俺の真横の美少女
俺の真横には美少女がいる。その美少女は俺の部下で、俺の補佐をしている。彼女は働かずとも貢ぎ物だけで一生を暮らせそうなほどの絶世の美少女なので、なぜこんなところで働いているのか本当によくわからない。そして、彼女にはもう1つ大きな謎がある。
「先輩」
彼女に甘えたような声で呼ばれた。
「お腹減りました。ご飯休憩にしましょう?」
自らの机の上の書類を片付けて、彼女は俺の服の袖を引いた。はっきり言って、可愛い以外の言葉が出てこない。
「先輩?」
この醜い俺に彼女はどうやら恋をしているらしいのだ。
「俺はもう少し仕事を片付けてからに…」
「先輩が一緒じゃなきゃやだ。私が先輩以外の男の人に無理矢理連れ去られても良いんですか」
彼女の言葉は決して自意識過剰なものではない。彼女はそれほどの美少女なのだ。この地以外では一人で歩かせるなど犯罪者を量産するようなものだろう。だが、腐ってもここにいる奴等は王国直属の騎士団員。そんなことをする人間は、まぁ…、外よりは少ないし、何よりも、ここには彼女の忠実なる親衛隊がいるのだから、そんなことにはなり得ない。
と言うのに、うるうると潤んだ瞳で俺を上目遣いで見上げてくる。
「お前なぁ」
はぁとため息をついて立ち上がる。彼女はその容姿から甘やかされて育ったのだろう。わがままが通らないなど考えてもいないらしい。彼女は嬉しそうに笑って俺の腕に自らの腕を絡めた。
「やめろ」
彼女の腕をほどいて、ある程度距離を保つ。彼女が俺に惚れている、なんて、俺は信じちゃいない。何故なら、彼女と俺じゃあまりに釣り合わない。きっと、遊ばれている、のだろう。醜い年上の男をからかって。上司に対して何を考えてるんだと、怒りたくもなるが、そうとわかる確実な証拠があるわけでもない。普段の彼女は仕事熱心で真面目だ。けれど、俺に惚れているなんて、あり得ないことは確かなのだから、少しでも尻尾を見せたらこっぴどく叱ってやる。
「どうして?私、可愛くないですか?」
馬鹿野郎!可愛いに決まってんだろ!
そうは思うが、もうここは無視するしかないだろう。俺の純情をこれ以上踏みにじられてたまるか。
「ぐすっ」
え………?なんか、俺の部下泣いてない?え、まだ振り向いてないけど、明らか後ろで泣いている声がする。
「うっ…うぅっ」
「おい、なんで泣く?」
彼女は本当に泣いていた。よくある泣き真似じゃない。涙をぽろぽろとこぼして、特別可愛い顔で泣いていた。
「ううっ…私の気持ち、知ってるくせに」
そんな言葉とともに泣き続ける彼女は、可愛くて、可愛くて、思わず、自らの醜さも忘れて彼女を抱きしめてしまった。
あぁ、何をしてるんだ俺は…。もうこれじゃ言い訳できない。
彼女は涙に濡れた目を見開いて、そして嬉しそうに笑った。
「先輩、好き」
クッソ可愛い!もういい。騙されててもなんでも。この可愛い部下が心の中で何思ってても。もう放してやらん。もう、お前は俺のモノにする。はい、決定。
お前が悪いんだ。その可愛い顔で俺を本気にさせて。醜い男との結婚生活のなかでめちゃくちゃに愛されて、どれだけ後悔したって許してやんねぇからな。
「お前、俺と結婚すること。ちなみに拒否権ないから」
「え、え…?」
「お前は知らないだろうけど、俺今の国王の弟だから。マジでお前は今から俺のもんなの。王弟の権力なめんなよ」
俺のモノにすることを決めた美少女は、驚きのあまり固まっている。
「先輩、それって、プロポーズですよね?」
「あん?」
ん?反応が予想とだいぶ違うぞ。ここはもっと慌てて…。
「なんかよくわかんないけど…やったぁ」
「は?」
あれ、俺の空耳か?なんか『やったぁ』って聞こえたような。
「先輩、男に二言は無しですよ?」
彼女は神に祝福された美しい顔でもって俺の手を取ってくるくると回った。それはもう恐ろしく愛らしく。
「先輩、大好き。絶対私のこと離さないでくださいね」
「ちょ、おい…」
「もし離したりしたら、今度は職場どころじゃなくて、地獄の果てまで追いかけますからね」
今絶対悪寒したよな。した…。え、なに、その台詞…。それじゃあまるで、ガチで狙ってたの?俺のこと。
この美少女が醜い俺の真横を陣取っていた理由が、初恋の相手だったからと知るまで、あともう少し。