24枚目
「やっぱりお清めが必要だよ!!」
「塩だ塩!!食堂から取ってこよう」
図書館から飛び出し、寮の前にある電灯の下へと滑り込む。
いくらこの世界に魔法技術があると知っていたとしても無機物自身が理由もなく動き回ると知ったら恐怖以外の何物でもない。
単純な話、この現象が魔法技術だと瞳で見て確認できない限り全ての超常現象が恐怖の対象になるのは今の現状を見れば納得出来ることだろう。
そんなものはただの怪奇現象。怖がるなと言われる方が俄然無理な話だ。
「じゃあちょっと行ってくるね」
「ごめん瞳……すぐ帰ってくるから!」
食堂に塩を取りに行くのにも光耀が一人では無理と言うのでオレが着いて行こうとすると、今度は萌餅が外で一人は流石に無理と言うので、結果光耀と萌餅の二人で行く手筈となった。
まぁ、多少の怖さは残っているが、物部さんの言い分的に自らの意思で行動する原本は図書館以外には移動しないと見た。
それにオレには可愛い可愛い幸が居てくれるので問題は無い。
右肩で羽を休めている幸を見るといつもの色よりほんのり青みがかった極彩色の鱗粉をチラチラと纏わせていた。
(うーん…今日はやけに目が冴えるな……吃驚しすぎたのかな)
ガチャ……
「ただいま」
「お塩持ってきたよー」
寮の扉が開かれ食堂に行っていた光耀と萌餅が帰ってきた。
相変わらずの光耀の発光ぶりに少し瞳を細める。やはり暗闇で照らす電灯の灯りと光耀とでは段違いに眩しい。
最早才能だな……
「ってこれ、フライドポテトじゃん!!純粋なる塩じゃ無いじゃん!!」
「塩は塩だよ。オマケにポテトがついてるだけ」
「小腹すいちゃった」
「いや、これじゃあ塩の方がオマケじゃん」
道理で二人が扉を開けた瞬間じゃがいものいい香りがすると思った。
持って帰ってきたポテトをつまみ出す二人を見てまぁ、確かに塩は塩だし良いか。と納得しついでに一緒につまむ事にした。
空腹は最高のスパイス。お腹が少し満たされると自然と精神的不安も軽減されて来る感覚がするというものだ。
人間。単純な人程扱いやすいものは無い。(オレ含め)
「次何処行く?」
「う〜ん……場所がなぁ~見当つかないんじゃな〜」
「無闇矢鱈とは歩きたくない。怖い」
萌餅持参の資料の項目にそれぞれ目を通しても抽象的な言葉でまとめられている為、具体的な場所を予想する事でしか行き先が分からなくなってしまった。
水鏡となると……鏡か、水。
獣となると……森?
赤色灯……青煙………分からん。
そもそも本来の目的である光耀が聞いた誰とも分からぬ声は恐らく光耀が夜出歩いてた時の場所の筈だ。
「う〜ん…………」
三人で唸りを上げ、何となく空を見上げる。新月な為月明かりはなく、濃い藍色と黒が混じりあった夜空には煌々と光る幾つもの星々が浮かんでいた。
月明かりが無い新月では夜に輝く星の光はより一層明るく見える。
「…………!?」
夜空を見上げた視界の端に見えたのは一筋の赤い光。それは地上から空に向かって放たれている赤い光の柱だった。
「赤色灯だっ!!!!」
「え、」
「えぇ!?」
咄嗟に自分自身の瞳に今の景色を焼き付け萌餅と光耀の手を取る。
光の根元だけを見つめそこめがけて走り出した。
光の元はこの舞闊を囲う森の中。ゆっくりと動くその光柱は空だけを照らしていた。
♦◆♦
「はぁ、はぁ、」
「夜のランニングキツぅ!」
森を駆け迫り来る木々を避け、ただ我武者羅に赤色灯が消え見失わないよう見つめ、只管に前を向き走り瞳に焼き続ける。
植物の生い茂る地面を駆けていく三つの足音から土を踏みしめる音に変わったと同時に、そこら一帯から乱雑に生えていた木々が無くなり、そこに建つ建物がオレ達の前に姿を現した。
「建物……?」
庭先には少しお洒落なガーデンテーブルセットが設置されており、その机の上にはまだ若干湯気の立った飲みかけのティーセットが置かれていた。
もう一度空を見上げると間違いなくこの建物の屋上らしき場所から光が放たれている。
「ん!明日は飴雲………ぅうん?違……いえ合ってる……?」
お洒落な手すりが着けられたベランダをゆっくりと歩いている人影が、空を見上げたまま何やら手元に持つものと比べて独り言を喋っている。
「マゼンタ……?チェリーピンクか……いえ、角度を変えるとウィスタリアにも見えますね………ん?」
手元を見ていたその人物は下から見上げるオレ達三人に気づき視線をこちらに向けた。
光耀の明かりによってあちらからは丸見えだろうが、生憎こちらからは明るすぎるので暗闇が見えにくい。
だが、オレの瞳は他の人よりも多少優れているので恐らく二人よりかはよく見えていると思う。
「あら。こんな夜中にどうしたのでしょう。」
「あ、こんばんは」
ベランダに居た人物は近くに取り付けられている梯子から降りて来てこちらに駆け寄る。
「オレ達、舞闊の悪六を探してて、その時にこの赤色灯を見つけて来たんです」
「なるほど。仰る通りこちらがその正体ですね」
これまた先程の物部さんの時と同じくあっさりとネタばらし。
だが先程のとは違うのはこの現象を確実に人の手で発生させていると言う事。
これを聞いたオレ達一同は上がった息を整える意味も含まれた安堵の深呼吸をした。
「はぁ〜良かった……」
「今度は人の手だ………」
力が抜けた光耀はオレの肩にもたれかかって脱力する。足の力が抜けたのかほぼ全体重がオレの肩にのしかかる。
重いと思いつつも肩からかけられた両腕を掴み「折角来たんだから」と勧められたお茶の誘いに萌餅と頷き、ガーデンテーブルに引きずって行く。
出されたティーカップから甘酸っぱく香るのは「フォレストベリーティー」という大変オシャレな紅茶だそうで、一口口に含むと甘さや酸味が絶妙に合わさったラズベリーやクランベリー等の味が広がりつつも、後味スッキリな一品。
うぅ〜ん……とても美味。
どうやらここで星空の観察をしていたのは天文部部長の月夜見星輝という先輩だった様だ。美しい漆黒の髪を靡かせる姿は菫を彷彿とさせるような佇まいだ。
「所で、何故夜空に赤色灯を掲げているんですか?」
萌餅が一泊置いて月夜見さんに尋ねる。
「ふふ。それはね……上を見てみて?」
萌餅からの問に美しく微笑し、空の方へと指をさしそれに従い空を見上げる。
一筋の赤色灯が照らしていたのは一つの星。
それは蒼色の様な、緋色の様な、はたまた紫色の様な。絶妙に何にも定義できない色味を纏う不思議な星がそこにあった。
「あれは光緋蒼星と言って、星の光がとても弱くて月の光が強い時は見え難い星なの。」
「光緋蒼星……」
「元の色は蒼色なんだけれどね?この特製の赤色灯を当てることによってその色の違いでこの世界の特殊な気候を予測できるの」
「特殊って言うと、飴雲とか槍雨?」
「そうそう!特に槍雨は特殊な気候の中では上位に君臨する程危険な天気だから絶対に見極めなきゃいけないの!」
憤怒するように興奮した月夜見さんの圧に押され少し仰け反る。槍雨とはその名の通り空から槍が降ってくる気候であり、この世界の一般市民にとって恐怖すべき存在なのだ。
何しろ普通に殺傷力のある槍が降ってくるのだ。建物の中に避難しても偶に貫通してくることもあるくらいなのだから。(経験談)
「槍雨の時は歴代の防御が得意な舞闊の生徒達が科学部と協力して創った魔術式防御壁を展開しないと最悪死人が出ちゃいかねないからね」
裏事情が知れたことによりオレがまだ一般市民として暮らしていた時の平和の殆どは歴代、舞闊の生徒の皆さんのお陰だとより一層感じた。




