サテライトガール 6
ボクサーパンツ一つで、シャワールームではなくプールに続くドアを開ける。
主役には、温泉や専属エスティシャン付きエステルーム完備のスタジオすらあると聞く。
3スタジオはスタッフやエキストラ用に、冷水プールがあった。
5×10mと大きい。
リュウの言うところ役者用は温水だが、縦3m横2mでは、泳ぐには適さないとのこと。
「珍しい。誰もいない。二人っきりで入れる」
リュウは目を輝かせて、ジュンを振り返る。
そのあとでジュンの腕の怪我に目をとめて、無理かな?と残念そうにする。
男の子らしいと言おうか。
「いいよ。でも水着も着替えもないけど?」
「俺も全部脱ぐから」
リュウは、はしゃいでいる。
壁のパネルに近付き、プールの灯りを次々と消す。
出入り口の明かり一つ残して、薄闇につつまれる。
プールの遠い端の底は、黒く見えた。
「暗いと、何だか薄気味悪くない?」
「そうかな。夜の本物の海で泳いでるみたいで好きなんだ」
ロマンチックではあるが、ジュンはやはり怖いと感じてしまう。
「でもリュウ君と一緒だったら、興奮するかも、なんてね」
ちょっと直接的すぎるか。ジュンは顔を隠して、笑いで誤魔化す。
側に戻ってきたリュウに、抱きしめられた。
「入ろう」
真剣な声で言って、リュウが顔を近づけてくる。
もう少しで唇が触れそうになる。
そこにロッカールームから、マサの声が聞こえてきた。
思わず二人で、息を潜める。
まさかセット裏まで映す気だろうか。
薄暗い場所で 半裸で二人きりでいるのを見られるのは、いくらなんでもまずい。
リュウは、アイドルではないので恋愛も結婚も自由だ。事務所からも、常識的な相手であれば、文句は出ないらしい。
恋人がいて公私ともに充実していますと話すのは問題なくても、こんな場面を見られたら、スキャンダルにされかねない。
こちらに近づいてくるのか、気配を窺う。
話している内容までは、分からない。やがて出て行ったのか静かになる。
ジュンとリュウは、顔を見合せあう。
ジュンはホッとして、苦笑する。
「入りたいのはやまやまだけど、人に見られる危険は冒せないか。でもいつかプールを貸し切りにして、裸のジュンと泳ぎたいな」
緊張が解けて、二人で笑いあう。
笑いながら、何度も軽く口づけ合う。
二人は互いの腰に腕を回し、まだ笑いながらプールを出た。
ロッカールームには、女優のケイがいた。ジュンは固まる。
外見の良さでデビューしたが、女優としては落ち目だ。
ケイはハンドバッグの中身を、ベンチにぶちまけていた。
何をしていたのか?