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咲耶  作者: 蒼都 未雨
16/19

決戦

 浸蝕が、始まった―――



 化け物を中心に広がる靄は、触れる物体を全て霧と化し黒い霧は増大していく





 ―――地深の里・地下壕

 周辺に住む五属達が連絡を聞きつけ皆地深に集合している。各々ざわつき不安そうに佇んでいた

「ローム!」

「楠の連中は?」

 楠との頼渡である里人が駆け足で地下壕へとやって来た

「それがあいつら近くの人間が住む町へ守りに行くって」

「何だって!? あいつらだけじゃ限度があるぞ!!」

「……」

 手ぶらで戻ってきた頼渡に驚くローム。

 黒灰は二人の会話を聞いた後すぐに扉へと歩き出す

「ローム、ここを任せる。私が応援に行こう」

「黒灰!」

 ロームが止めるのも聞かずに扉を開けて出て行った。

 途中、座って道を塞ぐ三人の壁に気付き動きが止まる

「お前達…」

「俺達も応援に行く!! お願いだ黒父、一緒に行かせてくれ!!」

 一歩も動かないぞと言う三人をじっと黒灰は見回した

「消滅するかもしれないぞ」

「それがどうしたっての!!! 俺達は復活するが人間はそれきりだ」

 黒灰を上目で睨み激昂する赤灰

「能力のない人間を守るのは俺達の役目だ!!」


「黒父!!!」


 真っ直ぐな信念のある瞳で黒灰を見続ける。

 黒灰は瞳の奥を覗く様に赤灰をしばらく見つめていた



「ついてこい」

「おう!!!」

 その一言に三人は勢いよく立ち上がり黒灰の背中を追って駆け出した





 黒い霧は染全体を包み込み、作られた壁が泡の様に次々と溶け出されていく。

 内部では五属が結束して壁を作っては削られまいと必死に足していった


「ドームが壊される!! どんどん継ぎ足しじゃ!!」

 セイが右に左にと指揮を執っているが、どんなに古株でも焦りの色が見え始め、壁の浸蝕を防ごうと必死で声を張り上げている

「一歩たりとも染に霧を入れるな!! 他に力を貸す輩はおらぬのか!!!」

「一般も総出しております!」



「土がダメなら水壁・鉱壁・木、火壁でも構わぬ! とにかく守るんだ!!」

「は!!」

 北門を守るゲンも使えるものは全て使わなければと察知し、自らもどんどん壁を作っていく



「お願いします。貼り付けてください」

「任せろ!!」

 西門を守るビャクもリレー方式で作った壁を受け渡していた



 防いでも防いでも溶かされていく壁に体力は消耗していき、化け物がいる方角をスザは睨み怒号する

「このっ…晦冥の野郎」


「世界を消す気か!!?」





 化け物の内部では、先の見えない真っ暗な闇の中をひたすら走る咲耶の姿があった

(…苦しい)

 顔を歪ませ呼吸も荒い。時々咲耶に向けて霧が襲い掛かるがふらつきながらもすれすれで避けていく

(身体中のあちこちが、引きちぎられてるみたい…)

 どれくらい走っただろう、到着地点も分からない黒い空間を何時間と回り続ける感覚が続き、咲耶は自分という存在を失いかけていた。

 そこを狙ったかのように霧が咲耶の体を奪い始め、眩暈を起こし大きく体が傾いた

(意識が……)

 ぶんぶんと首を振り自分を保持すると、再び走り出す


(あたしとしていられるのも あと少し…)

 肉体の透明化が進み、動いているものはもはや意志のみ。

 足に力が入らなくなり咲耶は大きく前へなだれ込むが、ここで倒れてなるものかと腕に力を入れ起き上がろうとする



『―――自ら我に呑まれに来たのか』



 頭の中に響き渡るどす黒い声。

 頭を持ち上げ視線を前に置くと前方には人型大の黒い影がある。黒い影は塊しか見受けられず、顔の部分には血走った赤い瞳に顔の倍はある裂けた口、時折寒気を伴う様な低く響く笑い声がした


「晦…冥………?」





 白湯達のいる外壁が溶け出し霧になると吸収されていく。白湯はフワリと霧を避け、下へと行く扉に向かった

「灯! こちらへ来るのです」

 灯は座ったまま動かない。白湯の声も届かず崩れた外壁と共に空へと浮き出した

「灯!?」

 引き戻さなければと術を使い灯を掴もうとするが、霧に割り入れられ遮断されてしまう

「灯!!!」

 灯はどんどん上昇する。黒い霧がじわりと体に覆いはじめ、灯の長い髪が溶かされていく

(晦冥様……)

 虚ろな瞳に見えるものは目の前の黒い霧。その奥に晦冥の姿が幻となり映し出されていた

(呼んでいる…?)

 灯は手を伸ばし引き込まれるままに従う


(今、参ります)


 ガッ

 伸ばした手首、腕、体に縄状の物が巻き付かれ灯の進行が止まった。

 縄状の物は次第に灯を絡めとり太い木の幹へと化す

「榊!?」

「………」

 壊れた外壁部へ巧みに絡まる木々。容赦なく襲いかかる霧で溶かされながらも歯を食いしばり灯を白湯側へと引き込む事に成功する。

 白湯はタイミングを見計らい瞬移で内部へと避難した

「…良くやりました、榊」

 よもや榊が助けに入るとは思わなかった白湯は意外な面持ちで倒れこんでいる二人を見ている。

 今まで一言も発しなかった灯の瞳に光が差し込みムクリと起き上がると榊を睨んだ



「…何の…つもりだ」

「んあ?…おお! 右手と足消えてるっしょ」

「何のつもりだと聞いている!!! お前が下手な事しなければ私は晦冥様の所へ行けたんだ!!!」

 気が付いた榊は灯の言葉そっちのけで自分の身体が消えている事に素っ頓狂な驚きを見せている

「人の話聞いてるのか!!」

「まっ これで代用するっしょ」

「自分の身体で遊んでるな!!! 何とか言え!!!」

 ケラケラ笑いながら消えた部分からにょきにょきと木を出し形作りをしている。違う遊びを見つけた子供の様に喜んでいたが、ふいと灯の方へ振り返る


「張り合う相手いないと、つまんないっしょ?」


 そして再び創作しながら遊びだす

 灯は一瞬固まるが、急に脱力感が襲い掛かり項垂れた

「お前…やっぱり馬鹿だろ……」

挿絵(By みてみん)

 離れた場所で白湯は二人のやりとりを半ば納得しつつ眺めている

(基本、約半数の五属の殿方は劣位相手の女性を好むといいますが……)





 化け物の体内―――不気味に笑い続ける影を前にして咲耶は力なく上体を起こす

(違う―――――晦冥の姿はしてるけど……紫珠の陰と晦冥とが重なった別の“何か”――――――)


『旺珠に共存する微かな気配よ』


「!」

『ここまで来た褒美だ。外の景色を見せてやろう』

 晦冥から放たれた靄が空間に広がると各場所が映し出された。

 ある所では建物が溶かされ、ある所では戦っている五属達の姿が見え、またある所では霧に触れた五属が消滅していく姿があった


『我の力で全てが消され』

「……」

『霧となり深い闇底へと漂うのだ』


 咲耶は外の変わり様に言葉を失いざわついた


『皆、失われ混沌の中に消えて行く様は美しいとは思わぬか?』

 大きな口と目が恍惚を帯び不気味な笑いが絶えず続く



(みんな……ごめんなさい……)


 悔しさで辛くなり咲耶の拳に力が入る

(本当なら、もっと早くに記憶を戻して一人で笙粋様の所に辿り着くつもりだった……)


(それなのに…あたしは……)

 咲耶の心の中では明るく楽しく氷雪を追いかけ回す学校にいた頃の思い出が溢れ出す

(あたしは………)

 雨が降っても平気で外を歩く咲耶に傘を渡し、喜んで受け取った咲耶は氷雪と相合傘でルンルンと一緒に帰ろうとする。びっくりする氷雪と四田だがそんな事はお構いなし。

 等々、賑やかで楽しい毎日が頭を過ぎる



(…少しでも長く、氷雪の側にいたいと望んでしまった――――…)



 心苦しく顔を歪めはらはらと涙が静かに零れ落ちる

『消え行く気配よ、大義であった』

 咲耶の周りに霧が立ち込め包み始める。咲耶にはもはや動く事も抵抗する事も出来ず、瞳も光が失われ力尽きる寸前であった


『今―――旺珠を飲み込み、我の力は完遂する』





 パ リ ン

『!』

「それは無駄な事です。晦冥」

 霧が払われ透き通る鈴の様な声、暗い闇の中でも輝きを放ち凛として立つその姿は影のみの存在を真っ直ぐに見つめている

「………」

 視界も奪われ意識も朦朧としていた咲耶は、横に立つ暖かな気配に確信を抱き安堵した



「憐れなり、晦冥」



「あなたの暗き心に気付かなかった、私と無属を許してほしい」

 視線を落とし変わり果てた晦冥を痛む笙粋。

 晦冥は返答せずに再び二人の周囲に霧を集め吸収し始めた


 パリ…パリン……パリン


 笙粋の放つ輝きが度々襲い掛かる霧を悉く振り払っていく

『…効かぬだと!? ぬしは奉納もしていない弱き旺珠ではないか!!!』

 本来なら二人とも吸収され晦冥の糧になる筈、どうしても上手くいかず払われる霧を前に疑惑の念を抱く


「混血」


『!!』

「紫珠を託され奉納を務めた白湯同様咲耶も無属の血を受け継ぐ子」


 笙粋は晦冥の疑問に答えると今までの経緯を語り出す

「身動きの取れなくなった私の代わりに旺珠と同化した咲耶は長い間、陽の気を蓄え続けていた」


「奉納は完全とは言えませんでしたが」

(咲耶…)

「あなたは立派に笙粋の代わりを務めたのです」

 笙粋を見上げている咲耶は、身体のほとんどが透明化して少しずつ消え始めている。

 笙粋は膝を曲げると胸元に咲耶をたぐり寄せしっかりと抱きしめた

「良く、頑張りましたね」

「………笙粋様…」

 暖かな笙粋に包み込まれた咲耶は、心地良さに満たされ穏やかに微笑んだ

挿絵(By みてみん)

「…ありがとうございます……―――」


 フワッ

 咲耶が消え、笙粋の胸元には光り輝く旺珠の姿があった。笙粋は我が子の様に旺珠を大切に抱き続ける。

 旺珠が剥き出しになったのを機に晦冥の口元がさらに上がり再び不気味な笑いが響き渡る


『にわか笙粋が陽を蓄えたくらいで微々たるもの!! 笙粋!! お前もろとも闇の中へ消え去るがいい』


 先程よりもどす黒い強力な黒い霧が笙粋目がけて襲い掛かった





 笙粋の塔へと駆け付けた四人は、外の景色を見て愕然としていた

「砦が溶かされているぞ!!」

「!」

 先程までいたぐるりと取り囲む砦が霧によって溶かされ消えて行く。その上部にはとぐろを巻く恐ろしい化け物の姿が視界に入ってくる

「な…何あの化け物は!!………晦冥……!?」

 目の当たりにした舞は震えが起き、黒く蠢くその姿に寒気と恐怖で狼狽えた


「笙粋様が見当たらないが、一体どこに……それに咲耶も来ない」


 燐火は奉納台周辺を探しても二人の姿が確認できずに心配している

「…咲耶はあの中に……笙粋様もおそらく…」

「!!?」

 氷雪の一言に皆目を見開く。

 氷雪は足取り重く上空にいる化け物の姿をじっと心落ち着かずに見つめていた

「あの二人を信じるしかないんだ……」


(咲耶……)





 霧の度重なる襲撃に払いのける事が追い付かなくなった笙粋は、真っ黒な繭と化してしまう。

 抵抗出来なくなったと確信した晦冥は低く笑い黒い繭を満足げに眺めている


『クク…そうだ。これでいい……』


 化け物の外側では吸い込まれ闇と化す物体の他に、小さな光も微量に方々から吸い込まれていた。

 光は闇の中に紛れ、潜めつつ目的地へと集まりつつある。その光は、晦冥に感知されずに速やかに繭の中へと集束されていった



『紫珠を司る全ての闇よ、今こそ解放し全てを虚無と化するのだ』



 各地では必死で防いでいた壁が剥がれ、五属達の消滅が加速されて行く。

 悲鳴と共に逃げるが霧の速さに追いつかれ次々と呑まれていった





 サアアアアア

 その時、笙粋の黒い繭から一筋の光が差し込んだ。

 一本だった光の筋が二本、三本と増えると小さな太陽があるかのように一気に輝き出す


 カカカカッ シュウウウウ…


 光は化け物の腹の中を駆け巡り黒い霧を払いのけ開いた穴から外界へどんどん飛び出していく



『な―――』

(胎内が壊れるだと――――!?)



 血走った目を見開いた晦冥は繭を打ち破って凛として立つ笙粋をギロリと睨む

(何故だ…!? 我より劣る旺珠に何故こんな)


「知りたいですか?」


 笙粋は抱えていた旺珠を宙に浮かせ、集まってくる小さな光を蓄えさせている

「あなたは、自然の生命を粗末に扱った。奪われた生命は旺珠に力を与えてくれる」

 失われた生命が旺珠に次々取り込まれさらに輝きが増していく

「生命に対する侮辱と希薄な心があなたの敗因」

 旺珠から解き放たれた眩い光が陰を掻き消し晦冥に降り注ぐ。

 晦冥は身動きが取れず、大量の光の散霧を浴びる事となってしまった


『そんな…馬鹿な……』


 カッ


「あるべき場所へと戻りなさい。晦冥―――……」


 サアアアァァ




『馬鹿…な………』

(我が―――消え去る…だ…と………!?)





 光は霧間から顔を覗かすと、方々に散り黒い霧を瞬く間に払拭していく。

 消滅寸前の五属達やまだ諦めまいと戦っている赤灰達の前にも光が現れ降り注ぐと黒い霧は跡形もなく消え去っていった


「……どうやら、終わったみたいだ」


「黒父!!!」

 限界まで戦っていた黒灰がパタリと倒れ、慌てた三人が駆け付ける





 空高く両手を伸ばした笙粋の先には、旺珠と紫珠が互いに浮いている


「生命は、尊いのです」


 霧が晴れ、真っ青な空がどこまでも眺望できる中、笙粋は誰に言う訳でもなく言葉を発した



「笙粋殿」

「白湯…紫珠を奉納台へ」

「はい」

 笙粋の元へとやってきた白湯が紫珠を受け取ると紫珠側の奉納台へと足を運ぶ。

 笙粋側の塔では外を不安そうに眺めている四人の姿があった。不思議な気配が漂うのを察知した四人は視線を部屋中央へ向ける


「皆―――…よくここまで辿り着きました」


 中央には先程までいなかった笙粋の姿があり手元には光り輝く旺珠が顔を覗かす。奉納台へ旺珠を鎮座させた笙粋はすぐ横に位置すると旺珠に両手を翳し始めた


「これから奉納を開始します」

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