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サトリの異世界楽隠居譚  作者: 夢落ち ポカ(現在一時凍結中)
第一章 転生(憑依)したけど生活やばいんで頑張った、超頑張った
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第08話 試験

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

総合成績となるとケリィといった実技のない科は振りになるかと思い、

 


「それじゃあケリィ義兄さん、俺こっちの試験会場だから。

 試験頑張ってね」

「それはこっちのセリフだね。

 さっきまでボケッとしていたんだから、間違っても名前を書き忘れるなんてバカジャックみたいな事しないように」

「しないよそんな事!?」


 突発的な、それこそ前触れのないアクシデント以外でサトリは基本的に驚かない。


 右を見ても左を見ても、金髪碧眼の令息令嬢ばかりである。


 前世でも極東から東洋人がやってきたという情報が大学中で広がり、色眼鏡で見られたのを思い出す。


 サトリのいた国の映画が流行り―――よりにもよってアクション、しかも侍の登場する作品だ―――どこから持ってきたのか木刀渡されてそれらしいポーズ取らされていた、わざわざコスプレまで強要されて。


 今回錬金術科に応募した人数は六十二人、定員は五十人だ。


 この六十二人がサトリのライバルたち、(もっと)も基礎科目のことを考えれば実際にライバルはもっといる、こちらは合格発表時に張り出されるらしい。


 各科、そして実技―――文官科を除いて―――と張り出されるらしい。


「…ちょっとそこの貴方?

 貴方がサトリという賢者様の弟子でよかったかしら?」


 そこはかとなく険のある物言い、貴族のお嬢様かなのかと思い、サトリは振り返った。


 そこにいたのは金髪碧眼、釣り目がややとっつきにくさを醸し出していて、だが整った顔立ちのクール系美少女がいた。


「《なんだろう、この状況で声をかけられるなんて、いやな予感しかない。

 そして面倒な真実を知りたくもないのでこの美少女の心の内も覗きたくない。

 しかも取り巻きなのか、他にも三人ほど貴族のご令嬢が俺たちを睨んでいた、俺彼女たちに何かしたっけか?

 会った記憶すらないんだけど…もしかして逆恨みとか?》

 …はい、そうです…失礼ですがお名前を伺いしても?

 師匠の店に来ていたお客様なら覚えていますが、貴女の事を見た覚えがないものでして…」


 すると甲高い声を上げて取り巻きの三人がキャンキャンと吼えてきた。


「まぁ貴方、デイジー様の事を知らないの!?」

「さもしい孤児なんですもの、当然といえば当然なのかしら?」

「デイジー様、何もこのような孤児に挨拶など無用ですわ!!」

「《…盛り上がってるところ悪いけど、さっさと用件済ませてくれないかなぁ、お兄さん周りの視線が気になって仕方ないんだけど。》」


 サトリは取り巻き三人娘の心の内を嫌々ながらも覗いてみる―――本当に嫌だったのだが、これも無駄を省くためだ―――と、どうやらこの取り巻きの中央にいる美少女、デイジーという少女はエプスタイン侯爵家の次女で錬金術科を受験している一人だそうだ。


 そして随分昔、アニムスに弟子入りしようとして断られた内の一人ということらしい。


 しかもこの少女の父親はサトリに八つ当たり―――より正確に言うと逆恨みして彼を襲おうとした貴族たちの黒幕だった。


 その事を謝る為にサトリに会いにきたらしい。


「《…そういえば、師匠の弟子になった最初の頃はそういう事あったなあ。》」


 ちなみにこの父親はこれがきっかけで逮捕され、現在はデイジーの五つ上の兄が侯爵を継いでいる。


 侯爵家となるとそう簡単に潰すのは難しいようで、頭を挿げ替えるだけで終わったらしい。


 宮中では吊るし上げ喰らっているが。


 そして恐る恐るだが、サトリはデイジーの心の内を覗いた。


 本人が身内の件で反省しているのなら今後警戒しなくてもいいので確認したかったのだ。


「(…イーブル系の人間はあまり見ないけど、何で眠そうな顔をしているのかしら?

 噂だと陛下にも期待されているという話しだし、まぁ優秀という事なんでしょうね。

 身につけているのは…防御礼装?

 私の知らない魔術刻印がされているわ、いざという時の為のものなのかしら…まだ彼を狙っている者がいるという事なのね、お父様もそうだったけど本当に嘆かわしい限りだわ。

 こんな騒がしい場所で謝っても余計な噂が立ちそうだし、入学してから呼び出せばいいかしら?

 …けど、お兄様には今日中に謝るように言われているし…どうしよう。)」


 思った以上に反省しているようだったし、何より頭の回転も中々速い。


 きつそうな見た目と裏腹に人は見かけにはよらないな、と失礼な感想を浮かべたサトリなのであった。


「…大変申し訳ありませんが、そろそろ試験が始まります。

 試験が終わった後にデイジー様の元へ伺いますので、よろしいでしょうか?」


 するとデイジーははっとしたような顔をしてサトリをまじまじと見つめてきた。


 どことなく珍獣を見るような目で見てきて、心の内を覗いてみたくもあるが、かなり失礼な事をいわれている気がしてならないサトリは、自らの精神衛生上の為知らない振りをした。


「…そうね、ここだと何かと騒がしいし、ゆっくり話もできないわ。

 話は試験が終わった後にしましょう。

 終わり次第こちらから迎えを出すから、試験が終わったら帰らずに待っていなさい」


 見た目に反して礼儀正しいデイジーの仕草でしっかりと教育されて受け答えもはっきりしているを見て取ると、上位合格を果たすのだろうとサトリは確信した。


 サトリはデイジーの言葉に肯き、一礼すると自分の席へと歩いていく。


 後ろで取り巻き三人娘が姦しいが、デイジーが一喝するとしゅんとして各自の席に戻っていく。


 試験官が現れ、試験用紙と問題用紙を配られ、試験官の合図と共に試験が始まった。


 名前はしっかりと書いて、サトリは羽ペンを走らせた。



 * * *


(サトリ視点)


 筆記試験は思いの外簡単だった。


 魔法学と算術は満点の自信がある、歴史と地理は…まあ全部埋まったな、一部うろ覚えだったけど。


 魔法を使ったら感知系の魔道具が発動して即座にバレルから魔法は使わなかった、異能も使っていない。


 成績も結構上の順位で張り出されると思う。


 そして最後に実技。


 六十二人もの受験者の実技だが、なんと驚いた事に一斉にするのではなく個別面接も兼ねながらやるらしい。


 効率的なのは結構だが、貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんを相手にそんな事してもいいのかと思ったが、学園ではなるべく身分に左右されないよう通達されているらしく、この程度では軽いものらしい。


 俺は四十二番、かなり待たされるので、ケリィを探しにいくことにした。


 デイジーに看破されたが、俺の服には防御礼装を中心にかなりの礼装を服に仕込んでいる。


 その中にはGPS的な機能を持つ礼装もあるので、ケリィを探すのは比較的簡単だった。


 まぁそこらの貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんより遥かに目立つからね、遠巻きから見てもあそこにいるってわかりそうだ。


 案の定というか、貴族受験者と平民受験者から一定の距離を保たれ、ぽつんと座っているケリィを見つけた。


「…ケリィ義兄さん、見っけ。

 どうだった試験は?」

「楽勝だったね、あれなら文官科一位はもらったも同然だよ」


 おお、自信満々だなこれは。


 ていうか、貴族のお坊ちゃんがお嬢ちゃんいる中でそんな発言しないでほしい、聞こえていたお坊ちゃんお嬢ちゃんがすごい目で睨んでくるから。


「サトリこそどうだったのさ?

 名前はちゃんと書けたの?」

「書いたよちゃんと最初に!!

 ていうか、こっちだって算術ならケリィ義兄さんに負けない自信あるし!!」

「他はどうしたのさ?」

「ぜ、全部は埋めたし!!」

「なにどもってるのさ?」


 そんなやり取りの間に、俺はケリィに先に帰っておくように伝えた。


 ケリィにも防御礼装は渡してあるし、心配はしていない。


 デイジーと会うことに反対していたケリィだったけど、言っても聞かない態度の俺に呆れながらも渋々だが了承を返してくれた。


「―――錬金術科の実技四十二番、いませんか!?

 もうすぐ始まるのでこちらにきてくださーい!!」


 話し込んでいる内に呼び出されてしまった、俺を呼んでいるのはどうやら錬金術科に所属している貴族学生少女のようだ、アルバイトとか内心点アップの為にやっているのかと勘繰ってしまう。


「…それじゃあ義兄さん、行ってくるね」

「実技に関しては心配していないさ、アニムスさんの弟子であるサトリの腕前は確かだし。

 けど…その後の話し合いに関しては注意しなよ、貴族なんて腹の内で何考えているのか分かったもんじゃないんだからね?

(…うーん、やっぱり心配だな。

 宿屋に帰る時に近衛騎士にひとっ走りして護衛にきてもらおうかな?

 サトリが貴族に呼び出された…なんて言えば絶対に動いてくれる気もするんだけど。)」


 実は俺人の心読めるから大丈夫と言いたい、ていうか大事になるからホントやめてほしい。


「…ケリィ義兄さん、大事にしたくないから変な気を回したりしなくていいからね?

 防御礼装もあるんだから、もしもの事なんて有り得ないんだから」

「それはある意味そういう可能性を考慮してる気もするんだけど…日が暮れるまでに帰らなかったらアニムスさんに報告するからね?」


 うん、何が何でも帰らなくちゃならなくなったね!!


 心配してはいないけど、あちらさんの為にも帰らないといけなくなった。


 俺は分かったといってケリィと別れた。


 少女に自分が四十二番だと申告すると、『はわわっ』なんてアホな驚き方をする―――現実にそんな驚き方をする人間がいるとは思わなかった―――少女の心の内なんて覗かず、再起動するまで根気よくなんて待とうとせず、そのまま実技試験のある部屋まで歩いていく。


 本来なら先導するはずの少女は俺の後を付いていくという間抜けな図になっていて、部屋の前まで着くと少女に『どうも』と一言労いの言葉をかけた。


 まぁわざわざ呼んでくれたんだし、それくらいは言っておこうと思っただけである、他意はない。


 扉をノックすると『どうぞ』という返事があったので扉を開いた。


 開けて目に飛び込んできたのは、テーブルに敷き詰められた多くの素材と薬研やビーカーといった錬金術で使われる器具だ。


 見た事のない器具は…無いな、何故か小振りのハンマーがあるのがちょっと気になるけど、この中で何か砕くようなものあるか?


 …この中から指定されたものを作ればいいのか。


「ようこそ、受験番号四十二番、サトリ君。

 私たちは君の実技試験管を務めさせて貰うロイエルだ、こちらはミシェル。

 かけたまえ」

「失礼します」


 一礼すると用意されているイスに座った。


 ロイエルというのは随分前師匠のお店にきて師匠の事を『師父』と呼んでいた爺さんである。


 六十代後半から七十代に見えるが、ハゲワシのように切れ長で鋭い目つきをしていた。


 老いてなお矍鑠(かくしゃく)とした…というやつか、実は結構偉い人なんじゃないだろうか?


 年の割にはっきりした口調をしているし、こりゃそこらのボケ老人とは違うようだ。


 そして隣のミシェルという女性は…ロイエルと並んでみると『祖父と孫』と見てもおかしくないくらい差があった。


 いや、いいんだけどね別に。


 俺別に試験官相手に鼻の下伸ばしてる訳じゃないし。


 見るからに西洋版委員長といったような四角四面な真面目系美女だ、どこか幸薄そうに見えるところもまた魅力的である、きっと隠れファンクラブとかありそうだな。


「…さて、君の事についてなのだが、陛下から打診されて結果に関係なく特待生としての入学が決まっている。

 よってサトリ君がこの実技試験をしたくないというのなら、このまま帰ってくれても結構だ」


 その場合俺の実技点はゼロ点ではなく棒引き、つまり『特別扱いでサトリ君は実技しなくてもよくなりました~』と全受験者ならびに在校生に知れ渡ることになるようだ。


 非常に不愉快な上に入学直後から面倒が待ち受けているのは間違いないだろう。


 受けない、という選択肢はそもそもなかったし、俺はロイエルの言葉に対して別段気にしない振りをして笑顔で応対した。


「いえ、結果は決まっているとはいえ、そこまで特別扱いはこちらとしても希望していません。

 実技試験はちゃんとお受けしますので、課題をお願いします

(むむ、ロイエル学科長の挑発に怒りもしないなんて…賢者様はよほど厳しくお弟子さんを躾けられたのですね、よかったわ。

 少し前の貴族のクソガキ(・・・・)みたいな調子に乗った奴じゃなくて。)」


 ……俺は何も見てない聞いてない覗いていませんよ、ハイ。


 真面目系美女のミシェルさんが実はとんでもなく口が悪い人なんて知りません、絶対。


 …講師ってストレス溜まるもんなんだね。


「では…ポーションを作ってもらおうかね?

 ここにある原材料と器具をいくら使っても構わない。

 君の出来る、最高のポーションを作ってくれ。

 制限時間は十五分だ

(基本にして霊薬作りにおいて全ての基礎が入っているポーション作りだ。

 師父の教えがきちんと教え込まれておれば、簡単に出来るだろうな。)」

「分かりました、ではさっそく」


 多分この課題、他の受験生にもやらせたんだろうなぁ。


 基本だからこそ丁寧にするだろうけど、ポーションなんて錬金術を学ぶ過程においてまず最初に教わるものだからね、細部に目が届いていないと容赦なく減点を喰らうだろうなぁ。


 俺はテーブルに置かれてあるポーションに必要な原材料を集めると、ビーカーに入れておいた魔力水―――蒸留してある純水に魔力を流し込んだ液体―――を魔法で沸騰させる。


 沸騰させるのはビーカーに入り込んでいる微生物とか純水を更に完璧な品質にする為だ、この辺りは師匠も感心してくれて工程が増えたが品質が良くなるので採用されている。


 その間に薬草を魔法で粉微塵に、ドロドロの粘りを見せるくらい細かく刻んで沸騰したビーカーに投下。


 沸騰したポーションは段々と冷やしていく、空気も入り込ませないように慎重にする。


 そして後は混ぜるのはもちろん魔法、混ざり切るまで手使うのだるいし魔法の方がちょっと魔力使うくらいだし。


 二人が一瞬驚いているのを見たけど、何で驚いているんだろう。


 だってその方が完成度高くなるのは証明されているし、おかしくないよな?


 そしてビーカーに入ったポーションが濃い青色になったら完成だ。


 試験管にポーションを入れてコルクで栓をする、もちろんこの時も魔法で入り込んだ空気は抜いておく、これでポーションの酸化を極限まで抑えてくれるのだ。


 この間約三分、魔法を使わず器具を使えばもっと掛かってテーブルが汚くなっただろうし、まずまずの速度ではないだろうか。


「出来ました、どうぞ」


 コトン、と小さく試験管が音を立てる。


 俺は二人のいる机にポーションを置くと、椅子に座った。


 目の前の二人は目が点になっていたが、次第に再起動し始めたのか俺の作ったポーションを手にとってしげしげと眺めていた。


「…むぅ、これはすごいな。

 工程や細部に渡ってこれでもかと丁寧に作られておる。

 減点の仕様がないな。

 ミシェルはどうだね?」

「同感です教授。

 これなら保存期間の面から見ても賢者様の作られたポーションと遜色ない出来ではないかと。

 確認するまでもなく、最高級のポーションでしょう」


 なんと、やはりこの爺さんはお偉いさんだった、教授だとはこれまた。


 そしてミシェル女史からも太鼓判を押された。


 最高級か、まぁ元の原材料がよかったのもあるし、当然といえば当然の結果かな。


 これで出来の悪いポーションしか出来なかったらよっぽどの修行不足かそもそも錬金術のセンスがないのだろう。


 檻に入れられた実験動物(マウス)があとどれだけ傷つけられるかは知らないが、まぁ今回は血を見なくて済んでよかった。


 頑張れよ、君の犠牲は忘れない、この教室を出るまでは。


「…ところで話が変わるのだが、サトリ君は禁書区域の閲覧許可も求めていたそうだね?」

「はい、そうですが…さすがにダメでしたか?」

「そんなことはない。

 ただ、あの膨大な禁書区域から錬金術関連の魔道書を探し出せるのか、単純に不安になってな」


 ロイエル教授がいうには、学園の図書館にある禁書区域は専門別の分類が一切されておらず、禁書と指定した魔道書は開いている隙間のある棚に詰め込んでいくのが通例になってしまっているらしい。


 なんてズボラな、司書がいる意味ないじゃないか。


 司書が足りないなら増やせよって言いたいところだが…さすがにあの膨大な図書館の司書をするとなると色々と面倒だからしたくないのかなぁ。


 うーん、さすがに俺も見た事も無い禁書区域の魔道書の分類とか整頓をするなんて時間をかけたくないし、とりあえず見つけた魔道書だけの作ればいいかな、三年もあればそこそこ整頓も出来るだろう。


「いざとなれば師匠に聞けばいいので」


 学術的な疑問に関してはあの師匠は金銭を要求してこないから、こういう時は好き勝手に聞けるのが幸いしている。


 まぁ錬金術って金がかかるから、師匠も金儲けしないと研究も続けられないしな、師匠が何を研究しているのか知らないけど。


「そうだな、君にはそれがあった。

 羨ましい…実に羨ましい、我らが大いなる先達にして賢者と評される師父の直弟子になれるとは。

 私も教授職なんぞ放り出して、残りの一生を師父の下で過ごしたいものだ。

 どうだねミシェル君、君には才能があるから今からでも私の跡を継いで教授にならないか?

(前任の教授も言葉巧みに私をこんな面倒な教授職を押し付けてからに。

 いやはや、当時の私は教授になった時の金銭的メリットに囚われておったのが失敗だったな。

 はぁ、早く退官したいのう。)」


 心の内を覗いてみた限り、この教授職かなりの地雷職らしいな。


 どうやら教授職となると国家公務員みたいな扱いで学園、ひいては王宮側からの要求を聞き入れないといけないらしい、金銭的メリットはその見返りということだろう。


 うーん、世間慣れしていない優秀な錬金術師が陥る最悪の罠といったところか、俺は今知ったから話を持ちかけられても断ろう、絶対に。


「ふふ、お断りします。

 講師の職をしているほうが自由度が高いし、私の研究はそこまでお金を使いませんので

(教授のマヌケ(・・・)話は学生にも噂されていますからね。

 人生を棒に振りたくないのよ私。

 それに私の場合、必要なのは魔力であってお金じゃないし。

 …まぁ、生きた検体がたまに欲しいけど、それは自分で取りにいけば済むしね。)」


 あぁ、ミシェル女史はロイエル教授の可哀想な真実を知っていたんだね、あと口悪い。


 ていうかこの人すごいな、錬金術師と冒険者の二束の草鞋(わらじ)を履いてるのか。


 しかも上級冒険者だし…なんか生きた検体欲しいって言っていたけど何が欲しいんだろうねぇ…これ以上は怖いので覗くのはやめよう。


「そうかね、残念だ……本当に、残念だ

(引っかからんのう…どうも我が学科の講師たちには権力欲というのが欠けておる。

 いや、良い事なんだが少しぐらい俗な考えな奴がいてくれた方がありがたかったんだが…残念だ。)」


 しょぼくれるロイエル教授は本当に教授職辞めたいんだろうなあと思いながらそんな漫才をぼんやり眺め、時たま思い出したかのように質問が飛んできて、俺の実技試験は終了した。


 さて、あとはあの微妙に残念臭の漂うお嬢様だ。


 どこにいるのかねあのお嬢さんは。


 探してみればすぐに見つかったのだが、実技試験最後の受験者がデイジーだったようで話は後になり随分と待たされた。


 すでにケリィとは別れている、取り巻き三人娘とデイジーの家に仕えている壮年の執事―――体格からして護衛も兼ねていそうな、強そうなおっさんだ―――も俺の隣でデイジーを待っていた。


 口も聞きたく無いのか、完全に無視されていたのは本当に助かった。


 たまに陰口が聞こえてきたりするが、語彙の足りない頭空っぽな貴族令嬢の言葉に傷つくほどメンタル弱くないんで、痛痒なんてしない。


 まぁ、いつか報復したいので名前は覚えておく事にしたが。


 また俺が新しい技術を世に出した時、この三人の家限定で売らないとかそんなものだが。


「まぁデイジー様、お疲れ様でございましたわ!!」

「お疲れでしょう、お茶を用意させていますので、どうぞ行動まで参りましょう」

「そこの貴方、デイジー様はお疲れですので、もう少し待っていなさい」


 なんとも(かしま)しいを通り越して(やかま)しい小娘たちである、ピーチクパーチク(さえず)りやがって鬱陶しい。


「わかりました、近くで控えていますので、また声をおかけください、失礼します」


 俺としても何か生活が便利になりそうな道具の構想を考えていたし、ちょうどよかったのでその場から立ち去る事にした。


「あ…

(ああ、もう、なんてバカな事を!!

 これじゃあまたあの子に悪印象を与えてしまうじゃない、そんな事も分からないのかしらこの子達は!?)」


 なんとも悲鳴にも近い心の声が後方から聞こえてきたが、俺平民なんで貴族のお達しには基本反抗できないのよこれが。


 これ幸いと俺はその場から離脱し、三十分ほどしてまた呼び出されるのだった。





読んで頂き、ありがとうございました。

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