サテライトガール7
ケイは、声をなくして立ちすくむリュウたちを見て、はぁんと呟く。
「それでこっちに入りびたってるわけだ。いいわね。若いって。うまくやりなよ。リークなんかしないから」
ケイはシガレットケースから煙草を出して、唇にはさむ。
リュウは黙って、頭を下げた。
そそくさとロッカーに近付き、自分の私服を出して身につける。ケイはライターで、煙草に火をつける。
二人だけで、ケイとマサは話していたのだろうか。
ジュンは俯いて、リュウの着替えが終わるのを待つ。
「お疲れ様でした」
リュウがケイに挨拶するのに、ジュンも合わせる。
「二人で楽しんでおいで」
ケイは姉御っぽく、鷹揚に応じる。
ロッカールームを出たところで、リュウがジュンに囁く。
「駆け出しの頃あの二人、付き合ってたらしい」
コメントのしようがないのでジュンは、そうなんだとだけ呟く。
ジュン達のしていることも、駆け出しの恋だろう。
しかしビッグになったリュウの、恋愛遍歴の一つにすら数えてもらえないかもしれない。
3スタを出て、サテライトスタジオを後にする間もリュウは、ジュンの手をずっと掴んでいた。
何食わぬ顔でスタッフと挨拶をして、向こうはどう思ったのか冷やかしてもこない。
通りを歩く時は、リュウはジュンを気遣って壁側を歩かせる。ローラーシューズやボードで遊んでいる子供とぶつかって、怪我をしないようにと。
「手当がすんで、時間があったらどうする? 僕はできたら、二人っきりになりたいんだけど。何か焦ってるみたいで、嫌かな」
十代の頃は、何かにつけ欲求不満がたまった。ジュンにも身に覚えがある。
リュウなら、ジュンでなくてもよりどりみどりだろうにと思うが。
「私の部屋に来る?」
「いいの?」
覗き込んでくるリュウの目が、素直に輝いている。
「これから行く知人のランは私の雇い主で、部屋をもらって住んでるの」
「僕が行っても、怒られない?」
リュウは、ジュンも十代の少女のように思っている節がある。年齢詐称は、していない。
「物分かりのいい年寄りだから平気。いくつか用事は言いつけられるかもしれないけれど。待つ間、ご飯を食べていって。とんでもない人だけど、ランの作るご飯はおいしいの」
「助かる。ちょっと動くとお腹が減るんだよ」
ささいな言葉で、ジュン達は笑い合う。
「バイトしてるのは知ってたけど、その仕事って何?」
「近所の便利屋さんみたいなもの。小さな子の面倒を見たり、薬を作ったり、ご飯を弁当にして届けたりね」
「いいね。だから小さい子の相手もうまいんだ」
うまいのかなぁと、ジュンは首をひねる。