団欒 1
女をいたわれという意味で、ジュンは虫との遭遇をジュンに押し付けたがっているようだが、そうはいかない。
男だって、気味悪いものは気味悪いのだ。
食事が終わったのを見計らい、ランがデザートを出す。きょうはチョコレートのババロア。
女の子らしくリュートの顔が緩んだ。ジュンの前には、緑茶のカップが出る。
リュートが気付いて、
「甘い物、嫌いですか?」
「いや。そんなこともないけど、女の俺に怒られるから。大して好きでもなくて腹の足しにするぐらいなら、自分のために残しておけって」
その気持ちは分かると、リュートが笑う。
少し緊張がほぐれてきたようだ。会ってから、初めて見る笑顔だった。
ジュンも一安心する。
「ボーガンさんが払いに来てくれたから、今のところ明後日は空いてるよ。保育の予約はミチル一人だ。他に一人か二人来ても、あの子なら誰とでもうまくやるから、休みにしてくれても構わない」
「今は何とも言えない。息子に怪我をさせたと、怒鳴り込まれないとも限らないし」
相手に怪我をさせた時でも、こちらに非がある振る舞いはしていない。逃げられるのに腹が立って、持っていた鋏をぶん投げたら背中に当たりましたは、過失だ。
バイクのブレーキに手をかけたのも同じこと。
ランは、法律の裏の裏まで知り抜いている。ジュンも決してヘマはしない。
明らかに意図的であり、起こることが確実に推定できても、それを立証するのは無理だ。
ジュンは不起訴。しかしそれには、迎え撃つ準備もいる。
ランとの仕事も予定が立てられない。その日になって子供が預けられることもある。祖父母が危篤だ、家族が緊急入院だの。
女のジュンは予定が狂うのを嫌がるが、ジュンにはそれが面白い。
「それにしてもボーガンの野郎。どうした風の吹き回しだろう」
自分から出てきて、しかも払いまで済ませているとは。
「子供ができたからね」
ランはあっさりという。
「誰に?」
聞いておいて、ああ奥さんにかと思う。
愛人に、となったら問題だろう。しかし夫婦の合意があるなら別だ。
男のあなたとは結婚したいが、女のあなたとは付き会いたくないとかある。女の時にも男の時にも、互いにぞっこんと言う例もないではないが。
「ボーガン」
ランの返事に、ジュンは飲んでいた茶を吹きそうになる。
両性具有が一般的な現代には、当然の帰結だ。
「もちろんベルの子、だよな?」




