11枚目 お風呂事情
菫とローズの別れた後、オレ達二人も部屋へ戻り少しだけ散らかった部屋を片付けていた。と言っても殆どオレがそのままにして水晶宮に行っていたというのもありオレの荷物しか見えない。
ごめんラファ。
「おぉ。めっちゃ綺麗になった。」
「二人でやるとやっぱり早いね?」
「オレの荷物ばっかりだったのに手伝わせてごめん」
「ふふ。良いよ?それに早く行かないとお風呂入り損ねちゃうかもだしね。」
あ、そう言えばお風呂。お風呂の存在を忘れていた。今日から寮生活という事で、お風呂は共有らしいのだ。
つまりあれだあれ、オレ自身見た事ないけど銭湯ってやつだ。
「でも何処にあるのかな。」
ふと出た疑問にラファと顔を見合わせる。
当の本人も確かに。と言わざるを得ないなんとも言えぬ表情をしていた。
ジジッ
すると耳につけられたイヤーカフから何処かに通信が繋がった様な機械音が鳴った。
『こちら生徒会長シェイマフィアートじゃ。新入生の皆に伝えていなかった事があった為、現在連絡しておる。』
イヤーカフから聞こえたのは鈴の音の様な可愛らしいシェイの声だった。このタイミングでの連絡という事はお風呂に関する事かな?
『お主らのお風呂事情じゃが、各フロアにある大鏡の横に行先パネルがあるので行き先を「浴場」にして大鏡を通るんじゃ。さすれば念願のお風呂タイムじゃぞ〜』
ではな〜と言う軽い言葉で通信が切れた。簡潔かつ短時間の連絡だった。
「「大鏡……」」
にわかには信じがたいが、個人的に早く寝たいので言われるがままにラファと共に大鏡の前まで行く事にする。
「あ、幸はお留守番ね。」
ついてこようとした幸を一瞥し、そう語りかけた。
♦◆♦
「本当にパネルがある!」
大鏡の横にあるパネルの行先が浴場になって居るため既に他の人達が利用しているものだと分かった。
まじまじと大鏡を見つめるが、特に歪んで見えたりヤバい物が写っては居らず唯の鏡にしか見えない。
「うん。特に何の変哲もない、かが」
「あぁあ!!ラファ!手!手がぁあ!」
ラファが確認しようと鏡の表面に手を触れたと思ったが、ある筈の鏡の表面で手が止まることなく空を切り鏡の中へとめり込んだ。
更には全く物怖じをしないラファが顔半分を鏡の中へと突っ込んだ。
「えっどゆこと?鏡の表面無くない?」
「ふふ。よみおいで。」
そう言ってラファは強引にお風呂セットを持っていない方の腕を掴み鏡の中へと先導を切りオレを引きずり込んだ。
恐怖心が勝り瞳を思い切り瞑る。
がしかし、オレが思っていた様な事は起こらず寧ろ心地よい微風が頬を撫でそっと瞳を開ける。
目の前にあったのは様々な植物、樹木に囲まれた東洋風の建物だった。
「…………何処?此処。」
「十中八九お風呂場だろうね。」
「やぁやァ。お二人さんはこれからお風呂かーナ?」
ちょうど目の前の東洋風の建物から出てきたのは湯上りほっこりスタイルの辛さんがオレ達を見つけ声をかけてくれた。
辛さんが湯上りほっこりスタイルという事はもう此処は確実にお風呂場らしい。なんともかっこいいお風呂場だな。
「ア、もしかしてさっきのシェイちゃんの連絡を聞いてから来たのかーナ。じゃあじゃア、ちょっとこっち来てみてーヨ」
ちょいちょいと手招きされて崖のになっている方へと歩を進める。何事かと思い何となく視線を足元に移し崖の下を見る。そこにあったのはなんと、オレ達が先程まで居た筈の舞濶響轟校が見えた。
「!?」
「浮島だったんだね…」
「いや寧ろラファはなんでそんなに冷静なん??」
「あはハ。驚き方もそれぞれだねェ此処は透過空間と狭間空間を融合させた浮島だーヨ」
透過空間……なるほど、それで舞濶の真上に浮いていても全く分からなかったのか。技術ヤバない?と言うか、透過空間って事は下から見たら見られないの?全裸とか……大丈夫そ?
「狭間空間にあっテ、何も透けて見えないから大丈夫だーヨ。僕らの逸物とかネ」
「よみ、そんな事考えてたの?」
「やダ。えっちなんだヨ」
キャッと二人でコソコソとこちらを見ながら喋る。すみませんね脳内ピンク色で。だって気になるじゃないですか、見えたら困るんだもの。
と言うか、逸物って言ってるって事はもう何か分かってるじゃん。辛さんも同じこと考えてるじゃん!
「んじャ。僕は明日の仕込があるからここらデ。因みにここ一面に植えてある植物達は園芸部とか他の部活の人たちと育ててある植物だかラ自由に見て回ってーネ」
「あ!じゃあそこの1本だけ持って帰ってもいいかな?幸へのお土産にしたくて!」
「うーン。そゆことなラ後で僕の所に気なーヨ。美味しい花の蜜をあげるーヨ?」
「え!良いの?ありがとう!」
「うン。じゃあネ」と手を振りながらオレたちが来た大鏡を通って帰って行った。
辺りを見渡すと確かにしっかりと手入れされた様な形跡が見られる。花壇の土ははみ出ておらず植物一枚一枚の葉がキラキラと水を含み瑞々しく輝いていた。
「これは綺麗だなぁ。」
「あ、今日は露天風呂の日なんだってさ。もしかしたらこのお花たちを見れるかもしれないね。」
ラファが見ていた立てかけの看板に『本日の湯船は露天風呂』と記されてあった。
露天風呂…実際入ったことは無いけど外にお風呂があるって事だよね!?最高なんじゃないかな!!
「よしっ!行こうぅ!!」
「切り替え早いなぁ…」
女湯と男湯とに別れた暖簾をくぐり辺りを見渡すと着替えを入れるバスケットが多数置かれていた。いくつかのバスケットの中には衣服が入っていたので現在も数名お風呂に入っていると見た。
早速衣服を脱ぎお風呂場へと出陣。開けるとそこは……
「ひっっっっろ………」
「つくづく思うけどここは何処もかしくも見た目に反して大きいよね。」
湯気が漂うだだっ広いお風呂場が広がっていた。湯船も想像の倍はあり、入浴剤が入っているのか色つきのお湯が張られている。
それぞれの湯船の付近には効能が書かれており、ある所は疲労回復。ある所は恋愛成就。いや、なんで恋愛なんかあるのよ。
まあ、突っ立ってるだけじゃお風呂に入れないので早速体を洗う。オレは腕から洗うのが日課。それから全身を洗い髪の毛もしっかり洗う。
反対にラファは髪の毛から洗いその後体を洗うらしい。まぁ、特に変わんないけど。
お湯で体を一通り洗い流し、外へと続く扉を見つけ滑らぬよう慎重に移動した。扉の外は当たり前だが外気に触れる為、春とは言えど肌寒さが裸体を掠めた。
「ふぃ〜………え、このお湯気持ちよすぎるぅ…………」
「うん。肌触り的にマラットレージュのとろみがかかったお湯だね。」
「マラットレージュ?」
「痛覚軽減効果がある植物だね。植物には成分の抽出の仕方によって効果が変わるんだ。」
「よく知ってるねぇ〜」
少し離れたところから声が聞こえてきた。その声の主は朝に出会った園芸部の瑛人さんだった。
「その通りだよ!マラットレージュは他にも香り付けとして料理にも使われてるんだ。いい匂いでしょ?」
そう言われ湯船に顔を近づけ香りを嗅いでみる。香草の様なスッキリとした甘い香りが鼻腔をくすぐった。確かに良い香りだ。
「この知識があるんなら園芸部に来ない?歓迎するよ〜」
「ふふ。考えておくね。」
そう言えば、舞闊に入ったからには部活動をしなきゃいけないんだよなぁ……オレどうしよう…特に得意なものなんて無いし、かと言って入らないとか論外だもんなぁ…
唯一好きなのは写真を撮ることだし……
あ、写真部に入れば良いんじゃん!!
「瞳は何処に入るか決めたの?」
「オレ写真部に入りたいんだ!」
「写真部かぁ。残念だけど写真部は無いんだよ〜」
「え???????」
オレの間抜けな声が自分自身の耳にも聞こえるぐらい頭が真っ白になった瞬間だった。




