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咲耶  作者: 蒼都 未雨
13/19

波及

「え…今なんと……」


 紫珠、晦冥のいる広間に鋼以外の四人が集合している。

 先頭で敬意を表している灯は熱い眼差しで晦冥の背中を見つめていた

「阻害はしなくてよい。これから来る五人を迎え撃つ事に専念せよ」

 低く、威ある声。常に背を向け紫珠を見続ける晦冥にとって使いの者達は眼中に入っていない

「…はっ! 皆、持ち場へ行くぞ!!」

 晦冥の言葉を受け止め灯は三人を促し広間を後にする。四人が出て行く頃、晦冥の顔色は怪しく薄い笑みを含んでいた



 準備は


 整った―――――



 晦冥の様子が最後尾に位置していた白湯の視線に入る。白湯は眉を顰め、やりきれない思いでその場を立ち退いた





 静かにうっすらと涙の跡が残る咲耶は夢から覚め、ハッとなり起き上がる

「あたしったら寝ちゃってた…―――」

 上半身を両手で支え、一番先に咲耶が目にしたのはいつからいたのか、ずっと様子を窺っていたらしい氷雪の姿があった

「氷雪……」

「……」

 驚きと困惑が混ざる咲耶は微動だにしない氷雪の視線から目を逸らす事ができないでいる

挿絵(By みてみん)

「………嫌われてる訳ではないんだな…でなければあんたがここにいる理由がない」

「たっ 高台の風が心地よくて寝てただけだよ。ア、アハハ…もうすっかり真っ暗で冷えたね~、じゃあ宿に帰ろっか。アッハハハハ」

「…咲耶」

 笑ってその場を切り抜けようとしたが、咲耶の長い髪を氷雪の指が絡め取ると再び固まってしまう


「何を…隠してる?」


「俺の記憶を閉じてまで一体何を知られたくないんだ?」

 すくった髪が氷雪の指を通り抜けさらさらと零れ落ちる。その氷雪の一つ一つの行動がとても懐かしく愛しさが溢れ、咲耶はずっと見続けていた

「…前に、榊と灯の件で言ってたな…紫珠を使うと反動で消滅しかねないと…………考えたくないがもしかして咲耶…」

「全て」


「奉納が全て終わった時に分かるから」

 立ち上がり氷雪の真正面を向くと、咲耶は笑みを浮かべ氷雪の疑問を制する



「それまでは何も聞かないで」



(言った所で今の状況が変わる訳では無い)


(身勝手なのは分かってる…それでもあたしは…)


 口をつぐんだ氷雪は咲耶の笑顔を悲しげに見ている。見られてる事に戸惑いを覚えた咲耶は伏し目がちになったが、頬に触れる温かな感触に驚き顔を上げた


「哀しい顔だ…」


「俺には何もする事が出来ないのか? 何かするべき事はないのか?」

 呼吸が出来ないくらいきつく抱きしめられる。咲耶は嬉しさと悲しさが入り交じり涙が零れかけた

「何も…ないよ」

(優しい氷雪―――…)



(避けられる為にがんばったのに)



(結局空回りばっかり…)


 咲耶の中では学校にいた時の情景が思い出されている。

 勢いの良い咲耶が逃げ腰の氷雪を追い掛けているとてもコミカルで楽しい思い出が。



 くすりと自嘲気味な笑いを含み氷雪の胸に顔をうずめた

(このあたたかな場所にずっといられるのならどんなに幸せなのか……)





 ふと、笙粋のいる塔の方角に目を配る。

 ありえない状況に咲耶は愕然とし震えだした

「う……そ…………朔まではまだある筈……………」


 ダッ


「咲耶!」

 何事かと咲耶が走り出した方角を見る

(あれは…)

 辺りは暗く雲も多かったが、より暗く深淵の奥底以上に翳りある黒い靄がわきだしていた。

 氷雪は側にあった貯水池から水を引き出すと、宿にいるだろう三人へ雫を転送させる





『聞いてくれ』


 氷雪の声で横になっていた沙智、鏡の前で一生懸命にブラッシングしていた舞(氷雪の声が聞こえテンションが変わる)、考え事をしながら瞑想していた燐火が驚き、声が発せられる雫へと集中した


『咲耶が塔に向かって駆け出した』


 氷雪は三人に説明をしながら走り出す


『塔周囲から紫珠の闇が溢れている。俺は先に行った咲耶を追う、続いてくれ』


 言葉が終わると同時に雫が弾け霧となり消える。

 咲耶を見失わない様周りを警戒しながらほとんど点と化した咲耶の後ろを追っている



(そんな……)

 滑りやすい坂や岩を軽々飛び越え走るスピードが衰える事のない咲耶は、焦りと不安で顔色が悪く冷や汗が止まらない

(もう始まったというの――――!!?)



(笙粋様―――――!!!)



「……」

 咲耶の声が届いたか分からないが、笙粋は静かに今起きてる事を見守っていた





 尋常でない速度で咲耶は笙粋のいる旺珠の塔まで辿り着く。

 能力以上の力を出した為か咲耶の肩は大きく上下し汗が止まらない。険しい表情をすると目を顰め動く事が出来ずに目の前を見続けた。

 あるべき筈の三重塔を確認する事が出来ず、円柱の大きな壁がそびえ笙粋のいる塔をすっぽり包み込んでいる。

 はっきりしている事は、入り口らしき色分けされた扉が五ヵ所[木・火・土・金・水]とそれぞれ表示されている事だ





「これは……でかい要塞だな…」


 咲耶の呼吸が落ち着く頃四人が到着した。前にそびえる頂上の見えない壁に四人は息を呑む

「…にしてもこの陰の靄………吐きそうだわ…」

「……」

 吐き気を催した舞は口に手を押さえ真っ青だ。沙智も顔色が悪い


 バチッ

『はーい。紫珠の砦までようこそ♪』


「!?」

 壁をスクリーン代わりに真砂が映ると裏のある素敵な笑顔で五人に語りだした

『簡単に説明してあげると、あなた達は各々の扉からしか入れなくなってまーすっ 属性の書かれた所から入って来てね。あなた達の訪問を歓迎しまーす♪』

 咲耶以外は説明されるままに色分けされた扉を確認

『五人が来るのを首を長ーくして待ってまーすっ ではまたあとでねー♥』

 プツッ

 満面の笑みで手を振りながら映像が切れた



「…絶っ対罠よ!! どうすんの?」

 あからさますぎて呆れた舞

「他の突破口が無い今ここを行くしかないだろう?」

 ボソリと返す燐火、ふと思い出した沙智は懐にある袋に手を添える

「じゃ…赤灰君から貰ったこれでは?」

「あっ それいいかも」

「…今時点で監視されてなければ使えそうだが……」

 三人が相談してる間、会話に参加していなかった咲耶だったが(聞こえてはいた)、咲耶の頭内に囁きかける声に気付いた。

 そして“木”と書かれた緑の扉のドアノブに手を掛ける


「…このまま行かせてもらう」

 カチャ


「咲耶!?」

 驚いて扉側を見ると、先の見えない一本道の入り口に足を踏み出し進もうとしている咲耶がいた。

 一旦停止し、咲耶は真面目な面持ちで四人に振り返る

「…あたしを信じて…では、又後で………」


 パタン


「………」

「なんつー勝手な……沙智!! 私達だけでもそれで行きましょ」

「え…」

 咲耶の無茶な行動についていけない舞は沙智に赤灰アイテムを使おうと言うが、氷雪と燐火は黙って咲耶の言葉を考え、自分の属性が書かれている扉へ向かった



「…って、氷雪!?」


 カチャ

「…咲耶に従う、では…又」


 扉が閉ざされ氷雪が見えなくなる。舞は口を大きく開け困惑状態だ

「……咲耶が言ったのは何か意味があっての事だろう…」

 扉を開け二人を見た後、燐火も砦の中へと消えて行く


 パタン


「………」



「舞…これはもしもの時に使おう……じゃ………」

 戸惑い気味に舞の顔を見た後、沙智も土と書かれた扉の中へと消えて行く

「……」

 一人取り残された舞。拳に力を込め歯痒そうに食いしばり、金と書かれた扉を荒々しく開けた


「もう知らないんだから!!」

 バターン!


 やけくそになった舞はドスドスと地響きを上げ通路を進みだす





 コーン コーン コーン…


 放課後のチャイムが鳴り、傘を広げた生徒達が帰宅していく。教室からカラフルな傘を頬杖をつきぼーっと見ていた町田は、気怠そうに雨の音を聞いていた

「…ねえ。この前晴れたのっていつだっけ?」

「…? さあ」

 カバンに荷物を詰め込む武田。町田は帰宅準備をするのも億劫らしく、ずっと窓側に座っていたが、長田が忙しなく教室に入ってきたとたんに笑顔が戻った

「今、友伸とものぶ様がお帰りになるわ!!」

「よし! 正門までお送りするのよ!!!」

 次の犠牲者(友伸様)が帰宅するのをストーキングしていた会田と長田。フォーデンズの四人は乙女チックにキャーキャーはしゃぎ、廊下を早馬並みに走り出していった





 ―――杉の里


 植樹をしていた幼木が頼りなさげにお辞儀をしている

「…まいったね、全然育たないよ」

「……」

 レンを含み三人が幼木を前に項垂れていた

「少しでも陽があれば…」

 立ち上がったレンは空を仰ぎ見、暗い灰色の雲を遠い目で見つめている。時折降る小雨や強風が里人に吹きつく度、眉を顰め困っていた


(咲耶………)





「赤兄は?」

 業火に聞かれ『あっち』とカヌマは指を差す。

 見ると、大岩に前屈みで座っている赤灰の姿があった

「ずっとあっち見てる」

「………」


(姉ゴぉ……)


 赤灰はしょんぼりして地深の里に戻った後も時間さえあれば延々と塔のある方角を眺めていた。

 今日も同じ様に姉ゴを慕い眺めていたが、いつもと様子が違う事に気付き、急いで里内部へと走って行く


「黒父!! 空が…!! 塔のある方の空が真っ黒だ!!!」


 “束”である黒灰と相棒のロームが急いで外へと飛び出し空を見る

「……後、数日あると言うのに…」

 空は黒い霧が噴き出し、じわじわ拡散しつつあった

「―――間に合わなかったと言うのか…!?」

 黒灰の言葉に動揺した赤灰は黒霧の方へ一気に駆け出した

「赤灰!!」


 ダバッ!


 ロームの声を無視して突き進もうとしていたが、足元からロープ状の土が出現すると赤灰の体はぐるぐる巻きにされ、拳大の丸い先端でゴツゴツ頭を叩かれた

「行ってどうするんだ?」

 足止めをしたのは黒灰だ。遠くで痛々しげに赤灰を見ては身震いしている業火とカヌマがいる

「でも、じっとしていらんねーって!!」



「赤灰…我々には決まった役目がある」

 ゴツゴツ叩かれながら抵抗する赤灰を落ち着いた、静かな声で諭しだす

「使いの五人も気付いて行動している筈だ。奉納は五人に任せるしかないんだ」

 赤灰の動きが止まり一旦落ち着く。業火とカヌマも真面目に黒灰の言う事を聞いている

「お前にはお前のすべき事がある、それを放り出して別事をしようなどと到底“地深の束”になどなれないぞ」

 術を解き赤灰から背を向けると、忙しそうに黒灰は動き出した

「ローム、周囲の里へ注意を促し黒い霧には触れない様発してくれ」

「わかった。お前達も手伝ってくれ」

 業・カ「おう!」


「……」


 拘束は無くなったがその場から赤灰は動かない

(俺のするべき事…)

 悩んだ結果、良案が重いついたらしく右手で拳を作り上へ揚げると声高々に決意を言い切った


「そうか!! 祝言の準備だ!!!」


「………」

 ゴツン!


『だからきっと戻って来てくれ姉ゴ!』と呟く赤灰なりの配慮だったが、黒灰は眉間に皺を寄せ最後の一発をお見舞いするのであった





 ―――染南門付近

「…まだ夜には早いよね…真っ暗…」

「……」

 染中央程ではないが、デートスポットも数多く設置されている為カップルで賑わう町並みの南門。

 周囲の異変に人々がざわめき不安そうに辺りを窺っていた



「う…うわあああああああ!」

 突如黒い霧が一人の男に纏わりつくと、触れた部分から自然との同化が始まり消滅していく


「…………」


 人々は悲鳴を上げて消えて行った男を見、一瞬硬直してしまう



「いやぁ―――――…」

「ひい…!」


「逃げろ!!」


「誰か―――――!!」


「こっちだ!!」

「黒いのに触るな!! 消えるぞ!!!」



 南側は騒然となった―――





 緊急招集がかかり、染中央に集合する四人。四人は各門を纏める代表であり、それぞれ


 北門 ゲン♀(土)

 東門 セイ♀(水)

 南門 スザ♀(火)

 西門 ビャク♂(金)


 となる。南門を束ねるスザは震え憤りに溢れていた

挿絵(By みてみん)

「南門で被害が出てる!! 一刻も早くあの黒い霧から遠ざけるべく土属を多数要求する!!!」

 早くなんとかしなければと焦るスザをよそに冷静沈着なゲン

「既に千人向かわせている。しばしの間染全体を土壁で覆うと言うのだろう?」

「さすがゲン!! 話が早い」

 セイが長い裾を口元に押さえ難しそうに語る

「全て覆うまで時間が掛かりそうじゃが…一般の土にも協力を要請した方が良さそうじゃな」

 一番の古株であるセイは小さいながらも貫禄があり年季の重さを感じられる

「その間他の属性に黒霧を風で飛ばしてもらおう!!」

 スザが荒々しくすぐ側に三人がいるにも関わらず大声を張り上げている。

 すぐ横で控えめに挙手する者がいた


「その役目僕がします。羽を作り飛ばしましょう」


 ゲン・セイ・スザ

「ビャク君!!! お願い♥♥♥」


 可愛らしい容姿に母性本能が疼くのかビャクの対応にはとても甘い三人。

 再び素に戻るとスザは塔を睨む

「しかし紫珠、旺珠は無属の管轄だと言うのに、一体何をしていると言うんだ!?」

 そこでビャクがふっと気付く

「そういえば最近巡回の無属の方見えませんね」

「…最後に見たのはいつじゃった?」

「ああ、私が見たのは」

 そういえばそうだなとセイとゲンが話しだし染中央に生えている木を指差した

「あそこの杉が一mくらいの頃だった」

 ゲンが指し示す杉の木は何十mにもなった立派な木であった。その木を見た四人はほんわかと和やかになる

「随分育ってますね」

「この大きさは二、三百年経ってるだろう」

「立派に育っておるのお」

 かわいい我が子を見ているかの様に穏やかな時が流れた


 ハッ!

「そんなに来てなかったのか!? 二、三百年!!?」



「…そうなるな……何か問題でも起きてるのかもしれん…」

 ガビーンと四人がびっくりしショックを受けた。

 無属や五属にとって生命が尽きる事が無い分、年が経る感覚は殆ど無い


「とにかく黒霧の侵入を防ぐ事に徹する!!」

「わかった」

「はい」

「解散じゃ」


 気を取り直しスザの号令後四人が立ち去った

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