チェンジングボーイ8
「偶然会ったんだ。来たいっていうから。迷惑だったか?」
ランは溜息を吐いて、頭を振る。
いかにも馬鹿にしている。
言っても無駄だとばかりに、ランは話を変えた。
「それで。今日はどうするの?」
二人になりたいとは言われたが、男のジュンともいたいかどうか。それにジュンが女に戻っても、そんな気にはなれないかもしれない。
「働いたら腹減ったってリュウは言ってたけど、女になったらあまり食う気も出ないかもな。俺は腹が減ったんで、ちゃんと食事にしたいけど」
二十歳を過ぎても、まだ腹は減る。
「三人分用意しよう。その間、この子たちを見ていておくれ」
二人のリュウも心配だが、子供達を放っておいて、悪戯をされてもかなわない。遊んでもらえそうだと敏感に察知して、シュリ達はジュンの手を引っ張る。
「ジュン。ヒヨコ見た? ヒヨコ」
「ヒヨコ? アヒルじゃないのか?」
背の高いジュンは、幼児と手を繋ぐと腰を曲げなくてはいけない。
「ヒヨコだもん。黄色いもん」
「アヒルも黄色くないか?」
「アニメのアヒルと一緒にするな、バーカ」
「そうだっけか?」
ジュンが教えなくても、家で悪い言葉は覚えている。
「ほら。見て見て」
言われなくても見えている。
飾り棚の下の玩具スペースの箱の中に、黄色いアヒル(ヒヨコか?)が五匹、蹲っている。
シュリが箱を乱暴に傾ける。ヨウもせっせと、ヒヨコを掻き出す。
「あー、こら、お前ら全部出すな」
ジュンは慌ててヒヨコを掴もうとするが、起動状態に入ったヒヨコはヨタヨタペタペタいっせいに散らばる。
一番チビのマルソーが奇声を発して、ヒヨコを追いかけて走り出す。
「ほらー、捕まえるの大変なんだから。マルソー、またこけるぞ、お前」
興奮してマルソーは、男の子になっている。女の子供は、男の子供より大人しい。
「撫でたら大人しくなるんだぞ」
シュリとヨウはヒヨコを捕まえ、床に引き延ばすかのようにヒヨコの体を押さえ付ける。本当の生き物なら、ぺちゃんこだな。
アヒルは(やっぱりアヒルだろう)ガアガア鳴いて、抗議する。
「ほら、嫌がってる、嫌がってる。お前らには無理だって。こうして優しく撫でてやるんだ。ほら見ろ。こうだ。よしよし」
ヨウの手から逃れてきたアヒルの背を、ジュンはそっと撫でる。アヒルは撫でられて大人しくなる。
虫と違って、鳥や獣は平気だ。
ジュンは、気配に気付いて顔をあげる。洗面所から、リュウが出てくる。
「あー、そう言うふうにしたんだ。いいんじゃない」
剃られた部分に長髪の付け毛をつけて、後ろで縛っている。
男のリュウが新しい髪形を気に入っても、女のジュンはあのままだとショックを受けたはずだ。




