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第9話 ファスキナーティオ・ダイヤ -前-

 絶句して口をパクパクしているエマの横で、シマエナガたちが陽気にさえずる。


『姫さまがはめられた! 悪い男だ!』

『アタシ知ってる! こういうの、“腹黒”って言うんでしょ!?』

『お腹が黒いの〜? ぷぷぷ〜変なの〜』


「はめたわけじゃないさ。知らなかったんだよ。まさか彼女が二人きりになる意味をわかってないとは」


 勉強不足はエマの自業自得で、返す言葉もない。おまけにシロもきちんと忠告してくれていたのだから、ますます言い逃れはできなかった。


 渋い顔をしていると、シロがぴょんとアルヴィンの肩に飛び乗り、クックックッと悪い顔で笑い始める。


「アルヴィンさまも悪いお方ですねえ……。姫さまにそんな常識がないと、最初から知っておられたのでしょう? でもそういうの、嫌いじゃありませんよッ!」

「シロ、そこは抗議してほしいところよ……」


 精霊といえど、仮にもシロはエマの従者。にも関わらず、なぜかやたらアルヴィンの肩を持っている気がする。


 そんなシロの顎の下をこちょこちょと掻きながら、アルヴィンがにっこりと微笑む。


「二人きりになるなんて独身の令嬢だったら大問題だが……婚約していると発表すれば何も問題ない。そうだよな、エマ?」


(この婚約、早まったかしら……)


 ここぞとばかりに呼び捨てにしてくるのが腹立たしい。だがエマが受け入れてしまった以上、渋々認めざるを得ない。


「……ええ、構いません」

「なら、早速破片と黒幕探しと行こうか。ちょうど明日、マスネ家で誕生日パーティーがある。アリシア嬢も来るはずだから、もう一度証人が誰か聞いてみよう。マスネ家にも入り込めるから破片も探せる」

「そ、そうですね」


 エマよりずっと切り替え早く、アルヴィンがテキパキと明日の段取りを説明し始めた。

 強引なやり方ではあったが、言葉通り魔法の鏡と黒幕についてきちんと協力してくれるつもりらしい。エマは少しだけ態度を改めることにした。


「それより、いいのですか。勝手に婚約を決めてしまって」


 いくら売り飛ばされる予定とは言え、王子は王子。

 むしろその“都合のいい駒”が勝手に結婚話を決めてきたら、怒られないのかと心配になったのだ。


 そんなエマの気持ちを察したのか、アルヴィンがふっと笑う。


「もしかして心配してくれているのか? ……なかなかのお人よしだな。俺はお前を嵌めようとしたのに」

 

 言いながら、ぽんぽんとエマの頭を叩く。


 その瞬間、エマが令嬢ではありえない速さで飛び退いた。――こう見えて運動神経はいいのだ。


「突然触るのはやめてください! 心臓に悪いので!」


 バックンバックンと鳴る心臓を抑えながら、エマがキッとアルヴィンをにらむ。


「おっと、ちょうどいい位置でつい。悪い、これも駄目か」

「駄目です!」


 エマはとびきり怖い顔で言った――つもりだったが、それを見たアルヴィンはなぜか笑っていた。


 それから、頭を切り替えたらしいアルヴィンが確信めいた口調で言う。


「国王のことだったら心配しなくていい。雪の女王率いる、外の者全てを拒むイルネージュ王国。そこに王族として繋がりを作れるのはとてつもない功績だ。なんと言っても世界一希少で、世界一謎に包まれている“ファスキナーティオ・ダイヤ”の原産国だからな。靴を舐めてでも潜り込みたい輩が腐るほどいるんだ」


(そうなの? ……知らなかった)


 予想もしていなかった言葉に、エマが目を丸くする。


 民たちは氷の宮殿に平気で出入りするが、言われてみれば外国人を全く見かけたことがない。まさか入国拒否をしていたなんて。


(本当にわたくし、何も知らないのね)


 将来の女王として修行に取り組んできたつもりだったが、ここに来て無知ぶりがどんどん露呈している。エマは恥ずかしくなった。


 その上、恥を忍んでもう一つ聞かなければいけないことがあったのだ。


「あの、もうひとつ。……“ファスキナーティオ・ダイヤ”ってなんですか?」


 予想通りアルヴィンの瞳が大きく見開かれる。

 言葉で聞かなくても、彼の顔を見れば何を言いたのかわかった。雪の女王の娘なのに知らないのか? と表情で語っているのだ。


 シロが急いで耳打ちしてくる。


「姫さまあれですよ、ほら、あれ、あれ。女王さまがいつも、その……」

「いつも?」


 珍しくはっきりと言わないシロの言葉を引き継ぐように、アルヴィンの肩に着地したシマエナガたちがジュリリリとさえずる。


『女王さまが作ってるやつ!』

『おっきい、綺麗な宝石!』

『ぴかぴか、つるつる、ぷぷぷ~!』


 ああ、ダイヤのこと、とエマがうなずいたのとシロが叫んだのは同時だった。


「コッ! コラーッ!!! お前たち、それは口に出しちゃいけません! 国家機密ですよ!!!」


 えっ? そうなの? とエマが驚くよりも早く、もっと仰天した人がいた。

 アルヴィンだ。


「あれを女王が作っているのか!?」


 彼は叫んですぐ、ハッとしたように辺りを見渡した。

 そして誰にも聞かれていないか茂みや物陰を入念に確認してから、声をひそめてエマに聞く。


「……おい。娘ということは、お前も作れるのか? ファスキナーティオ・ダイヤを」

「えっと……これのことですか?」


 言いながらゴソゴソとポケットを探る。

 ちょうど先日、暇つぶしに作ったダイヤを入れっぱなしにしていたのだ。豆粒一粒ほどにも満たない、小さなダイヤがころりと手のひらに躍り出る。


「小さいですが、一応わたくしが作ったものです」


 アルヴィンがダイヤをよく見ようとグッと距離を縮めてきたため、エマは慌てて後ずさった。


「あの、どうぞお手にとって見てください! 近いのです!」

「ならお言葉に甘えて」


 全く遠慮せずに、アルヴィンが宝石をつまみ上げる。すぐさま太陽光にかざし――それから絶句した。


「……これを、本当にお前が作ったのか?」

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