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サトリの異世界楽隠居譚  作者: 夢落ち ポカ(現在一時凍結中)
第一章 転生(憑依)したけど生活やばいんで頑張った、超頑張った
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第05話 食卓改革と金儲け《下》

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

前作と違い、登場人物が変わっています。

*世界各地への情報の巡りが早すぎるので、その理由を追記しました。

古代文明っていいわ・・・いえ、理由って便利ですね。


 二週間ほど情報を集め考えた結果、サトリは肥料を商業ギルドに売る事に決めた。


 この世界には冒険者ギルドの他に傭兵ギルド、魔導師ギルド、錬金術師ギルド、木工ギルド、鍛冶師ギルド、羊皮紙ギルド、と数多くのギルドが存在している。


 その中で商業ギルドというのはサトリの前世でいうところの商工会議所のようなもので、その業務に『取引の仲介』というものがある。


 サトリはそこに目をつけた。


 アニムスに名前を借りてもいいかと尋ると案の定、『追加で三割くれるならいいよ』と返ってきたので商業ギルドを頼る事にしたのだ。


 商業ギルドの仲介料は一律『二割』と定まっている。


 販売する価格はなるべく抑えるが、それでもアニムスから五割取られるより若干マシだと思い、商業ギルドを頼ったのである。


 前世では大手の銀行マンに多額の融資を取り付けたサトリは年齢や孤児の不利を今度こそひっくり返そうと、意気込んで商業ギルドへ乗り込んだ。


 ―――そして、


「まぁ、こちらとしても将来的にも有望なあなたと契約出来てありがたいです。

 是非とも商業ギルドとこの契約をしてくれない?

(…昔のアリアバート商会のご子息のケリィ君よりも幼くてすごかったけど、サトリ君はそれ以上ね。

 これだけの知識、交渉力、そして実行力…。

 末恐ろしいわ、他の業突く張りな商会と契約せずに商業ギルドに来てくれてよかったわね。

 …てっきりアニムスさんの弟子という最強の手札を出してくると思ったけど、まさか使わずにこれだけの納得させるだけの手腕を見せるなんて…将来はどんな人間になるのやら。

 しかも抜け目なく特許の申請も出してるし、こりゃ完敗ね。)」


 サトリの担当をする事になったアメリア―――二十代のヒューマンで独身彼氏募集中らしい―――は複雑そうな思いを溜め込みながらサトリとの契約を交わしてくれる事となった。


 肩まで伸ばし丁寧に整えられた茶髪と利発そうな瞳をした彼女がサトリの担当を任された。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ケリィが有名だったのだと思いつつ、サトリは自分が提案した二つの事案を思い返した。


 一つ目は王都の衛生面の改善が出来る事。


 各家庭では生ゴミや糞尿を窓から捨てるのがこの世界の一般常識だ。


 だが、そんな不衛生過ぎる環境と無縁だったサトリはこの解決に走った。


 つまり、商業ギルドを巻き込んで各家庭の生ゴミを買ってもらうのだ、いわばゴミ回収業の代行である。


 生ゴミだけじゃなく今回は家庭で出る糞尿とかも回収する事になったが、分解して肥料にする予定は今のところない。


 理由としてはサトリ自身が大量の糞尿を分解するのも嫌だったし、実験的にに嫌々だが分解してみて木酢液を使ってみたはいいが臭いは減衰したようには見られなかった。


 これ以上となるともっと強力なものが必要だが、これについてはアニムスに聞かずに自力で何とかしようと思う事にしたサトリは回収した糞尿は魔法で地面に大穴を空けてそこに放り込む事にした。


 肥溜めにするという手もあったが、手順を間違えると赤痢といった疫病が流行る可能性がある為素人のサトリでは手を出す気にはなれなかったのだ。


 こういう衛生面は国が何とかするとサトリは思っていたが、下水道すらないこの王都に期待は出来なかった。


 そして二つ目だが疫病対策である。


 この王都では何十年かに一度、疫病が流行るのだ。


 それは間違いなく王都に蔓延している生ゴミや糞尿が乾燥し、その乾燥した微粒子を人が吸うのが原因だ。


 他にも子供が地面に落ちている汚い物に触れたり、汚れた手のままで食事をしたり、衛生面に気を使っていないのも原因でもある。


 サトリはそれとなく近所の住人に衛生面への呼びかけを根気よく続けていて、大人顔負けの説得力に肯かされた世帯は手洗いとうがい、出来る限りの衛生管理をするようになっていった。


 サトリは今度こそ人生を満喫してから全うしたい。


 前世では出来なかった経験をたくさんして、満足して死にたいのだ。


 対処可能な疫病に罹って死ぬ訳にはいかなかった。


 ちなみに、王都郊外に敷地も借りてそこで分解作業をする事になっている。


 孤児院の隣は教会であるためこれ以上は迷惑になるので、提供されたサトリはアメリアに感謝していた。


 もちろん関係者以外立ち入り禁止である、臭いでサトリ以外は近寄らないだろうが。


 ―――それにしても助かった、とサトリは思った。


 サトリは営業や交渉を異能で乗り切る気満々だったサトリは商業ギルドへ何度も頭を下げた、心の中で。


 売り上げの二割を払うだけで原材料の買い取り、肥料の販売業務の代行をしてくれるなんて、商業ギルドには感謝してもし足りなかったからだ。


 どう考えても割に合わないだろうなと思いながらも、何年か後に仲介料の増額をされても快く受けようと思うサトリだった。


 自分だけの商会を作るという前世の夢の続きをするもの悪くないが、まずは土台をしっかりとしなければと思った。


 まだ商業ギルドに登録出来る年ではない為に先の話ではあるが、前世の技術や娯楽を持ち込めばいい勝負が出来るんじゃないかとサトリは見ていた。


 技術の持込は年齢を問われないなんて抜け穴があるから、登録しなくてもどうにでもなる。


 大雑把な計画ではあったが、詰めれば何とかなるのではと思ったサトリであった。


「…それじゃあ僕はこれで。

 師匠のお店に行かないといけないんで」

「将来の大錬金術師様は今日もお仕事か、大変じゃない?

(聞くところによると毎日通っているらしいし、十歳じゃ辛いんじゃないかしら?

 せっかくの有望株を過労死なんてさせたくないから、無理はしてほしくないんだけど…。)」


 アメリアの本音に苦笑しながら、サトリは大丈夫だと返した。


「はい、師匠は優しいですし、俺に出来る業務は簡単な販売と片付けといった細かい業務だけですから。

 重いものなんて早々ないし、そういうのは魔法で何とかなります。

 本当に大事な物なら師匠が自分でしますから問題ないです」


 内実では面倒臭がりなあのエルフは人をよく見ているといっていい。


 サトリに出来る業務を的確に判断して指示をしているし、業務の合間の質問も許してくれる。


 面倒と思いながらも何かと助けてくれるアニムスは理想の上司兼師匠なのだ。


「そう、ならいいわ。

 契約書を持ってくるからもう少し待っていてね」


 そして契約書を持ってきたアメリアから何度もサトリに不利な条件が書かれていたり、小難しい言い回しで実はとんでもない落とし穴がないか読み返してみるがどこにも見当たらないので契約書にサインした。


 これで来月には大金持ちとはさすがに都合よくはいかないだろうが、その道筋は間違いなく立っただろう。


 サトリは軽い足取りで商業ギルドを出ると、アニムス魔道具店へと向かった。


 アニムスはサトリから追加の売り上げが取れなくて残念がる事はなく、むしろ褒めた。


 サトリも驚いたことに心の内でも褒めていたので間違いない。


 そしてアニムスはサトリに有難くもこの商品が大々的にヒットした暁には錬金術に使う道具を用意すると約束した。


 何もかもが順調過ぎて怖くなったサトリは近い内に金庫を買う事にした。



 * * *



 そして三ヵ月後、支払いの日がやってきた。


 商業ギルドへ来るとかなりの人だかりが出来ていて、サトリはしばらく待つ事となった。


 周りからはお使いに来た子供と勘違いされているのか、微笑ましい目で見られている。


 ところがサトリは技術提供者である、発明家じゃないのはサトリが考えた訳ではないので自称しないが。


「―――サトリ様、計算が終わりましたのでお越しください」


 アメリアから声がかかり、サトリは椅子から降りて受付まで向かった。


 サトリが立ち、アメリアが呼んだ『彼』がそうなのだと商人たちが気付いたのはすぐだった。


「こんにちはアメリアさん、どうでした売り上げの方は?」


 一ヶ月ではさすがにそれほどの成果は上がらなかったが、二ヶ月目となると段々と購入者は増えていき、この三ヶ月目でそろそろ花を咲かせるんじゃないかとサトリは疑っていた。


 するとアメリアからは興奮しているのか大きな袋を受付のカウンターにドンと置いた。


「大成功ですよサトリ様、行商の多くがこの肥料に目をつけてありったけ買い込んでいきまして、現在在庫は空になる寸前です!!

 なのでサトリ様には追加の注文をしたいのですが、よろしいですか?

(まさか結果も殆ど出ていないのに行商の連中があれだけ買うなんて…さすがアニムスさんが囲っているお弟子さんと噂が出回っているだけあるわね。

 半信半疑でちょっとしか買わなかった連中も、来月になれば一袋でも多く買おうとするのは間違いないわ。

 サトリ君には悪いけど、開発者としてちょっと頑張ってくれないとね。

 あと私のお給料アップのためにも!!)」

「わ、わかりました、頑張ります」


 サトリは普段異能の力を抑えているからか、そんな噂を全く知らなかった。


 サトリは普段から人の心の内を読んでいない、四六時中読んでいたら頭がおかしくなってしまうからだ。


 小さい頃からずっと訓練して何とか抑え込む事が出来たおかげで、心を平静にしていられるのだ。


 だから普通に生活している時はサトリは異能を使わない、気になる事や面白そうな時にしか異能は使わないのだ。


 そして、アメリアが若干金銭に執着している女性と知り、気をつけるサトリなのだった。


「―――き、きみっ、君がサトリ君かい?

 私はアドバンス行商隊のアドバンスというのだが、よかったら話さないかい?

 何でも買ってあげるから、どうかな?」


 後半だけ聞くと完全に誘拐犯の常套句なのだが、このアドバンスとかいう行商人はサトリの肥料を商業ギルドで一番多く買ってくれた人だという事が分かった。


 バイヤーとは仲良くしたいサトリだが、長く話し込むとアニムスの店にいくのに遅れると困るのでやんわりと断ったのだった。


 アドバンスは行商隊の中でもよく知られていて、誘った自分もまさか断られると思っていなかったのか面喰らった。


「困りますよアドバンスさん、サトリ君は今日お金を受け取りに来ただけなんですから。

 彼はお金を受け取ったら今日もお師匠であるアニムスさんのお店で店子兼弟子としての時間が待っているんです。

 こちらとしても今後の納品などで話があるので、今日のところは諦めて、後日にしていただけませんか?」

「そ、そうか、そうだったな…」


 と、横からアメリアの助けが入って、何と穏便に断る事になったのだった。


 後ろからは抜け駆けしたアドバンスにその場にいた商人たちからのぞっとする視線を向けられていたが、本人は気にした様子もない。


「《逞しいな商人、図太過ぎるだろう。》」


 後日談だが、サトリへの面会希望が大量に来たことで一番買い込んできてくれたアドバンスだけ個人的に合うこととなり、他の商人は商業ギルドの会議室を借りて話し合いが開かれる事となった。


 更に半年後、周辺国どころか各国から肥料の大量受注がきて、サトリはこの世界に転生してきて一年目になるという誕生日会を主役だというのに欠席しそうになるくらい忙しい日々を過ごしていた。


 何故半年で大陸の反対側にまで情報が届いたのか、それは古代文明から出土した魔道具『通信魔具』によるところにあった。


 各国の上層部、名だたる組織―――冒険者ギルドや商業ギルドなど各ギルドは当然保有していて、大都市の支部ならば殆どが持っている―――はこの情報を知ってすぐさま肥料の大量注文をかけたのである。


 一時期不作の情報が入ってきて、畑を休ませるという情報を追加発信する事を商業ギルド経由でして、農業崩壊を防ぐというアクシデントもあったが事なきを得た。


 その頃には各地から豊作の知らせが王都にまで届き、それが理由なのか、気付いた頃にはサトリは世間で『豊穣の錬金術師』と呼ばれるようになった。


 孤児院の食卓と金儲けが目的だったが、思った以上の高評価にサトリは『やらかした』と気付いたが、既に時遅く。


 この世界に転生してきて一年と数日後、サトリに王宮から呼び出された。


「《…どうしよう、実は死亡フラグ踏み抜いていたのか俺?》」


 サトリは迎えに来た使者と共に馬車に乗り、王宮へと向かうのだった。




ギルバートさんは……どこに行ったんだろう、いつか出るかもしれませんね。

読んで頂き、ありがとうございました。

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[気になる点] そして契約書を持ってきたアメリアから何度もサトリに不利な条件が書かれていたり、小難しい言い回しで実はとんでもない落とし穴がないか読み返してみるがどこにも見当たらないので契約書にサインし…
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