奉納、その後【終】
四人は笙粋の指示の元、各場所へと移動したが燐火はふと疑問に思った
「……笙粋様…咲耶がいないが………」
「そーよね。咲耶はいつ来るの?」
相槌を打つ舞。燐火の言葉に緊張した沙智は目の前の柵に手を置き体の震えが止まらなくなる。
様子がおかしい事に気付いた氷雪は、沙智の視線先にある旺珠を見ると一驚し全てを悟ってしまう
「…咲耶は……いえ…咲耶の木の能力は、旺珠の中に存在しているので問題ありません」
「どういう事です!? 咲耶は一体………笙粋様!」
笙粋の言葉に理解できず、不安の色が隠せない燐火は理由を問いただす
「…同化していました」
笙粋は穏やかだが、冷静に今までの経緯を語り始めた
「こうなる事を承知で咲耶は、二百年間旺珠と共存し生き続けたのです」
「!」
驚愕する燐火と舞、沙智は限界に来たか枷が外れてしまい涙がポトポト落ち始めた
「…沙智…知ってたのか?」
「……咲耶の体が薄れた時があって……………口止め…うっ………されて……私………近くで見てる事しかできなくて…………」
悔しくて沙智は泣き崩れる
「じゃ…旺珠が出せなかったのも…」
「………」
(咲耶………)
舞は咲耶との旺珠の言い合いの事を思い出し、燐火は何故咲耶が自分だけでも行こうとする強引さがあったのかを今になって理解した
「皆、悔いてはなりません」
奉納が開始され旺珠、紫珠からのエネルギーの塊が一直線に伸び空の中間で交わると、水平に円を描きながら拡散されていく
「咲耶の覚悟を、受け入れてください」
「それが、咲耶にとっての唯一の救いになるのです」
立ち昇っていくエネルギーと一緒に、四人の体から今まで集まった各属性の能力が付加され、空全体が虹色に変わり出した。
最後に旺珠から咲耶の能力が外へと放出されるのを感じ、氷雪はじっと旺珠を見続け今までの咲耶を思い出す。
初めて出逢った咲耶、いつも明るい咲耶、塞ぎこむ咲耶、人間達の中での楽しげな咲耶、花びらが舞う中手を差し伸べ微笑む咲耶―――――
全放出が終わり、旺珠は今までの輝きが失われ再び次の奉納が始まるまでこの場所で鎮座する事になる
「…これで、あなた方の奉納は終わりました。長い間、苦労を掛けましたね。―――感謝します」
「……咲耶は、復活…するのですか?」
「………」
消滅の仕方が普通とは違う為燐火は気になり笙粋に尋ねるが、笙粋は黙っている
「分かりません」
「!?」
「善処はします。後は……咲耶の意志、思う心が強ければ……何年先になるかは不確かですが、復活するやもしれません」
「………咲耶」
確かな事が言えず、しかし自身の能力で咲耶の復活の力添えを笙粋は約束する。
顔を上にあげられない沙智とやるせない舞。沈黙が続く中氷雪は旺珠の前へと歩きだし静かに佇む淡い気を漂わせる旺珠を見据えた
「木の花の里で、待ってる」
踵を返し、氷雪は塔を後にし姿を消した。
姿が見えなくなるまで燐火と舞は目で追っている
「フ…」
舞は片足を前に出し、不敵な笑いを発すると顔を赤く腫らしながら旺珠に向かって人差し指を突き立てた
「分かってんの咲耶!! 私との勝負はまだついてないのよ!!! あんたが戻ってきたら再開しよーじゃないの! それまでお預けにしといてあげるわ」
声高らかに笑い出すと小走りに走り去っていく
「見てなさいよ、次こそは…っ! 氷雪は私の虜になるんだから……! ホーホホホホホッ」
「……沙智、俺達も里へ戻ろう」
「……」
騒音が消えた後、扉側を向きながら燐火は静かに沙智に話しかける
「………」
沙智は反応せず、ずっと俯いて動かなかったので燐火は仕方ないと強引に沙智を抱えて肩に乗せてしまう
ガバッ
「!!」
状況が飲み込めず沙智はパニックに。燐火はほっといて笙粋と会話を進める
「んな……なっ…???」
「笙粋様、俺達はこれで」
「息災で」
「はい」
バタバタと両手を動かし降ろしてもらおうと沙智は必死
「……」
沙智の両手がビシビシ背中に当たるが、おかまいなしで扉まで向かう。出ようとした時に一旦停止して再び旺珠を見直した
「必ず、氷雪の所へ戻ってくるんだ」
「必ずだぞ!!」
「燐火……」
燐火の言葉に動きが止まり、目を丸くしている。
そして再び走り出した燐火にびっくりして又狼狽え始めた
「―――…っ!!? 燐火…っ じゃあ①…①にしてっ 落ち着かないよ……っ」
「残念だったな。今はこれが①だ」
「え゛え゛っ!?」
足と手が安定しない沙智は一生懸命にバタバタ動かすが面倒だと感じた燐火は適当な事を言い始める
「今は二択しかない、姫だっことそれだ」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!?」
「……」
二人の会話が届かなくなるまで笙粋と旺珠は静かに見送っていた
―――数日後、全てが失われむき出しとなった大地から小さな緑色の葉っぱが芽吹き始めた
自然の回復は、早い――――
紫珠によって消え去った大地も数日後には元に戻り、この間の出来事が嘘の様に穏やかな毎日が続いている
「やれやれじゃ」
「あ! 巡回視!!!」
染では一段落着いた四人の前に、無属から来た巡回視がやってきてスザが大声を出す
「一体この前の事は何だったんだ!!」
「少し説明にお時間かかります…」
全身をすっぽり布で包み顔の表情も分からない二人組の巡回視はスザの大声に怯むも冷静に対処している
他の里で消えた五属は仲間達が復活を待ち、身体の一部を失った者は、代用したりほったらかしだったりだ
太陽も顔を覗かせ
植物も順調に育っていった
そして
数百年の月日が流れる
木の花の里では各場所で氷雪にお声がかかり忙しい日々が続いていた
「ひせつー!」
村人の一人が慌てて氷雪を呼びに来る。
立ち上がると一緒に数ある内の一本の桜の木へと駆け付け中に入った
中では女性達が微笑んで氷雪を出迎え、その中心には忘れた事のない朗らかな笑顔を氷雪に向ける女性が見ている
「氷雪」
氷雪は言葉よりも先に体が動き、咲耶に覆いかぶさる様に優しく抱きしめた
「おかえり。咲耶」
その一言で咲耶は心が満たされ幸せが込み上げる。
咲耶は両手を氷雪の背に回しぎゅっと力を込め顔を胸に埋めた
「ただいま」




