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プロローグ

 

 ガコンっと家の外から音がした。


 郵便受けに何かが入った様だ。


「父さ〜んなんか届いたみたいだよ。」

「お!本当だ。」


 父は掃除をしながら浮遊魔法と透過魔法を重ね合わせた術で外の郵便受けから器用に手紙が入った封筒を持ってこさせた。


 宛名は「四國瞳様」。

 オレ宛だった。


「え、オレ宛?なんかあったっけ?誰から?」


 驚いて少し声を張り上げるといつもオレの傍をフワフワと飛んでいるエメラルドグリーンを基調とした極彩色が特徴の『極彩蝶(ごくさいちょう)』である「(さち)」がオレの頭の上に止まった。


「あ、ごめん幸。びっくりさせちゃったかな」


 オレは頭上に止まる幸の羽根を優しく撫でた。


 それに呼応するようにエメラルドグリーンを中心とした色彩豊かな淡い光を放った。


 嬉しい……のかな?


 実を言うと生まれた時からずっと傍に居る極彩蝶の幸の事はどの文献、物語にも存在していないので分かっていないことが多い。


 だから幸の感情はただのオレの勘。当たってないと思うけど。


「! ……舞闊響轟校(ぶかつきょうごうこう)からだ。」


 舞闊響轟校。

 そこはオレたちが住むこの世界に繋がっている多数の異界の入口を集中させた場所。


 主に現世、隠世、常世、天界、地獄、異世界 etc…


 この世界にいる誰もが、どれだけ異界に繋がる入口があるのかは分かっていない。


 正に未知。


 その為、未知の恐怖に恐れる人たちも居ないことは無い。

 だが……


「え!?舞闊から!?もしかして入学推薦状!!?」

「そうみたいだぞぉ良かったなぁ瞳!夢が叶ったじゃないか!お前ずっと舞闊に憧れてたもんなぁ…瞳なら行けると思ってたよ………グス」


 オレの家庭は多数派の舞闊に憧れていた派閥である。


 オレ大歓喜。父、感動により大号泣。幸、良く分からんがオレの周りを薄い光を放ちながらフワフワと飛んでいる。


 結果。混沌(カオス)


 我が家は大騒ぎ。

 お隣さんが居るぐらい住宅が密集はしているが、常に防音を中心とした混合防御結界を張っているので騒音に関しては問題無い。


「父さん!早速開けようよ!」

「よし来た!!」


 オレは舞闊から来た手紙の中身が気になり父さんを急かしその封を開けた。


 封筒はパリッとした質感の紙に両端に美しい金の刺繍が施されており、舞闊響轟校の紋章があしらわれた封印で閉じられていた。


「ほぉ。紙に刺繍がしてある。魔力生糸で出来ているね。」

「それ知ってる。魔力操作が出来ないと扱えないやつだ。しかも手先が器用じゃないと出来ないって」


 手紙の封を切る前に舞闊の技術力を見せつけられ感嘆の声を漏らさずにはいられない。


 改めて凄いところから手紙が来たんだと心の底からの感動と恐ろしさに身震いした。


「えぇ…っと。『四國瞳様。貴方はこの世界において特出した動体視力と場面瞬間記憶能力を持つ狭間の守り人(チュトラリー)と証明されました。故に我が舞闊響轟校への入学推薦状を送らせていただきました』」

「『貴方には我が校へ入学し、その能力を活かして頂きたく存じます』………!!!!」


「「本物の入学推薦状だぁ!!!!」」


 封筒に入っていた手紙には本物のオレ宛への舞闊響轟校の入学推薦状だった。

 どうやらオレはこの世界において重要とされる『狭間の守り人(チュトラリー)』だったらしい。


 能力としては動体視力と場面瞬間記憶能力。

 これについては、いくつかの心当たりがあったがまさかそれが狭間の守り人だった所以とは思いもしなかった。


「道理で。うちの子は天才だと思ったよ。不意打ちで目の前に来たボール避けちゃうし、どんなに素早いものでも一瞬で記憶して写真として現像出来るし…」

「ふひっ。父さん照れるよ〜」

「流石父さんと母さんの子だなぁ。凄いぞ瞳。」


 そう言って父さんはそのゴツゴツした大きな掌でオレの頭を撫でた。

 やっぱり何歳になっても親の甘やかしは受けて嬉しいものがある。つい身体を委ねてしまう。


「よし。これで瞳の進路は決まったな!じゃあ今日は記念のパーティだ!!」

「うお!ほんとに!?やったー!!行ってもいいの!?舞闊!!」


 突然の入学推薦状だった筈なのに父さんは既にオレが舞闊響轟校に入学する事を前提に話を進めだしたので驚いて尋ね直した。


「瞳は舞闊に行きたいと昔から言ってただろ?それにこれは瞳の人生だ。瞳が好きな様に生きたらいい。父さんは瞳の意志をちゃーんと尊重するぞ。瞳。頑張って来い。」


 幸の羽音が聞こえるか聞こえないかの静寂の中、父さんは一直線にオレの瞳の奥を見つめ、諭すように優しい声色でしっかりと静かに響く声色で言葉を紡ぎ、オレの背中を押してくれた。


「わぁあああああ!!!父さん好きぃぃぃぃい!!!!」


 オレは父さんの胸元めがけて強烈タックルで突進した。

 グフッと鈍い悲鳴を上げつつも確実にオレを抱きとめてくれた。


「ハハッ痛いぞぉ瞳。」

「嘘つけ。父さん衝撃緩和術使ってた」

「バレたか(笑)」


 やっぱり父は偉大。

 魔術師として働いている父さんは咄嗟の魔法式・魔術式・魔導式の展開が可能な程手練な必殺仕事人。


 ″努力は必ず報われる″


 その言葉を体現したオレの自慢の父親だ。


「ほぉ〜ら入学推薦状でテンション上がるのは分かるが、入学までまだ日にちはある。寮生活なんだから家事一通り出来るようになっときなよ~」

「どの口が言ってんだか~。父さんの方が家事苦手じゃんか(笑)舐めんな~」


 魔術師としては完璧なのに家事は苦手な父さん。人間完璧な人は居ないとは言うが、本当にその通りなんだなと思う。


「そうだなぁ。瞳が居なくなったら父さん餓死するかも…」

「いや、父さん。それは割とガチでシャレにならん。てゆーか魔法でやればいいんじゃないの?」


 魔法が得意なのだから生活魔法もお手の物だと思うのに父さんは中々そういった魔法は使わない。

 大抵手作業だったり、全自動でないにしろ何かしら自分の手でやっている。


「そりゃあ瞳の料理の方が美味しいし、瞳と一緒に家事する方が楽しいからに決まってる」


 急にしおらしい。不覚にもドキッとしそうになった所じゃないか。こういうのは恋人同士がやるものなんだぞ。


 幸が父さんの周りを飛びだした。

 慰めか……?


「ま、冗談はさて置き。瞳、改めて精一杯楽しみながら頑張るんだぞ?」


 父さんは悪戯っぽくニヤっと笑う。


「勿論!絶対に、オレの輝く青春。カメラに収めて記憶するんだ!」



 これから始まるオレの青春。



 これはその一歩手前の騒がしい我が家のお話。

やっと動き出します!

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