第34話 合宿するんだって、不参加でいいですか?
今日は2016/11/27の24:20です、OK?
()=○○の心の声です
《》=サトリの心の声です
新学期となり、アシュフォード学園ではある行事の準備が進行していた。
学外実習改め、総合実践演習という。
なぜ改められたのかといえば、最近噂されている『勇者召喚』が切っ掛けのようだとサトリは聞いた。
勇者が召喚されたということは、魔王が再びこの世界に訪れる可能性が現れたということ。
それならば、もっと高度で実践的な演習を学園生たちに身をもって知ってほしい、そういう意図が含まれているのだという。
高度で実践的な演習を受けられることを喜ぶ者もいたむしろこれが出し多数だったが、サトリにとっては傍迷惑な話でしかなかった。
「―――マスター、辞退の申し込みに行かれるのですか?」
サトリの為に緑茶を淹れているフレアが確認とばかりに尋ねた。
主人の意向をよく知ることは、執事にとっては当然のことだからだ。
この場にはフレアしかいない、他の魔導人形は奴隷たちへの世話に追われているため、今日はサトリの屋敷で留守番である。
ストッパー役のガイアがいない今、野放しになった一人と一体を止める者はいなかった。
こうして学園内にある自分の研究室で優雅な一時を過ごしているのだが、やっていることといえば行事を不参加するための悪巧みをしていただけだった。
「忌引きはどうだろう?」
「マスターは孤児でございますれば、言い訳にしても無理があるかと思われます」
厳密に言えば、サトリは孤児ではないとサトリ自身は知っていたが、今の両親たちに対して良い感情を持っていないサトリとしては理由の一例としてあげたが、最も使いたくない言い訳であった。
「師匠が倒れたからその看病とか?
引き篭もりだし、バレないと思う」
「高名で知られるアニムス様が倒れたと知れた時点で世界的な混乱に陥るかと。
事実確認のために魔道具店へ訪れた者が必ず現れるでしょう。
そして嘘がバレます、加えてアニムス様にもその件がバレてしまい、お仕置き確定です」
それを聞いた瞬間にこの案を即座にボツにしたサトリはアニムスと関わらず且つ使える言い訳を考えようとしたが、良案が浮かんでこなかった。
「…じゃあ、俺が怪我とか病気とかになって…あ、師匠が確実に治すから意味無いや」
サトリが意識不明の重態、あるいは死病に罹ったとしても、師であるアニムスがたちどころにサトリを癒してしまうだろう。
なまじ人の心を読めるサトリは、アニムスというハイエルフが困難や苦境といった逆境に対して鼻で嗤い、圧倒的な魔法技術で回復させてしまうことをよく知っていた。
「まったくもって、八方塞です。
不参加になるために熱意を滾らせるのでなく、参加することの意義を見出した方が、遥かに建設的なのでは?」
「それはそれで負けた気がする…」
誰が聞いても首を傾げてしまうだろう言葉を恥ずかしげもなく言ってのけたサトリに、声をかける者がいた。
「…よくもまぁ、私のいる前でいけしゃあしゃあと言えたものだ」
―――バルアミー・サミュエルス・ケルヴィン。
サトリと同じくこの学院に在籍する学生にして文官派を擁する ケルヴィン公爵家の人間だ。
普段は腹に一物二物三物と抱えていそうな、胡散臭い笑みを張り付かせた緑髪のメガネ美青年だが、今はその仮面を剥がし、忌々しそうな表情を隠そうともしない彼はサトリを睨みつけた。
ちなみに、彼のテーブルの前には緑茶とねりきりが置かれているのだが、一切手につけていなかった。
サトリの用意した物を不用意に手につけない経験者特有の行動である。
「バルアミー様、ボクは総合実践演習なんて怖いこと、したくないですぅ…きゃぴ?
《…うん、これはさすがに気持ち悪いね》」
明らかに馬鹿にした表情をしながら後悔したサトリだが、当然バルアミーが了承するわけもない。
「やめろそのぶりっ子とか媚とかその他もろもろ混ぜ込んだ顔をするのは、殺したくなる」
殺伐とした返答になってサトリの元へ戻ってきた、当然の結果である。
「じゃあ面倒臭いんで行きたくないんですけど、公爵家の権力で何とかなりません?」
「他の派閥から糾弾されるから絶対にしない、ざまあみろ」
胡散臭い笑みでなく本当に楽しそうな笑みを浮かべたバルアミーにサトリは弄りすぎたかと後悔するも、反省はしなかった。
ふざけて駄目なら真面目にしようとここに来てようやく方針転換をしたサトリだが、バルアミーからすれば最初からそうすればよかっただろうにという話だろう。
「じゃあ真面目な言い訳を。
最近世間が物騒だから、ちょっと護符を量産したいんです。
学園の行事よりそっちを優先したいです」
「自分の目で世間の物騒さを知れて良い事だろう。
万が一の時は騎士団を配備している、心配は要らない。
…というか、お前はあれだけ作っておきながらまだ作る気なのか?」
世間が騒がしいということもあり、学園側も万が一を備えて騎士団の要請をしていた。
生徒の中には王族や高位貴族の子息子女も多く在籍しているためか、要請は難なく通ったとのことだった。
サトリとしてはこの要請が蹴られてご破算になってくれればと思わずにはいられない展開であった。
「…まぁ、奴隷たちの分も作らないといけないから今の在庫の三倍は作れば少しは安心すると思いますね」
自分の為に使う護符、奴隷の為に使う護符と分けているサトリだが、まだまだ在庫に不安の残るサトリとしては想定していた危険な事態に備え、現状の三倍多い数の護符の在庫を作ることを目下の目標としていた。
「…作っておきながらいまだに始まらない商会か、貴族の私が言うのもなんだが、遊びじゃないぞ?」
「無論、わかっていますともバルアミー様。
商会の目的は基本的に金儲け、どこまで行っても利益追求の徒なのです。
けど、奴隷たちの教育が最優先事項かな。
あんなみすぼらしくてふにゃふにゃした連中を最低限鍛えないと物にならないから」
別段サトリとしても奴隷たち全てに教育勅語を完璧にマスターさせて、五桁の暗算が出来るような、といった無理無茶難題を押し付けているわけではない。
必要最低限の、最低基準に達成していない者たちに、『異世界式接客法』を叩きこんで、そろばんを使った計算技術を叩きこんでいるだけだ。
それでもこの世界からすればかなりの高水準だと判断したサトリは徹底して奴隷たちに最低限の教育を施していた。
無論相性の良い悪いもあるため、相性の悪い者に対しては本当に最低限の教育を、自分の名前や伝票が読める程度の学力を教え込んでいた。
「…ともかく、演習の辞退は認められん。
特例としてお前の持つ最高戦力は連れて行っても構わない、あくまで護衛としてだがな」
演習の主旨の中には『危機管理を身に付ける』というものもあるが、個人で既に異常なほどの護符で身を固めたサトリは十分過ぎるほど危機管理を徹していた。
そこから魔導人形たちを連れて行くとなればどう考えても過剰戦力だ、本来ならば受け入れられないだろうが、これもサトリにこの演習を受けさせるために必要な措置であった。
「……仕方ない、今日のところは勘弁してあげます」
「勘弁してやろう、精々励むといい」
バルアミーは席を立つと、研究室から出て行く。
最後に、とバルアミーは入り口前で立ち止まると、振り返ってサトリを見た。
「そうだ、勇者の一行の中にイーブル皇国の者がいるらしくてな。
サイジョウ・タカネという、お前を何年か成長させたら瓜二つ…といった様な風貌の男だが…サトリ、何か知っているか?」
「……知らないですね、心当たりもないくらいです、他人の空似ってやつですよきっと」
サトリはそのサイジョウ何某について、バルアミーに対して知らないといった様子で返し、バルアミーはサトリの言葉を真正面には受け止めず、『そうか』と言って頷くと、研究室から去っていった。
バルアミーたちの去った研究室では、眉間にしわを寄せたサトリにフレアが声をかけた。
「マスター、サイジョウ・タカネという男にお心当たりがおありなのですか?」
「……さぁねぇ」
酷くつまらなさそうな表情を浮かべるサトリに、フレアはそれ以上何も聞かなかった。
冷め切った緑茶を一旦捨て、新しい緑茶を淹れ始める。
出来た執事は、主人が口にしたくないことにあれこれと聞くような、無粋者ではないのである。
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