22枚目 舞闊の悪六
久しぶりに二話投稿します……
「はぁ〜なんこれ……何書けばいいってんのさ……」
「あ、萌餅じゃん。ここで何してるの?課題?」
夜ご飯を済ませ、幸が先導を切りオレの目の前をヒラヒラと飛んでいるのを見ながら部屋に戻ろうとした矢先、食堂の片隅でおにぎり片手に何かの資料と睨めっこをしている萌餅に声を掛ける。
見た感じ、殆どが空欄で文字が少ししか書かれていない。
「違う違う〜科学部の始末書」
「始末書!って。え、それ萌餅がやるやつ??」
「やっぱそんな反応になるよね〜」
始末書と言えば何かトラブルがあった際にどんなことが起き、それに対する反省点と謝罪、再発防止の案を書き記す書類。
それを入ったばっかりの萌餅がやる仕事なのか?
いくら期待されているとしても流石に任せるのが早過ぎないか?放任主義なのか?いや放任主義すぎでしょ。
「この前の闘牛脱走事件と連続爆破事件のやつね〜」
「文言だけ聞いたら改めて大分物騒だな……手伝おうか」
萌餅が挙げた事件はどちらもオレ自身が関わっている。
であれば多少はオレの意見も参考になるかもしれない。そう思い、萌餅の隣の席に座ると「助かる〜」と感謝の意を述べた萌餅から熱烈な握手を頂いた。
何やら萌餅の両手で柔らかさが違うと違和感を抱いたのは気にしないでおくことにしよう。
◆
「おっ、終わりそ〜!!ありがと瞳くん!!後は自力で出来そう!」
「どういたしまして〜」
始末書の終わる目処がつくところまで書き進め、二人揃ってその場で大きな背伸びをする。
辺りを見渡せば人数も少なく皆が既に自室に戻っているのだと察した。外に目をやると先程まで夕暮れだったのが既に日は落ち切り星空が見えていた。
そろそろ部屋に戻ろうと言いお互いが席を立った時、オレ達を呼び止める声が聞こえた。
「瞳〜。あ!萌餅も!ちょっと聞きたいことがあるんだけど!」
声の主は先日能力が大暴走して全身光り輝き発火していた光耀だった。
確か能力は「発光体質」。名前の通り自分自身の体全体が光り輝く体質だったはず。
現に今も室内電灯であまり目立たないにしろ、近づいてくるとより眩しさを感じるので多分常に光っている。
「ん?どしたの?」
「あのさ。二人って昨日のこの時間ぐらいに東校舎に居た?」
「東校舎?」
「いや、昨日は普通にラファと一緒に部屋でカメラの調整をしてたね」
「私も談話室で先輩達とお話してたかな」
「そっか〜……」
愕然とし肩を落とす光耀を見て顔を見合わせる。よくよく見ると少し顔が青ざめてきているようだ。
「え、え、何どしたん?顔色悪いよ?」
「ラファんとこ行く?確か部屋にいた筈……」
心配になった萌餅は光耀の額に自らの手を当て熱を確かめ、オレは後ろに回り光耀の肩を掴みラファが居る部屋もとい、オレとラファの自室である103号室へと連れていこうとする。
「いや、違うよ!体調は悪くない……悪くないけどおかんが走っただけ……」
「いやそれおかんじゃなくて悪寒ね?それじゃただお母さんが走るだけじゃん」
「ブハッ」
光耀の真逆の間違いに心配して額に手を当てていた萌餅が思いっきり吹き出し隣で声を殺しながら笑い始めた。
そんな事ある??イントネーション変わるだけでこんなにもシュールな文言になるとは……
「で、聞くの合計で三回目だけど、どしたの?」
先程から聞いては話が流れてしまった本題をやっとの事で切り出すことが出来た。笑いを噛み殺しながら過呼吸になりつつある萌餅の背中を擦りながら光耀の背中にも手を置く。
すると光耀はまだ顔色が普段より青白いながらもオレの瞳を見て語り出す。
「俺昨日さ、筆箱忘れたのに気付いてこの時間ぐらいに教室に取りに行ったんだよ」
「うん」
「そこまではいいんだ。でも、校舎から出て寮に帰ろうとしたら急にどこからともなくコソコソ〜ゴニョゴニョ〜って声が聞こえてきた訳!」
「ふむ」
「でもこの時間って大体の人が今日みたいに寮に帰って来てるでしょ?」
ズイっと顔を近づけ力説してくる光耀の頬をちょっとばかし抑える。
「んで、俺はこんな体質だからさ、夜だと余計に光が強調されて暗闇に対して目が眩んで何があるかほぼ見えないんだ。俺自身が光っててね!!」
確かにそうだ。今は春先だと言え、この時間帯にはもう既に日が落ち辺りは暗くなる。大まかな人達は部活を終え寮に帰ってくる。
例外と言えば、天文部で昼夜問わずに空を観察しなければ行けないだとか、そう言った「夜」を中心に昼夜逆転生活をしている人達はいる。
「だからそこに誰か居たのかなんて分かんなかったから、さっきまで聞いて歩いてたの!!でも誰もその辺に居なかったってさ!!」
段々と光耀の声色に震えが加わり明らかに眉毛か八の字になっていき眉間にシワが寄っていく。
オレは夜に活動してるいる人が何人か居る天文部の可能性を一瞬考えた。
けれども天文部の部室は校舎の屋上だ。流石に声は聞こえないだろう。
園芸部だとしても水晶宮や、ガラスハウスの中からではよっぽどの大声を出さない限り外には聞こえない筈だ。
となれば推測されるのは一つ。
「幽霊?」
「だぁ!!それが俺はい・や・な・の!!」
次の瞬間光耀はオレにひしと抱きついてきた。どうやら光耀は幽霊やらそう言った異形の者達が苦手らしい。
「俺はただ、この能力を制御したくて舞闊に入学したんだ」
「でも推薦状にこのこと書いてあったぞ?」
「う〜〜そうなんだけどさぁ~~意外と行けると思ったんだよ~」
若干泣きべそをかき始めた光耀に縋りつかれ、その力の強さに驚きその場で尻もちを着いた。
見た目はそんなに筋肉質そうじゃないのに筋力強めだとは。お前もしかして隠れマッチョなのか。泣いて体温が上がってきているのか若干暑くなってきた。
「瞳助けて〜……俺このままじゃ自主退学一直線……一生発光しながら生きていかなくちゃ行けなくなる~……」
「そう言われてもな〜原因が分からないんじゃ何とも……」
一応一学年の次席として同学年の学友達の心労を取り除いてやりたいのは山々だが、流石に幽霊を相手にするにはオレ自身では力不足な気がする。
魔法使えないし……
困ったことに八方塞がりなのを感じどうしようかと悩んでいるとぬっと上から覗き込んできたのは萌餅だった。
「それもしかして『舞闊の悪六』じゃないかな」
「悪夢?ナイトメア?」
「悪に六と書いて悪六ね。多分それと掛けてある」
一通り笑いが収まった萌餅が光耀にしがみつかれて尻もちを着いたまんまのオレの眼前に、この前も見せてくれたクリップ止めされた資料を開いてくれていた。
『舞闊の悪六
其ノ壱-真夜中に上がる赤色灯
其ノ弐-水鏡に映る魚影
其ノ参-囁くは魂の嘆き
其ノ肆-見えざる禁忌の書庫
其ノ伍-守られし獣
其ノ陸-揺蕩う青煙』
資料に目を通した所、この六つの項目が舞闊の悪六として書かれていた。
その中で一番光耀が聞いたとされるものに近しいものが其の参、囁くは魂の嘆きだと見た。
「何これぇ…全部不気味なんですが……」
「え、待って俺が経験したヤツと更にまだ五個もあるって事……?ねぇ、気絶していい?」
更に顔色が悪くなってきた光耀の頭を一撫でし、一考した。
このまま放置するというのは論外なのだが、しかし光耀がこの状態のままで例の場所に行こうにも状態が悪くなる。最悪の場合本当に気絶しかねない。しかし解決するに当たっても光耀自身を連れて行かなければ場所がどこだったか、それがどんな声だったかを正確に判断出来る術がない。
萌餅も同様何かを考えている様だったが、何も言葉を口にしなかったという事は、そういう事だろう。
仕方なく宥めて光耀を部屋に返そうとした時、光耀が顔を見上げ真っ直ぐにこちらを見てきた。
「分かった。この際だから全部その正体確認する!だって、そうしたら少なくとも未知の物に怯えるって事は無くなると思うから!」
「「お。」」
「俺だって漢だ!!舞闊の生徒だ!こんなんで怯えてちゃ駄目だよな!」
「「おぉ!!」」
勇気を振り絞り決意を固めた口調で眼光鋭く未知の恐怖に打ち勝つ決心をした光耀を目の当たりにしオレと萌餅は盛大に拍手を送った。




