23枚目
その後すぐに身支度を整え出発することになった。
何かしらの電灯を持っていこうとし、自分の部屋に戻ると既にラファは夢の中に堕ちていた。起こさないようにと抜き足で歩くと萌餅と光耀もそれに続きそろりと部屋に入ろうとし、オレが止めた。
光耀が今、豆電球がついた薄暗い部屋に入れば間違いなく此処が昼間になってしまい、ラファの安眠を邪魔してしまうかもしれないと懸念してでの判断だ。
光耀も自覚があったのか、萌餅と共に潔く部屋の前で待っていてくれた。
(今日はラファ、寝るの早いな……やっぱり疲れてたのかな)
いつもこの時間はラファが寝るよりオレが先に寝る確率がほぼ百%なのだが、どうやら今日は日頃の疲れが出たのだろう。ラファもぐっすりだ。
労いも込めて起こさぬ様、自分のクローゼットの中から物音を極力立てない配慮をしつつ、小型の光石電灯を持ち出した。
さていよいよ寮から出て、行ってみよう!と言う所で、決意を決めたもののやはり怖いのか光耀は震えながらオレのシャツの袖を掴む。
にしても今日は新月な為、本当に光耀が居たら明るい。持ってきた電灯が要らないのでは?
と思う程には本当に光耀が発光している。そりゃ暗がり見えませんわな。
「さて、どこから行く?」
「と言うよりまず、これは一晩で全部発生する事象なの?」
「う〜ん……それが分かんないんだよねぇ〜取り敢えず手始めにいっちばん近くの図書館のやつっぽいの行ってみる?」
見えざる禁忌の書庫。そこから連想されるのは恐らく寮の隣にあるこの図書館で発生する事象だと思う。
そして何より見えざるという事は案外本当に見えなくて存在していないのかも知れない。実際オレも何度か図書館に足を踏み入れているがそんな扉は一度も見ていない。
であれば萌餅が言った通り一番近いということも含め、早速調査を開始することにする。
閉じられた扉を開き持っている電灯で暗がりを照らし出す。電灯で照らし出す場所をオレ達三人は共に目で追って確認する。
「失礼しま〜す」
「うーん別にいつもと何ら変わらない図書館だね」
歩く度コツコツと靴音が響き渡り、暗闇を反響してオレの耳に届く。三人の靴音がバラバラに響き、二階三階へと階段を登っていく。
しかし何もかも異変はなくただただ自分達の背より高い本棚に様々な本が綺麗に整頓され納まっている空間が続くだけだった。
「なんっの変哲も無いね」
「まぁ、それが良いんじゃないかな……一番平和だよ」
「何か落ち着いてきた……」
少し光耀に心に余裕が出来てきたのか、口数が徐々に増えてきてオレと萌餅の会話に参加する回数が増えてきた。雑談をポツリポツリと交わしながら再び二階一階へと階段を降りていく。
「あ、これ著者不明で有名な世界管理説が唱えられた本だ」
「わ、ほんとだ。何か思想が偏る〜とかで回収された禁忌の本じゃなかったっけ」
「あながち間違いでは無い」
著者不明の『世界管理説』。この国にかつて存在していたちょっとヤバめな宗教が唱えていた世界管理説を事細かく書き記された、いわば聖書。運命の神だとか創世の神だとか。建国神話にそう言った神々の話が出て来るのはよくある話だ。
ここの宗教は様々な国民を勧誘し、異常なまでの神への思想を刷り込み同時にマインドコントロールする事により内乱が起きかけた事があったそうだ。それがきっかけで治安維持隊に強制解体させられ各地区に配られたであろう聖書は回収された。
それがこの本。流石にオレの家は宗教に入っていなかったのでこの本を読んだことは無いが、今となっては絶版となった珍しい本の一つではある。
今考えたらマインドコントロールと言うより、何かしらの魔法技術で精神関与をし洗脳していたんじゃないかと言われた方が容易に納得出来る話だ。
今目の前にある本を読んでみたいかと言われれば全然そんなことは無い。
オレは伝記とか冒険譚の方が好きだ。
「あ、駄目だよ〜この本は読んじゃ」
「え?」
「え?」
「え?」
突然聞いたことの無い声が耳元から聞こえちらりと視線だけ移すと先程から見ていた世界管理説に伸びる手を見つけた。一泊置いてこれは誰の腕でも無いということが分かった瞬間……
「「「わぁあああああああああああああ!!!!」」」
暗がりの図書館に自分達でも五月蝿いと思えるほどの絶叫を響かせ、恐怖に体を竦め三人仲良く腰を抜かしその場にぎゅうっと詰め寄りお互いの肩、腰、首にしがみつく。
「え、あ。ごめん驚かせちゃった」
その声の主は右耳を抑えていた手をそのまま項に回し、首を傾げながら申し訳なさそうに此方に謝罪をする。
オレが驚きのあまりその場に落としてしまった光石電灯を自らの頭頂から照らし顔を見せて来る。
「僕だよ僕。人間だよ〜」
「あ……あ!物部氏!」
腰を抜かし床にへたりこんでいるオレ達を前に少し腰をかがめて笑顔を浮かべ此方に軽く手を振った。どうやらオカルト科学部部長の物部悠礼さんだった。本人は何も気にしていないかのように「名前とかは気軽に物部氏とかでもいいよ〜」などと自己紹介をしてくれた。
「あ…あ……マジで今のはビックリした……」
「心臓に悪い……」
「俺……生きてる………?」
「生きてなかったら喋ってないね」
光石電灯の光に照らされた極彩蝶の幸の羽根から反射した淡く美しい色彩が少しオレ達の心に安らぎを与えてくれた。何とも赤ん坊をあやすモビールのようにクルクルと変わる様がオレ達の弾け飛びそうな程早鐘を打つ心臓を更にあやした。
「それでどうしてこんな時間に図書館に居るの?」
「物部氏にも聞きたいですけど今はあえて聞きませんよ……」
「実は今オレ達、舞闊の悪六が本当にあるか確認していて、その中の見えざる禁忌の書庫を探してるんです。」
「あぁ〜それならあるよ」
「え゛……」
物部さんのその言葉に光耀の喉から濁点混じりの小さな絶叫が漏れた。だが、物部さん曰く、見えざる扉では無く、普通に隠されている書庫なのだということ。折角なので案内して貰う為に、光耀を萌餅と共に肩に担ぎ後ろを着いていく。
辿り着いたのは一階の受付カウンターの内側。此処だよと指をさされた方へ視線を向けるとカウンターの内側の床に不自然な枠組みがあった。
物部さんはその床の手前で膝をつき、コン、コンコンコンと計四回のノックをした。すると段差の無い床だったはずが、枠組みの所だけ床が浮いていた。そこをガコッと踏んだ次の瞬間、目の前に豪奢な扉が現れた。
「此処が入り口」
「え、すっご………」
「秘密基地じゃん」
扉を開け中に入るとそこは西洋の書斎の様な空間が広がっており、何とも屋敷の旦那様が仕事をする為だけの部屋という感じの雰囲気となっている。
「お洒落〜」
「かっこいいでしょ。ここはたまに理事長が使ってる書斎なんだよ」
「へぇ〜想像するとますますかっこいい〜!」
オレ達が気になり色々見ているうちに物部さんは書斎を囲むようにして設置してある本棚に先ほど持ってきたであろう世界管理説の本をしまい込んだ。
「あれ、コレさっきの本ですよね」
「うん。これは原本だからここで管理しなくちゃいけない物なんだ」
「原本!?」
「そ。だからこの本を読んだら強めの思想に脳を侵されて精神が保てなくなっちゃうよ」
「そんなに危険なの?」
「危険危険!世界管理説は、本を開くとそこの宗教で是とされる思想を強く刷り込まれるように精神魔法を本全体にかけてるんだ。その元となった原本なんて読んだら精神崩壊で済むかどうかも分からないよ……」
「お、流石科学部掛け持ち萌餅。よく知ってるね」
「科学部掛け持ち萌餅……」
いまいち危険性を分かっていないオレと光耀の反応を見た萌餅が慌てた様に力説した。どうやらオレ達が見つけたこの本はコピーされた聖書の方ではなくその元となった大変危険な原本の方だったようだ。
もし、こういった内容の本が好きならきっと何も知らないまま読んでこのまま大変な事になっていたのかも知れない。
冒険譚好きで良かった。
「んでもまぁ、取り敢えずは正体が分かったね光耀?」
「うん。ちょっとスッキリしたよ」
「それは良かった」
これで一件落着。夜も更けてきたので早く次の真相を暴きに行こうと物部さんに別れを告げ書斎に背を向け歩き出す。すると萌餅が先程聞いていなかった物部さんも何故ここにいるのかという質問を繰り出していた。
先輩とのコミュニケーションも大事だよなぁと呑気に光耀と話しているとふと聞こえた言葉に背筋が凍りついた。
「此処から脱走する原本達を元に戻すのが僕の図書管理係の仕事だからね」
「「「原本が脱走……??」」」
「さてはて。今日は他にどんな禁忌な原本が勝手に陳列されているやら」
「え、あっ、え…………」
ひしと隣に居た光耀と抱き合い書斎の本棚を眺める物部さんから脱兎のごとく逃げ出した萌餅と共に三人手を繋いで勢いに任せ図書館を飛び出した。
本当に久しぶりな投稿……笑
近々コンテスト用の小説も投稿しようかな……




