サテライトガール3
今日は撮影はないが、出番のあるリュウを待つ約束だった。
リュウはジュンと違って、養成所に所属している。俳優志望の少年で、ジュンより四つ年下だ。
どうしたものか、付き合ってほしいと言われた。
事務所にスカウトされるほど、リュウはなかなか顔がいい。ジュンは不細工ではないが、顔立ちは整っていない。
ジュンの何が、リュウは良かったのかわからない。
新人や素人と見ると手を出す業界人も、いると聞く。手を出してはすぐに捨てるとか。
リュウとは付き合って一月。今のところ、うまくいっている。
リュウは高校生の息子役。
祖父母が古い家を二世帯住宅に改造し、同居を始めて起こる家族の悲喜こもごもを描いた話。
リュウは本当は心優しいのに、年齢的に不機嫌で素っ気ない十代の少年を演じている。
今日の撮影自体は終わりながら、拘束を受けてリュウは暇そうにしている。ジュンには気付いていない。
ジュンは邪魔にならず人目に付かないよう、スタジオの隅に行く。
途中スタッフの一人に、目をとめられる。
「あれ。誰かに聞いたの? マサのファンなんだっけ?」
ジュンの顔を、見覚えていてくれたのか。エキストラの誰かとしか、認識していないのか。
「第3フロアでいただいた仕事の後で、ちょっと見に来たんですけど、構いませんでしたか?」
「別にいいけど、スタッフやエキストラの撮影は、もう済んだよ」
「間に合ってたら、今日は撮影ない癖にって、睨まれちゃいますよ」
スタッフはアハハッと明るく笑って、仕事に戻っていく。
ジュンは隅に設えられた、簡易休憩スペースに潜り込んだ。
時間潰しに、スタッフやエキストラ用にサービスで置いてある菓子を盛ったボウルから一つ摘まむ。
主役の祖母は、高齢俳優の中では人気だ。予算が多い番組だと、こういう待遇もいい。
マサは軽妙なトークに定評があるが、断じてファンではない。そんなことを口にする勇気はないが……。
カップに少しだけ飲み物を注ぎ、おいしかったクッキーをもう一ついただく。
食べながらも目は、盛りの過ぎた女優とトーク番組の司会者のやり取りを見守っていた。
何か、腕がくすぐったい。
下を見ると、人差し指ほどの虫が張り付いている。心臓が、一気に縮む。
虫はもちろんサテライト内では、飼育施設以外では繁殖していない。虫というのは、バグのことだ。だが生き物ではなく、機械でできている。本物の虫に、似せてあった。
虫が好きという者もいるが、ジュンは生理的に受け付けない。
地球時代というのはそこら中に虫がいたようで、それを思うと今は随分いい時代だ。機械の虫だって、まったくお呼びじゃないが……。




