第35話 ゆうしゃがあらわれた!! → 用はないので話しかけないでください
遅くなり、申し訳ないです。
今月…じゃなくて、今度は四、五日以内に投稿出来るようにします。
()=○○の心の声です
《》=サトリの心の声です
その日、レイヴァン王国王都シュトライゼ、その中心部たる王城で国王、レイクロードII世はある一団との階段を迎えていた。
報告にあった、勇者一行である。
当初レイクロードは彼らを勇者として最低限遇そうとしていたが、『頭の悪いガキ共』の空気の読めない発言に辟易していた。
世界を救ってみせるとのたまう割に覚悟の欠片のない軽い言葉に、各派閥の長たちも勇者一向に対する態度を最低限見苦しくないものにして、早くこの謁見が終わることを願っていた。
囀る勇者たち、その後ろでその囀りに何度も頷く頭の足りていない従者たち。
『豊穣の賢者』とはまた違う、悪い意味での『珍獣』が、そこにいた。
同じ言語を介して話しているはずなのに、どうしてこんな頓珍漢なことになったのか、レイクロードは不思議でたまらなかった。
「…ふむ、では勇者殿たちは学園に体験入学という形で―――」
「―――はい、よろしくお願いいたします、国王様」
レイクロードの言葉を遮って、礼を返した勇者に近衛騎士の目がいきり立つが、寸でのところでレオンハルトが睨みつけると、渋々という形で抜こうとした剣から手を離す彼らをよそに、事は進行していく。
去っていく勇者たちに聞こえないよう、特大のため息をついたレイクロードは宰相であるアルマンドに呼びかけた。
「アルマンド、分かっていると思うが…」
「はい陛下、アッシュフォード学園学園長、ジギルティス殿をすぐに招聘し、この件を伝えましょう。
彼の御仁の運気は過去最悪のようで、ほとほと同情してしまいますな」
アッシュフォード学園学園長ジギルティスは王権派の所属だ。
今でこそ名ばかりの王権派所属ではあるが、過去には王家の相談役となったものが多く排出されてきた名門中の名門ハインクラフト侯爵家の当主である彼は基本的にこうした場には滅多に現れない、絶無といっていい。
今代のハインクラフト家当主は王家の相談役という大役を蹴り、アッシュフォード学園という『最高の職場』で一生を終えると当主襲名の際に宣言したほどだ。
それから五十年という長きに渡って学園運営を続けてきた彼にとって、この場にいる面々は頭の上がらない相手といってもいい。
そして、根っからの『政治干渉嫌い』としても有名な彼は学園長になって二度目の『特例』を作る羽目になってしまい、今からでも怒髪天を衝く様子が容易に想像出来たその場の面々は苦りきった顔をしていた。
「また怒るでしょうな」
「怒ってしまうな、だが仕方がないのだ」
「たとえ世界のためという大層な理由があっても、怒るでしょうな」
「いい眼晦ましがおるではないか」
「豊穣の賢者と勇者がぶつかる光景が一瞬で見て取れましたな。
学園が半壊している背景も一緒に、ですが」
「…余計に怒ってしまうではないか」
「嵐が過ぎ去るのを待つか、嵐が潰されるのを待つか、二つに一つですな」
物騒な選択肢を上げたアルマンドは、その場から去って行く。
この場にいる全員の想いは同じだった。
『どうか、最悪の結果が訪れませんように』
だが、そうした切実な願いほど、運命という糸は嘲笑うかのように最悪の巡り会わせを演出してくる。
この時も、まさにそうだった。
* * *
アッシュフォード学園錬金術科では総合実践演習と名を変えた行事のため、日夜防御用の護符を作る学生が他学科の学生に売り捌くという販売行為が多発していた。
とはいえ、悪質な行為をする学生は殆どいないといっていい、何せ顧客の中には本業を目指そうとする商業科生、果ては貴族、王族までいるのである。
問題を起こして貴族に睨まれてしまえば自らの将来を棒に振ってしまう可能性が高いのだ、頭の足りていない愚か者でない限りそのような『珍事』は滅多に起こるものではない。
錬金術科生は小遣い稼ぎ以外にも自らの力量を他科生に見せることで将来への布石にする、この販売にはそういう意図が多分に含まれていたのだ。
だがその中で、悪質一歩手前の販売行為をしている学生がいた。
「―――今日は水系統魔法を強化する術式を付与した護符を販売してマース。
一個につき五回強化できますよー。
買ってくれた人にはおまけでお手持ちの武器に耐久性強化の付与もやってますー。
これで金貨一枚、先着五十人さま一人一つの限定販売デース、よろしくお願いしマース」
販売をする時間は昼休憩の二時間のみ、場所は食堂の隣に臨時に設置された大型天幕で行われていた。
そこでとある錬金術科生の一人が露店とばかりに自らの商品をテーブルの上に置いて店子をしていた。
黒目黒髪で側に『フレイヤ商会出張所』という看板をつけた露店は他の学生たちの露店よりも金額設定が遥かに高いにも拘らず客足はもっともこの露店に集中している。
それもそのはず。
何せこの露店の店主は世界にその名を知らしめた大錬金術師の一人、『豊穣の賢者サトリ』が作った魔道具を露店販売している世にも珍しい場所なのである。
実力の不確かな錬金術師の卵たちの作った護符よりも、錬金術師として既に高名で実際に数多くの魔道具を生み出してきたサトリが金貨一枚で魔道具を販売しているのである。
一般的に知られている強化術式を付与した護符は金貨五枚を越す大金だ、しかも大抵が一回きりの使い切り品だというのに、規格外の護符は五回も魔法が強化できるのだという。
学園生、とりわけ水系統魔法を得意とする魔導師科生たちが友人や武器の耐久強化目的の騎士科生を巻き込んでサトリの品を買い占めようと躍起にしていた。
世の大貴族たちでさえ持っているのかも怪しいサトリの作った魔道具を買おうと、貴族の学生たちも他の錬金術科生の露店など目にも向けずにサトリの露店の周りに列を成していた。
「…わかってはいたけど、へこむよなぁこれは」
「いや、俺としては正道通り越して邪道な販売しているあいつの販売が心底気に入らないんだが」
「…勝てる訳ないだろう、国家錬金術師でも作れるのか怪しい魔道具を格安で売り出されて買わない奴なんていないって」
「それな」
「俺なんてサトリの奴と同じ水系統の強化術式をこの日のために十も作ったのに…見向きもされねぇよ」
「……ついてないなお前」
錬金術科生たちはそんな様子を見て歯噛みし、自分たちの露店の前に誰も客がいないことを見ると、はぁとため息をつく。
サトリがやっていることは至極単純だ。
誰よりも良い魔道具を作り格安で提供する、ただそれだけだ。
とはいえ、これはサトリがもつ二つ名である『豊穣の賢者』のネームバリューがなければ個々までの効果は齎さなかった光景だ。
今回のように水系統魔法を強化する護符を販売している学生がいたとして、サトリの護符と当然のように比べられて客足は自然とサトリの露店へと向かっていく。
そしてそれ以外の学生たちはサトリが作ってきた護符や魔道具が被らなかった事に安堵するが、それでも客の大半を奪われていることにため息しかつけなかった。
「あんだけ金持っているのに、まだ金が欲しいのかよ…」
「金儲けはあいつの趣味だからな、あそこまで徹底していたらため息しか出てこねえわ」
「私はサトリの魔道具が買えなくって仕方なく買いに来る学生にため息つかれるのが辛いわ…口には出していないけど、明らかにアレ比べられているもの」
「それな」
「商品が被っていなくても何度もサトリのいる露店を見られたら、余計にため息ついちまってさぁ」
「それな」
錬金術科生たちは静々と話していた。
その中には嫉妬はない、ただ場違いな実力者がせっかくの場を乱しているということに対しての憤りと消沈はあったが。
そんな彼ら彼女らの思いを知ってか知らずか、サトリは今日も露店の商品五十点を完売させていた。
客の整理をしていたフレアとガイアも一段落ついたこともあって片付けを始めている。
「今日も完売だったね」
「マスターの商品だけ買って帰られるお客様ばかりでしたね」
サトリはその理由をよく知っていた、何せ発端が自分なのだから当然であった。
将来の商売敵を潰そうという気はない、既にサトリには余りある資金力があったのでその必要性はなかった。
それでも今回のような事を仕出かしているのは、生存率を上げるためだ。
山に入って二日間を過ごし、その都度起こる問題に対処する。
大雑把に言ってしまえば演習の内容はこれであるのだが、未熟な面の多い学園生が行き成り山に入って二日間も過ごすなどどう考えても無理がある。
経験者はまだ良いとしよう、前回の演習を教訓にしているのならどうにかなるはずだ。
だが、サトリたち初年度生は違う。
右も左も知らない彼らが難易度の上がった演習を全う出来るのかが問題だとサトリは感じていた。
だからこそサトリは価格破壊の護符販売を始めたのである。
強化術式以外の護符は銀貨一枚から売っていて、販売を始めて二週間たつが、学園の殆どがサトリの護符を持っているはずだとサトリは計算していた。
転売目的の輩もいたが、そうした相手にもサトリは売った。
結果的に学生たちの身の安全に繋がるのなら良しとしたのである。
「…マスター…片付け終わった…帰らないの?」
片付けも終えたガイアがサトリの元に戻ってきた。
サトリは露店から出てくると、最後にテーブルに小さな看板を置いた。
『本日の販売は終了しました』と書かれた看板である、達筆だった。
「じゃあ帰ろうか。
デイジーがなんだか話したいことがあるっていっていたし…」
『―――もうっ、何なのですかあなたたちはっ!?』
サトリの聞き知った少女の声が天幕の外から聞こえてきて、サトリたちは出口に視線を向けた。
「…マスター」
「ガイア、聞こえてるよ。
……なんか面倒ごとの匂いがするなぁ」
出口に向かって歩いていくと、サトリの想像したとおり、錬金術科次席にしてエプスタイン侯爵家令嬢、デイジーが顔を真っ赤にしていきり立っていた。
エプスタイン侯爵家といえばレイヴァン王国において錬金術師派を束ねる筆頭貴族である。
その直系血族であるデイジーは当然ながら淑女としての教育も施されており、サトリ以外の問題において、滅多なことでいきり立つ、激昂するなどというような目を引くことはない。
そんな彼女がどうしてそこまで声を上げることになったのか、サトリは原因に目を向けると、数秒で納得した。
デイジーに対していたのは、黒目黒髪で薄い顔をしているが整った顔をした青年と、同じく青年と同じ黒目黒髪の少女だった。
一見してイーブル皇国の人間かと思う者が大半だろうが、サトリは違った。
「―――異世界人か、もう来たんだね」
デイジーから聞いていた勇者が二人もいたということについては驚かされたが、勇者の裏の事情を知るサトリからすれば『今回は犠牲者が二人か』くらいの感想に落ち着いたのだった。
サトリの声は聞こえなかったがいる事に気付いたのだろう、デイジーがサトリに振り向くと先ほどまでとはうって変わって余裕のある笑みを浮かべていた。
「…あら、サトリじゃないの。
ごめんなさいね、すぐに終わらせるからそこで待っていて。
では勇者様がた、私はこれで失礼いたしますわ、待ち人が現れたので」
「ま、待ってくれ、まだ話は…」
慌てた勇者の一人の青年はデイジーを呼び止めようとするが、デイジーは既にサトリの元まで楚々と辿り着いていて食堂を目指していた。
勇者たちを後ろに残してサトリとデイジーは食堂に入ると、既に席を確保していたのかバルトが紅茶を用意して待っていた。
「…それで、あれが勇者?」
紅茶を一口飲んで人心地ついたサトリはデイジーにそう尋ねた。
「ええ、あれが今代の勇者たちよ。
行き成り私に向かって『仲間になってくれ、君の力が必要なんだ』とか私の実力を知りもしないでいけしゃあしゃあといってきた破廉恥な男よ
(サトリがちょうどよく来てくれて助かったわ。
あれでも引き下がらなかったら、魔法が出ていたかもしれないし)」
デイジーの本音も聞けて、サトリは余程今回の勇者―――異世界人はデイジーの興味どころか不快を誘ってしまったのだと知れて安堵したのだったが、それに本人は気付かないでいた。
「困った人たちみたいだね、どうしてこの学園に?」
「体験入学らしいわ、迷惑な話よ
(せっかくサトリと一緒にランチをしようと思っていたのに、余計な邪魔をして…また何かあったら敵認定ね)」
勇者がいることで世界は期待と不安の天秤が大きく揺れ始めているが、デイジーにとって勇者とは日常における余計な要素でしかなかったようである。
「―――ねぇ貴方、サトリ君、って言うのかな?」
―――と、デイジーとの会話に突如として入ってきたのは、もう一人の勇者の少女だった。
勇者の従者なのか、妙に顔面偏差値の高い美青年たちを側に置いている少女はふわりとした笑みを浮かべてサトリに向かって手を差し伸べた。
「あたし、ホノカっていうの。
わたしと…友達になってくれない?
(さぁ、サトリ君ルート切り開いちゃうぞ!!
サトリ君は『触れた相手の心を読めちゃう異能』を持っている子だから、手に触れた瞬間サトリ君に対して敵意がないことを思い浮かべておかないとね!!)」
「(……この女は敵ね!!)」
サトリがホノカと名乗った少女の心が聞こえたと同時に、デイジーからホノカへ敵認定がされたことで、サトリの方針は決定した。
いくつか気になる声が聞こえたが、とりあえずは一言。
「………食事の邪魔だからあっち行って、あと用はないので話しかけないでください
《……うわぁ電波だぁ》」
中身と外見に天と地ほども差のある目の前の少女に、サトリはドン引きしていた。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想ご指摘お待ちしています。




