俺には人の寿命が見える
俺にはちょっとした特殊能力がある。それは、人の寿命が数字として見えるというものだ。
初めてこの能力が発現したのは中学生の頃で、登校中に何の前触れも無く、道行く人の頭上に数字が見えるようになった。
始めは数字の意味がよく分からなかったけど、基本的に若い人ほど数字の桁は大きく、逆に老人などは、数字の桁が少ない傾向が見られた。
この時点で、数字の正体は残りの寿命なのだと何となく察した。そして、それを裏付けるような事件が起きる。
俺がいつも利用している駅のホームから、高校生が一人、電車へと飛び込んだのだ。
彼が飛び込む瞬間、その頭上に表示されていた数字がゼロになったことを、俺はこの目で確かに見ていた。
数字の正体が寿命であることを、俺は確信した。
あれから三年。高校二年生になった今でも、俺には相変わらず他人の寿命が見えている。
どういうわけか、自分の寿命だけは見ることが出来ない。例えば鏡に映った自分の姿を見ようとも、数字が浮かんでこないのだ。
もっとも、俺は自分の寿命になんてそれほど興味は無い。
もちろん死ぬのは嫌だが、何となく平均寿命くらいまでは生きられるだろうと、楽観視している自分がいた。そもそも自分の寿命が分かってしまったら、あまり人生を楽しめないような気もする。
……だけど、ここ最近はそうも言ってられなくなってきた。
「やっぱり、みんな寿命が残り少ない」
二日ほど前から、目に映る全ての人の寿命が残り一カ月しかないことに気が付いた。
両親はもちろん、クラスメイトや教師、名も知らぬ道行く人々に至るまでだ。
全員の寿命が残り約一カ月。一人一人の誤差もせいぜい一分一秒程度。この事実は、自身の生活圏内にいる全ての人が、ほぼ同じタイミングで死ぬということを示していた。
「……ってことは、俺もやばいんじゃないか?」
俺自身の寿命は確かめられないが、生活圏内の全ての人間がほぼ同時に死ぬことが決まっている以上、自分だけが助かる可能性は皆無だろう。
つまり、俺の残りの寿命も周りの人達と同じだと考えるが自然だ。
「いったい何が起こるってんだよ……」
多くの人間が同時に死ぬ事態となると可能性は限られてくる。大規模な自然災害、他国からの攻撃……考え出すときりがない。
だが、死の原因が何であれ俺は、もうすぐこの町で多くの人が死ぬという事実を知っている。これは大きなアドバンテージだ。
これから起きるであろう災厄を食い止めることは出来ないが、逃げることは出来る。信じてもらうのは難しいかもしれないけど、せめて家族や親類、親しい友人だけでもこの危機から救いたい。
俺の特殊能力だって、きっとこういう時のために発現したに違いない。
出来ることなら全ての人を救いたいけど、俺に守り切れる人の数なんてたかが知れている。そこは割り切るしかない……
「別の町に避難するか? いや、いっそのこと海外まで行けば確実に……」
どこに逃げれば安全なのか、俺は必死に思案した。
時間はまだ一カ月近くある。絶対に生き抜いてみせる。
地球上の文明を壊滅させる破壊力を持つ隕石の接近が発表されたのは、それから数日後のことだった。