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16枚目 来訪者

 『今日から始まる授業に対して元気に頑張りましょ〜。我らは誇り高き舞闊響轟校の生徒である』


 朝の放送部による放送が終了し、流れるラジオ運動の曲を聴きながら上半身だけ音楽に合わせゆっくりと動かし運動に勤しんでいる。


「むっふ〜」

「ご機嫌だね?よみ」


 寮の0階リビングルームにて朝食を食べ終えたオレとラファはクッションに埋もれながら気ままに寛ぎつつラジオ運動を二人で行っている。


「だって〜今日から本格的な学校生活が始まるんだよ?ご機嫌にならない訳が無いじゃない!」


 入学歓迎会から一週間後。遂に本格的な授業を受けながらの学校生活が始まろうとしている。


 この一週間は特に変わりは無く先日負った膝の怪我の療養と生活リズムを慣らすため、写真部の活動を控えいつも通りの生活をしていた。


 その為すっかり膝の怪我は治り今ではピンピンしている。敷地が広いこの舞闊も走り放題だ。


「やっぱりクラス分けはあるよねー?一緒かなぁ?」

「うーんどうだろうねぇ?」


 実の所、昨日の時点で未だにクラス分けは発表されておらず、ただ一言だけ「東校舎の玄関口への集合」とだけ伝えられている。


 既にその場所へ行って待ちたいという意思はあるのだが如何せん始業時間にはまだもう少し時間がある。この大量のクッション達に埋もれてぬくぬくと癒されていたい。


 特にこの辺。なんだかとても心地よい温かさのお陰で既にパッチリと開いていた瞳がまた閉じてしまいそうなほど魅惑的な……


 ん??


 ラファと横に並んでクッションに埋もれて寝転がっていたが、オレの頭が自分の意思に反してもぞもぞと動いている。いや正しくはオレが動いているのではなく、クッションごと動いている。


「何かいる……」

「何か動いてるね……?」


 え?え?え?なになになに……姿が見えない得体の知れない化け物が知らないうちにオレの頭の下に今まで居たとなったらオレ気絶しちゃう。


 二人で状態を起こしクッションの山を前に正座する。今この時点で目の前のクッションの中を探りもぞもぞと動いている元凶の姿を見た方が良いのか。それともここから離れて誰かに報告した後に共にお姿を拝見するのが良いのか。


 ええい!オレはこう見えても正真正銘の漢だ!!南無三!!!お姿拝見ーーー!!!!!


 勢いに任せてクッションを退かす。さぁて鬼が出るか蛇が出るかどっちなんだぁああい!!


「プスー………クゥ……プスゥ」

「っ!!!!」

「おや」


 た……た……た………!?

 短足の!激かわワンちゃんやあああああああああああ!!!!


 クッションを取り除いた所にいたのは沢山のクッションに囲まれて、かわいい寝息をたてながら眠る短足で有名な犬種。ダックスフンドの犬が転がっていた。


「えぇ〜何この子ギャンかわ……」

「というより、何時からここに居たのか」


 まさか、ずっとこのクッションの山の中で寝ていてその上からオレが押し潰してしまっていたのでは無いだろうか。頭は案外重いから、苦しくてもぞもぞし始めたのかも。


 と言うか、なんで舞闊に犬が居るんだ。ペット可なのか?いやまぁ、オレも極彩蝶連れて入学してますけどそれとはまた違うような?


「スフレ〜どこ行ったの〜?」

「ん?どうしたの?誰か探してる?」


 今オレたちが居るのはハシゴを登ったロフトの様でそうでは無い若干個室の様になっている空間に居る。その下の方から、誰かを探す声が聞こえてきた。


「あ、瞳!」


 黒髪黒目の良く似た兄弟のような二人組のうち、比べて身長が少し低い男子がオレの名前を呼ぶ。


「スフレ知らない??こう、かわいい短足の犬なんだけど…」


 おぉ。グットタイミングじゃないか。実は今ここに居るんですよ。短足で可愛くてキュートな寝顔で寝息を立てながらお眠りになっているお犬さんが。この人達が連れて来たのがこの犬さんなのかな。


 今自分達がいる場所へと手招きをし、二人にクッションに埋まる犬さんを確認してもらった。どうやら当たりらしい。


「少し目を離したらどこかに行っちゃって…行方を探してたんだよ」

「僕達はこの子のお世話係を任されてるんだ。まぁ、最も僕達よりスフレの方が圧倒的に強いからあんまり心配は要らないんだけどね」


 クッションから眠ったままのダックスフンドもとい、スフレを腕に抱き抱え頭を撫でる。


 犬の方が強いとな??


「スフレを見つけてくれてありがとう。僕は弟の舞闊陽翔(ひなた)。背がでかいのが兄の(れん)よろしくね」

「舞闊陽翔…?」


 およ?苗字がこの学校と同じ名前だが偶然か??いやいやいや…こんな苗字そうそう無いぞ??という事はもしかして理事長先生のご子息様達?


「あぁ!理事長の息子ではなく僕達は養子だよ」

「養子!!」


 でも養子ということはとんでもなく凄い能力とか持ってるのかな。読心術的なこう……精神支配系とか?


「すっげキラキラしてる目で見てるけど、俺と陽翔はなんの能力も持ってないただの人間だよ」


 申し訳なさそうな困り顔になり二人で目を合わせはっきりと真実を教えてくれた。


「え!?」


 ここ舞闊響轟校は何か一つでも自分自身に優れた能力がある者達が推薦を受け入学することが出来る場所。もしかしたらオレが知らないだけで能力の開花の予兆がある人も推薦されるのかもしれない。

 つまり、理事長は凄い能力の開花が見込まれるこの二人を養子にして暴走を防ごうとしていたという説もある。


 一方ラファもあまり検討がつかないのか「能力が無くて…養子?」と疑問を口に出していた。


「まぁ別に秘密にしろとは言われてないし…いっか?」

「うん」


 二人はチラッとお互いの目を見てアイコンタクトをし、蓮が陽翔の肩から下げていたショルダーバックに手を入れ中から小型の機械を取り出した。どうやら種明かしをしてくれるらしい。


「俺達兄弟は理事長の養子になる前はここに居たんだ」


 そう言って何度かその機械をパネルタッチで操作し小型の機械の画面を見せてくれた。


「!!」


 そこには見た事のない景色が写っている。いや、正確には本の知識で見た事があり、実際には見たことの無い景色だ。

 晴れ晴れとした天候の中、高く聳え立つ四角いボックスが建ち並ぶ風景を背後に画面の中で二人が笑いあって写真として写っている。


「これってもしかして…ルーン大帝国?」


 ラファがそう呟く。だがしかし、オレの知っているルーン大帝国とは現在鎖国状態にあり何処とも公に貿易を行っていない国の為、その国柄は鎖国前に作られた子供向け冒険譚や、父の書斎で見かけた書籍でしか読んだことが無い。


 それでも一つ違和感がある。ルーン大帝国とは大きな二重結界で国を守っている。父の書斎で見た書籍には色素が多少荒かったが、結界の色である紫色に染まっていた街並みが写っていたのを覚えている。


 この写真は空が青く、何処も紫色に染まっていない。だったらここは一体何処なんだ……?


「僕達はね日本(にほん)って言う国から来たんだ」

「「ニホン?」」




「日本はこの世界では存在しない。つまり俺達は異界から来た()()()って事だね」


 自分自身の小さく息を飲んだ音がやけに耳にこびりついた。

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