♂・♀・♀・♂
「私とおばあちゃんの部屋には、呼ばれない限り来ちゃ駄目って言ってるでしょ。言うこと聞けない子は、次に来た時デザート抜きだからね」
ジュンは子供たちに注意する。
ジュンは、リュウの前で癇の強い声を出したことを後悔した。
子供たちはドアの向こうに消える。
ジュンは部屋の中を振り返り、ドアを閉めて鍵をかけると、鼻を撫でているリュウの元に寄った。
「大丈夫? 座って。もう。あの子ったら、本当乱暴で」
ジュンはリュウを、寝台に導いて坐らせる。リュウはクスクスと笑って、
「大好きなジュン姉ちゃんを、とられるのが嫌なんだね」
「好かれてるのかな」
ジュンには疑問だ。
隣に座ったジュンの長い方の髪を、リュウは撫でる。せっかく気に入っていた髪型なのに。ランに後で相談しなくては。
その前にリュウがどんな髪形が好きかも、聞いておくべきだろう。
「子供たちは、どっちの君のことも大好きみたいだ」
女のシュリは、男のジュンが女性といると、嫉妬する。
小さくても女は女だ。女は、女の気持ちには敏感だ。
リュウがリュートだと名乗った気持ちも、ジュンの別れた恋人との間に散った火花も、男のジュンには見えていない。
言葉から察するに、ジュンは元恋人のリュウの男の方の思いに、いつまでたっても気付かない。女のジュンがリュウを対象から外した理由も、全く分かっていない。
リュウは同性愛者で、男の時でも男のジュンに愛されたいと思っている。
プライドが高いから、自分からは言えない。
しかしリュートも、すぐ勘付いたようだ。
男に戻ったリュウは、女のジュンがリュウと付き合っていたのではないかと悩んでいる。
きっと同じものを見、聞いていても、辿り着く答えは違うのだろう。
男は鈍い。その鈍感さが愛しくもあり、無節操さが微笑ましくもなる。
「遊び相手にはいんだろうけど、見本にはなれないわ」
ジュンは溜息を吐く。
見本は見本でも、悪い見本だ。
人間として、救いのない悪人ではない。それに、女を誑かす悪い男にもなれない。
ただひたすら、自分だけを愛してくれる相手を望んでいるだけだ。
男のジュンはジュンで、本来変えられる筈の性別を定められ、精神的に歪んでいるのだろう。
捨てられる理由も分かっていないが、ジュン(♂)の気持ちは重すぎるのだ。
別に実際に束縛する訳ではない。別れ話を切り出され揉めたのも、せいぜい二度ほどだ。
幸いジュン(♀)の方は、永遠の愛など望んでいない。ほんの気晴らしの快楽が目当てでも、ジュンは少しも構わない。
ジュン(♂)の友人を退けるのは、相手の目論見が気に入らないからだ。
男のジュンとはあまりに違う私をものにすることで、男のジュンの上に立てるような、たわいもないが馬鹿げた夢想。
それに付き合う気には、なれない。




