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閑話(8) おおかみだああああああああっ?

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

これにて閑章は終わりで、次章になります…がいつかは不明です。

 

 



 混沌としていた自体から一変、孤児院の食堂に案内されて一同は会した。


 サトリ、デイジー、フレア、アニムス、デウスの四人と一体はイスに座って黙ったままだ。


 サトリは眠いのか、舟を漕ぎながら一行に始まらない話し合いをただぼうっと眺めていた。


 事情はなんとなくだが察している。


 中央からの監視者、通称灰燼の蒼狼と呼ばれるデウスなる獣人が口を開かないことが原因だ。


 サトリは益体もなく『蒼狼って言う割りに毛色は黒じゃん』と思っていたりと、だらりと足をぶらつかせて遊ばせていた。


 デイジーが隣で行儀の悪いサトリに声をかけるが、意識が遠退き始めているサトリの耳には届かない。


「…坊主、お前さん俺を見てもなんとも思わねぇのか?」

「…んぅ?」


 デウスの声がよく聞き取れなかったのか、のそりと顔を上げるサトリはデウスに向き直った。


「だから、お前さんは俺が怖くねぇのかと聞いてる」


 異能を使っていないからか、デウスの意図に理解できていないサトリはデウスの質問に適当に返した。


「悲鳴をもう上げた人がいるし、大きいなーってくらい?

(おおかみだーって悲鳴上げてもねぇ…どうせ生殺与奪はあっちに握られているし、いまさら何かリアクション起こしてもねぇ)」


 気の抜けた答えにデウスも拍子抜けしたのか、巨躯の割りに分かり易い耳をピコピコさせて首を傾げた。


 サトリの言葉に嘘が無いとわかったのはいいが、求めていた答えと違って困惑している様子が伺えて、サトリはそんなことに興味も無いのか、あくびをしていた。


 普通の人間ならば、真っ当に答えてデウス好みの答えを返せば良かったかもしれないが、サトリの持っているような異能も無しに嘘を嗅ぎ分けるデウスに小細工など通用しない。


 物理的に逃げる手段も無くは無いが、魔導人形四兄妹の中で最速のエアがいない以上、逃げられる筈もない。


 無駄な徒労はしないと決めているサトリは沙汰を待つ被告人としてだらだらと待つのだった。


「お前さん、世間でなんて呼ばれているか知ってるか?」

「恐れ多くも豊穣の賢者なんて大層な名で呼ばれてるね、迷惑な話だ」

「その割にはその手の技術ばっかし作ってるじゃねえか?」

「金になるからね、この世で一番多い消費者は貴族や王族じゃなくて平民階級だから。

 世間が呼んでるような大層な名じゃなくて、金の亡者って呼ばれた方がまだいいよ」


 結果的に生産技術向上の功績が大きいと見られているサトリだが、実際は経済戦略の元動いたに過ぎない。


 確かに金を持っている貴族や王族に強力な魔道具を売って大金を得るという手は有機肥料が軌道に乗った頃に一度だけ考えたことはあった。


 だが、アニムス魔道具店にいた頃から貴族に対していいイメージを持っていなかったサトリはどうしても特権階級たる彼らと良い関係を持ち続けられる自信がなかったのである。


 それならばと、少しは強気に出られる平民階級の中でできる範囲で金策に走った結果がこれだ。


 確かに国を動かしているのは王族であり、その元にいる貴族たちだが、実際に動いているのは民だ。


 塵も積もれば云々とはここでも使えるが、たとえ安い物でも世界中の貴族と王族の総数と世界中の平民の数を比較すれば、どちらをメインターゲットにするのが良いかわかるだろう。


「そんだけ金を集めて、お前さんは何がしてえんだ?」

「引き篭もるための準備資金だよ?」

 当たり前のように返したサトリに、今度こそデウスは固まった。

「……アニムスよぉ、この坊主本気で言ってるぜ?」

「だから言っただろう、この子は心配いらないと」


 苦りきった顔をしているデウスに、自慢げに返すアニムスにサトリは首を傾げるが、よく分からないので気にしないことにした。


「面倒くさいことはしないのが一番。

 権力者なんて最たるものだよ。

 何が面白くてどうでもいい人間の為に働かないといけないのか理解できない」


「……なんでだろうなぁ、危険思想を持っていない異世界人だとほっとしているんだが、もう一方でずいぶんと変わった異世界人だなぁとも思うんだが」


「サトリの良いところだね」

「良いところなのか?」


 調子が外れているのか、デウスは首を傾げるがアニムスが納得しているので一旦保留した。


「…賢者様、悪いところは悪いと仰っていただきませんと」


 デイジーは頭を抑えてサトリの聞き捨てならない言葉を注意してほしいと言うが、アニムスは大丈夫だからと何の解決にもならない言葉を返したのだった。


『異世界人』ととんでもない発言が飛び出したことにデイジーも驚いたが、思い出せばサトリがやってきたことは御伽噺にあった『異世界人』のやってきたことと非常に酷似していたことだ。


 とはいえ、この場でデイジーが話の中心に入ることおいそれとはできない。


 胸に秘めておいて、後日サトリに聞くことにしたのだった。


「十五歳になったら島に引き篭もる予定だし、たまにしか帰ってこないから殺されなかったらある程度言うことは聞くよ?」


 素っ気無い命乞いだが、自分の命が風前の灯だと理解しているからの発言にデウスもどうしたものかと唸った。


 デイジーはサトリがデウスに殺されるのではとここでようやく気付きはっとするが、サトリの様子から抵抗が無意味だと悟って投げ遣りな態度のサトリに歯噛みした。


 自分が何の助けにもなれない不甲斐なさと、好いている相手を庇えるだけの力がない無力さ。


 そして、自分がサトリにとって未だ秘密を打ち明けてもらえない第三者だということが悲しかった。


 ここで泣いたとして、サトリは驚いて慌てるだろうが、それだけだ。


 それ以上の慰めの言葉はかけないし、先の言葉通り引き篭もるまでの時間はもうあまりない。


 悲嘆に打ちひしがれるより、もっと建設的な、サトリを振り向かせるための努力が必要だとデイジーはサトリの手を勝手に繋いで新たな決意を誓うのだった。


「……ん?」


 なぜ手を繋がれているのか理解できずに胡乱な目をデイジーに向けるサトリだが、余計な茶々を入れることはせず、デイジーの好きにさせるのだった。


「―――まぁ、そこまで覚悟…いや、覚悟か?

 そういう態度を一貫してるなら俺は何も言わねぇよ。

 爺さんが来るまでゆっくり王都見物して、久しぶりに三人で酒飲んで騒いだ後また帰るわ」

「うぇ、監視者揃いぶみとか生きた心地しないなぁ」

「翁は基本温厚だから心配はいらないよ?

 怒ったら炉に放り込んだり金槌で潰すくらいだね」

「心配出来る要素皆無だね師匠

(過激とか言われてたこの狼さんが一番まともそうだから、師匠の発言からするとやっぱ翁とかいう監視者はまともじゃない?

 …ダメだ、感覚の違う師匠の保障って本当にあてにならないよ)」


 サトリは自分の寿命が延びたことにほっと一息つくが、新たな監視者の来訪に戦々恐々としながら―――危機感はやはり皆無であるが―――のんべりだらりと、眠気に揺られるのだった。




 * * *


 イウェルダ教国、首都メモリア。


 アースラ大陸中央に位置する彼の国では今、今後の未来を左右する重要な審議が行われていた。


「―――では、やはりマール大司教の罪はレイヴァン王国に知られていると見ていいでしょうな」

「そも、あの地には監視者であるアニムス様がおられる。

 基本俗世に関わらぬあの方のことだ、捨て置かれたのだろう」

「手を出した豊穣の賢者という少年へのアプローチはこれで完全に断たれましたな。

 商業ギルドの守銭奴共があの手のこの手で妨害して既に目はなかったが、これで潰えましたわい」

「かの少年は賢者殿も認めたい世界人だという。

 そして少年の手はその気になれば商業ギルドを通して我らが教国に伸ばせるほどに長い。

 これは後々になって祟りますぞ?」

「教皇猊下、この度のマール大司教の失態について、どうお考えか!?」


 大陸において五人からなる枢機卿たちはイウェルダ教の指導者にして国の長である、ラムセス十三世を睨み付けていた。


 ラムセスは枢機卿五人を睨み返すがその目力は弱く、ここまで分かり易い失態をした大司教―――マールはラムセスの甥であることから大司教になれた―――を庇うことはしなかった。


 そも、今回の一件でラムセスは教皇の座から降りることを決めていた。


 それは大陸西部にあるレイヴァン王国、そしてその地にいる監視者であるアニムスからの手紙があったからだ。


 教会でもマールが起こした自殺(・・)についてレイヴァン王国からの調査報告を送られてきた。


 調査報告によれば娼婦を大聖堂に呼び込んだ挙句、何を思ったのか翌朝娼婦が目を覚ますとマールの死体があったという不可解なものだった。


 神職にある者が娼婦を呼び込んでいたこと自体が不祥事であること極まりないことだ、しかもそのことをレイヴァン王国に知られているという大失態を犯していて、レイヴァン王国におけるイウェルダ教の権威は地に落ちているだろう。


 そもそも大陸中央から外へ外へと遠ざかるほどその地にいる者たちは現在のラムセスの教会運営に沿わず左遷される地という面が強くある。


 それを甥であるマールに大陸西部の纏め役にして監視役にしていたのだが、マールはその任を全うせず、ラムセスの権威をかさにきて好き放題にしていたらしい。


 ラムセスは全うな信心に厚い宗教者ではなかった。


 元を辿れば小さな商会の次男で、食っていくためにイウェルダ教へと入信したのである。


 ラムセスは生家で生まれてきた経験を活かして入信者を増やし、寄付を増やし、後ろ暗いことに手を染めてたった一代で教皇にと就いたのだ。


 その所為で現在のイウェルダ教の腐敗が一気に加速している点からしても許されざるものだ。


 ラムセスの政治基盤は強かった、商業ギルドを味方に付けての彼の権勢は教皇に就いて二十年経っても衰えていなかったのだから。


 だが、今回の一件でそれも潰えた。


 レイヴァン王国からの報告、そして監視者であるアニムスからの手紙。


 イウェルダ教にとって、アニムスたち監視者は特別な意味がある。


 このアースラ大陸においてイウェルダ教とは監視者たちが作った都合のいい宗教だった。


 イウェルダ教は異世界人たちが起こした惨劇の尻拭いをさせるために作られた組織であり、腐敗していようとなんであろうと、最終的にアニムスの命令に従っていればその地位は約束されていた。


 ラムセスたちが表とするならばアニムスたちは裏、真の支配者であるアニムスたちの命令には逆らえない。


 その監視者の一人であるアニムスから、弟子であるサトリに手を出したことで勘気に触ったという全容を書き記した手紙がラムセスを含む五人の枢機卿から提出され、今回の審議になったのである。


「……よかろう、もう一つの議題が可決され次第、ワシは教皇の座から降りよう」


 疲れた表情をしたラムセスは枢機卿たちの目が笑ったことに気付いた。


 彼らもまた腐敗に身を置いた者たちでラムセスの地位を狙っていたのだから、今回のマールの件は彼らにとって最大のチャンスだったのだろう。


 自身も腐敗に手を汚してきたラムセスはそのことに対して思うところはない、椅子から落ちてしまった自分の落ち度だと潔く諦めたのだ。


 それに、次の議題(・・)をという最後の大仕事の前に、後のことなど知らぬとばかりに投げ遣りになってもいたが。


 手元に束ねていた羊皮紙を枢機卿たちに見せた。


 枢機卿たちは羊皮紙を見て驚愕する。


「こ、これは!?」

「恐ろしい、大陸東部でこんなことが?」

「…東の監視者様からの、今彼の方はどこに?」

「大陸西部に向かったと確か報告が上がっている、レイヴァン王国であろうよ」

「騎士団を東部に派遣せねばな、悪魔どもは最優先駆逐対象だ」


 ラムセスが見せたのは、世を密かに暗躍している悪魔たちの所業であった。


 大陸西部で現れたベヒモス、大陸東部で起きた大規模な反乱。


 そして、最近大陸中央で異世界人が起こした反乱も悪魔が関わっていた可能性があると中央の監視者であるデウスから報告が来ていた事も分かっていた。


「ワシはこれで教皇の座を降りるが、最後の大仕事だけはしておこうと思う。

 これだけの被害がある以上もはや『魔王』がいつ再来するやも分からん。

 ワシが降りたあと権力争いで時間をかけている内に魔王が再来すれば監視者様からのお叱りは避けられんじゃろう

 そうなる前に、それに対抗する異世界人―――『勇者』を召喚する事について審議しようと思うのだが、どうかね」


 かつての異世界人たちの最大の罪、それは異次元から悪魔を呼び、果ては魔王と目される強大な悪魔をこの世界に呼び込んだことだ。


 その所為でこの世界の次元に亀裂が走り、世界は危うい状態にまで追い込まれていた。


 それに対抗するために勇者―――異世界人を召喚して魔王を討伐させることをイェルダ教は任され管理してきた。


 目の前の枢機卿たちが権力闘争にかまけてその事を疎かにすれば、遡ってラムセスにまでその失態のツケを支払うことになるだろう。


 そうなる前に、ラムセスは教皇の座から退く前にこの案件を片付けたかったのだ。


 具体的な日程は既にしている以上、後は五人からの承認を受ければこの案は可決される。


 結果、枢機卿たちはラムセスの案を全面的に受け入れ、一週間後に勇者を召喚する事となった。


 審議が終わった後、ラムセスは教皇の座から退くこととなり、イウェルダ教から離れる事になる。


 一つの時代が終わり、また新たな時代が起きようとしていた。



なんだか詰め込みすぎな上に短い…これもまた編集するかもですね。

読んで頂き、ありがとうございました。

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