チェンジ!
ジュンはにやりと笑う。
「よし決まりだ」
ジュンは、細くて華奢なリュートとがっちり手を組む。
女のジュンを振ったら容赦しないなどと、脅すつもりはない。しかしジュンが出た時点で、十分強迫になるだろうか。
「お前に暫く貸してやるよ」
ジュンはそう言うと、薬を出して口に入れ、ガリガリと噛み砕く。
血中から全身に広がる代わりに、味覚から脳に刺激を送る。時間はかからない。
男のジュンはお休み。女のジュンにバトンタッチだ。
これから二人でいちゃつくのだろうか。
生真面目同士、案外似合いかもしれない。
女として男に抱かれるのは居心地の悪い感じだが、抱かれているという感覚はあくまでジュンにはない。どちらかというとポルノの方で……。
薬の効果が表れ、ジュンは女に戻る。目の前にはリュウが立っている。
リュウの前で、男の自分は見せたくないと思っていた。
人前での男の自分と女の自分と、どう折り合いをつけたらいいのか、ジュンにはまだ分からない。
「ごめん。やだよね」
男のジュンは、下品で野蛮だ。
男だから仕方がないと男のジュンは言うだろうが、リュウみたいな者もいる。
リュウは、ジュンの体に腕を回してくる。
「情けないのは僕の方だ。君を守りたいのに反対に守られて」
リュウの舌が、涙の伝わるジュンの頬を舐める。
「こんな僕でも構わないかな?」
リュウの目が真剣に、ジュンを覗き込んでくる。ジュンは戸惑いながら、頷いた。
「僕が君に告白した経緯は、もう分かったと思う。それでもいい?」
何を嫌がることがあるだろう。
大人しくて従順で簡単に寝られて、捨てても後腐れがない女だと思われても、ジュンは腹が立たない。
からかいではなく、動揺から付き合いを申し込む物慣れなさが微笑ましい。
ジュンが頷くと、リュウはそのまま口付けようと顔を近づけてくる。ジュンも目を閉じる。
唇が触れそうになった時、ドアが開いた。
「あ、ジュン姉ちゃんチューする」
「チューだチューだ」
ジュンとリュウは驚いて、思わず身をもぎ離す。
まだ迎えが来ていないらしいヨウとシュリ、連れてこられたアキが喜んで囃し立てる。
「ジュン姉ちゃんに彼氏ができた。初恋だよ、初恋」
「チュウして結婚するんだよ」
どこまで理解しているのか、子供はからかいの限度も知らない。
「こらー、あんたたち。なんで邪魔するのよ」
ジュンは顔が熱くなるのを感じながら、子供たちを叱る。
ちょっと怒るぐらいでは、子供たちはそれも遊びにしてしまう。
本気で怯えさせたら傷つけてしまうし、せいぜいい子供の脳の発達を促すぐらいだ。
怒られてヨウとアキは喜ぶ。男の子というのは、何が面白いのか。
「なんだよ。馬鹿」
シュリは怒って、握りしめていた玩具を、リュウに投げつけた。
「あ。痛い」
リュウの顔に、ビーズ入りの人形が当たる。
「シュリ。悪い子。暴力振るちゃ駄目でしょう」
シュリは不貞腐れて、フーンだというと駈け出して行く。あとの二人も、慌てて逃げだした。




