ふわふわ卵かけ丼
「出来たっ」
「おめでとうございます」
淡々とした返事が返ってきました。
目の前には水の玉。
「凄いな」
どうなるのかわからないままですが、何となくで操作をする感じを想像すれば思った通りに動きます。
「ここからさらに動かすことは出来るの?」
「操作程度であれば可能だとは思いますが変化となるとまだ難しいかもしれません」
一瞬、頭から浮かんだのはこの水の玉から水がドバドバと蛇口をひねった時の様に出る姿。それを想像してみますが水の玉はぼこぼこ動く以外変化はありません。
「なるほど。で、これはどうやったら終るの?」
「放出するか、魔力を停止すれば結構です」
放出はそのままぶっ放すだよな?魔力の停止は……体から流れているコレを止めるって事か?
それは繋がっている糸をプツンと切る感じ。
流れている魔力が途切れるとそのまま水の玉は下へ落ちて破裂します。
「今のが魔力の停止です」
「うん。分かった」
体内の魔力は少し減ったのかな?なんともわかりません。
「もし、放出の場合は考えればよかったって事?」
「その通りです。ただ、放出は言葉通りのイメージですと威力があるので室内でのお勧めは出来ません」
言われて思い出すのはダムの水の放出。凄い勢いで全てのモノを薙ぎ払う勢い。あれをもしここでやってしまったら……。
「あっぶねぇ」
「ご想像いただけて何よりです」
作ったのは水の玉でも操作方法を誤れば大変な事になる。
ああ、コレは料理を習い始めた時にマスターに言われた事と一緒。なのでシッカリと覚えている。
「使い方次第……」
初めて調理の手伝いの時に包丁を渡されて、それを握る覚悟はありますかと聞かれたのだ。いきなりの事で意味も分からずに首をかしげて聞くと、コレは美味しい料理を作るために必須のものです。と説明を始めるマスター。
ただ頷く自分に、マスターが次に言ってきた言葉は予想外で、
「これは殺すことが出来るものでもあります」
コレから調理をするというのに、なんでこんな話にとその時は思いましたが、色々と教わった今ならわかります。
あれから殆ど毎日包丁を握って、色々な料理を作って。
生きている魚を殺して、美味しい刺身にして食べる。
魚からすれば包丁は武器で自分を害するモノ。ですが同時に自分達人間もその命を頂いて生きながらえています。
武器とするか、調理道具とするか。
生かすも殺すも使い方次第。
「どうかされましたか?」
「いや、少しだけ思い出に浸っていただけ」
マスターを思い出したら、色々とやる気とやることが思い浮かびました。
「火はさっきと一緒?」
「はい」
風呂場でさっきと同様に思い浮かべつのは火。
さっきは水の玉だったから“ウォーターボール”と言いましたが、火ってなるとなんだ?
“ファイア”でいいのかな?
「精霊?言葉ってなんでも大丈夫なの?」
「確定するものであれば大丈夫です。また、補助的な役割であるので最終的には無くても問題ありません」
精霊の言葉通りであれば、英語である必要もないという事。
手順はさっきと一緒。魔力の流れを感じて、大きすぎない火を想像して、あとは言葉で確定させる。
「火」
さっきと違うのは魔力の流れが何となくわかるので目を閉じていない状態で言葉を発した事ぐらい。
右の掌の上に火が出来上がりました。
折角だから、実験という事で、先程同様に魔力を停止させてみると火はそのまましぼんで消えてしまいます。
「ファイア」
同じ要領、同じ手順。発する言葉が違うだけ。
ですが、出来上がったのは同じもの。
「本当に言葉は何でもいいんだ」
魔力を止めると、少し気怠感じがします。
「少し疲れたような感じがするけど、これは?」
「魔力の低下ですね。三回の魔法の発動と停止によるものかと」
三回でこれ。頭の中でやってみたい事は一杯ありますが今はまだこれだけしかできないようです。
「限界まで使うとどうなるの?」
「あまり推奨は出来ません。生命維持活動に必要な機能以外が停止する可能性があります」
中々それは厳しい感じに聞こえます。
「あ、じゃあ寝る前にやってみるのは?」
「睡眠には記憶整理や免疫更新など生命維持活動とは別で色々な事をやっています。推奨は出来ません」
精霊はかなり物知りのようです。ただ、今の言葉から分かる事は一つ。
「じっくりゆっくり底上げするしかないって事だね?」
「その通りですね」
先の長い作業になりそうな予感がヒシヒシと。
魔法の練習が思いのほか楽しくて、時間は結構過ぎていたようで。
気がつけば夕方過ぎ。あのあとゆっくりといろいろ話を精霊に聞いていると、怠さも少し楽に。
「精霊はご飯って食べるの?」
「機能としては食べられます」
「何か食べたい物はある?」
「生まれたばかりなので、食べたことも無いのでリクエストできるものはありません」
赤ちゃんなのにその口調はかなり硬いもの。
初めて食べるなら、美味しいものがいいけど……。
「何でも食べられます」
どうやら食べてはいけないものはないみたい。
厨房に戻って、冷凍庫を見ると期待通りに冷凍のご飯のストックが。
「雑で簡単なご飯でよければ一緒に食べない?」
縦に動くので頷いている様子。
といっても作るのは簡単な卵かけごはん。
レンジでご飯を温めている間に卵を白身と黄身に分けて準備。
白身にひとつまみ塩を入れて泡立て器でまぜます。ハンドミキサーでまぜればいいのですが、折角の初めてのご飯。この位は頑張っても罰は当たらないでしょう。
白身がメレンゲになって、持ち上げるとしっかりツノがたつ程度まで立てれば完成。
温めたご飯をお椀によそって、海苔を細かくしたら少し敷いて白身をドーナツ状に。真ん中に黄身を落として、すぐ完成。
「はい。卵かけ丼」
好みで醤油や麺つゆをかければオッケー。
すぐに自分の分も作って、持っていくとまだ食べずに待っていてくれたみたい。
「待たせてごめんね。さぁ、食べよう。いただきます」
「いただきます?ですか?」
「あー、うん。これも命だから。お米も、卵も。他の命を頂いて、生きながらえているから。感謝の言葉」
「なるほど。では私も、いただきます」
つい面白そうでどんな感じに食べるのかを見ていたのですが、動きと同時にスプーンですくった様な跡があるだけ。早すぎて見えません。
「どう?」
「美味しいです。多分。よく分かりませんが」
考えてみれば初めて食べるのだから、美味しいか美味しくないかは分からないのも仕方ないでしょう。
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