サテライトガール5
顔なら視神経や脳を冒される危険があるし、腹部なら内臓疾患、心臓の近くだと毒によってはショック死することもある。
リュウは不安げな眼差しで、ジュンを見る。
「どこで虫にやられたの?」
「そこの喫茶スペース。お菓子をつまんでたら、這い登って来たの」
「こんなに何カ所も刺して来るなんて、危険なやつだろう。警備に知らせた?」
「そこまでしなくてもいいと思う。虫が苦手で触るのが嫌で、つついて払い落とそうとしていたのが、悪かったの」
虫に触られたのが衝撃で、頭が回らなかった。
外見をよく観察すれば形状から、噛むのか挟むのか針で飛び出るのかわかるものだ。
もちろん素手で掴むのも、とんでもないが。
リュウの顔が、少し緩む。
「虫、嫌いなんだ?」
ジュンは、頷く。
リュウはすぐに真面目な顔になり、
「医務室行こう」
「スタジオの医務室じゃ、結局ラボに回されて、余計な手間がかかるわ。知人が詳しいから、毒消しを作ってもらう方が確実だし、早く済むの。調べられるよう、捕獲もしたし」
ジュンは、ふんとばかりに肩から提げているカバンを叩く。
リュウは笑って、手を離す。
「僕が持とう。持つのも嫌なんだろう?」
ジュンは一瞬、その申し出に従いそうになる。そのあとで、慌てて自分を戒めた。
「あ。ダメ。リュウ君が怪我したら大変だもの」
ジュンは鞄を後ろに回す。
気絶しているとはいえ、何かのきっかけで動き出さないとも限らない。
子供っぽいというのか、女の子らしくて可愛いというのか、リュウは微笑む。そして優しく、いたわってくれた。
「痛い?」
「直接触らなかったら、大丈夫だと思う」
リュウは、ジュンの右手に手を絡めてくる。
「早く作ってもらいに行こう。これじゃ思い切りくっつけない」
ジュンは、舞い上がりそうになる。
十代の頃、少女らしい恋愛などしていない。気持ちは少女だ。
ジュンは、クスクス笑う。
リュウはジュンと手を繋いで、体をぶつけ合うようにして、着替えのロッカーに向かう。
付き合っていることは、スタッフや同僚に大っぴらに宣伝はしていない。リュウは知られてもいいというのだろうか。
そろそろ紹介しても構わない、とか?
個室があるのは主役だけ、名前のある役者は役者でまとめて控室があるが、リュウは気を使うという理由で、エキストラ用のロッカーを使っている。
着替え室は、空っぽだ。
リュウはさっさと着ていた衣装のTシャツも、ジャージのズボンも脱ぐ。
均整はとれているが、仕事の為に鍛えているといっても少年らしい薄い身体つき。