であった囁き声の正体が分かり、やっとの事で心の重荷がおりた。


 安堵した光耀は菫に熱烈な握手を交わし今度は嬉し泣きをする。


 今日の光耀の表情筋は忙しい。


「…………?」


 喜びに打ちひしがれる光耀とそれに付き合う菫を横目にじっとササヤ木を見つめ何かを考え込んでいる萌餅。

 

 不思議に思いどうしたのかと尋ねると、困った様な悩んでいる様な、そんな複雑な表情を浮かべていた。

 顎に指を添えて首を傾げる姿はさながら謎を解く探偵の様。


「うぅん……なんか外で聞いたのとちょっと声?が違う気がするんだよ……なんて言うかその、笑い声が無いよね」


「…………。言われてみれば」


 萌餅に言われ、もう一度耳を澄まして聞いてみても確かに先程外で聞いた囁き声にあったクスクスと小さく笑う声が聞こえない。


 何を言っているか聞き取れない雑音のようなものしか音を拾えずまだ一抹の疑問が残る。


「………()、で聞いた……?」


 菫の発した「外」という言葉に思考を巡らせる。


「ん??」


「ササヤ木は…水晶宮にしか無いよ………」




 矛盾。




 ここは水晶宮。


 ここに居ても尚、静寂の中でないと聞こえないササヤ木の声がガラスで造られたドーム状の水晶宮の外へと聞こえてくるのだろうか。


 否…………


「不可能!?!?」



 バタァアアン!!!



「え、あぁあ!!!!」


 隣で聞こえた衝撃音に顔を向けるとそこには先程まで未知の恐怖から解放され、嬉しさにテンションが上がっていた光耀が泡を吹いてうつ伏せに倒れていた。


 遂に精神的にキャパオーバーとなった光耀は気絶しピクリとも動かなくなった。




「「光耀ぉぉぉおおおおおお!!!!!」」

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