チェンジングボーイ2
二台目が通る時には、シャッターは下りかけていた。
余裕で滑り込むのは可能だが、禁止セクトに入ったら、出るのが面倒だ。ジュンは、シャッターの前で止まるよう、減速する。
「ただで逃がすか」
ジュンはずっと握りしめていた鋏を、ジュンを笑った少年に向けて投げつける。
下がるシャッターに合わせてしゃがみ込み、結果を確認する。投げられた鋏は、少年の背中に見事あたった。
「まさか当たるとは~」
証拠を残さない為に口ではそう言うが、心の中ではガッツポーズを決める。
(よっしゃー、ヒットー)
一人、命拾いした。
ランなら、ジュンが余裕を出したのが悪いというだろう。確かに、甘く見たジュンが悪かった。
遊んでないで、さっさと捕まえれば良かったのだ。
リュウはどうしただろう。大丈夫だろうか。
ジュンは素早く踵を返し、リュウの許に戻る。
クリーナーが働いて、切り落とされた髪は既に清められていた。
気絶させた二人はまだ目覚めておらず、道路チェックポットが二人の周りにまとわりついて、公共通路で眠らないでくださいなどと、ゴチャゴチャ騒いでいる。
リュウは女の姿のまま、しゃがみこんで顔を覆っていた。
ジュンはリュウの肩に、オズオズと手を置く。
「大丈夫か。助けてやれなくて済まん。ごめんな。怪我はないか。髪だから、鬘で何とかなるだろう?」
――呼吸・脈拍・脳波、正常。呼気よりアルコール分0.05mg検出。泥酔の危険なし、急性アルコール中毒の兆候なし。
うるさい。
ジュンは手を伸ばして、刈り上げ縞の少年の足を揺する。
ポットがピーピー騒いで、救急センターに通報したら面倒だ。
「いつまで寝てやがる」
少年が、唸って目を覚ます。
――一人覚醒。お加減はいかがですか?
少年は、ポットに八つ当たりする。
「失せろ」
「お前が偉そうにすんな」
ジュンが叱ると、少年を不貞腐れた顔をする。
「スワニッシュにしてやったのに、エネカラワラー」
「お前らがエネパワラーなヘアスタイリストで、これがゲリラ演習だったとしても、慰謝料は払ってもらうからな。ああマジむかつく、ゲッシユ」
少年は顔を蒼ざめさせる。
「そんな殺生な」
「何が殺生だ。女の時の俺のキャラクターを、激しく損なう。お前だって、事務所が青筋立てて怒るんじゃないか?」
リュウに話を振る。リュウは俯いたまま首を振って、消え入りそうな声を出した。
「別にこれでいい」
「ほら。このお姉さんはわかってるよ」
少年は、単純に明るくなる。
ジュンは、少年の頭をパシリとはたく。
「調子にのんな。お前らの価値観だけが、誰にとっても格好いい訳じゃないんだ。識別章を出しな」




