チェンジングボーイ9
「心配かけてごめんね」
リュウは、儚げに微笑む。
女の時のジュンより、よほど純情可憐だ。あれで女のジュンは、結構したたかだ。
ジュンからすると、十分、物慣れてはいないが。
「こっちも心配させた代わり」
ジュンは笑って、腕のガーゼを叩いてみせる。
シュリが真似して、同じように叩く。子供の力と言うが、子供こそ加減を知らない。
マジで痛かったって。
「こら。知らないぞ。薬臭いぞー」
シュリが手の平を顔の前にもっていて、
「くさー」と、顔をしかめる。
「バーカ」
ジュンは笑ってやる。
シュリは側に来たマルソーの顔の前にも手を持って行き、嫌がられる。
「リュウ兄ちゃん、見て見て、ヒヨコ」
ヨウが、洗面所から出てきたリュウに気付いて声を上げる。
兄ちゃんと言うように、リュウは男に戻っている。
ジュンなど、おっさんか呼び捨てだと言うのに。
女の時にはさすがにジュンお姉ちゃんと呼ぶが、それは教育的指導の結果と思われる。
おばさんと呼ばれたジュンは、シュリの口を引っ張って、お姉さんでしょうと脅迫した。
「アヒルだろう?」
男に戻ったら、元カノとは呼べない。
男女では、外見も性格も違う。男女両方が、互いの好みに一致するとは限らない。
恋人には良くても、友人にはしたくないとか、子供の親にはよくても結婚相手には向かないとか色々ある。
女のリュウのことは女のジュンは、あまり好いていない。
もう一人のリュウ(自分の彼氏の女バージョンのこと。なんか本当、ややこしいな)となら、きっと良い友達にもなれるだろう。
男になった元カノにとっても、女のジュンは好みではないようだ。付き合いたいと言われなかった。
「ジュンと同じことを言う。アヒルは白いんだよ」
「子供の時は黄色いんだ。ヒヨコも大人になったら、白や黒や茶色になる」
ジュンは、
「ほら見ろ」
「ジュンと違って、リュウ兄、あったまいい」
「俺だって、アヒルだって言っただろう?」
ジュンは子供相手に文句を言う。
こいつらにとったらジュンは、同レベルなんだろうか。
「相変わらず器用だな。ランさん」
リュウはヨタヨタ歩くアヒルを、一匹すくい上げる。それを隣に立つリュウに渡した。
「充電したり学習させたり、世話するのは、俺だぜ?」
「お姉ちゃんの頭、かっこいいー。お姉ちゃん、なんて名前?」
シュリがリュウの側に行って、人見知りもせずに話しかける。
こいつは、女と見るとよっていく。
末は、ナンパ師だろうか。
「本名はリュウだけど、それだと二人重なるからリュートって呼んでくれる?」
二人の間で、洗面所で取り決めでもあったのだろうか。




