ラブイズザバトルフィールド
少し前に書いたものになります
三点リーダが・・・なのは、まだ小説を書くことに慣れていなかったのでご了承の上お読みください
「男尊女卑」なんて言葉が、使われないどころか化石になりかけている現在。というより、女性が男性を遥かに凌ぐパゥワ―を手に入れちまったこの時代に、男として生まれてしまった以外に何を後悔すればいいのだろうか?
「バラララララ!」
サブマシンガンが咆哮を上げて、壁に無数の穴を開ける。横では神父がもう何度目か分からない聖書の一説とやらを口にし、神様への祈りを捧げている。
まったく・・・なんでこんなことになったのか・・・
とにかく俺は今日、女性の人生で一番華やかでならなくてはならないはずの日に、こうして命を狙われている・・・
・・・相手は誰かって?答えたくも無いね!
イエス・キリストをモチーフにして作られたであろうステンドグラスの前で、大分お年を召された神父さまが何やらゴニョゴニョと話している。ただでさえ聞き取るのが難しいその声は震えていて、余計に何を言っているのか分からない。神父の、言葉が止むと神父の顔が俺の横にいる女性へと向いた。女性は神父の顔を見ながら、心底幸せそうな顔で、
「はい!誓います!」
と大きな声で言った・・・ちょっと待て!今の聞き取れてたのかお前?
神父はまた、ゴニョゴニョと呪文でも唱えるような声で何かを言うと、今度は心底突っ込みたそうな顔をしていた俺を、心底気の毒そうな顔で見た。
「はい・・・誓いません・・・」
俺は答える。
・・・あ〜、君たちの言いたい事は分かる。痛いほど分かる。でももう少し待っていただければ、俺の発言の意味は分かっていただけると思う・・・多分だけどな。
「では、これより・・・」
神父の声が先程と打って変わって明瞭なものとなる。もうすぐ自分に課せられた悲惨な役割が終わるのがよっぽど嬉しいのだろう。
「契約に基づき、誓いの儀式を執り行う!」
・・・そこはキスじゃ無いのかって?ああ、本当ならそうなるところだ・・・本当ならな。問題は・・・俺は一切誓ってないということ。俺の横にいる女との・・・愛をな!
そのまま腕も組まず、バージンロードを二人で歩き、入り口のあたりまできたところで・・・女が、手に持っていたブーケを宙に投げる・・・ほら、そこの君、ボーっとしてると・・・死んじゃうぞ!
俺は胸ポケットからサングラスを取り出して掛ける。それと同時に落ちてきたブーケが・・・「敵」の目を眩ませるべく閃光を放つ!
何と準備のいいことか、俺と花嫁の後ろで俺達の様子を見守っていた筈のギャラリーの方々は既に教会の外へと移動している。流石に四度目ともなると慣れてらっしゃるわ。
それにしても閃光手榴弾とは・・・段々派手になってきてるね・・・ってうおっ!
呟くと同時に俺の前髪が二束ほど舞った。サングラスが真ん中でゆ〜っくりと二つに分かれる。目の前には、段々と弱まる閃光の中で先程と変わらぬ満面の笑みを浮かべている「花嫁」その手には衣装に似つかわしく無さ過ぎる、刃渡り二十センチ程のアーミーナイフが握られている・・・うわ〜、ヤル気満々だね、別の意味で。
「今日こそあなたに誓わせて見せるんだからね〜」
ナイフを俺のほうに突き出して花嫁が言う。それを俺は背中越しに聞く・・・つまり逃げ出す・・・
さて、ここでよい子のみんなの「これは何なのか?」という疑問に分かりやすくお答えしておこう。ちなみに俺は今、逃げ遅れて、おしっこちびりかけていた神父さんと一緒に防弾性の教壇の下に隠れているところだ!
簡単に言うと、今現在行われているこれは、「結婚式」・・・従来の結婚式と何が決定的に違うのかと言うと、まずお互いが愛し合っているわけではないというところだろう。
事の発端は数年前、この国で始めて誕生した女性大統領の就任と同時に宣言されたトンでもない法律の施行。それは・・・
『MMB法』
『MMB』というのは、「メンズ・マリッジ・ブルー」の略。その内容とは、
「男性による婚約の拒否を禁止する」
というもの。うん、とっても分かりやすいよね?ネーミングセンスを疑うが・・・
つまり、ヤローは女性様にプロポーズかまされちゃったら、相手がどんな人間でも、例えば・・・あくまで例えばの話しだが、
「武器マニアで、戦争マニアで、腕力は男勝りで・・・でもメチャクチャ可愛い女の子」
だとしても大人しく受け入れて結婚しとけコンチクショー・・・ってことなのだ。最後の方にすこ〜しだけ主観が混じってしまった気がするがお分かりいただけただろうか?この法律によって、「結婚は人生の墓場」なんて言った昔の人は凄いと思ってしまった奴は何人いるんだろうね?
まぁこんなアホらしい法律があっけなく通ってしまったのにも、時代背景があるわけで・・・
というのも今現在、女性の数は男性の約四分の一。普通、資本主義社会においてのマイノリティというのは絶対的弱者であるのが常識だが、それが「男女」となれば話しは別なのだ。
女性がその数を減らし始めた二十年ほど前から、彼女達はその数と反比例するように権力を高めていき、今では、女尊男卑といっても過言では無い社会が出来上がってしまった・・・
各界の有力者は女性に成り代わり、町を歩けば道路の反対側は絶対女性のもの。電車に乗れば女性専用車両ならぬ、「男性専用車両」にすし詰めになって通勤する男性達。給料も当然のように女性が上で、女性が男性に当たり前の様に食事を奢る風景というのも今では珍しくは無い・・・
まぁ言ってみれば、今の時代における「男女」の関係と言うのは女王蜂と働きアリのそれに酷似しているだろう・・・あれ、自分で言ってて悲しくなってきた・・・
さて、話しを戻そう。というわけで、そんな女性本位の時代に来ての、初の女性大統領誕生と『MMB法』の施行というわけなのだ。考え方としては、「稀有である女性からのプロポーズを有象無象に過ぎない男性が断るなど、言語道断!」なのだそうで、フェミニズムも真っ青通り越して真紫?あれチアノーゼ起こしてませんか?みたいな感じだ。
ちなみに、ホンの少しではあるが男性を救済する項目もある。法律書の最後に、虫眼鏡でもないと見えないぐらいの小さな文字で、
「万が一、万が一にでも男性が女性からの求婚を拒否する場合、誓いの時点で拒否の意思を「花嫁」、並びに立会人となる神父に伝えること。しかし、その場合はその後に行われる「儀式」において女性が取り決めた規約に従ってゲームを行い、勝った場合のみ婚約の破棄を許可する」
・・・と書いてある。要するに、結婚したくなかったら女性が持ちかけるゲームに勝ちなさいってことだ。こう言うとそんな深刻に考えることは無いかもしれないが、そんなに簡単なものではない。
法律書に記してあるとおり、ゲームの規約は全て「女性が決める」ことが出来るのだ。例えば、「サッカーで勝負しましょう。正しあなたは一人、私は十一人でね(はぁと)」なんてことも可能なわけだ。おまけに「女性のより良い結婚のために」という名目で、女性には国から「助成金」ならぬ、「女性金」まで出される始末。結論を言ってしまえば、やるだけ無駄!勝つことなんてなんて幼稚園児がフェルマーの最終定理をアインシュタインの声色で完璧に説明してくれちゃうくらいあり得ないことなのですよ・・・
・・・と、こんだけ丁寧かつ分かりやすく良い子のみんなに説明し終えたところで、凶弾で教壇に穴が(上手い事言っちゃった)開いてしまったので一旦逃げることにします。生きていたらまた後で〜。あっ、神父さん上手く逃げてね〜。
俺は転がるように教壇から飛び出すと、姿勢を低く保ったまま、一気に壁のドアまで走り抜ける。
「バララララララララっ!」
その後を追うように、花嫁が手にしたサブマシンガンの銃弾が壁に弾痕の線を作っていく。
ドアを開くと、水泳の飛び込みの様に頭から部屋へと入る俺。しかし、俺が弾丸の当たらない位置にいるにも関わらずサブマシンガンの音は鳴り止まない。開いたドアの先の、撃たれ続けている壁を見ると、
・・・女子?
「女子」と弾痕で書いてある・・・何のことやら?と思っていたのもつかの間、弾痕が新たな文字を浮かび上がらせた・・・それを見て俺は呆然とする。浮かび上がってきたのは、ひらがなの「き」と「!」というマーク・・・つまり、
「好き!」
と、弾痕で文字が描かれたわけだ・・・
恐らくだが世界一で一番過激な求愛行動に眩暈を起こさざるを得ないね。昔、学生の時に、「好きすぎて相手のことを殺してしまう女性」というストーリーの映画を見た親友が、
『殺されるくらい愛されてみてえな〜』
とかほざいていたが、今の俺と同じ状況に置かれても同じことが言えるのか試してやりたいぜ!
ちなみにだがそいつは、ついこの間とーっても恰幅のいい、仇名を付けるなら「フォアグラ」とでも言うような女性と、有無も言わせてもらえないまま結婚いたしました・・・ご冥福を心よりお祈りいたします・・・
冗談はこのぐらいにしておこう。というのも、俺がいる部屋の開いていたドアがたった今ショットガンによって吹き飛ばされたからです。
俺は吹き飛ばされたドアとは別のドアから廊下へと出る。後ろからは耳を塞いでも聞こえてきそうな、楽しそうな笑い声。
この状況でそんなものをまともに聞いていると頭がおかしくなりそうだ。そうだ!ここで、逃げながら今回彼女が・・・えっ、彼女って誰か?だから「花嫁」だっつってんだろうが!
ゴホンっ・・・ともかく、今回「花嫁」が持ちかけてきたゲームについて説明しておこう。
ゲーム自体は所謂「鬼ごっこ」というやつだ。当然のことながら普通の鬼ごっこじゃない。ルールは三十分間俺が逃げ切れば勝ち=婚約破棄。「花嫁」が俺を捕まえるか、もしくは俺に「永遠の愛を誓う」と言わせれば負け=不幸せな結婚生活。ここまでは一応普通。問題はこの後、
「俺」―丸腰。ご丁寧にも式の前にボディチェック済み。サングラスは武器にはならないと判断されたので携帯を許された。ゲームの開催地である教会にあるものは使用しても良い(ほぼ無いに等しい・・・)
「花嫁」―武器の使用が可、おまけに使用できる武器に制限無し!強いて言えば彼女の「良心」くらい・・・
「ドカーーーーーンっ!」
・・・いや、俺がバカだった・・・あいつに「良心」なんて存在しない・・・
てか、何て物使うんだアイツ!俺がさっきいた部屋で手榴弾使いやがった!俺がもしあのまま残っていたら木っ端微塵だぞ!・・・ていうか、あのドレスのどこにそんな武装を隠し持っていたんだ?
と、疑問を矢継ぎ早に叫んでみたところで状況は変わるわけも無く、俺はただただ逃げるしか能が無いのでした・・・
あっ、ちなみにだが、女性が提示してきたルールには最後の項目がある。それはまぁ・・・俺がこの後もうちょっと生きていられたらお話したい・・・
しばらく走ると、ドアと階段を発見。ドアは恐らく教会に勤める方々の私室だろう。恐らく行き止まり。さっきの様に、室内に別のところへ出られるドアでもあれば話しは別だが、もし無かった場合、「花嫁」との距離を考えると出てきた所を・・・
「バンっ!」
で、デッドエンド・・・
あれ?死んだら結婚しなくても・・・ってヲ〜イ!何考えてんの俺?今、一瞬だけど「それもありかな?」とか思った自分が怖い・・・
そんな馬鹿な一人コントをやっている間に「花嫁」さんの「コツコツ」小気味良い足音が廊下の向こうから響いてくる。とりあえず選択肢は一つ!
『階段を上がる』
とにかく全速力で階段を駆け上がる俺。下からは相変わらず、楽しそうな笑い声。階段を上りきり二階に付いたところで外から、
『十分が経過しました、残り時間二十分となります』
という拡声器か何かからの声が聞こえて来た。声の主はどうやら神父さんのようで、無事に逃げ切れたことを安心していると・・・
「まだ二十分もあるわよ〜、そろそろ降参したら〜?」
という花嫁の声が聞こえてきた。
やなこった!お前と結婚するくらいならアルパカと同棲するほうがマシだ!
・・・と言ってやりたいが、後が怖いので言わないでおく。これは俺が弱虫なわけじゃ
ないんだからな!お前らも俺と同じ立場だったら絶対同じことするはずだ!
二階はどうやらコの字型に廊下が伸びているらしく、二十メートルほど先に曲がり角が見える。壁面に等間隔でドアがあることから、部屋がいくつかあるのが分かる。ドアの感覚で考えると部屋は四つだろうか?あいつの性格からして残り時間のある今なら、部屋を一つ一つ探していくだろうな・・・
え〜っと、一つの部屋を捜索するのに・・・そうだなあいつなら二分半といったところかな?次の部屋への移動も含めて多めに見積もっても三分・・・部屋は四部屋だから合計で十二分稼げる・・・わ〜お、まだ八分も残ってますよ奥さん!
え〜っと、つまり二階を無視して三階に駆け上がったとして、あいつが上がってくるまでに、階段上がる時間も含めて・・・十五分くらい?そうすると残りが五分・・・この建物は三階だから・・・三階で残りの五分をやり過ごせば・・・いやでも、もし直接三階に上がってこられたら・・・
そんなことを考えているうちに、「花嫁」の足音が階下から近づいてくる。迷っている暇はない!俺は・・・
「チャチャチャチャーン・・・チャチャチャチャーン・・・チャチャチャチャン・・・チャチャチャチャン・・・」
誰でも一度は耳にしたことがあるであろうメロディを口ずさみながら、両手にはベレッタを携え、「花嫁」は階段をゆっくりと上がってきた。彼女が口ずさんでいるのは言わずと知れた、メンデルスゾーン作曲の「結婚行進曲」・・・音程もリズムもメチャクチャではあるが、楽しそうな雰囲気だけは伝わってくる。
「フンフーンフン、フフンフンフンフーンフンフンフン・・・ねぇ〜、どこに隠れてるの〜?怒らないから出ておいで〜」
・・・・・・・・・・・・・・・・
当然のことだが返事は無い。
「も〜、恥ずかしがり屋さんなんだから〜」
そう言うと、誰もいない廊下に向かってベレッタを乱射した。弾が切れるまで撃ちつくすとどこから取り出したのか、サブカートリッジを装填する。
「よ〜し、こっちから探しに行っちゃうからね〜」
カツカツと音を立て廊下を進み、一つ目のドアに近づく。ベレッタを持ったままドアノブを回すが・・・
「ガチャっ、ガチャガチャっ」
開かない。
「フフフ、分かり安すぎだぞ〜」
「花嫁」はベレッタを構えると、ドアノブに向かって数発撃った後、ハイヒールを履いた美しい足でドアを蹴破った。
しかし、隠れているのだろう、男の姿は無い。ちなみに中は八畳くらいで、奥にカーテンの閉められた窓。家具はベッドにクローゼット、机にランプぐらいしか置いてはおらず、隠れるような場所といえばベッドの下かクローゼットの中、カーテンの裏くらいしかない・・・まぁ前二つはいいとして、カーテンの裏に隠れてやり過ごそうとする馬鹿はいないであろうが・・・
「フフフフ・・・どこかな〜?」
「花嫁」はベレッタをベッドに向けると、
「ダンっ!ダンっ!ダンっ!」
まったく躊躇することなく数発撃つ。撃った後、ベッドの下を除いてみるが死体は転がっていない。どうやら「花嫁」には、先に確認するという発想は無いようである・・・
「ふ〜む、いませんね~」
少しばかり残念そうな顔をする「花嫁」。しかしすぐに気を取り直すと、
「じゃあ、こっちかな~?」
そう言って今度はクローゼットに向けて弾丸をお見舞いする。クローゼットを開けてみると・・・数個穴が開いているだけだった・・・
「可笑しいですね〜?」
残念そうにしながらも、どこか楽しげな様子の「花嫁」。その顔には満面の笑みが浮かんでいる。花嫁は、一応他の部分も簡単に捜索した後、次の部屋へと向かった。二部屋目のドアノブを掴むと、先程の部屋と同じようにドアの鍵が閉まっている。しかし、「花嫁」は特に気にする様子も無く同じようにドアノブを打ち抜いて中へ進入すると、ベッドとクローゼットを撃ちまくり、簡単な捜索をして部屋を出る。二部屋目と三部屋目を調べ終えると、外から、先程と同様に、
『二十分が経過しました〜、残り十分となりま〜す』
神父の元気そうな声が教会の中に響く。
「まだ、十分もあるのか〜」
「花嫁」は嬉しそうに呟くと最後の部屋へ・・・
四部屋目のドアノブを回してみると、
「ガチャ・・・」
普通に開いた。少しばかり驚きを顔に」浮かべる「花嫁」。しかし、またすぐに気を取り直して、部屋の中へと入る。中は他の三部屋と特に変わった様子はない。ここでも同じようにベッドに鉛を打ち込み、下を確認する。次にクローゼットを・・・
そこで「花嫁」は僅かに身構えた。言っておくが恐れをなしたのではない、間違いなくない(断言)
クローゼットの中に、僅かに「何か」の気配を感じたからだ。おまけにクローゼットの通気用の隙間から、何やら「白い布」らしきものも見える。
「花嫁」は両脇に装着していたホルスターにベレッタをしまうと、顔には堪えきれないほどの笑みを浮かべながら、ジリジリとクローゼットに近づき、取っ手に手を掛け・・・
「つっかま〜えた!」
大声と共に、勢いよくクローゼットの戸を開いた・・・
次の瞬間「花嫁」はビリー・ザ・キッドも逃げ出すような、早業でホルスターから銃を抜き、残っていたありったけの銃弾を先程見えた「白い布」にぶち込んだ・・・
中にはスーツの背広・・・・だった布の切れ端がぶら下がっていた。よく見ると(ホントに良く見ないと分からないのだが)所々黒いインクの様な物が付いていたことが分かる。
持っていたサブカートリッジも含めて数十発といったところだろうか?全弾撃ちつくした後、「花嫁」は無言で部屋を出ると・・・肩越しにピンを抜いた手榴弾を投げ込んだ。数秒のタイムラグの後、それが部屋の中を跡形も無く焼き払ったのを爆音で確認した後・・・
「・・・・・・・・・・殺す」
そう・・・まるで親を殺した憎き敵にでも向けるかのように殺意をもって呟いた・・・
「カツカツ」と、ヒールで音を奏でながら三階へと歩く「花嫁」の手には、またしてもどこから取り出したのか・・・?今度は対戦車用ロケットランチャーが握られていた・・・
・・・・・・あれ?なんか涙が出てきた・・・あっ、そっか埃が目に入ったからだよな?別にあいつのことが怖くて涙が出たわけじゃないよな?
自分に必死に言い聞かせるけど震えが・・・・ととととととととととととと止まらないいいいいいいいいいいいいっ!
情けないことだが、自分の起こした行動に後悔してます・・・ええ・・・ちょっとやりすぎちゃった、テヘ・・・精一杯空元気を出すけどため息しか出ない・・・
さて、俺が今どこにいるのかと言うと・・・なんと、一部屋目のクローゼットの中です。
なんで死んでないのか?なんて野暮なことは聞かないでくれ。簡単な話しだ・・・とはえ、かなり賭けに近かったのも事実だけどな・・・あー・・・怖かった・・・
あいつが二階に上がってくる直前、俺はとりあえず、一つ目の部屋に入り鍵をかけた。もちろん時間稼ぎをするためなんかじゃない。あいつを少しでも迷わせるためだ。
鍵をかけた後、俺はすぐにカーテンを捲り、観音開きの窓を開けた。左右を確認すると一メートル程横に、「隣の部屋の窓」が見えた・・・勘の良い人ならもおうお分かりだろうか?
俺は、窓伝いに隣の部屋に移ったのだ!
そんなことが可能なのか?なんて思う方もいるかもしれないがそれが可能なのですよ!
ここで重要なのは、窓が中ではなく外に向かって開くタイプの物であったこと。これに尽きる!
もう分かったでしょ?
外に向かって開いた窓にしがみついて隣の窓の近くまで移動。手を伸ばして隣の部屋の窓を開けて、そこに移る。そこからさらに隣の部屋に入ると、中から鍵を掛け、同じようにしてまた隣の部屋へ・・・これを繰り返し四部屋目でちょっとした小細工をした後、最終的に一部屋目へと戻ってきた・・・というわけなのでした。「鉢合わせないか?」というところだけが心配の種だったのだが、馬鹿正直に銃声で居場所を教えてくれたので助かったね・・・
ちなみに、その「小細工」というのがあいつを怒らせる原因になったのは言うまでもない。何をしたのかと言うと・・・部屋にあったインクで、クローゼットの中に吊るしておいた俺の上着にこう書いただけだ。
『お前と結婚するくらいならアルパカと同棲するほうがマシだ!』
ってね・・・
うん、正直頑張りすぎたと思う。でも、逆上したあいつも発砲音の数を聞く限り全弾撃ちつくしたみたいだし、結果オーライ・・・
「ドガーーーーーーーーーーーンっ!!!」
・・・あれ?なんか知らないけどまた涙が出てきた・・・
男が涙を流して、自分のした行動を心底後悔していた頃・・・三階はとても見通しの良いホールになっていた・・・「花嫁」の対戦車ロケットランチャーによって・・・
『二十七分が経過しました〜!残りは三分!三分で〜す!』
神父のひたすら元気な声が響き渡る・・・
とりあえず・・・とりあえず後百八十秒逃げ切ればいいんだろ?ここまで来たらやってやるよコンチクショー!
俺はベッドから勢いよく這い出すと、「花嫁」が蹴破って外れかけているドアを思いっきり蹴り飛ばし、勢いよく部屋を飛び出した。向かう先は一階。最初に「結婚式」が始まった場所だ。階段を三段飛ばしで駆け下り、一階へと降りる。一階に着くと、来た道を戻り、手榴弾で最早原型を止めていない部屋を通り抜け、弾丸で大きく「好き!」と描かれたアートの横を走る!わき目も振らずに走る!
この時点で恐らく、残り時間は二分を切っている。俺は入り口近くに陣取り、必死に呼吸をを整える。
「花嫁」が駆け下りてきたとしても、三階から、そして尚且つあの格好では少なくとも一分半は掛かるはずだ!となれば残りは多くても二十秒強!勝てる!勝てるぞ俺・・・
「ガッシャーーーーーーーン!」
・・・・・・ウソー・・・・・・・
俺が勝利を確信した瞬間、ステンドグラスのイエス・キリストの顔を蹴破って「花嫁」が現れた!
手には・・・最早突っ込む気も起きないがどこに隠し持っていたのか?ロープが握り締められている・・・三階からロープを利用して振り子のようにして一階へ・・・って説明するのが馬鹿らしくなってくる・・・
「花嫁」はステンドグラスを蹴破った勢いのままロープを離すと、そのまま席の真ん中のヴァージンロードを転がり、俺のから十メートル程のところで勢いを殺して立ち上がった。
俺はどうすることもできずにその一連の流れるような行動をアホみたいな顔で見つめている。
残り時間はまだ一分は残っているだろう・・・彼女がこの距離で俺を捕まえるには十分すぎる時間だ・・・ここまで来たらもう笑うしかないな・・・
「・・・今までに無い斬新なヴァージンロードの歩き方だね?」
引きつった笑いで俺が言う。
「ありがとう、おかげで・・・」
「花嫁」は笑顔を作りながら、ドレスだったものらしき布を掴み、
「大事な晴れ姿がボロボロよ・・・どう責任とってもらおうかな〜?」
楽しそうに背中からナイフを取り出した・・・どうやら、既に捕まえる気はないらしい・・・
「その〜、一応聞くけど・・・・俺のこと好きなんだよね?」
一応というかその・・・「結婚式」を行うたびに自信が無くなってくるので確認の意味で聞いてみる。「花嫁」は「フフフフ」なんて可愛らしく笑いかけてくださった後、
「うん、大好きだよ!当たり前じゃない!」
そう、心底「愛してます」という顔をして言った・・・
うん、可愛い!間違いなく可愛いんだこいつは!
もうお分かりだろうが、結婚相手の例で挙げていた「武器マニアで、戦争マニアで、腕力は男勝りで、でもメチャクチャ可愛い」女というのは彼女のことだ。
「メチャクチャ可愛い」なんて形容できる女性に、(ちょいとばかし不思議な付加ステータスがあるとしても)普通ここまで求愛されれば、「何で拒否するんだ?」という意見が出そうだが、俺は声を大にして言いたい・・・
『こいつがどんな奴か知ったら、ガンジーでも断りたくなるぜ!』・・・とね
『残りが一分を切りました〜!ここからはカウントダウンとなりま〜す!』
四度、神父の声が響く。外ではギャラリーによるカウントダウンの大合唱が始まっている。
「じゃあ何で、こんなやり方するんだよ?可笑しいだろ?どこの世界にこんな「ダイ・ハード」みたいな方法で求愛する女がいるんだよ?」
それを聞いて「花嫁」は、
「だぁって仕方ないじゃない?普通のやり方じゃああなたはOKしてくれないでしょ?だとしたら後は・・・」
「花嫁」が、ナイフを構える。
「無理やりOKさせるしかないでしょ?」
セリフを言い終わると同時に風を切るような勢いで俺に飛び掛る「花嫁」。俺との距離が後五メートル程になろうとしたその時、
「手加減できないから・・・死なないでね」
そう呟いた・・・
それはお前のセリフじゃないだろう!
「花嫁」が俺に向かって駆け出した時点で、残り時間は恐らく三十秒ほど・・・だが、その三十秒は俺にとって永遠とも言えるほど長いものだった・・・仕方ない、これだけはやりたくなかったんだが・・・
「花嫁」のナイフが俺に襲いかかろうとした瞬間、俺はズボンのポケットに忍ばせていたあるモノの蓋を開けて花嫁に投げつけた。
それは二階での「小細工」に使用したインクの瓶。蓋の開いたインクは宙で中身を、撒き散らしながら「花嫁」へと襲い掛かる!
・・・しかしながら、そんなものは花嫁の足止めにもならなかった。一瞬スピードを落としたものの、花嫁はインクを顔だけを庇って浴び、ドレスを黒く染めながら俺への突進を続ける・・・後は切りつけられるのか、体当たりでもかまされて肋骨全部折るか・・・これでゲームオーバー・・・
・・・なわけねえだろ!
俺はイノシシよろしく突進してくる「花嫁」を目にしながら、右足だけ一歩前へと踏み出し武道で言うところの「半身」の体勢をとる。そのまま左手で、突き出されたナイフと腕を取り、右手を腰へと回す・・・一瞬、俺と「花嫁」の目が合う。外では引き続きカウントダウンが行われている。
『5!・・・4!・・・3!・・・』
俺は彼女に笑いかけると・・・
「・・・俺もお前のこと・・・好きだぜ」
そう言って、「花嫁」にキスをした・・・
さて、ポカーンとされている人もいると思うので、またまた簡単にではあるがご説明しよう。「花嫁」が提示してきたルールに最後の項目がある、と言ったことを思い出して欲しい。全然関係ないが、これを生きて話すことができて心底良かったと俺は今思っている。
内容はこうだ。
『もしも!もしもだけど私にキスできた場合は、ルール(・・・)に関係なく婚約は破棄してあげる。どうせ出来っこないけどね〜!』
・・・というわけだよ諸君!ちなみにルールには「逆に花嫁を捕まえてはいけない」なんてことは書かれていない・・・つまり、
俺の勝ちになるってこと!
まぁ、捕まえたままカウントがゼロになるまで待っても良かったんだが、あいつの性格だとそれでも「捕まえた」といういうことにされそうだったので、仕方なく・・・あくまで仕方なくキスしたというわけだ!
さ〜ってと、ギャラリーに顔出して、帰ってシャワーでも・・・
俺がそんなことを考えながら、入り口の扉を開いて外に出ようとしていると、
「ふぇ〜ん」
「花嫁」が泣き出した・・・おいおい、そりゃないだろ?
俺は泣いている「花嫁」の元へ行き、「花嫁」の肩に手を掛けると、
「いくら悔しいからって泣くことはないだろ〜、せっかく美人なのに台無しだ・・・」
「違うの!」
・・・はい?
「違うの・・・悔しいんじゃないの・・・私嬉しくて・・・だって・・・だって・・・」
嫌な予感がする・・・何となく次のセリフを聞きたくなくて耳を塞ぐ・・・
「だって、やっとあなたと結婚できるんだも〜ん!」
「花嫁」がワンワン泣き出した・・・俺は今すぐここを逃げ出したい気分に駆られた・・・が、「花嫁」が俺の腕をガッチリ掴んで離してくれない・・・
翌日・・・俺の結婚式が盛大に、そりゃあもう盛大過ぎるくらいの規模で行われた・・・
街中をオープンカーに乗って走りながら、俺は引きつった笑顔で道路の両端に並んだ数万人単位の人間に向かって手を振る・・・
・・・あれ、俺勝ったんだよな?間違いないよな?ねえ、誰か答えてよ!
隣では「花嫁」が、俺の腕に自分の腕を絡ませ、幸せそうな顔を「国民」に向けている。「花嫁」は俺の視線に気づくと、顔赤らめて、
「フフフ、これからはずっと一緒だね〜」
そう言って、恐らくこの世で一番可愛い笑顔を俺に向けて放った。その背後に見える、ビルに設置された電光掲示板からは、あるニュースが流れていた。
「大統領、新法案を施行
『MMB』法という画期的な法案を施行し、世間の女性から絶大な支持率を誇る大統領が、昨日またしても女性の味方となる新法案を施行。その名も『KOOL』・・・「キスオンリーワンレディー法」これは、世間にはびこる性の乱れを危惧した大統領が、苦渋の末に施行した法案で、その名の通り男性は一人の女性としかキスをしてはいけないというもの。これにより大統領の支持率がまたしても上がることは間違いないでしょう・・・しかしながら、この法案に対して各地では「男性人権の帰還を求める会」を中心とした男性の団体がストやデモを起こすなど・・・」
笑いたいのだが、笑っているはずの俺の口からはただ、生気の全く感じられない空気がヒューヒューと嫌な擬音を立てて漏れ出すだけだった・・・
「ねぇ?驚いた?驚いたでしょ?あれも(・・・)あなたのために作ったんだよ!嬉しい?嬉しいでしょ?ね〜え〜〜〜〜?」
何てことはない、最初から負けていたのだ。聞けば、新法案・・・え〜っと何だっけ?キスなんちゃらかんちゃら法?ともかくその何とか法は俺との「結婚式」の数時間前に既に、施行されていたとのこと。おまけに彼女によれば、
「ルールに関係なくとは言ったけど、法律に関係ないとは言ってないでしょ?」
という屁理屈・・・つまり、キスした時点で負け。キスしなくても恐らくイチャもんを付けられて負け・・・何とも素晴らしい完全犯罪である。ため息しか出ないね・・・
「ね〜え〜、嬉しくないの?私はこんなに嬉しいのに・・・」
憂鬱そうな顔をしていた俺を見かねて、「花嫁」が頬を膨らませてそっぽを向く。
あ〜、もうダメだ・・・我慢できない・・・第一こんな可愛い顔毎日見ているのに、我慢しろっていう方が無理なのだ!「愛し合ってないんじゃないのか?」だと?そんなの建前に決まってんだろ!俺は今から自分の欲望に素直に行動する!石とか投げるなよ!
俺は、「花嫁」の頭を掴んでこっちを向かせると、二回目のキスをした・・・
顔が離れると「国民」がワーっと一際大きな歓声を上げる。男性人からは僅かにブーイングも聞いて取れる・・・「花嫁」は、再び、顔を赤らめると、
「エヘヘ、これからもよろしくね、私の・・・旦那様権秘書さん・・・」
そう言ってまた、笑顔を向けて来た。
・・・もういいや、この笑顔だけ見られれば後は何もいらない。これからは俺のことを「ファーストレディー」ならぬ「ファーストダンディー」とでも呼んでくれ。
「はいはい、地獄の底までお供しますよ・・・・・・奥さん権大統領さん」
先程の電光掲示板から別のニュースが流れている。切り替わった画面に映ったのは「大統領ご成婚!」の文字と、オープンカーの上でだらしない顔をすっぱ抜かれた俺のアップ映像だった・・・
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました
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※エサはあたえないでください、確実に釣られます