地深の赤灰
鬱々とした古い建物に似合わない高テンションの榊は、相変わらずの態度で晦冥と対話している
「―――って訳なんだけど、ムリっしょ?」
「……」
背を向けていた晦冥だが、振り向くと榊とは正反対の超低テンションで尋ねた
「使ってみたいか?」
ニヤリと榊の口端が上がる
「晦冥様!! 私めにもお願いします!!」
会話をこっそり聞いていた灯は、晦冥の直線上(間に榊がいる為かなり距離あり)に仰々しく座り込み、敬愛の眼差しで見つめている
「………なんだ?」
とぼけた顔で灯を見ている榊を睨む
「使いすぎると消えるかもよ?」
「お前なんかに出し抜かれてたまるか!!」
(私は晦冥様の為なら何だってしてやる!!)
常に何を考えているか解らない榊に腹立たしさを覚える灯は、返事にも怒りが現れている
「ふーん」
「ならばお前達に、この力与えよう」
晦冥は紫珠の前に行くと、手を翳し始めた。
紫がかかった鈍い光が榊と灯に振りかかる
「存分に 発揮するといい―――」
カ カ ッ
建物の外にまで深い光が零れ出す。晦冥の側にある紫珠は抉り取られた窪みが二箇所、しかしすぐに球体へと戻った
(もうすぐだ……)
(もうすぐ、終焉が近づく)
薄い笑みを浮かべ修復している紫珠を愛おしげに見つめている。
先程の光で何事かとやって来た白湯は、重い垂れ幕の陰から胸元に手を握りしめ、辛そうな面持ちで晦冥と紫珠を眺めていた
染中央へ向けて道なき道を進んでいる五人。
それぞれ無言で歩いているが、沙智だけは挙動不審ぎみで、周りをキョロキョロしていた。
五百メートル程進んだだろうか、舞の眉が上がりイライラしだしている。我慢が出来なくなった舞は手をグーにし、上へ掲げると周りの鉱物達が生き物の様に動きだし、とある人物の頭上へスタンバイした
「いつまでついて来る気だあ―――――!!!」
「ギャ――――――――」
「ひぃ!」←沙
攻撃を受けた人物はかろうじて避けるが倒れこむ。
舞は近くまで行くと胸倉を掴み上げ揺すりだした
「周りうろちょろされると迷惑だって、何べん言ったら解るのよ!?」
「お…俺は…皆様のお手伝いを…陰で……」
「バレバレの手伝いなぞいらんわ!!!」
ずっと後をついて来ていたのは地深の里にいた赤灰だ。ブンブン頭を揺らされた様で目がぐるぐるしている
「彼のお陰で毛玉ならなくてすんだんじゃん。礼くらい言えば?」
「うるっさい!! 黙れ!」
咲耶が口添えするも聞く耳持たず
「最初に来るなって言ってたのはあんたじゃないか!! 咲耶ぁ!!!」
「危険だし当然の事言っただけ」
赤灰を掴みながら対象を咲耶に切り替え口論しだす
(あ…姉ゴがこんな近くに…)
焦点が定まった赤灰は前にいる舞を見ている
(俺は、幸せ者だぁ―――♥♥)
夢心地に入った赤灰は陶酔状態
「あたしらってより“あんた前提”みたいだし口出しすんのもねぇ…」
遠目から見ても赤灰の変わり様は舞に対してラブラブな為、咲耶は呆れている
「冗ー談じゃないわ!! 私には氷雪がいるのよ!! ねぇ!! 氷雪!!!~~~~って」
「ひせつ―――――! どこ――――――」
ハッとなった舞は急に掴んでいた服を放し氷雪に同意を求めようとしたが見当たらない。
危険を察知した氷雪は即どこかへ隠れていた
「先を急ぐんだ。早くまとめてくれないか」
「うーん…」
無関係を徹していた燐火が溜息し一言。
咲耶は額に手を添え考える。隣にいた沙智も何気に困っていた
「なら」
座り込んでいた赤灰に近寄る咲耶。赤灰の頬に優しく触れると伏せ目がちに笑みを浮かべる
「あたしが舞を忘れさせて あ・げ・る♥」
「咲耶!!」
「とか?」
沙智は驚き燐火は怒り出す
「冗ー談だって」
「冗談でもたちが悪いぞ!!」
「はいはい怒らない怒らない」
燐火の怒りを軽く流す。咲耶独特の花の香りが漂い、赤灰は動悸が早くなる
「いいからそこを離れろ!!」
いつまでも赤灰の頬をさわさわしていたので落ち着く所かどんどん怒りが増している。この様子を隠れた場所から氷雪は、難しい顔で窺っていた
(姉ゴもいいけど、咲耶の姉さんもいいな―――)
良い香りと近くにいる咲耶に酔ったか、赤灰はうっとりとした眼差しを咲耶に向け始めた
「ん?」
三人、様子が変わったことに気づく
「惚れっぽいのも程があるだろ―――――!!!」
ゲ シッ!
「キャー!」
赤灰の顔面に舞のヒールがモロに入る。そして恐怖に怯える沙智
「すっ…すいません! 俺は姉ゴだけです!」
ゲシ ゲシ ゲシ ゲシ
「何でそうなるのよ!!!」
ゲシ ゲシ ゲシ ゲシ ゲシ
「ぎゃあ!」
ゲシ ゲシ ゲシ ゲシ
舞の猛攻撃に喜んで耐えている赤灰達を外側の三人は大きく溜息を吐いて呆れていた
陽が落ちると辺りは漆黒の闇に包まれた。
五人は五角形の形を作り結界を張ると各々寝床を作り明日に備えて休みだす
「見回り行ってきます!!」
「…君もこっち入った方が」
赤灰は軽く敬礼した後、沙智が引き止めるも聞く前にダッシュで駆けて行った
「ほっときなさい。好きなようにやらせておけばいいのよ」
『行っちゃった…』と上げた手をそのままにしながら見送っていた沙智に、舞は機嫌が治まらない様で後ろから声をかけている
「あんたも早く休むのよ沙智! おやすみ!」
「うん…」
吐き捨てる様に言いながら舞はそそくさ寝床へ潜りこむ。気がかりではあったが、沙智も続いて休むことにした
赤灰は寝ずの番をする覚悟満々で、広範囲にわたりキョロキョロと警備を続けていた
(使いの皆様が就寝中は、俺がしっかり見張っておかねぇと…なんたって俺には“これ”がある!)
懐に手を突っ込むとゴソゴソ何かをしている
(例え襲われたって、切り抜け……!)
ズボンのポッケに手を入れニコニコしている男が真後ろに立っていることに気付く
「なあ 頼みがあるんだけど、あいつら一人か二人連れてきてくれない?」
フレンドリーな様子とは裏腹に赤灰の足元から根がはびこり絡め取っていく。
緊張で強張った赤灰は棒立ちになるが、体に巻き付いた根がボロボロと剥がれ消えていくと、即地面に体をすべり込ませて逃げて行った
「へえー」
ちょっとびっくりした榊だが、不敵な笑みを浮かべ楽しげ。己の身体から何やら怪しげなオーラを発すると、逃げて行った方向をじっと見つめている
「土なのに、やるじゃん」
赤灰はひたすら五人から距離を取り、木属(榊)の気を引こうと逃げていた。しかし赤灰の真下から根先が次々と襲いかかり遂には赤灰もろとも地上へ持ち上げられてしまう
「うわあああ!」
(なっ……何で効かねえんだい!?)
策があった赤灰だったが持ち上げられた事により焦りが生じる。絡まれた根が急に外され宙に浮いた形になると、重力に沿って地面に叩きつけられた
「ぐうっ…!」
「あいつらとやってみたかったけどまぁいいや」
「遊ぼーか♪」
榊は怪しく笑う。
赤灰の体に悪寒が走り青ざめる。“逃げなければこいつは危険だ”と分かっていても叩きつけられた時の痛みが走り思うように動けない結果、赤灰は簡単に捕まり弄ばれる事になる
「おっかしーなー? さっきは何で風化したんだろね?」
「……」
固定されている赤灰は意識が朦朧とし、時折咳き込むと赤い液体が吐き出されている。
榊は根の先を器用に操り頬をペシペシ叩いたりして意識があるのか確認する
「やっぱり続けるのはしんどいっしょ」
身体を纏っていた怪しい空気が一旦無くなった
ボロ ボロッ……どさっ
「ん?」
同時に赤灰を捕らえていた根がボロボロと崩れ落ち、赤灰は地面に俯せでうずくまる
「………」
今の出来事をじっと榊は見ていた
「おたく、何か持ってる?」
ほとんど無反応だった赤灰の体がビクと動く
(…これを渡す訳には)
「……う゛…」
「そんだけ消耗してたら逃げられないっしょ?」
逃げようとするが体はピクリとも動かず、苦痛で歪む赤灰の顔だけが見て取れた。
満面笑顔の榊は鋭利に尖った根の先を構え狙いを定める
「ま、消えてからゆっくり探すよ」
ガガ ズサッ ガキン……!
赤灰の前方で何かが衝突する鈍い音
「…やれやれ」
赤灰は恐る恐る閉じていた目を開けた。
榊の根ともう一つの根がぶつかり合い割れている。そして隣にはスラリとした白い足がある
「こんなに離れてちゃ探せないでしょ?」
「赤灰」
仕方ないなぁと言う感じの咲耶が見下ろしている。
赤灰は見上げて咲耶の顔を見ようとするが、目の前にある咲耶の生脚を見るのが精一杯だった
「姉さん!!」
ガシ!
「うわっ!!」
力を振り絞り赤灰は太ももにがっちりしがみ付く
「すんませんっ 俺…俺……!」
「わかったから離れて離れて」
安堵感と情けなさが混じった声で悔しがる赤灰。
宥めようにも掴まれてる部分が部分なだけに咲耶は半ば焦っている
「――――で、榊…あんた」
「よっ♪」
赤灰が足から離れたのを確認し、榊を見る。赤灰はそのまま崩れ落ちる様に気を失ってしまった
「面倒だし先にネタバレ」
榊は握り拳を作り自分の胸まで持ってくる
「おたく程じゃないけど拳分くらい貰ったっしょ」
常に笑みを絶やさない榊を咲耶は眉を顰めじっと見ている
(晦冥――――)
「で、試し戦りに来たんだけど、使い方覚えれば便利だねこれ?♪」
榊は“これ”についての感想を述べ、楽しげに話を続ける
(…どうする?)
「でもさー、いっつもこっからって時に邪魔するんだな」
(今ここで相殺するか―――…?)
「まぁ消えると楽しみ減っちまうしいいけどさ」
(いや…小さいのを叩くより本体が先だ)
「沙智!!」
「!」
潜んでいた沙智が現れると赤灰を抱え一気に駆けて行った
(今は逃げる――――!!)
「…いたんだ。相変わらず隠れるの上手いなぁあの土」
視界から二人が消える頃悠長に独り言を語る
「土と木か…物足んないけど咲耶いるしいっか」
少しの沈黙後再びケラケラと笑い出した
「咲耶、榊追いかけてきたら…」
「あんな奴無視! とにかく走るよ!」
「わかった」
赤灰の両腕をそれぞれ掴み引き摺りながら皆のいる場所へと走っている。榊が一番不利な沙智は不安と焦りが隠せない
「どーせまた一人…」
バシュ
「!!」
「キャア!」
前方に火が放たれ二人は怯む。暗闇の中赤々と燃える炎は一人の人物を浮き立たせた
「生憎だったな、咲耶」
「灯!!」
弓を射る体勢を崩さないまま不敵に灯は笑う
「えー、何であんたがいるんだあ?」
「言った筈だ! お前に出し抜かれる訳にはいかないと!」
追って来た榊が不機嫌な顔でとぼとぼ歩いてきた。
挟まれた咲耶達。沙智は前と後ろ交互に見返し、愕然としている
「……仲いいなお前ら」
「気っ色悪い事言うな!!!」
「……」
「こいつと組んだら燃えるっしょ」
冷静に突っ込む咲耶に各々否定。そんな二人を無視して赤灰の様子を窺う
「…赤灰は?」
「…ダメ……全然気付かない」
沙智は移動しながら回復をしていたが、ダメージが大きかったようで、昏々と眠りについていた
「移動できるくらい回復したら教えて」
「えっ…」
「あたしがお前らの相手をしてやる」
すっくと立つと咲耶は二人を睨みつけた。手加減無しで立ち向かおうとする気迫が感じられる
「咲耶!! 無理だよ! 相手は灯…」
「沙智は回復に専念して!」
沙智は咲耶を止めようとするが、一喝された。
灯は見下し感たっぷりに笑い出す
「この私に勝てるとでも思ってるのか! 今すぐ消滅してやる。行くぞ榊…」
「やる気あるのかお前!!!」
見ると榊は側の木の枝に座り込み、足をブラブラしながら休息していた
「―――なーんかさー」
眺めの良い特等席でケラケラと下の数人を見下ろしている
「二対一って趣味じゃないっしょ。逆ならいいけど」
榊には自分なりのモットーがあるらしい
「と言う事で今回は様子見、がんばって♪」
「この…っ、ドM男が」
榊を睨みキリキリと歯に力を入れている。腹立たしさが治まらないが咲耶に向くと構え出した
「お前の手を借りるまでもない!! 行くぞ咲耶!!」
攻撃の態勢をとった灯。
体中から翳りのある重いオーラを放ちだし、咲耶はハッとなる
(こいつもか――――!!)
「炭となり消えろ!!!」
バシュッ
火矢が放たれ咲耶に襲い掛かる。咲耶は身軽にこれを避ける
(さて…)
何本も射抜かれる火矢。咲耶は防戦一方でギリギリかわすのが精一杯に見えている。
沙智は赤灰の回復をしながら、泣きそうな顔で咲耶を見守っていた
(木は火に弱いが、咲耶は“フル”)
膝を胸の前へ寄せ、楽しげに榊は観戦している
(火は勝る上に少量だが力が加算されてる。この戦いは互角かそれとも咲耶が上か―――)
じりじりと追い詰められ、火矢先が右腕を掠める
「相変わらず逃げ足だけは速いな」
咲耶は手と足を地に着け前屈みになる。じわりと傷口から血が流れだし、息も乱れ始めた
(あたしが放った所で、一時的に効果はあってもすぐ吸収される…)
間合いを取り息を整えながら次の手を考える
(なら逃げ通して赤灰が回復するのを待つしか)
沙智達の様子を見ながら、煙と埃で視界が悪い場所での不利な戦い。次の火矢が来るのを身構えようとしていたが、灯の攻撃はそれではなく、方々に燃えていた炎から分裂した灯達が一気に咲耶に襲い掛かった。
逃げようとした咲耶だが足元がおぼつかず、バランスを崩してしまう
(しまっ…)
ボオッ
分裂した灯は、咲耶の腕や足、体にしがみ付き眩しい光となって炎を上げた
「咲耶!!!」
悲鳴混じりの沙智の声。灯の高笑いが空高く響いている
「あーはははは! 消えろ!! 消えてしまえ!!」
勢いが衰えない炎に咲耶は影も形も見当たらない。灯の狂喜に満ちた声が続く
「これですべては晦冥様の物―――…!?」
カッ
「!?」
炎の中心から丸い空間が生まれ、灯達は四方に飛び散ってしまう。空間の中心には咲耶が立ち、炎の損傷もなく無事でいた
(咲耶……!?)
沙智は咲耶を取り巻く大きな力に驚いている
「―――…なるほど。それが旺珠の力か」
分裂していた灯が一人になり前屈みに着地
スウッ
「!?」
次の手を打とうとした咲耶だったが、体が透き通り支える事が出来ず、トスンと尻もちをつき座り込んでしまう
「くく……容量不足で耐えられない様だな」
(勝てる――)
咲耶の有様を確認し、灯はほくそ笑んだ
(晦冥様―――)
最期をしめようと灯はありったけの炎を頭上に掲げ振り下ろそうとする
(あなたの望みは私が必ず――――……!)
「咲耶!!!」
バッシャアアァ
「!!?」
炎の塊が蒸気を上げ消えていく。ポタポタと水滴が咲耶に降り注ぎ、背後を見ると氷雪が立っていた
「氷雪…」
「……」
水滴が降り注ぐ中、立ちの姿勢で微動しているのは手のみ。ほとんど感情の変化が見られない氷雪は黙ったまま前方を見ている
「ちっ」
(良い所で―――)
眉間に皺を寄せ、悔しがる灯は氷雪を睨んだ
びくっ
「!?」
攻撃を続けようとした矢先、灯の体が痙攣を起こし咳き込みだす
「ぐ…げほっ……! げほっ…」
身体の負担が大きかったか、灯は口に手を当て苦しそうに地面に蹲る
「あーあ。言わんこっちゃない」
上で見ていた榊は仕方ないと地面に降り立ち視線先の氷雪を見るとおもむろに笑い出した
「よっ 氷っ雪君♪ 戻ったんだね、おめでと――――♪」
からかう様に楽しんでいる。対照的的に氷雪は静かに返答
「……よう。道化」
「……」
重く突き刺さる様な言葉に榊はニヤリと口端があがる
シュッパ
「うお!!」
鋭い刃物が榊に襲い掛かり、驚くが寸前でこれを避ける
シュパ! シュシュ! シュパパ
「なんだ、なんだあ?」
上からと下からと猛攻撃を軽くかわすと近くの大木に自身を同化させ、攻撃の主を見つけ出す
「…金のえーと……? おたくに何かしたっけ?」
きょとんとして舞を見る。伐る気満々の舞は両手を刃物に変えたまま鬼と化していた
「お前に無くても私にはある!! 覚悟しろ!!」
「ひょえ~おっかねえ。誰かさんみたい」
「~~~お前……」
大木を通して顔だけを外に出し灯をじーっと見ている。真っ青になり咳き込む灯は苦しさと怒りで顔が歪んでいた。
そんなやり取りの間、舞の陰からひっそりと榊の大木に触れる手が現れる
ボオッ
「ぐあ!」
「燐火!!」
「こいつは消してもいいだろう?」
大木が炎を上げ、榊は苦しみだす
「ギャアアアアア」
「まぁそうだけど…」
燐火に先手を取られた舞だが、消す事に少し戸惑いがある所を見ると実際に伐って消滅させようとは思っていなかったらしい
「………」
ケガした右腕に手を添え、咲耶は厳しい表情で押し黙りじっと榊を見ていた。
氷雪は咲耶の難しい顔に気付き目を向ける
悲鳴を上げながら赤々と燃える榊。大木が炭となりボロボロになる中、榊も同じ様に消えていくだろうと燐火達は思っていた
「……なんちって」
「!?」
バチッ
「何!?」
悲痛の叫びだった口元に笑みが零れた。炎を掻き消した榊は、楽しそうに体を捻らせ灯の後ろに着地
「大体分かったし今日はおいとまするっしょ♪ 結構楽しめたし」
満面の笑みで皆に手を振る。次の瞬間、灯と榊は風に包まれ行ってしまった
「またの――――♪」
「……」
「ちょっと…どうしてあれで元気な訳!?」
燐火と舞は信じられないと言った感じで呆然としている。
回復を続けていた沙智も今までの榊と灯を見て驚愕していた
(こ…これは…もしや“ひざまくら”!!?)
嵐が去った後やっと赤灰が目を覚まし、自分の置かれた状況を把握する
(…沙智さん! ずっと俺の手当てを…!?)
心配そうに周りを見ている沙智を下から見上げ、今までの沙智の優しさを思い出し実感
(姉ゴと姉さんもいいけど、沙智さんもいいな―――♥)
幸せそうにうっとり
「あ、気付いた…」
頬を染め夢見心地の赤灰を見て『?』となった沙智
ブチッ
「いい加減にしろ―――――!!! 大体誰のおかげでこうなったと思ってんだー!!」
バアシッ!
「キャ―――――」
「す…っ、すんませ―――――――ん」
舞の張り手が赤灰に命中。びっくりした沙智は怯えてしまった
「本当は」
この地を発とうとしている五人。空を見ると灰色がより濃くなっている。
赤灰はゴソゴソと懐から五つの袋を取り出し皆に渡した
「皆さんにこれをお渡しするつもりで追って来たんです」
「何よそれ?」
舞達が手にすると中身を確認している
「袋に入ってるので使用する時は取り出して下さい」
「ほぅ、確かに使い道がありそうだな」
燐火が感想を述べ懐にしまう。氷雪は中身を見なかったがまぁポケットに収めていた
「どうかお役に立ててください。そして必ず奉納を」
赤灰は深々と礼
「ご武運をお祈りします!!!」
ここから先は後を追うつもりもなく礼をしたまま五人を見送っていた
「……」
視界から見えなくなる頃、顔だけを上へ向け寂しそうに去った軌跡を辿っている
「――――ねぇ」
声に気付き横を向くと舞が腕組みしながら立っていた
「奉納が終わったら一回くらいは遊びに行ってもいいわよ。た・だ・し! ちゃんともてなしなさい!」
「わかったわね!」
「……は」
赤灰の顔が紅潮し涙目になる
「はいっ ちゃんと祝言の準備をして待ってます!!!」
「だからどーしてそうなるんだ―――――!!!」
ドカアン
「結構似合ってんじゃない? あの二人」
遠くからしばいてる音が聞こえ、咲耶はぼそっと呟いた
「聞こえてるぞ、咲耶あ!!!」
「ひぃ!」
呟きが舞まで届いた事に恐怖した沙智は震えている。
付き合ってられんとヤレヤレしている燐火。氷雪に至ってはほぼ無関心だ。
離れて大分距離があったが、しばらくは舞のしばき音が木霊の様に聞こえていた
―――騒動後の夜、咲耶のいる樹木の前に戸惑いながら沙智が立っている
「咲耶」
小さな声が部屋に響き、咲耶は沙智を中に招き入れた。
沙智は沈んだ表情を咲耶に向け、意を決し咲耶に問いただす
「…話して……くれるよね?」
「………」
「…では、榊の効き目が無かったのは紫珠の力を借りたと言う事なのか?」
赤灰と別れ一日経つ頃、榊達の無敵ぶりについての説明を咲耶から聞く
「じゃ、私達も同じ様に借りなきゃ対等に戦えないわよ!?」
説明を受けて主に燐火と舞が反応を示す
「灯を見てたならわかるけど、使った後の反動が大きすぎるし消滅しかねない」
先頭を歩いていた咲耶が進みながら紫珠についての危険性を語る
「そもそも笙粋様が許可しないよ」
「諸刃の剣か………」
「笙粋様と連絡さえできればぁ~、ぎぃ~~~」
溜息混じりの燐火はやむなしと諦め口調、舞は悔しそうに拳を作りキリキリしていた
「私達には彼から貰った“コレ”があるし、きっとなんとかなるよ…!」
燐火達の側をテクテク歩く沙智が二人に振り向き“コレ”を見せて不安を払拭しようと心がける。が、舞が訝しげにコレを見て顔を曇らせた
「沙智…随分とポジねぇ。あいつから貰った物で大丈夫か怪しいわよ?」
言われて動揺した沙智は、話題を変えようと前方を見て明るい顔になった
「えーと…あっ、ほら見えて来たよ“染中央”」
挙動不審気味の沙智は咲耶の元へ駆け寄り手を掴むと急かしながら満面の笑顔
「村の服もそろってるし、早く着替えたいな。行こっ 咲耶」
「あ…うん」
小さくなる沙智達を眺めている舞達
「…沙智、何か変じゃない?」
「目的地が近いんだ。緊張してるんだろ」
「そんなもん?」
「……」
二人の会話を一歩後ろで聞いていた氷雪はぼんやりと沙智、咲耶が染中央に入っていくのを眺めていた。
正門まで来た頃、舞が怪しいそぶりを見せたのを皮切りに氷雪は瞬移で街の中へと消えていく
「なら私は氷雪と―――♥」
振り向いた時には氷雪はいなかった




