魔法を使ってやりたい放題(予定)
なんの前触れもなく、男の前に魔法使いが現れた。
「どうも。魔法使いです」
「マジか」
本人がそう言うのだからそうなのだろう。
男は深く考えず魔法使いの存在を信じることにした。
「なんの魔法が使えるんだ?」
「そりゃあなた、思うがままだよ」
男の問いに魔法使いは得意気に答え、手に持つステッキを構えた。
「例えば空を飛ぶ魔法」
魔法使いは宙に浮き、空を軽々舞っていた。
「例えば金を生み出す魔法」
魔法使いは着地し、空間から大量の純金をあれよあれよという間に生み出した。
「例えば姿を変える魔法」
魔法使いは杖を回すと、獣、赤ん坊、化け物、老人と自由自在に姿を変えた。
最終的に元の姿に戻ると、魔法使いは誇らしげに聞いてきた。
「どうよ?」
「とんでもなく凄いな!」
ありのままを伝えた男に、魔法使いは満足そうな表情をした。
「そんなあなたに超特別。この魔法のステッキあげちゃいます」
「マジか!!」
魔法のステッキを手にした男は、早速魔法を使いたくてうずうずしていた。
「どうすれば魔法を使えるんだ?」
「簡単さ。杖を振って使いたい魔法の内容を声に出せばいい」
「ただし」と付け加え、魔法使いは重い声で続けた。
「一回につき一年。魔法を使う際、先にあなたの寿命が一年消費されるからね」
相応のリスクに対して男は息を呑み、魔法を使うことを一瞬躊躇った。
だが、一瞬だけだった。
「寿命を消費すれば、さっきみたいにどんな魔法でも使えるんだよな?」
「もちろんさ。魔力がない代わりに寿命で代用してるだけだし」
男は決意し、早速魔法を使うべくステッキを構えた。
「俺の寿命を五百年伸ばしてくれ!」
唱えた瞬間、男は倒れた。
「……あれ? おーい、どうしたの」
突然の事態に少なからず驚いた魔法使い。男に声をかけてもつっついてみても、うつ伏せになったまま動かない。
「ああ、そっか」
やがて納得し、寿命が伸びる前に死んだ男からステッキを取り返した。
「あなた、残りの寿命が一年もなかったんだね」