チェンジングボーイ1
腕を返して、もう一人。そちらは、ピンクに染めた髪をつっ立たせている。
「やべぇ」
リュウの髪型を仕上げにかかっていた三人は、浮き足立って逃げ出す。
バイクに跨り、昏倒した二人の仲間を置いて逃げだす。
芸術家気取りのガキどもめ。
ジュンは、スニーカーのローラー機能をオンにする。
「俺から逃げられると思うな」
ランは便利屋だが、老人相手と思って金を踏み倒す者もいる。
そう言う連中から金を取り立てるのも、ジュンの仕事だ。
ローラーもボードもプロ並みだ。十代の頃は、ストリートのボーダー達も、ジュンのスピードとテクニックには真っ青だった。
二蹴りで、三台のバイクの後方につける。先頭を走っていたバサバサのシャギーヘアの少年が振り向いて、顔色を変える。
直線経路から脇道に逸れる。それぐらいでビビるジュンではない。
腕は落ちていない。
つい最近も、人で賑ったメインストリートのローラーチェイスで、ランの鞄をひったくったガキを捕まえたのだ。
ジュンはスピード落とさず、角を曲がる。遠心力で壁に叩きつけられるところを、壁に乗って滑る。壁乗りは、中級だ。
天井を滑るのは、さすがにもうきついかもしれない。
ついてこられないだろうとスピードの落ちていた最後尾のバイクに、難なく並ぶ。
「諦めろ、な?」
こんなに優しくしてやっているのに、ドレッドヘアの少年は顔を強張らせて、ジュンを振り切れるというようにアクセルを入れた。
ジュンは減速に合わせて壁から床に降りると、溜息を吐きながらバイクに並び、そして追い抜く時によろけたフリで、バイクのブレーキをギュッと掴んだ。
バイクの車輪が、派手な音を立てた。
ジュンは余裕で、後の二台を追う。
悪さをした者は必ず捕まえて、相応の罰を与える。それがランのやり方だ。
急ブレーキをかけられ宙を舞った少年は、前転して背中から床に叩きつけられて呻く。
床材は弾力があるんで骨折まではしないが、しばらく打ち身には悩まされるだろう。
あと二人。
三方向に別れられたら一人は逃がす計算になるが、後は二人。今からバラバラに逃げようとしても、両方捕捉できる。
しかし二手に分かれる気配はない。
シャフトやエレベーターがあって、通路が細かく折れ曲がる区域に差し掛かる。
ジュンは、さすがに身を入れて追いかける。そこでジュンを撒く気かと思ったが、先頭を走っていた少年は、自動識別シャッターを上げ、中に滑り込む。
そのあとで振り向いて、ついて来られるかというように、ニヤリと笑った。