揚げ豆腐
十一時半過ぎ。もうすぐお昼という時間。
玄関が開きます。
「早速来たよー」
入って来たのは知り合い。そしてその後ろから四人ほど。
「ランチを約束通り五人前お願いするよ」
「はーい」
返事をして、早速お肉を焼き揚げていきましょう。
漬けておいた肉に片栗粉をまぶして、五人前なので使うフライパンは三つ。
一つのフライパンに二つのお肉で。
先程同様に皮目から焼いている間にスープを温めなおします。
卵の確認をしていない事に気が付いたので、火をそのままに客席へ。
「スープに卵はどうします?」
臨機応変に。お客さんも五人と少なければアレンジも色々簡単です。
「是非。私の連れてきた人たちも好き嫌いは無いから大丈夫だよ」
なので、スープに卵を落とすことに。
スープが温かくなったらしっかりと溶いた卵を、線を描くように菜箸を伝わせながら落としていきます。火加減は卵を入れている間だけは中火よりも少し強めで、卵を入れ終えたら弱火に落とせばふわっとした卵になります。
スープに卵を落として、火を弱くしてそろそろお肉は皮目がいい色合い。
鶏肉をひっくり返して、反対側も焼き揚げます。
その間にご飯を人数分よそって、スープも卵が固まって来たので火を落として準備。
メインを乗せるお皿には、レタスをちぎってしっかりと野菜もとれるように。香味タレをたっぷりかけるので、プチトマトと水菜も添えます。
「よし、揚がった」
いい色の焼き揚げ加減。
バットで肉を休ませて中までしっかり火を通し、あとは食べやすくカットして出すだけ。
一人で配膳なので先にご飯とスープを配ります。
テーブルの真ん中に割り箸に醤油、塩、コショウなど置いてあるものも殆どお店と一緒。
「いま、メインを持ってきますから」
いい感じに肉も休まって、しっかり中まで火が通っているのを確認しながら包丁で食べやすい大きさに。
ザクッザクッと衣がいい音を。
レタスと水菜、プチトマトの乗ったお皿にお肉をドーンと一枚分乗せてあとは香味タレをたっぷりと。
まだ肉の衣が熱いのかタレをかけるといい感じの音が。
「お待たせしました、今日は油淋鶏です」
二回に分けて五人分。しっかりと配膳します。
「うん。美味しそうだね。いただきます」
「「「「いただきます」」」」
知り合いの言葉につられて、他の四人も食べ始めます。
普通に箸を使って、少しだけ遅いペースで。
少しだけ気になってしまいますが、味の感想は後で来るでしょう。
厨房に戻って、自分の分をどうしようかと少し考えますがまだお客さんが食事中。
足りなかったり、おかわりだったり、何かオーダーが入る場合もあります。あまりまだ気が抜けないとハッとしたところに、知り合いが呼びます。
「ねぇ、アレ揚げられる?」
それは知り合いの好物。
「すぐにやっていいですか?」
「勿論。あー、四人は?」
知り合いが首を左右に、四人に聞きます。
「是非」
「勿論」
「下さい」
「……(無言で何度も頷きます)」
「五人分。お願い」
「急ぎますが、お待ちください」
厨房に戻ってまずは材料の確認。
材料は豆腐。
絹ごし豆腐をまずはパックから出して、半分に切ってからキッチンペーパーの上に。
つぶさないように注意しながら水気をふき取って、もう一枚別で耐熱容器にキッチンペーパーを敷いたらその上に豆腐を置いてふんわりとラップをかけて二分ほどチンします。
レンジで豆腐を温めている間に先程揚げた油を一度綺麗にしながら一つに纏めます。
少し油の高さが出ますが、しっかり揚げるので逆にそれが大事。
片栗粉と薄力粉を同量、一つのバットに入れて軽く混ぜたら温めた豆腐をそこに。全体を粉でコーティングしたら、あとは鶏肉同様に揚げるだけ。
ただ、鶏肉と違うのは火が通っているので、今回は豆腐の回りに衣がしっかりつくだけで十分です。
カリッと衣がつけば完成。
バットで油を多少切ったら、お皿に分けて持っていくだけ。
「お待たせしました。揚げ豆腐です」
「そそ。これこれ。これを行儀は悪いけど、この香味タレで食べるのが美味しくてねぇ」
知り合いはそのまま香味タレと野菜の所に。
他の人達は箸で割って、半分はそのままに。
半分だけ付けて食べている人、テーブルにある醤油を掛けてパクリと一口食べる人。
揚げたてなのでまだかなり熱かったようで、口を細めてなにやら少し不思議な感じに。
「分かるよ。美味しいけど熱いよねぇ」
その後に追加の注文はなく、ほどなくして「ご馳走さま」という声が聞こえました。
「どうでしたか?」
「うん。十分。満点だね」
嬉しい返答です。
「どう?こんな感じのお店なんだけど」
「最高。これは通うしかない」
「ここは絶対に秘密にするべき」
「言っている意味が分かった。私も通う」
「……(無言でひたすら頷く)」
どうやら連れてきた四人のお客さんも気に入ってくれた模様。
「一応最低でも五人。最初の内は十人程度って話をしているからあまり多く連れてこられると困っちゃうよね?」
知り合いがこちらに質問がてら聞いてきます。
「ですね。まぁ、あっちのお店と一緒でサポートする人が出来ればもう少し人数は増やせるかもしれないです」
それ以上にまずは自分がこっちの生活に慣れることも必要で。
最初の一ヵ月は結構大変そう。
「全面協力する」
「だな」
残りの二人は頷くだけですが、かなりの勢いで首を縦に。
「今日も御馳走様。また明日頼むね」
片手を上げて知り合いが出て行くと、後をついて行くように連れてこられた四人も。
「「「「ご馳走様でした」」」」
なんとか初日。いや、二日目?は乗り切れたようです。
「なぁ、あの子は何処でスカウトしたんだ?」
お店を出た五人。一人が知り合いと呼ばれていた人に聞きます。
「ん?こっちじゃないアッチの世界の知り合いさ」
四人は頷き、さらに質問をしてきます。
「あの年齢で今日の料理どころか他にも色々出来るって本当か?」
「まぁね。両親の都合で世界中を旅していたらしいし、本当に連れて来たかった人の元で三年以上は働いていたからね。かなり器用でいい子だよ」
まぁ、元々断られていた話が紆余曲折あって今の状態になったのでこっちとしてはありがたい限り。
「三年でどうにかなるのか?」
「彼も環境も特殊でね。全く問題ないさ」
僕の言葉に周りは頷くだけです。
僕としてはありがたい限り。彼もこれから楽しんでくれると思うので、まさにWin-Win。
「明日のお昼も楽しみだ」
僕の言葉に皆がまた頷いて、僕達も解散しました。
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