21枚目
耳を劈く轟音が前から後ろから、右から左からとオレを囲む様に四方全体から鳴り響く。
目の前には怪我人達の行き倒れ。
「うわぁ!!!瞳助けてぇ!!!!!」
オレを頼る学友達の悲痛な断末魔。
「ちょっ……と待てって言ってるだろがぁあああ!!」
爆発音が響き渡る中、至急魔導式カメラのフィルムを急ピッチで変える。オレの右脇側には爆発でぶっ飛んだ人達を介抱しているラファと怪我人をラファの元へ連れて来ている陽翔と蓮。この最中にも数発の爆破が起こり土煙が辺りを包み込む。
先日の三人の能力暴走を収めたことがきっかけでしばらくの間写真部の皆と一緒に見回りと称した部活動巡りをしていたのだが、その最中科学部の魔法実験に遭遇し現在このような状況に陥った。
先生曰く最初の頃は異界トラブルが起こるのと同時に対処するのに能力を使った場合暴走し、その暴走に誘発され普段制御出来ている人達も気の乱れによって力が暴走する。更には二次被害も併せて起こる事が多々あるとの事。
その被害を最小限に抑えようと自主的に設立させたばかりの写真部の皆と一緒に見回りを実行中だったのに、時は既に遅し。
オレが想定していたのとは激しく予想が外れ、予想のその数倍以上の大きな被害が目の前で巻き起こっている。
話で聞いていた通り先輩達も一緒に能力を垂れ流しているが故に混沌は深まるばかりだ。
幸い一年生の何人かは写真に収め抑え込むことが出来たが、如何せん毎度毎度成功している訳では無いので全員を抑え込むのには時間が掛かる。
チラホラと写真に写り込む先輩達も少し弱まってきているが、まだオレが力不足なのだろう。完全には抑えきることが出来ない。
「瞳ぃーー!!」
「だからまっ……」
助けを請う学友の声を聞きながら状況を把握していた瞬間、いきなりオレの背後から爆発が起こり余波の爆風で背中から思いっきり吹き飛ばされ体が宙を舞う。
浮遊感が体全体を包み込み視界は先程まで居た地面が見え、ラファ達の驚いた顔を上から見ている状況になっていた。
「うぉぉおおおおおおおおお!?!?!?」
「「瞳ぃーーーー!!!!」」
宙に吹っ飛ばされたオレを見た陽翔と蓮は声を揃えてオレの名を呼び脊髄反射が働いたかのような素早い動きで運んでいた怪我人を放置し、受け止める準備は万端!と言うかのようにオレをお姫様抱っこするというポーズをとったまま全力疾走で地面を踏み締め走って来る。
腰に着けたチャックが空いたままの小型ポシェットの中からは、重力に従いオレの周りを優雅にハラハラと舞っていく新品未使用の魔導式カメラのフィルム達。
掴もうと必死に手を伸ばしても、伸縮性のないこの腕では宙に飛んでいくオレと地面に落ちていくフィルムと言う状況がただ続くだけで、その間の距離が縮まることは無い。
「ああああぁぁぁぁ!!!オレの大事なフィルムがぁああああああああああ!!!!!!!」
あの中には、少々値が張る激レア限定フィルムも何枚か入っており、今じゃあ骨董屋で売れば高額買取される写真家界隈ではマニアックなフィルムが入っていた。
他人からしたら「へっ!なんだ!ただの柄が入ったフィルムじゃねーか!」となるだろうがオレにとっては父さんと小遣いを稼いで貯めたお金で買った大切なフィルム達なのだ。
特にオレが十歳の誕生日の時にオレの名前と生年月日を特別な刺繍法と魔法技術を使ってオーロラ色に輝く様に焼き付けられたフィルムがある。
これこそまさに父さんが財布の紐を緩めて買ってくれた誕生日プレゼントの一つだったのだ。
既に頭から落下し始めていたのがオレの瞳で一瞬一瞬がコマ割りのようにしっかりと見えた。段々と迫ってくる地面に瞳を閉じた瞬間、背中の方から大きな衝撃を感じた。
「ぐふっ」
頬に感じる風向きが変わり、再び訪れた浮遊感により瞳を恐る恐る開ける。先程の景色とはまたうってかわり、再び空から地面を見下ろしていた。
「ふむ。これこそが運命の一種ってやつですね」
「む。瞳無事だった様じゃな」
突然左耳の方から聞こえたその声に視線を移すとそこには銀縁眼鏡を掛けたインテリ男子、ウィリアムと其のウィリアムの首にひしと捕まりおんぶ状態になっているシェイが居た。しかもオレは今、そのウィリアムにお姫様抱っこをされたまま空中に浮いている。
「え゛ッ!?ウィリアム!?シェイ!?これどう言う状態!?!?」
「妾は今ウィリアムの背中で空中散歩中だったのじゃ」
シェイに説明されても全く状況を理解出来ていない自分がいる。まず、何故こんなに高く飛ぶ事が出来るのか。その跳躍で空中散歩?お姫様抱っこされてる?
いや、今はそんな事を考えている暇は無い。相応の実力があるであろうシェイとウィリアムに助けを乞う事こそが今一番の最善の策であろう。
「ウィリアム、シェイ!かくかくしかじか的に今大変な状況になってるんだ!能力の暴走を止めることって出来る!?」
放っておいている今も尚状況が悪化している事に焦燥感を抱き、勢い余る大きな声で二人に告げる。
するとウィリアムは首に捕まるシェイに目配せして周囲の状況を見回した。
「どうしますか?シェイ」
「勿論手助けするぞ」
「シェイ様の仰せのままに」
快諾をしたシェイの言葉にウィリアムが頷く。ウィリアムが「ピュイッ」と口笛を吹くとあらゆる方向から空中に舞った人影が現れる。その人達はあちこちに散らばった怪我人をラファの元へと連れて行き始めた。
「それと先程から気になっていたのですが、空中をチラチラと辺りに散らばっているのは何です?」
「オレの大事なフィルム!」
「そうですか」
自分から聞いてきたくせにこれまた興味無さそうな声色で返事をする。
分かったぞ。こいつ、シェイ命。シェイが世界の全て。シェイが世界の中心って思ってる忠実なる下僕なんだ。もしかしてこいつ、超絶扱い方が面倒臭い奴なのかもしれない。
オレとしては何としてもフィルム達を無傷で助け出したい。そっちがそうならこっちだってウィリアム対策を講じる!
「あの中にはぁ!!この前撮って現像した!シェイとウィリアムのツーショットがa………」
「なんだ。それを早く言ってくださいよ」
「!?」
目の前が揺らぎ視界がぐにゃりと変化した時にはもう、地面に着地し、空中を舞っていた大量のフィルムは既にウィリアムの手元にあった。
「さぁ、どれです?私とシェイのツーショットは」
「あ、これです」
「ありがとうございます♡」
トランプを広げるようにしてこちらに見せてきたフィルムの中からババ抜きをするかのようにシェイとウィリアムのツーショット写真を引き抜くと、ものすっごい。ものすっっっっっごい満面の笑みでそれを懐に収めた。
前言撤回。こいつ超絶チョロい。そして超絶ヤバいやつ。
「さて。シェイ?準備は良いですか?」
「既に万端じゃて」
オレを地面に降ろしてから行けばいいものを何故か姫抱っこをされたまま再び、ウィリアムが地面を蹴り軽やかに宙を舞う。空からこの状況を一望できる位置まで飛び上がるとシェイの方から深く息を吸う音が聞こえた。
反射的に耳を両手で覆うと次の瞬間…
「皆の者!!!鎮まれぇぇぇいぃ!!!!!」
シェイの不思議と耳ざわりではないが、しかし綺麗に響く大音量で叫ばれた言葉につられてか、絶えず爆破していた粉塵も、パニックになって暴れ回る人達も「ピタッ」と全てが止まり静寂が辺りを包んだ。
かく言うオレもそのポーズのまま動けなくなったまま、静かに地面に降ろされた。
「いっちょ上がりじゃ」
「お見事ですシェイ様」
シェイが指を鳴らすと皆が一斉に止まっていた体制から地面に崩れ落ちた。これは言霊縛りによる体の拘束。術者が解除をしない限りは動けなくなる魔法技術のようだ。
「凄い……一瞬で何もかもが収まった………」
「「瞳ぃぃいいいい!!!」」
唖然としているとちょっと砂埃でヨレヨレになった陽翔と蓮、そしてスフレが駆け寄ってきた!!!!
「大丈夫!?大丈夫!?」
「吹っ飛んで行ったからまじで焦ったよ……怪我ない?」
「クゥン」
喉から甘い声を出して上目遣いを決めてくるスフレに目を奪われながら心配してくれた二人にお礼を言う。
それにしてもシェイの一言で一同の動きが停止し好きな時に解除できるとは、なんて恐ろしいんだ。怒らせたら辱めを受けて磔にされそうだ。
「妾の能力は『服従』じゃからな」
「えぇ。シェイの一言でその人本人の行動を縛ることができるんですよ」
「え、でもでもウィリアムさんは動けてましたよね?」
陽翔のその一言に確かにと頷くオレと蓮。するとウィリアムは当然かのように応える。
「私はシェイの『下僕』ですから。多少痛みを伴ってでも自力で言霊から抜け出しシェイを守ったんですよ。」
「まぁ、あのままじゃと確実に落ちとったしの」
「本来なら逆らいませんよ。唯……下僕となった私達には命令を下されるとどっちにしろ痛みはあるんですがね」
頬を染めて語るウィリアムを見てオレ達は目を見合わせる。
やっぱりこいつはヤバいやつなんだと。再び思った。




