第33話 勇者召喚されたんだって、それだけ
皆様お久しぶりでございます。
新章開始です。
()=○○の心の声です
《》=サトリの心の声です
(サトリ視点)
最近物騒な話をよく聞く。
隣国で悪魔が出たとか、どこぞの商業都市の一つが一夜にして滅ぼされたとか、血腥いものが多い。
怖い怖い、悪魔の話が出たということはその上位者である魔王もいつかは出てくるんだろうなぁと思いつつ、俺は普段と変わらない生活を送っていた。
いや、変わったことはあった。
「―――ほら、残さず食べな。
獣人にもエルフにもドワーフにも食べられない食材は使っていないから。
獣人はお代わり四杯、ドワーフは三杯、エルフは二杯までね。
お代わり制限は栄養失調中の体に無理して食べ物詰め込んでも気分悪くなるだけだから、変に気を悪くしないように。
はい、手を合わせてー?」
『いただきまーす』
長期休暇をエプスタイン領に行って楽しんで王都に帰り、面倒な水道工事をこなしながら怖い狼さんとO・HA・NA・SHIした後、俺はかねてより計画していた商会を立ち上げた。
名前は『フレイヤ商会』である。
北欧の女神フレイヤから戴いた名前で、豊穣繋がりで使わせてもらうことにした。
うん、フレイヤのお兄さんのフレイも豊穣を司っているけど、まぁ男神よりは女神かなぁという気分により決定した。
それに、フレイとフレアって一文字違いでなんかいやだしね、フレイヤならその辺り心配がない。
その代わり、俺の知人友人からは『フレイヤって誰よ』なんて質問をよくされるようになったが、豊穣を司る神様の名前と答えた、嘘は言っていない。
そして俺がせかせかと新しい家で料理を作って出している相手は俺の商会の従業員、世間では亜人と呼ばれている者たちだ。
全員奴隷でそれなりに値は張ったが、まぁ裏切られる心配もないしちゃんとした雇用契約の元契約を交わしたから、そこまで不満は持たれていない。
最初こそ疑ってかかっていた彼らも半月も経てば険も取れるというもの、今では笑って食事を取っている姿を見せてくれる様にまでなった。
商会長になったのは一番の年長者であるソルトというしょっぱい名前を持ったエルフだ。
今は滅んでしまったエルフの一部族の族長の家系…だったらしく、他の奴隷とは違って高級奴隷な彼は優秀でノルマ達成してもこの商会にいてくれるとまで言ってくれた変わり者のエルフだった。
まぁ、心の内では『本当にコイツが亜人に対して下劣な真似をしないか監視しなければ』なんて正義感溢れる思いが聞こえてきたので頑張ってほしいと思う。
ちなみに俺は今回ヒューマン種の奴隷は一切買っていない。
だって、あいつらろくな技能基本持っていないのばっかりなんだもんよ。
獣人なら力仕事よし警備の仕事もよし、エルフならその美貌で接客よし魔法も使えるから警備の仕事もよし、ドワーフなんて他の二種の亜人より桁二つも高かったけど技能も良いし腕っ節もあるから警備の仕事もいける…うん、種族的な性能なんてろくすっぽなひょろいヒューマン買うよりも亜人買った方がマシなんだよね。
ヒューマンの奴隷って大抵が借金苦に親が子供を売ったなんていう涙を誘う話をよく聞くけど、それでも何の技能のない金喰い虫にしかならない子供を買う…なんて自己満足にもならないことはしない。
同族だからといって哀れみから買うとか…絶対にしたくない。
そんな子供を一人でも買ってしまえば他の奴隷まで買う理由ができてしまう。
俺は慈善事業で奴隷を買っているんじゃない、ビジネスのために奴隷を買っているんだ。
それに、奴隷だからって一生解放しないだなんてアコギな商売はする気はない。
全員をノルマ制にして目標金額に達したらちゃんと奴隷の身から開放すると契約書に盛り込んだ上に、出立の為の支援までするといういたせりつくせりの契約をしたんだ。
どこぞの貴族からは『差別だ』なんて言ってきたけど、ヒューマンの奴隷って大抵が借金奴隷か犯罪奴隷だけど、亜人の奴隷ってその殆どがヒューマンに騙されたりして借金奴隷になったり、無理やり奴隷商人に捕まって違法奴隷にされた…なんて胸糞悪い話しをよく聞くんだよね。
うん、この世界の大多数のヒューマンって胸糞悪い連中が多いのだよ。
独自の進化を遂げた亜人たちは獣人を除けば出生率が低く少数派だ。
―――話がそれたな、ともかくヒューマンの奴隷は俺が気に食わないし面倒くさいから一切買わないと決めたのだ、以上。
商会設立してからすぐに開店はせず、従業員たちの健康状態を始め接客、金勘定、仕事のレクチャーをしていて開店休業状態が続いている我が商会だけど、金なんていくらでもやってきている。
特許料だけで生きていけるんだ、既に一生かかっても使い切れないお金がある以上有効利用しない手はないだろう。
亜人の奴隷を買いながらノルマを達成した奴隷を解放して、また新しい奴隷を買っていく。
その間に商会は更に利益を上げ続け…という計画書を俺は師匠であるハイエルフ、アニムスに渡した。
師匠はといえば同族だろうがなんだろうが捕まって首輪をつけられた間抜けに興味なんてないらしく『好きにしても良い』と許可が出たのであと二人、この大陸の監視者である獣人の監視者とドワーフの監視者にもお伺いを立てた。
エルダードワーフのハルヴァールとシンウルフのデウスはアニムス魔道具店の一室で酒盛りをしながらサトリの話を聞き、アニムスとはまた違って前向きな返答を返してくれた。
『『頑張るんだな』』
どうだろうこのお言葉、薄情な師匠と違って笑いながら返してくれた子のお二人の言葉は。
…興味なさ過ぎでしょう何なのこの監視者たち、同族に厳しいね人のこと言えないけど!!
特にハルヴァールの爺ちゃんは人の良いドワーフにしか見えないのに中身がドスパルタな発言が多い上にうっかり失言とかすると金鎚(おそらくオリハルコン製)ぶん回して襲ってくるイカレ爺だった。
―――うん、話が逸れそうなので軌道修正しよう。
現在俺は従業員たちとの関係を新築したばかりの家で深め、来るべき隠居への資金集めの日々が―――、
「大変よサトリ!!」
勝手知ったるなんとやら、俺の家に入ってきたのは最近まで行っていたエプスタイン侯爵領を治める大貴族、エプスタイン侯爵家の令嬢デイジーだ。
お付の執事もいるので、フレア辺りが通してしまったんだろう。
ていうかデイジー、君俺に堂々と告白してきてアタック宣言しているだけあってかなり厚かましくなってきているね別に嫌じゃないけどさ…。
侯爵家の令嬢が平民の俺の家にやってくる…変な噂立ってそうだなぁ。
「いらっしゃいデイジー。
前にも言ったけど侯爵家の令嬢がそう日中に堂々と平民の家にやってくるのはどうかと思うよ?」
「夜に来た方がもっと怪しまれるから気にしないわ。
それに、平民というけれど貴方は世間では『豊穣の賢者』なんて呼ばれている凄腕の錬金術師よ?
そしてエプスタイン家は錬金術の大家、その家の娘が貴方の家にやってきておかしな点はないでしょう?」
バリバリあるよ、超あるよデイジー。
色々と言いたい事はあったけど、面倒なのでやめた。
デイジーは不思議なことに俺に対して好意を言葉と態度で示している稀有な人間で貴族の少女だ。
後ろからは元冒険者の執事バルトが現れていて俺に対して一礼していた。
こいつ本当に面倒な時は離れているよな、良い性格してるよ。
「勇者よ、勇者がこの世界に召喚されたのよ!!」
「……ふぅん?」
嫌な単語である異世界人の存在を聞いて、生返事をしながら俺はお代わりを希望したドワーフに野菜スープ肉増し増しを特製どんぶりに並々とよそった。
勇者かぁ…嫌な時代に転生したなぁ俺。
* * *
新たな勇者は召喚されたイヴェルダ教国から遠く離れた西国、イーブル皇国にいた。
といっても、彼らはこの国を去る為、皇帝ミツルギのいる皇城へ登城していたのだが、突然の来訪に皇城は慌てて彼らを迎え入れた。
「…そうか、行くのか」
齢六十には見えない壮年の男―――皇帝ミツルギは玉座で肘を突いたまま、目の前の勇者たちを見やった。
狼の獣人族の少女にエルフの少女、イーブル皇国では珍しい人族の剣士の少女、そしてイヴェルダ教国から本来出られる筈のない聖女と呼ばれた人族の少女。
彼女ら三人を控えさせ先頭に立つユウジというまだ十代半ばと見られる勇者。
対して、もう一人の勇者はというとまるで反対だった。
狼の獣人族の青年にエルフの青年、イーブル皇国でその名は知らないとされる大商会の子息、そしてイヴェルダ教国に三人しかいない聖騎士と呼ばれた人族の青年。
彼ら三人を控えさせ先頭に立つホノカというまだ十代半ばと見られる勇者。
二人の勇者を内心ミツルギは『こんな子供に魔王が倒せるのか』と疑念に駆られるが、そんな表情はおくびにも出さない。
魔王という世界の敵に戦いへ赴くのならもっと実践経験豊富な人選をするはずなのに、構成されている殆どが年若い者たちだった。
将来性を見越した上での人選ならばと思わなくもないが、それにしても少人数過ぎた点は否めない。
見栄えを重視したのではと思いかねない程に頼りない勇者たちに、ミツルギの表情が険しくなる。
「はい、短い間ですがお世話になりました皇帝陛下」
「このご恩は世界を平和にしてお返ししてみせます」
二人の勇者の言葉にミツルギは目を細め『うむ』と言って頷いただけだった。
国内の問題だけでも頭が痛いのに面倒がやってきて、ミツルギの忍耐も限界だったが、それも一ヶ月を経て今日で終わりだ。
誠意の欠片のない社交辞令も皇帝に対する無礼無作法もこの際全て見逃す。
だから、さっさとこの国から出て行ってくれ。
それがここ最近のミツルギのささやかな願いだった。
去っていった勇者たちに、重臣の一人がミツルギに苦言を入れた。
「陛下、あの小童どもは今度はレイヴァン王国へ向かうと言っておりましたな。
先回りして王国へ親書を送りましょう、でないと後々厄介になりますぞ!!」
「そうだな、それが良かろう。
レイヴァン王国には世話になっておる、少しは我が国が友好的な所を見せておかねばならん」
支援物資の件でレイヴァン王国には当面の間友好的な関係を維持しておかなければならないことの重要性を十二分に理解しているはミツルギは急ぎ執務室へと戻っていく。
勇者が引き起こした問題はささやかなものから大事になったものまで多岐に渡っていた。
冒険者ギルドでの乱闘を始め、闇ギルドとの闘争、皇国貴族との衝突、エスカレートする度に皇国が仲裁に入る羽目となった。
国内が荒れているこの時期にいらない恨みを買ってしまい、ミツルギの表情からは険しさが取れるのは当分先だろう。
イヴェルダ教国の門を掲げた頑丈な馬車に乗った一向よりも早く皇都ミヤビを発った高速馬車は勇者がレイヴァン王国にやってくる五日前に親書が届いた。
そして、新たな騒動の発端になりうるとある二人が勇者来訪の知らせを聞いたのは、その二日後だった。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想ご指摘お待ちしています。




