チェンジングボーイ3
少年は負けん気を見せて、
「俺だって殴られたことを訴えてやる」
ジュンはニコリと笑って、もう一度少年の頭をはたく。
痕を残さず、怪我をさせない殴り方は心得ていた。
「おい。ポット。頚部の動脈の圧迫による一時的昏倒が、肉体的・精神的に与える影響は、訴訟枠に入るのか?」
ジュンの言葉を認識して、質問に答える。
ポットは、ゲッシュや カラワラ、殺生などといった俗語解析機能が組み込まれていないので、ポットとは話ができないと思い込んでいる人間も多い。
かく言うジュンも、ランに教えられるまで知らなかった。
「入りません」
まだ転がって、ポットにつつき回されていた方も、身じろぎする。
ピンクのツンツンヘアは、少年から少女になっていた。
「もう一人も目が覚めたらしい。ポットは必要ない。格納庫に戻れ」
「戻ります」
ポット達は回れ右して、壁の下に開いた格納庫に滑り込んでいく。
ジュンは少年と少女から、識別章を取り上げて、腕時計のバングルのスロットに滑らせ、住所と名前を読み取る。
少年はふてくされたまま、
「仲間の名前を吐けって言うんだろうが、誰が言うかよ」
「教えてもらう必要はない。こっちは簡単に調べられるからな。そのお友達たちには、お前らが吐いたって言ってやらなくても、きっとお前らを疑うぜ。よっぽど信頼があれば、別だけど」
ジュンがニヤリと笑って言うと、少年は泣きそうに顔を歪めて、畜生と呻いた。
「髪切っても、格好いいのにさ」
唇をとがらせ少女――キョウが呟く。
「俺は、いじるのは嫌いなんだ。お嬢ちゃん」
ジュンは、きっぱり言っておく。お嬢ちゃん呼ばわりすると、キョウもふてくされた。
俯くリュウの肩を抱いて、その場を後にする。
リュウは、完成すれば二本縞になるのだろうが、剃り残しがある。
女の時のジュンよりも、女になったリュウは背が低い。
「リュウ。本当にいいのか。女の時の俺も泣き寝入りしただろうが、嫌なら言ってくれ。連中とやり合うのが怖いなら、事務所通してでも、俺が間に入ってもいいから」
ジュンは、リュウの顔を覗き込む。
リュウが泣いているのに気付き、ジュンは困ってしまう。
女に泣かれるのは苦手だ。どう慰めていのか、いまだにわからない。
「髪型は別にいいの。ただびっくりして、怖くて。ジュンがいて良かった」
リュウは、ジュンに泣きながら抱きついてくる。ジュンは、ドギマギしてしまう。
「俺は別に何もしちゃいねえよ。奴らに髪を掴まれるまで、お前が何されてたか全然気付いていなかったし」




