始まりは学校から
昔から大なり小なりの桜を見る度「桜に関連する物語を作りたいな」と言う思いがありました。
ただそれだけなので、話がどんどんずれていくのを止められず、完成したしまぁいっか的な具合で自己満足した作品です。
文章が下手、今風で無いイラストなのは置いといて、途中下車せずに完結させる事に意味があると自分では思っております。
この自己満足にお付き合い頂ける貴重な皆様に感謝です。
薄桃色の山々に囲まれた三重塔、数箇所で流れる滝は霧となり桜の香りをより深く漂わせている
(これが―――
最期――…)
頭らか衣を纏った女性が外の様子を窺い、柵の側へ行く。
両手を顔の近くに持ってくると『フゥ』と一息外界に吹きかけた
(咲耶―――……)
とある学校。廊下には『2-2』と書かれたプレート。
下の壁には ”ひせつさまF.C(ファンクラブ)申し込みは町田まで♪“ と大きなポスターが貼ってある。
教室では元気よく自己紹介する女生徒がいた
「幹 咲耶」
右手は腰、左手は親指を立てたげんこつを前に突き出しポーズをとる
「好きな事 体を動かす――以上」
ざっくりと挨拶した咲耶は、何かに気づく
「君の席は窓際―……!?」
教師が席を指定する前に咲耶は生徒を押しのけ座り込む
「あたしここにきめましたー」
『ハイハーイ』と右手をあげバンバン机を叩く咲耶。
押されて床に座っている男子生徒を見て
「いいよね――――ねぇ!!!」
「…………うん」
咲耶に圧倒され男子生徒は小さく頷く。教師も 『……そう』 と納得しそれ以上は突っ込まなかった
咲耶が座る筈だった席へ荷物を持って移動する男子生徒。その間に授業が開始される。
咲耶は右隣に座る生徒に話しかけた
「名前――何て言うの?」
問われた生徒は頬杖をついたまま静かに咲耶の方を向く
「…北狛 氷雪」
整った容姿に少し癖のある髪、F.Cの対象はこの男子生徒らしい。
氷雪はそっけなく答えると黒板に向き直るが咲耶は構わず話し続ける
「氷雪!! 長い付き合いになると思うの、ヨロシク!!」
「…………」
咲耶と氷雪の後ろに座っている生徒がじっと二人を見ている
「……」
「黙ってるのも嫌だから言っちゃうけどさ。あたし」
早速教師が一文を読めと咲耶を指名するが、全く聞いていない
「一目ぼれしちゃった♥ 氷雪に♥♥」
『イヤン』と言う声を発し、両手で顔を隠す様に添え頬を赤くしながら発言。
氷雪は頬杖をついたまま目を伏せ無言。遠くから教師のか細い声が聞こえる
「……幹さん…授業中…」
「?」
見ると周りの生徒が咲耶を驚きの目で見ていた
「私的な事は後でしなさい…」
静かだった教室が一気に笑いの声で覆われる。咲耶は焦りながら立ち上がり教科書をペラペラめくった
「はいはい…えーと」
〈………126P〉
ボソッと読むべき箇所を教える氷雪
「…むつは…? せ…せんどりで、あしで」
〈ちどり〉
「ちどりでみちなか?」
咲耶の読めなさっぷりにさらに笑いが大きくなる。その中で笑いもせずムッとした顔の女子生徒が数名いた
〈…どうちゅう……〉
「どうちゅうについて」
「……結構です」
教師はもういいよと咲耶の読みを止めさせた
放課後。学校の周りに植樹されたモコモコな桜達が下校生徒を出迎えている。
咲耶も靴を履き替え、帰ろうとしていた
「――随分目立ってくれちゃってるじゃないの」
四人の女子生徒に囲まれる。同じクラスの女子だったが咲耶はきっと誰だかも把握してないだろう
一応紹介すると
左から
武田(髪が肩まであり一般的な女子体型)
町田(天パの髪質で細身。F.Cのまとめ役)
会田(ぽっちゃりした黒髪。背は小さめ)
長田(カチューシャ装備、モデル体型。咲耶の後ろの席)
生徒達はこの四人を“4田(フォーデンズ)”と呼んでいる。まぁどうでもいい事だが
「新入り(編入生)だからって大目に見てやろうと思ってたけどちょっと派手じゃない? あんた」
取り囲まれてる様子を興味深げに見ている下校生徒達。
気にせずに町田は続ける
「一つ教えてあげる。氷雪様に話しかける時は『F.C』を通してもらわないといけないルールなのよねぇ」
上から目線の町田は手を顎に持っていき笑う
「おわかり? 咲耶さん」
「って こらぁ――――!」
咲耶は軽い足取りで正門を目指し、てってってと走っていた
「人の話聞かないなんて いい度胸してんじゃない!!」
咲耶の腕をガシッと掴み引き戻そうとする
――― 一瞬 空気が静まり返った
ブアッ
「キャアアアア」
咲耶を中心に突風が四人に吹き上げる。飛ばされるほどではなかったが、目にゴミが入ったり、しゃがみ込んだり、それぞれが風に遊ばれ放題。もちろんスカートも捲れ放題だ。
風と戯れた花びらや葉が地面に落ち着く
「あたし」
ふわりと一歩後ろへ咲耶はジャンプする。腰まである薄茶色の髪が収まりつつある微風に乗って楽しげだ
「人の指図はうけない 氷雪に話したい時は話す。また明日♥」
四人に笑いかけ、花片が舞う中をてってってと帰っていった。
周りにいた見物人は咲耶が見えなくなるまでボーッとし暫く眺めていた。中には『綺麗…』と呆けた女子生徒も見受けられる
「氷雪様を呼び捨てにして…」
「何なのあの女」
しばらく茫然としてた四人
「…氷雪様が相手にするとは思えないけど」
ムッとしながら咲耶が去った後を見ている
「幹 咲耶………
……覚えとくのね」
「……」
校舎では咲耶達の様子を伺う人物がいた
「わ――――――」
遊歩道に並んで整列している満開中の桜、桜、桜。
咲耶は目をキラキラさせ桜並木を軽やかに歩く
「いいみきっぷり♥」
立派に育った幹をパンパン叩き大喜び
遅れた頃、氷雪は遊歩道を歩いていた。中間地点にさしかかると木の根元に何かの物体があるのを見つける。
近づいて見ると、大口を開けた咲耶が大の字になり気持ちよさそうに寝ていた
立ちすくむ氷雪
カー カー
「…………」
住処に帰宅中の数匹のカラスが声を掛け合い飛んで行き、間もなく陽が落ちる事を伝えている
すっかり暗くなった頃目覚める咲耶。顔には花びらがへばり付いてる
「……起きたか」
声に気づいて隣を見ると、氷雪が片足に肘をあて座っていた。
咲耶は両手を地につけ上半身を起こす
「氷雪?」
隣にいる氷雪に少々?らしい
「なんで」
「……この辺はそんなに安全じゃないからな」
困った様に目を伏せる。見てしまった以上ほって置く訳には行かなかった様だ
「…氷雪……心配してくれたんだ」
両手を胸の前で組み顔を赤らめ感激している
「うれし―――!!」
スカッ
勢いづいて氷雪にしがみつこうとしたが、氷雪が立ち上がった為空振りに終わった
「家…どこだ」
「え? 泊まってってくれるの?」
咲耶も立ち上がり後を追う
「…送る」
帰りの道中、咲耶の質問攻めに合う
「氷雪って何処に住んでるの?」
「教えない」
「好きな食べ物は?」
「教えない」
「じゃ――――…」
「以下同文」
住宅街の路地を歩く二人。街灯も少なめでひっそりしている
「ケチ あたしと氷雪の仲じゃないの!!」
「……」
咲耶は返答してくれない氷雪にぶーたれてるが、そんな事はお構いなしでスタスタと目的地を目指す氷雪であった。
だが、咲耶はひるまずに質問しようとする
「そーだ、これは…」
「あのさ…」
「うるさいのは嫌いだけど……」
冷ややかに横目で咲耶を見る。咲耶は一旦お喋りを中断し『ほぇ?』という顔になるが、即座に氷雪の真横に行く
「なら 好きになって♥」
「………」
自分を指差し、笑顔で話す咲耶に呆気にとられる氷雪。二人の数十メートル後ろでは徐行中の車がいたが、咲耶の声が大きくさっぱり気づかない
「あたしの性格治んないもん。氷雪が好きになれば丸くおさまんのよ」
突如、車がスピードを上げた
「で めでたしめでたしって」
「…お前ってわがままだろ」
パアアァ
クラクションでハッとなる
「幹!!」
「!」
ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ
「!?」
咲耶の腕を掴み、塀側に引っ張ろうとした。それと同時に車のフロントをめがけて何かの衝撃音が響く。
フロントガラスが木の葉に埋め尽くされヒビがつき視界が途絶える
『ちっ』
舌打ちをした運転手はハンドルをきり、タイヤと地面の摩擦音を鳴らしながら猛スピードで二人の前から去っていった
ヴロロロロ…
排気臭の残る中、二人は車が去った後を見つめている
「…なーに? いまの」
引っ張られた時にバランスを崩した咲耶は静かになった道路にしゃがみ込んでいた
「氷雪、ケガない!?」
ハッとなり氷雪を心配そうに見上げる
「俺より……」
去った後を見てた氷雪が視線を落とすと、異様な光景が視界に入り言葉を失う。
ひらひらと風に乗って落ちてくる木の葉、それが山の様に積み重なり咲耶の周りをドーナツ状に囲んでいた。
よく見ると氷雪周辺にも青葉だと言うのにひらひらと雪の様に降り注いでいる
「氷雪……?」
驚いてこちらを見ている氷雪を不思議そうに見る咲耶。氷雪は声を掛けられ我に返る
「……立てるか」
「うん♥」
復活の早い咲耶はついさっきの出来事を忘れた様だ
「じゃ ご飯食べてって―♥」
「……」
再びピーチクパーチク語り攻めが襲い掛かるが、氷雪はその様子を訝しげに伺っている
(幹 咲耶―――)
(こいつ 一体―――――……)