男同士の根回し的な 1
ジュンはリュートを押しのけて中に入り、ハンガーにかかったまま横たえられた服を掻き集めて、クローゼットに突っ込む。
女のジュンなら、リュートを入れる前に片付ける時間をとっただろう。
「別に汚れてないし、今のは見なかったってことで」
同性の友人を部屋に入れる前に男は確認などしないし、汚れていたわけでもないなら別にいいと思う。
男からすると、今のなど可愛らしいぐらいだが、女はそうは考えないだろう。
リュートは言われずとも中に入り、後ろ手にドアを閉める。
「患部塗布するってことは、結構傷がひどいってことだろう。大丈夫って彼女は言ったけど、本当に大丈夫なのか?」
リュートの目は真剣に、女のジュンを心配している。
傷にしても毒にしても、軽いものは内服薬で治る。傷口を消毒しなくても、体の持つ免疫力を高めて傷を清潔にし、新陳代謝で細胞再生力を上げる。
土や動植物のない現代だから、余計な黴菌を拾こともないので、それだけで済む。
「確かにあいつは、俺からしたらぽーっとしてるけど、そこまでボケけてないから」
ジュンならいくら通常走行モードといえ、背後に迫るまでバイクの接近に気付かないなどということはない。
「俺は、薬はなるたけ飲まないようにさせられてる。男から女に自力では変われないんだ。俺の親っていうのが、愛情はあったのかもしれないが歪み切っていて、子供は男がいいっていうんで、ずっと薬で男にされてたんだ。その所為で、ホルモンバランスが崩れた。だから性別を戻す薬を飲む以外、あまり体に薬は入れられない。あいつも俺も、まともな生活はできないんだ」
ジュンはポケットから、肌身離さず持っている薬のケースを摘まみ出す。
どうしてここまで話し始めてしまったのか、自分でもわからない。いったん始めると、止められなくなる。
「ランのところにいれば薬代はかからない。俺は一生男のままでもよかったんだが、先々考えは変わるかもしれないってランに説得された。その時のために手に技術をつけようと、あいつはランに弟子入りしている。俺はせいぜい用心棒。プログラマーになる頭はないからな」
黙って話を聞いていたリュートは、ポツリと。
「そういう話は、彼女の口から聞きたかった」
ジュンは、女の自分の恋愛をぶち壊したかったのだろうか。
「重荷になって捨てられるのは、嫌なんだろう。最初から期待はしてないようだけどな」
リュートは俯きかけていたが、弾かれたように顔をあげる。
「え、それって?」




