男同士の根回し的な 3
ジュンは思いっきりのろけられて、いい迷惑だ。
「男の俺がこれで、薬を飲まないと女になれないようなイビツでも?」
両性具有が出始めの頃は、性同一性障害などのような病気と思われた。もちろん差別もあったらしい。
両性具有がスタンダードになっても、性同一性障害はやはり病気だ。
両性具有者は、体が男の時は心も男だ。性別が変わるのが当たり前になると、変わらないことは反対に異常と思われる。
「そんな言い方はしないでくれ」
リュート怒って、鋭くいう。リュートはブスッとした顔で、
「最初の方は確かに問題だ。でも、彼女のためなら君に慣れるよ。君だって、僕のようなタイプは嫌いだろうけど」
ジュンは怒るより笑いそうになった。
ジュンに近付く男は、たいていジュンに気に入られようとご機嫌窺いにくる。
ジュンに平気で意見するのは、リュウぐらいだ。
「言ってくれるじゃねえか。女の時はまあ、いい感じだけどな。それこそ俺なんてお呼びじゃないか」
大人しい相手と言うのも、意外と新鮮だ。
「自分に不釣り合いだとは思ってても、どこかでひかれるものなんだろうね。僕にはよくわからないけど」
少しはジュンに気があるというのは嬉しい。
「あいつが初めてそばに寄せた男だ」
ジュンは一応、納得して受け入れる。
男のジュンが受け入れようが受け入れまいが、女には関係ないが。
しかしこれが、男同士の根回しというものだろうか。
女は女の目で、男の時の恋人をチェックするというのが普通らしい。
男がそんなことするならどれほど過保護なのかと呆れていたが、ジュンのやっていることこそ、それではないか。
「僕と同じ名前のあの人は、どうだったんだろう?」
男同士でしか話せないこと。同性相手には言いにくいこと。どちらもある。
「あー、なんか悪くないとは思いつつも、対象ではないとどっかで決めてたみたいだな。あいつ、リュウも女の俺には興味がないようだったし。自分に気のない男だから、最初から諦めてたのか」
女の自分のことではっきり分かること(運動能力や感覚は俺より鈍いとか)もあれば、推測のつくこともある。(この菓子は残しておいた方がいいかもとか)
推測通りということもあるが、外れることもある。
ジュンはニヤついて、リュートをからかう。
「心配か? まあ心配だよな。だが安心しろ。俺にくっついてくるような男は、あいつには軽すぎて馬鹿すぎて、完全に範疇外みたいだから」
リュートは、信じたいような信じていいのか不安なような、曖昧な顔付きだ。
女の自分ではないが、駄目な男にこそ惹かれるのも女心だという思いがあるのだろう。
てことはつまり、ジュンが一番駄目な男と言うわけだろうか。
「初恋の為に、俺もあんたとの付き合いを受け入れてやるよ。今日から俺達はお友達だ」
ジュンはリュートに、握手の形に手を差し出す。大きくて骨ばった手。
リュートはジュンの手をジッと見据えて。
「僕を使い走りのように扱わないなら」




