それぞれの戦い
薄暗い通路の先にぼんやりと明るい空間が見え始めた。
慎重に歩み続ける舞の上部で物音が聞こえ、数百あるか竹槍が舞目がけて落下し始める
ザ ザ ザ ザ ザ ザ
「こんな古典的なトラップに引っ掛かるかっての」
「あれぇ?」
上手く切り抜け広い部屋へと転がり込む。視界には密林と化した緑溢れる怪しい植物がくねくね蠢き、その中央には胡坐をかき寛いでいる榊の姿があった
「話じゃ土だった筈なのに、おたく金の…え――――と……」
「……」
不思議そうに眺める榊にイラついた舞は、間髪入れずに榊に向けて攻撃をしかけた
「あんたに名前覚えて貰わなくて光栄だわ!!!」
ザク! ザク! ザク!
「うわ! わわっ」
榊は紙一重ですり抜ける。
横から下から斜めからと刃が放たれ空いたスペースに大の字で仰向けになると、体の底から笑いが込み上げてきたか、腹筋を使いケラケラと笑い出した
「まぁいいや」
「!?」
不敵な笑いに動きが止まる
「劣位の相手にどこまで通用するか試したかったし」
榊から紫珠の力が現れ陰の気で満ちると足元から根が至る所に突き出し舞を取り囲む
「始めよーか」
「……」
ゆっくりと上体を起こす榊に厳しい顔で見据える舞。
ケラケラ笑う榊の表情に不気味さを感じている
「金の…えーと……」
カチーン
「切り刻んでやる!!!」
「お待ちしておりました。咲耶」
一段高い四畳半程の畳の上で、恭しく正座をし、頭を下げている女性が目に入る
「…あなたがさっき伝えてくれたんだね」
「水の白湯…」
「……」
ゆっくりと頭を上げる白湯。その顔は思いつめた暗い表情をしていた
「時間がありません。話は移動しながらで」
音も立てずスッと立ち上がり、目的地へ向けての通路を案内しようと早足になった
「晦冥は紫珠に取り込まれました。急ぎ向かいましょう」
「――! 分かった」
白湯と咲耶の二人は笙粋のいる塔への通路を駆けて行く。
白湯は足が付いていないのか浮遊状態の為足音が咲耶のみだ
「他の四人は不利にならぬ様操作を致しました。最悪消滅する事はありません」
「……」
「鋼は娘に任せたので火の彼が三名の手助けに入るでしょう…………夫の今までの不祥事どうかご容赦下さい」
「夫って……鋼が!!?」
さりげなく言った言葉にぎょっとなり大声が出た。信じられないといった顔の咲耶は動揺している
「あ…あいつ、嫁がいるのにあんな事……!!! 今までで最高に驚いた…」
「…申し訳ありません…だらしない夫ですが、あんな人でも良い所が…………………きっとあります。一握りくらいは多分…」
「………」
言ってはみたものの、自分の言葉に疑問を抱いたか曖昧になった白湯。後ろを追う咲耶は絶句していた
「…なぁ。雫ちゃん」
部屋の至る所にぬいぐるみが置かれポップでファンシーな可愛らしい場所の中心に、人ひとり入れるほどの大きな雫が垂れ下がっていた。
内部には窮屈そうに胡坐をし、外側にいる女の子を前にして困っている鋼の姿がある
「俺ぁいつまでここにいるんだ?」
「わかんない。きっと白湯の怒りが治まるまでじゃない? 白湯がいいって言うまでダメだって」
雫は懐から預かった例の物を取り出した
「でもこれじゃ当分ムリそー」
「あ゛あ゛っ! いつのまに」
例の写真が何枚も何枚も雫によって公開され恐怖に青ざめてしまった。鋼の頭ではどうやって白湯の機嫌を治せるかで一杯になり自分の使命すらすっかり忘れてしまっている
「ま、こういう時あまりないし、私と世間話でもしてよーよ。ね」
水で作ったクッションに座り浮遊させると雫は目線を鋼に合わせ足をパタつかせながら楽しそうだ
「パパ♥」
「そ…そうだな…」
ハハハと空笑いしながら後々の恐怖に怯え、慎重に娘と会話をしなければと心に誓った鋼であった
綺麗に整頓されている広間には、入って来た標的に疑心暗鬼になり顔を歪める灯の姿があった
「な…ん…だと……」
(…灯?)
目の前には紛れもなく自分にとって劣位になる相手、氷雪がいる
(本来は金の女だった筈、氷雪じゃダメージはおろか消す事もできない。紫珠の力を借りても皆無だ)
微動だにしない二人。硬直状態が続く中、窓側で動く影を感じ灯は目を見開いた
「白湯…あの女……裏切ったな」
怒りに震えると脱兎のごとく転移でその場から消え去った
「行かせてたまるか!!」
「!!」
灯の見た方角を合わせると、螺旋になった通路を駆け上がる二人の姿が視界に入ってくる
(あれは……咲耶…!)
バッ
腰元に固定してあった袋から急いで例の物を取り出した
「奉納が開始された当初から、私はずっと笙粋殿と通じておりました」
流れる様に浮きながら通路を進む白湯。
彼女の脳裏には、笙粋の塔にいる自分、紫珠の使い達を陰ながら見守っている自分が思い出されている
「晦冥に阻まれた後は私の能力とを合わせてあなたと連絡を取り、旺珠・紫珠側と様子を確認しては笙粋殿に伝えておりました」
「…どうしてそんな事できるの?―――“水”だよね?」
不思議そうに尋ねる咲耶に淡々と話を続ける
「土台は“水”…もう一つは別で………咲耶、それはあなたも同じ」
「!?」
「それ故あなたは旺珠を託された」
「じゃ…あたしも木の他に別の何かがあるっていうの!?」
「………詳しく説明はできなさそうです」
通路を抜け外の広間に出ると、白湯は立ち止まる。
数歩遅く来た咲耶はハッとなり固唾を呑んだ
「陰の霧が実体化しつつあります。一刻の猶予もありません」
空には真っ黒な底のない闇。その闇が旺珠の塔と対になり逆さになっている紫珠の塔をぐるぐると取り囲んでいる。形のなかった闇に部分的に獣の爪や指ができ始め、徐々に巨大な生物が創られていく
(笙粋様―――…)
咲耶は塔と塔の丁度中間にいる。
眼下には笙粋のいる塔が闇に包まれずにまだ姿がとどまっていた。
意を決め咲耶が動き出すが、同時に咲耶へ向け炎の矢が放たれる
「これ以上先に行かせるか!!」
バヒュッ
ジュッ ジュゥワワアァァ
段になっている柵に登り背を咲耶は向けていた。
不意を突かれ射抜かれそうになったが、間には追って来た氷雪と白湯が作る壁に防がれ難を逃れる
「……あんたが白湯…?」
「お久しぶりですね氷雪」
シュウと蒸気が上がる中、白湯を見て驚く氷雪がいる。白湯は軽く微笑を浮かべた後、水と化しその場から移動した
「こちらをお任せします」
「双龍蛇!!!」
ゴオォ
「!!」
ガガガガ ガッ ガッ
渾身の一撃を繰り出す灯。それを防御する氷雪だが、衝撃が大きく轟音が鳴り響く。
休み無しに炎を放つ灯の頭上にゆらり現れる白湯。サアアアと大量の雨を浴びせると灯の動きが一瞬止まった
「おやめなさい。今更戦っても無意味なだけです」
怒りの矛先を白湯に切り替えると、灯は火矢を何本も射抜く
「これしきの雨に怯むか!!」
ドオォン
「この裏切り者――――!!」
「白湯!」
白湯を射抜く火矢は掻き消され水蒸気となり、辺り一面爆音と濃霧に包まれてしまう。
咲耶は例え水でも紫珠の力を纏っている灯が相手の為、一抹の不安を抱き白湯の名を叫ぶ
「……あなたこそ」
濃い霧の中から小さいがはっきり聞こえる声
「これしきの紫珠の力で私をどうにか出来るとでも思っているのですか?」
「!!」
霧が晴れ始めゆらりと不動に浮遊している白湯。
胸元に両手を合わせその場に佇む姿は小柄ながらも存在感に満ちている
「目を覚ましなさい。あなたの慕っていた晦冥は紫珠に呑まれ消えたのです」
「な…」
白湯の言葉に驚き戦闘意識が薄れだす
「今、目の前にいる“あれ”は生命を抹消するただの化け物にすぎません」
闇の物体は足が何本も出来始め、ぐるぐると渦巻き胴体も創られ始めていた
「もうこの世に晦冥はいないのです」
「そんな……まさか……」
頭の中が真っ白になる灯。
晦冥は灯にとって全てだった。震えながら胸元のペンダントを握ると放心状態に陥ってしまう
「これを―――やろう」
「これは?」
灯が受け取ったそれは、彫金が施された丸い形のペンダントであった
「炎蛇を模った飾りだ。お前に似合うと思ってな」
彫の深いきつめの顔が綻び晦冥は柔らかい眼差しを灯に向ける
「お前は我の一番信頼できる使いだ」
跪いている灯の手には受け取ったペンダント。驚きと喜びで晦冥とペンダントを互いに見ながら感極まっている
「我の為にこれからも動いて欲しい。頼むぞ」
晦冥は背を向け去っていくが、視界からいなくなるまで頭を下げ続けた
「勿体無いお言葉、ありがとうございます」
灯はしっかりとペンダントを握りしめ顔の紅潮が治まらない。感激で胸が熱くなり泣きそうなくらい嬉しかった
「……そんな」
(あの威厳に満ちたお優しい晦冥様がいない…だと……?)
ガクリと膝を曲げ座り込んだ灯からは、動く意志すら無くなっていた
スウッ
「!!」
徐々に出来上がっていく悍ましい闇の姿は灯にあった紫珠の力をも吸い出すと、自分の体内へ吸収し瘴気の出す奥底から響く地鳴りが空の隅々まで鳴り響いていた
「咲耶! 笙粋殿の所へ…………!」
「咲耶っ!」
すっくと咲耶は端に立ち一呼吸
(あたしが、行くべき場所は…)
心配そうに咲耶を見る氷雪を背中から感じると、先程の咲耶を守る氷雪を思い出す
(最期にあなたに会えて良かった)
に こ
とても落ち着いた優しい笑顔を二人に向けると咲耶は軽くジャンプした。二人は驚愕し息を呑む。
咲耶の向かった先は邪気を滾々と発し実体化しつつあった大きな化け物の口の中へためらいなく突き進んで行ったからだ
「咲耶―――!!!」
「踏みとどまるのです、氷雪!!」
咲耶の後を追おうと砦の段上に登りかけた
「あなたがその霧に触れれば消滅します」
「!」
必死に氷雪を呼びかける声に動きが止まる
「咲耶は旺珠と共にあるので消えはしません。咲耶を信じ、あなたは三人と合流して笙粋殿の塔へ向かってください」
「それが奉納の一番の近道です」
「…………」
困惑していた氷雪は後を追えない悔しさと不安が入り混じり居た堪れなく顔を伏せる
「…わかった」
「皆揃ったらこのガラス玉を割るのです。奉納場所へ導かれます」
「ああ」
紺色のガラス玉を受け取ると、今来た道を急いで駆け下りて行った。
白湯は氷雪を見送っている。
隣には座ったまま茫然としている灯の姿がある
(頼みますよ。一刻も早く笙粋殿の元へ)
背後にはほぼ完成した化け物がくねくねとうねり、時折雄叫びを上げながら周囲の物体を消滅し始めていく。
白湯は化け物へ向き直ると顔が強張った
(それにしても…突貫するとは………)
「さすがあのお方の子とでも言うべきでしょうか…」
ぽつり白湯は呟く
「……」
灯は空一面に飛び回っている闇の化け物をただひたすらじっと見つめていた
―――真砂の空間室
当初と比べ部屋の中は泥と土臭さで蔓延し、二人は戦いを延々と続けていた。
大きく肩を動かす沙智は床に座り込み、目の前に立っている真砂は汚れているものの余裕があるのか見下し感たっぷりでクスクスと笑っていた
「万年ドベの弱虫が、粘るじゃない」
全身に被った土が、流れる汗と共に床に落ち泥状になって溜まっていく。
沙智の体力はもはや限界に近い。しかし倒れまいと必死に体を起き上がらせ手で床を支えていた
「でも、もう動くのもやっとのようね」
ガッ
真砂の足が顔面を捉えると沙智は床に俯せに転がり込んだ
「あーあ。傷だらけだしせっかくの勝負服が台無しー」
勝負あったと確信した真砂は、倒れてる沙智をよそに自分の身なりを気にし出す
「後で燐火に慰めてもらおーっと♥」
沙智の手がぴくりと動き、離れて行く真砂の足首に土で出来たロープ状の物を巻きつける
「…まだ……おわって…ない」
「汚いドロくっつけるんじゃないよ」
ド カ
「どうやら気絶するまでやらないとダメみたいね!」
ドカッ ガッ ドッ ガッガッ
(私は…)
纏わりつく土紐を外そうと、真砂は殴る蹴るを繰り返すが、どんな目にあっても沙智は外そうとしない
「ちょっと、まだ離さないの!? いい加減にしろって、しつこいなっ!!」
ガッ
(確かに、戦闘は苦手…競争じゃいつも最下位…)
ぎゅう
「!!」
それならばと真砂は同じ様に紐を作り沙智の体にぐるぐると巻きつけた
「窒息しちまいな」
(でも…今は負ける訳にはいかない…)
苦しむ沙智をせせら笑い喜ぶ真砂だが、沙智の手元が陰になりサワサワと動いていた事に気付かない
(あなたは“土”である誇りを捨て)
細い通路を駆け足で急ぐ燐火。鈍い喧噪が聞こえて来た為急いで向かっている
(好きな人を慕うどころか―――劣位相手に対する支配をしている)
ぐいと首元を掴み高く持ち上げられる。より呼吸がしにくくなった沙智は青くなり気が失いかけていた
「惚れた男に告る事も出来ない臆病もんに私が負ける訳ないんだよ!!!」
「ちが……私…………」
「は? まだ喋れるのあんた」
ぎゅうと首が絞められ体が小刻みに震えだす。それでも沙智の手元は動きを止めずに“何か”を操作していた。床に散らばった土達がザワザワと沙智の操作の元動き出している
沙智は目の前が薄れる中、奉納失敗後を思い出していた
(―――氷雪が消滅してから咲耶の消息が途絶えた)
(私は咲耶が行きそうな場所、思いつく所を方々探し回ったが見つからなかった)
(もしや氷雪が消えた場所に? と思って行ってみる事にした)
(そこには、前にはなかった桜の幼木があった)
「…まさか…………咲耶!?」
小さな木の前で力なく沙智はしゃがみ込んだ
(木属は特殊――――自身を木に変化させ生き続ける事が可能だと聞いた事がある)
地面に上から落ちる水滴が浸み込んでいく
(咲耶の取った選択は、愛する人の元で生き続ける事)
「咲耶…」
(涙が止まらなかった)
(咲耶は元気で明るくて、私の憧れだった)
(それなのに私は)
(咲耶も苦しんだり悲しんだりするのに…知ろうともしないで)
「ごめん…………咲耶……」
(…力になる事ができなかった……)
「ごめんなさい………」
(私は何て大馬鹿なの……)
後方で隠れる様に人影があったが沙智は気付かない
(燐火は……いなくなった咲耶について何も言わなかった…)
今まで通りの生活に戻り、頼渡として沙智が燐火に荷物を渡している
「……」
(もしかしたら知っていたのかもしれない…)
(私は)
(強くならなければならない)
普段通りの燐火、咲耶がいなくなった毎日、そんな中、沙智の心にはある決意が生まれた
(強くなって)
(足手まといにならない様に、皆の力になれる様に、もっと…もっと……!)
仕事の合間を見計らい、沙智は一人黙々と特訓を続けていた
サアアアァァァ
「!!」
沙智の手が光りだし、部屋中砂が流れる音が鳴り響いた。
真砂の指先が崩れかけびっくりすると掴んでいた手を離し沙智から素早く距離を取る
「沙智! あんた何を」
「ここにある全ての物体を砂状に変える。真砂、あなたも」
「何だって!!?」
離された沙智は力なく座り弱々しいがしっかりした声を出す
「そんな事出来る訳ないだろ!! 私は“意志”のある土の精だ!!!」
「ううん」
沙智を中心に個体物がサラサラと砂化していく中、沙智は懐から“例の物”を取り出した
「これがあるからあなたも砂になる」
「!」
(赤灰君・・・ありがとう)
「五属の能力を“無”に変える無属の石。通路、外壁は無だったけどこの部屋は違う」
手のひらにすっぽり入る程の小さな石、だが五属にとっては能力が失われる程の力を持っている。影響が及ばない袋に赤灰は五個分用意し、別れる際渡していた物だった
「そしてあなたは紫珠の力を持ってない。この石は触れずに遠隔すれば私の術を付加する事も出来る」
「ならあんただって砂に…!」
バアアァ
沙智の周りに蜘蛛の糸の様な円陣が組まれ輝いているのに気付く
(いつの間に防壁陣を…!)
真砂は目を見開いた。部屋の至る所に防壁陣が張られ逃げる事も攻撃する事も出来ない。砂と化した物体が辺りを引き込み埋め尽くされ、真砂の体もじわじわ零れ落ちて行く
「あなたはここから出られない。でも…私が離れればあなたは元に戻るから心配ないよ」
「さち…あんた………」
歯をぎりりと噛みしめ悔しさが込み上げる。沙智は腫れた顔を下に向け悲愴感で一杯になった
「…私は……嫌なの……」
(燐火―――…)
(咲耶……)
沙智の瞳には暗く沈んだ表情の燐火と咲耶が交互に映り込むと、はらはら涙が落ちて行く
「大好きな燐火と咲耶が苦しむ姿を見るのは嫌なの!!! だから私は負けられない!! 燐火を苦しめるなら私は戦う!! 咲耶が苦しいなら苦しみを取り除きたい!!!」
ありったけの思いを絞り上げる様に必死に声を張り上げる
「だから真砂! あなたはもう燐火を苦しめる事はしないで!!!」
ザアアアアアアアアアアアァァァ
真砂は体を保てなくなり砂になって流れて行った
『さちー』
(毎日…)
咲耶が手を振り沙智にジャンピング抱き付きをしている。それを前方で半ば呆れて見ている燐火。
沙智の昔の記憶―――…そして望む事
(笑って楽しく過ごす事が出来ればいいのに………)
辺りは静まり砂の心地よい音が時折聞こえる。
無属の石は床に落ちると数回跳ねて周りを転がっていた。力を出し切った沙智は涙も枯れ果て茫然とし蹲っている
「…もう、入っていいのか?」
「燐火…」
「派手にやったな。傷だらけだぞ」
燐火が近寄り沙智の様子を窺う。力なく笑う沙智だが振り向くのもやっとだった
「大丈夫だよ……この石持ってれば回復早いし。術は使えなくなるけど」
石を取ろうとしたが燐火が先に掴み取り、パパッと素早く沙智の手を上向きにして握らせる
「……」
「急ぐぞ、背中におぶされ」
「え゛…いいよ…自分で歩く……」
『ほら』と背中を沙智に向けしゃがむ燐火だが、沙智は狼狽え引いてしまう。すかさず指を三本にすると燐火は問いかけた
「三パターンある。好きな方法を選ぶんだ! “①おんぶ ②お姫様だっこ ③肩上げだっこ”」
「……………①で……」
「自分で何とかしようとしないで、無理な時は頼ればいいんだ。お前の悪い所だぞ」
「……うん」
おずおずと沙智が乗っかり、『よろしい』と納得した燐火は立ち上がって先に進もうとする
(燐火……)
言うべき事ははっきり言う厳しさもある燐火だが、何も言わなくても手を差し伸べる優しさに、沙智は嬉しさで溢れ泣きそうになっていた
(あったかいな…)
「次は向こうだな…」
衝撃音が聞こえる方向を見て砂まみれの部屋を後にしようとしたが、ふと燐火の動きがピタリと止まる
「………沙智」
「……ん?」
「時間が掛かるかもしれないがお前との事を考えたいと思う」
躊躇いがちに顔を横に向け沙智を見る
「それまで待っていてくれないだろうか…………………沙智?」
沙智は安心したのかすうすうと寝息をたて眠っていた
「……」
苦笑を浮かべ困ってしまうも気を取り直し砂の部屋を走って出て行った
ザシュ ザシュ ザシュ ザシュ
ス パ
「こんなもの体を貫通させたって、痛くも痒くもない」
『ふんっ』と舞は貫通した枝をスパスパ切り落とす
「やっぱ紫珠の力でもそれはムリかー」
「!」
枝分かれした木の先から榊がニュと顔をだした。すかさず榊のいる枝を切り落とすもすぐに移動し舞の頭上へとやって来る
ガ キ ィ
加工した枝の剣に紫珠を纏わせ舞に叩き下ろす。舞は剣を作り迎え撃つが、衝撃の大きさに体が押され足が擦られていった
「武器としてやった方がいいみたいっしょ♪」
振り下ろされる枝剣を押されながら受け止め続ける舞
(重い…………同属を相手にしてるみたいだわ…)
あっけらかんと楽しそうに戦闘をする榊。顔が歪み攻撃を受けながら頭の中では冷静に榊の事を分析している
(それにこいつは戦い慣れしてる)
(この場を乗り切るには、私のスタミナ次第…)
トス! トス! トス!
「!!」
振り下ろすのを止め即座に根を舞に突き刺した
スッパーン……パラパラパラ
「貫通は効かないって言ってんでしょーが!! うっとおしい!!」
根と枝をぶった切るが榊には当たらず空振り。離れた榊を迎え撃つ為刃物を並べて身構えた
「あれ? おたく、それ人間の服?」
「は?」
攻撃を仕掛けようとした榊は目が点になり不思議そうに舞を凝視している
「服が散らけてほとんど裸っしょ」
いやああああああああああ
舞の雄叫びが部屋中に響き渡り大泣きしながら頭を抱えて蹲ってしまった
「愛する氷雪にも見せた事が無いのによりによってこんな奴にこんな奴に~~~~~~~~~」
わああああああああああああ
「……」
ショックが大きく嗚咽がいつまでも止まない。そんな舞を見て榊は困惑し腕組みをする
「…弱った。責任とって嫁にしないとならないのか? 見ちまった…」
「せんでいい!! 誰があんたの嫁になどなるかぁ―――――!!」
恐ろしい提案に鬼の形相になる舞は再び頭を抱え動かなくなった
スゥッ
「……」
悩んでた榊。その間体から紫珠の力が抜けて行くのを感じとり天井を見る
ゴ ゴ ゴ
「!」
塔全体が揺れバランスが保てなくなり榊はふらつく
「………」
再び舞の方を見るがショックを受け戦う意志の無くなった舞と、紫珠が無くなり超不利になった榊、先が進まなくなったと思った榊は自分の荷物をガサゴソ探し舞の足元へ着られそうな服を置く
「これ着るっしょ」
「!」
置かれた服を見てげんなり
「誰がこんなダサイ服…!」
「裸でずっといるのか?」
「………」
かなり不服の舞ではあったが、片腕を伸ばしそーっと服を取ろうとする
「お」
服を掴んだ頃、榊が荷物からメモ紙を発見し明るい顔になった
「そーか“金の舞”だ」
つっかえてた物が取れた様にすっきりとし、ケラケラ笑いながら部屋を出て行く
「覚えたっしょ♪ んじゃ、まったのー」
「金の舞♪」
舞は真っ青になり恐怖に慄く
「覚えるんじゃなぁ――――い―――――っっ!!!」
螺旋の通路を氷雪は急いで降りて行く。
気配を感じ、前方からゆっくり走ってくる人影を見てハッとなった
(榊――――!!)
素早く榊との間合いを取り身構える。榊は氷雪の動きを見て口元が緩み、笑いながら横を通り過ぎて行った
「今は戦る気失せてるっしょ」
ケラケラケラ
「じゃあの」
「………」
不気味さを含みゆらゆらと走って行く榊。氷雪は後姿を不可思議そうに眺めていたが、気を取り直して駆け下りて行く
(ここは、榊の部屋……)
一目で榊の部屋と分かるくらい密林の空間。その鬱蒼とした部屋の一角に佇む人影があった
「ひ…」
氷雪が見つけるよりも先に人影(舞)が気付くと、感動してうるうる顔に
「氷雪!!!」
びくっ
「心配して来てくれたのね♥ やっぱり氷雪は私の王子様よ―――♥♥」
硬直する氷雪にダッシュで抱き付こうとする
「みんな、いるのか?」
燐火の声に振り向き軽くかわして近寄った
「沙智!?」
燐火の背でぐったりしている沙智を見て険しくなる。その間突進が止まずに舞は壁にドゴォと激突
「大丈夫なのか?」
「心配ない。体力を消耗して寝てるだけだ」
「…そうか」
『ほ』と一息つき懐に収めていたガラス玉を取り出す
「これを使えば塔に行けるそうだ」
「それは?」
「水の白湯から預かった」
「信用できるのか」
「ああ」
「……」
燐火と氷雪の会話が進む際、壁の破片をカラカラ落とし俯き加減で舞は立ち竦んでいる
「…私も…頑張ったのに………誰も……何も言ってくれない……」
見ない様に一歩下がる氷雪と、気付いてはいたが話題に触れない様にしていた燐火
「何があったか推理しろと言えば告げるが…」
舞の声に淡々と説明を始める
「大きな音と悲鳴、そして着てる服の違い、大体の見当はついてるから敢えて言ってない」
「まてい!! もういい、何も言わなくていい!!!」
舞が欲しかった労いの言葉は無く、燐火の状況分析に先程の恐ろしさが込み上げてきて真っ青になった
〈別にいいですよ~。どーせ私なんか誰からも相手されないし、お気に入りの服ももう無いし、ダッサイ格好だし〉
ぶつぶつぶつぶつ
舞の周囲が暗く淀み、どよ~んと沈むと自虐に入った舞は呟く。その姿は悪霊の様に不気味だ
「その前に咲耶がいないぞ」
舞に触れない様次の行動に移そうとするが、燐火の言葉に氷雪は顔を曇らせる
「…咲耶は…後から来る……先に行けと…」
氷雪の様子が一変した事に疑念を抱くも、先に進まなければと氷雪の案に従った
「…そうか…やってくれ」
背中で寝ていた沙智が目を覚ます。氷雪はガラス玉を床に投げつけ粉々に砕け散ると四人の周りが輝きだし、竜巻が包み込む
四人は笙粋のいる塔へと転移していった




