熟成肉2
お肉に時間経過を掛けてもらうのですが、ちらりと先に作っていたターフェルシュピッツの方も気になったみたいで、
「こっちにも魔法かけようか?」
「あー、今もお願いしたいですが、この後冷蔵庫で冷やすのでそのタイミングの方が欲しいかもしれませんね」
「オッケー、オッケー。どっちもやるよ」
気軽な返事と共に両方に魔法を掛けてもらうのですが、煮込み料理の方は数時間分でその後冷蔵庫に冷やす時間は大体二時間ぐらい冷ましてもらう形。
それに対して熟成肉の方は一か月や二か月と結構長い時間をかけてもらう事になったのですが、それらもほとんど同じぐらいの時間間隔でぱぱっと魔法を掛けてもらう形に。
そして二か月分の魔法が掛かったお肉の出来上がりなのですが、色合いだけを見ると結構……茶色というのが分かりやすく正直に言えば微妙な色。
「熟成と聞きましたが、コレだとただ腐ったようにしか……いえ、微妙にいい香りがしますね?」
「なんでしたっけ先輩、これ、えーっとスモーキーな香りでしたっけ?」
「ええ、ええ。お肉なのにいつもとは違う香りですね」
何も気にせずに勝手に精霊とタマエは袋を開けてしまいますが、勝手にあれこれされるのはちょっと怖いところでもあって。
「はいはい。とりあえず大丈夫だと思うけど先に魔法ね」
「あ、そうでしたね」
お肉を手にもって解毒の魔法を使うのですが、パッと見ても何も変わった感じは無い状態。本当に魔法が掛かっているの?と逆に疑いたくなりますが、ちらっとがーさんの方を見ると、小さく頷くので魔法がしっかりと掛かっていることを確認できます。
「で、分かっていると思うけど周りのこの茶色というか微妙な色の部分は乾燥しているわけだから腐っているとは別なんだけど、食べられません」
「仕方ないですね」
「ただ、コレそのまま餌には出来るだろうから、解体屋さんに渡すと喜ぶかもね?」
「あー、そういう感じなんですね」
がーさんの解説込みじゃないと分からない話かなと思ったのですが、よーくみてみると微妙に詳細がぼやけながらもなぜか見えていて。
「何となくがーさんの言っているのと同じような文字が見えるようになってきている気がしますが?」
「鍵の効果だから気にしない気にしない」
「いや、気になりますよ?」
「気にしても何も変わりないからね?」
それを言われてしまうと何ももう言い返せないので、諦めてしまうしかないのですが乾燥している部分を取り除くと内側からはとても濃厚なちょっとした宝石のような深い色になったお肉が顔を出します。
「ふぉおおお」
「香りもですが、色も凄い奇麗ですね」
「熟成肉はとりあえず軽く炙ってかな?」
「ですかね」
普通はコレに数か月かけ、そしてここまでの安全性はどうしても確保できない為、お肉の乾燥した部分をトリミングする時も分厚く切らないといけないのですが、解毒の魔法のお陰でかなりの量の熟成肉が出来がった状態。
一応用意したのは塩と黒コショウを挽いたもの。ただ、出来れば初めの一口はなにもつけないで食べて貰いたいところですが、ここで一番難しい焼く作業。フライパンで?それとも七輪で網焼き?など色々な方法が頭に浮かんだのですが、これを美味しく焼ける人……いえ、焼ける精霊がうちには一人いるわけで。
「タマエ、呼んでくれる?」
「あ、ハイ。私の精霊さんですね」
「後輩に呼ばれているみたいで何とも不思議な感じがしますが、まあ仕方ないですね」
ウチの精霊は精霊でちょっと微妙な顔をしますが、別に気にすることは無くタマエの尻尾の一本をぺしぺしと地面に動かしてぽんっと煙が出たと思うと尻尾が一本の小さめのタマエが登場。ただその全体像は炎で出来ているのかゆらゆらと陽炎のような形が定まっていないようなものにも見えるのですが、しっかりと実体化はしているみたいで。
「このお肉を焼く感じです?」
「そそ。頼める?」
「さっと炙るというか旨味を中に閉じ込める感じで」
「分かりました」
そう言うと刺身の様にスライスした熟成肉を一枚ふわっと浮かせ、小さなキツネがふーと息を吹きかけるような形で口から火が出ます。
そして火が止まるとそこにはほんのりとした焼き色のついたとても香りのいいお肉が。
「どうぞ、ご賞味下さい。あ、こっちにあるお肉はどんどん焼いた方がいい感じですか?」
「うん。とりあえず、人数分お願いできる?」
「分かりました」
どうやら精霊さんは一枚ずつ焼いた方が今回はいいみたいでお肉を浮かせては火を吹いて、焼きあがると別のお皿に戻してという作業を繰り返してくれて、四枚のお肉を焼いてくれたのですが、
「一緒に食べるんだよ?」
「あ、私もですか?」
「そうそう。早く焼いて?」
「え、あ、はい」
精霊さんは作るだけのつもりだったみたいだったのですが、折角一緒にいるのですからまずは食べましょうという事ですぐに焼いてもらうと、お皿の上に一人一枚のお肉が焼きあがります。
「目の前にあるだけでもいい香りですね」
「これは食べたら飛ぶんじゃないの?」
「私すでに飛んでいますが?」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「ご主人も先輩も喋っていないで、食べましょう!」
「狐さんの言う通り、まずは食べよう」
「あ、じゃあ、私も一緒にいただきます」
精霊さんの言葉を合図に、早速口に。
「「「「いただきます」」」」
「ん」
勿体ないのでそのまま口の中に各自放り込んだのですが、一噛みすると口の中に優しい脂の甘味が広がり、二噛みすると肉の旨味が口いっぱいに爆発するように広がり、もう一度嚙もうとしたのですが、蕩けてしまって飲み込むつもりはなかったのにもう口の中は空っぽに。
「「「「おかわりっ!!!」」」」
今まで食べたどんなお肉よりも美味しいというか肉な味をダイレクトに感じられる凄いお肉が生まれていました。
本物の熟成肉の場合は塊のお肉の内側の更に内側に当たる部分のみを食べる為かなりの量をトリミングするらしいです。
そしてそんな事をしなければいけないという事はかなりの大きさの塊を使っても食べられるのはほんの一部という訳ですね。
……勿体ないと思う気持ちも分かりますが、食に対するこだわりというのは凄まじいもの。
全然違うけど、本当に全然違うけど、捨てる前ぎりっぎりのキムチが一番美味しいとむかーしオジサンが言っていたのを覚えているのですが、腐りかけとかほぼアウトはある意味熟成や発酵が進んでいるわけですから、美味しいと言われるのもちょっとだけ理解できるような気がします。
まあ、現実世界には解毒の魔法はなく、お薬で治すというかそういう時はとりあえず全て出し切る方が大事みたいですね。
その際はやはり色々と出す為、脱水症状が出やすいみたいです。
スポーツ飲料などでバランスよく水分補給が大事。。。
っていうか、熟成肉2って(笑)
流石に3は無いと思いたいけど……?
いつかやりたいと思っていた熟成肉だったので昨日に引き続きって形になりました。
今回も読んでいただきありがとうございます
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誤字脱字報告とても助かります&申し訳ありません
改めてありがとうございます
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