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閑話(6) 王都から面倒な話がやってきた。(上)

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

明日の21時にまた投稿です。

 






 定例会議も終わり、新しい家が出来るまでのんびりと過ごしているサトリに面会を希望する者が王都からやってきたと執事が報告にきたのは、昼食を終えてすぐの事だった。


 しかも驚くべきことに、やってきたのは王宮からの使者であったのだ。


「…すいません、聞き取れなかったのでもう一度いいです?

 …ナニ局?」


 サトリは自分が耳にした言葉を疑ったのか、使者の男―――シャリーズ子爵家当主にして新部署、『水道局』局長カーソンが冷たい笑みを浮かべて口を開いた。


「はい、もう一度申し上げましょう。

 豊穣の賢者サトリ殿、貴殿にはこの度発足された水道局新設に当たり、臨時顧問(・・・・)になっていただきたく参上いたしました。

 なお、今件において賢者アニムス様の許可もいただいております。

 こちらがその書状です」


 なにがどうしてこうなった、とサトリはカーソンからアニムスがサトリに宛てた書状を受け取ると内容を確認した。


『サトリへ、またやらかしたようだね。

 手押しポンプならともかく、何で利用法を飛躍させて『水道設備』に関する例を挙げたか師匠はとても不思議に思っています、というかそれ私に言ってないよね何やってるの?

 水道設備なんておそらくこの大陸じゃ初めて―――古代を除いてね―――の技術だ。

 特に環境を極端に破壊するような技術じゃないので許可するけど、ついていけない者たちが大多数なので、しっかり責任は取るように。

 臨時らしいから、ある程度技術を叩き込んだら放り投げてもいいよ。

 けど、中途半端は許さないからそのつもりで』


 という心温まる(?)師からの後押しもあり、サトリは視界が一瞬真っ白になった。


 書状の内容から、アニムスが若干不機嫌なのが分かってしまったからだ。


 これは昔後先考えず魔法を使って手のひらを耕したとき以来の不機嫌ぶりなのではと思うくらいに、この書状の内容の節々にその気配が見え隠れしていた。


 聞いてすぐに拒否しようと思ったサトリも、アニムスからの命令となると肯く以外他はない。


 自然と背筋がぴんと伸び、書状を恐る恐る折り畳むとサトリは先程までの不機嫌な雰囲気を押し隠し、カーソンたちに向き直った。


「…そ、その、何から教えればいいんでしょうか?

 一旦王都に戻ればいいんです?」

「明日にはこのリディティアを発ち王都へと帰参し、臨時本部となっている王宮の一角にて講義していただければと思いますが、よろしいですな?」


 既に事後報告になっているが、サトリとしても否やはない、むしろ面倒ごとをさっさと片付けられるのなら万々歳だった。


 その代わり、このエプスタイン領を予定していた時期よりも早く帰ることとなって残念だという気持ちもあったが、それはこの際ちょうど良いとサトリは思った。


 あの会合以降、デイジーと顔を突き合せるのに困っていたのだ。


「えっとデイジー様、そういうわけだから…」

「あら、私も王都に戻るわよ?」

「ええぇっ!?」

「なんでそう驚くのよ?

 当然でしょう、貴方がいないのにエプスタイン領(ここ)に残ったって仕方ないでしょう?」


 さも当然のように熱い告白を口にするデイジーにサトリはフリーズし、それを聞いたカーソンたちはぎょっとした。


「……デイジー、せめてオブラートに包んでくれないかい、兄さんちょっと悲しい」


 それまで口を閉ざしていたフランシスが妹の発言に本当に涙を流すという場面に一時事態は混乱するが、すぐに治まった。


 結局サトリはデイジーを止めることも出来ず、彼女と共に王都へと戻っていくことになるのだった。



 * * *


『水道』というのは画期的な技術だ。


 衛生面はもちろんのこと、利便性を追及した水道技術は各家庭に安定した水分補給を可能にした。人にとって必要な水分を井戸を汲む労力を使わず、蛇口を捻るだけで水が出てくる。


 そして何よりも―――この技術は、金になった。


 サトリの前世にもあったように、水道には税金がかかっていたが、この世界には水道代はなかった。


 それがサトリが商業ギルドと学園の錬金術科に提出した論文『手押しポンプとその有用性』が瞬く間に王宮へと知らされて、サトリが王都を出発した日に会議が始まった。


 曰く、この手押しポンプは主導でするが、魔道具化された『魔導式ポンプ』となれば自動化され、各家庭の炊事場や風呂場、それや不浄場(トイレ)にポンプ部分を繋げる事で安定した水分供給が可能になると書かれていた。


 そしてサトリはその時『このような大規模なものとなると国が管理する必要性があり、その管理費用と称して税を取る仕組みを作れば税収にも繋がるだろう』と書いてしまったのである。


 だが、問題点もあった。


 生活排水をどこに捨てるのかという問題である。


 サトリはその問題点を『浄化系の魔道具により解決が可能』と短く書いただけで、それが本当に机上の空論でしかないのか、はたまた可能なのかの判断が会議にいた者たちには出来なかった。


 有識者を集め、現在そのような魔道具は開発されておらず、サトリ自身が今後作るのではという推論しか出なかったために王宮ではサトリを顧問とすること、臨時であり軌道に乗ればその任を解くという条件を師であるアニムスに提案した。


 その時のアニムスは顔には出していないが、普段まったく漏らさない魔力を一瞬だが漏らしてしまい、周辺地域では気絶した者が続出して騒ぎになった。


 今回は特例という事で、政治利用されはするが期間限定という事で詳細な記録をとる事で再度サトリを招聘しないよう契約してアニムスはサトリに責任をとらせることにしたのだった。


 閑話休題(それはさておき)


 アニムスから条件を快諾され、サトリはエプスタイン領へ向かっていると聞いた王宮はすぐさまサトリの招聘へと向かったのが、事の真相だった。


 ところ変わって王都における王宮の一角では、変わった風景が見られていた。


 アッシュフォード学園の生徒が大の大人、しかも貴族の文官たちに講義をしていたのである。


「―――このように、水道を分けることで赤痢やチフス、コレラといった致死性の高い病気の発生を抑えられるほか、体力の弱い乳幼児は不浄な水を飲む必要が無くなり死亡率も大きく減らすことが予想されています」


 この時代、人口が爆発的に伸びないのは乳幼児が成人するまで生きていられる確率が低いのは衛生的な問題が多く含まれていた。


 その問題を大きく改善出来るとなれば、将来の税収や労働力の確保、果ては軍事力の確保にも繋がると、各部署から選ばれた文官たちはこぞって騒いでいた。


 そんな様子をサトリはただ呆然と見つめている。


 デイジーとはその後毎日会っていた。


 彼女はあろう事か孤児院にまで入り浸り始めたのである。


 貴族が孤児院に赴くというのはさほど珍しいことではない、特に戦争後孤児の増えた孤児院には援助をする為たびたび訪れる貴族の影があった。


 もっとも、それがサトリと会うための口実になっているのはお互い分かり切っていたが、毎日手土産とばかりに肉や野菜といった食材を持ってこられて、断り辛い状況を作られていた。


 心休まる日もないので、もう少し頻度を落としてほしいサトリの要望は隔日に減らされて小康状態を保っていた。


「サトリ殿、この『パイプ』なるものを王都に張り巡らせるとなると、かなりの資材を消費するかと思われるのだが、どのようなものを使うのだろうか?

 あと、張り巡らせたはいいが王都の景観が損なわれるのは大陸西部最大の都としては少々いただけないのだが…」


 サトリは決して都市構造を率先して学んだ訳ではない。


 留学時代、自国の歴史をレポートにするという大変時間のかかる課題を出されたとき、鎖国から経済発展し、二度の大戦の後の爆発的経済成長というのは比較し易いということで調べた切りなのだ。


「あー、主に使う資材は鉄とクロムを合成した金属です。

 比率は鉄が五割以上、クロムが一割ちょっとのもので、これは耐食性にも優れた素材で…えっと、こちらになります」


 そういって、サトリは教卓に置いていた鉱物を文官たちに渡していった。


 光沢のある艶のある鉱物で、手に持っても汚れたりしないことから文官たちも驚いていた。


 これがクロム、現状錬金術師がいなければ作ることも出来ない合成鋼だ。


 サトリの出した論文にはこうした錬金術師がいなければ始まらない技術が多くあり、炙れている錬金術師たちの雇用拡大にも繋がっていた。


 特に工業排水になればこれに魔術刻印を施すことで劣化をより防ぐことになる。


 錬金術師の必要性は更に必要とされ社会的地位の向上にも繋がると、|当時は考えていなかった<・・・・・・・・・・>がサトリは考えたのである。


「…見ながらでもいいので、続けますね。

 今回お話したのは主に上水道と下水道についてです。

 景観については極力通りに見えないように建物の裏に設置する以外に方法はないでしょう。

 そして、路上にポンプを野ざらしにして置くというのも論外です。

 よって取れる方法はひとつ、地面に埋め込むことです」


 サトリはその後経年劣化による対策や実験的な工事、その他関係のない税率の話にまで首を突っ込む羽目になってしまい、身から出た錆とはいえ、散々な日々を送っていた。


 手押しポンプを作っただけの話で終わる筈が何故か国家事業にまで関わる事になってしまい、サトリの順調だった平穏への日々は徐々に遠ざかっていくのだった。



 * * *



 結局のところ、サトリはエプスタイン領へ訪れた以外はすべて王都で過ごし、しかも悠々自適とした生活とは無縁の、否、肥料作りに奔走していた頃以上の忙しさを持って過ごしていた。


 準備が着実に進んでいく中、サトリは論文に書かれていた『浄化系の魔道具』製作に取り掛かっていた。


 最初に考えていたのは浄化槽だったが、その段階で問題が発生した。


 サトリは前世で浄化槽の仕組みを殆ど知らなかったのだ。


 なので、合併処理浄化槽のような高度な科学技術の結晶のようなものは作れず、時間をかけて研究していく予定だったのだが、水道局が新設されたばかりにのんびりと時間をかけている暇がなくなった。


 結果、サトリは『ろ過』に近いイメージをして魔道具の製作に当たっていった。


 本来ならば浄化槽ではトイレの汚水だけでなく、台所、浴場の生活雑排水も一緒に処理するのだが、実際に作るとなると設備が巨大になっていく。


 しかも今回作る魔道具は完全に魔力頼みの一品で、大量の魔力を必要としていた。


 よって魔核の大量に必要となり、高ランクの魔物の魔石が必要となったのだが、ここでも問題が発生した。


 高ランクの魔物の魔石となるとそれなりに値の張る代物となり、物価が上昇し始めたのだ。


 これに慌てたのが水道局だ。


 肝煎りとはいえ初期投資で予算の大半を魔石の買占めに走り、あまつさえそれが物価の上昇という事態に繋がるなど他所の局からどういうつもりかと突き上げを喰らったのである。


 その後、サトリは文官たちに『もっと消費を抑える魔道具にならないか』と無茶な要求をされ、事の発端となったサトリは渋々ながら請け負ってしまったのである。


 そして現在、サトリは鬱々とした気持ちで消費を抑えるために何かいい技術がないかと、魔法省錬金術課に赴いていた。


「…そう、ないんだ」

「は、はいっ、豊穣の賢者様が求められている技術は、我々も模索してはいるのですが…

(あ、あんたみたいな天才が出来ない技術を俺たちが持ってる訳ねえじゃねえか無茶いうんじゃねえよっ!!)」


 心の内からの本音に思わずそれもそうかと返してしまったサトリは無駄骨を踏んだと溜息をついた。


 国家錬金術師ならばサトリの知らない秘術の一つや二つ持っていると予想していたのだが、彼らの主な業務は兵器や武器への付与といった細々としたものが大半で、新技術に関してはあまり進展はないらしいとのことだった。


 サトリは自身のことを天才だとは思っていない、そもそもの下地が違うのだから彼らよりも広い視点を持つサトリよりも狭い視点しか持っていない彼らに尋ねること事態が間違いだったのだと思うサトリだった。


 この際、師であるアニムスに尋ねれば答えが出そうだと思ったサトリはアニムス魔道具店へと足を向けた。


 アニムスはかつての時代―――古代文明時代を生きてきたハイエルフだ。


 滅んでしまってはいるが現在よりもはるかに技術レベルの高い技術を知るアニムスならば間違いなく情報を持っていると思ったのだ。


「…あー、それかあ。

 どうしようかなぁ…アレ、は応用しようと思ったらかなり広範囲に使われるからなぁ。

 ねぇサトリ、何であんな面倒な論文を出したんだい?」


 正座をさせられて、サトリは正直に『手押しポンプメインに書いてたんで、まさかそっちに注目されてるなんて思わず』と返すと、言い終えた瞬間に引っ叩かれた。


 次いで頬をギリギリと抓られて、サトリの目元からは痛みで涙が溢れ始めていたが、それを止める者はいない。


 フレアたちはアニムスがサトリにしている『適切な指導』に対してむしろ感謝していた。


 そもそもサトリが手押しポンプのみの技術を特許申請するだけしておけば良かったものの、調子に乗ってアッシュフォード学園の錬金術科に論文として提出してしまったの今回の原因なのだ。


 それで寝不足と食欲不振で衰弱し始めたサトリはもう自業自得の見本ともいえる状態なのだが、今回に至ってはサトリの迂闊さにフレアたちも何の援護も―――ガイアに至っては呆れていた―――出来なかったのである。


「い、いひゃいふぇすふぃしょー」

「賢者は歴史を知り、愚者は経験を以って学ぶという。

 おバカで困った弟子はつい最近私が古代文明を築いた異世界人(アホ)共の愚かな実話を教えたと思ったんだけど、何でそう革新的な技術をほいほい復活させるのかなぁ?」

「い、いや師匠(ふぃしょー)?

 あれ(ありぇ)は時期的(ふぃき)にあとからで…」

「言い訳するのはこの口かい…ん?」

「いっひゃーーっ!?」


 アニムスはサトリの頬を引っ張り捻りどうして千切れないのかおかしいと思えるくらいにギュウギュウと抓っていた。


 それに呼応するかのようにサトリは悲鳴を上げているのだが、正座は崩さず身を捩って痛みを拡散させようとしている、まったく効果は見られないが。


「―――近いうちね、私の同僚が来る」


 抓りながらアニムスは、静かにサトリに語りかけた。


 抓られながらも器用に首を傾げてサトリは何秒か経ってああと驚いた。


 アニムスの同僚、それはすなわちこの大陸の監視者だ。


 三人いるとのことで、その内の一人が目の前にいるアニムスである。


 残りの二人もアニムスに負けず劣らずの人外染みた力を持っていると聞かされて一生会いたくないと思っていたが、どうやらサトリの願いは叶わなかったようだった。


 だが、その突然の来訪にサトリも理由に気付いた。


「…目的は俺ですか」

「一人はまぁ温厚な方だけど、もう一人はもう過激な奴でね。

 最近異世界人の転生者が大陸中央で麻薬(・・)使って反乱を起こしたんだけど、中央を監視しているのはその過激な奴だ。

 一日で転生者を殺して麻薬を片っ端から潰していたよ」

「……面倒なことしかしませんね異世界人って」

「鏡を見てもう一度言ってごらんバカ弟子?」

「すいませんでした、すっごいブーメランでしたハイ!!

 けど俺麻薬なんて作る気なかったしそもそも思い浮かびませんでしたハイ!!」


 便利なものを作りたいという欲求は強かったが、麻薬という危険なものを作る気はなかった。


「さすがに麻薬なんて作ろうとしたら私も庇えないからね、残念だけど殺していたよ」

「ですよね!!

 よかったー思いつかなくて!!」


 さらっと酷薄な宣告をしたアニムスだが、前世に置いても麻薬の密売やそれに関わった者の末路は空恐ろしいものが大半だ。


 それはこの世界においても変わらず、否、この大陸においてはもっと酷いものといえよう。


 彼ら―――監視者がいる限り、その悪意の発露はあれ最終的に完全無欠に滅ぼされるのだから。


 件の転生者も、その過激な監視者に後悔するほどの絶望を以って滅ぼされたのだと思うと同情こそないが自分も気を付けなければと気を引き締めた、今更だが。


「だからね、そんな奴が来ようとしているというのに考えなしに文明レベル上げちゃっているの見たらそれはもう怖いことになると思わない?

 心配無いって言ってるけど実物見ないと判断出来ないって二人揃ってこっちに向かっているよ。

 しかも過激な方はもう一週間もしない内に来るんじゃない?」

「あれ師匠、俺の寿命ってもうすぐなんです?」

「認められたら心配はいらないんだけど…これまで認めた異世界人っていないんだよね。

 みんな殺されてるよ」


 遠回しな死刑宣告なのかとサトリもどうしたものかと溜息をついた。


 この場で逃げたとしても、逃げようとしてもアニムスが目の前にいる時点で成功率はゼロだ、可能性すらも有り得ない。


 過激な監視者に認められる、しかも前例が一度として無い相手にどうすればいいのかサトリには分からなかった。


「…死にたくないなぁ」


 うろたえたりしないのは一種の諦観なのだが、その様子に疲れた溜息をついたアニムスが口を開いた。


「まぁ心配はいらないよ、サトリはおバカだけど最低限の領分は弁えているからね。

 その辺りを彼に言えば納得してくれるだろう。

 ああ、嘘は絶対に止めたほうがいいよ、ついたら次の瞬間死んじゃうから」

「安心出来ない情報がポンポンやってきて、浄化槽どころの話じゃないですねもう」

「あー、そうなんだよねぇ。

 サトリ、水道局に依頼された浄化槽だけど、中身を完全にブラックボックス化出来るなら手伝ってあげてもいいよ?」

「え、師匠なにたくらんでぇいったあああああああああっ!?」

「…うん、今のはマスターが悪い」

「マスター、口は災いの元ですよ」

「お労しいですわマスター、口を開かなければ痛い思いせずに済みましたのに…」


 アニムスの突然の協力にサトリは不審に思って尋ねたが、言い終えぬ内から額に猛烈な一撃を受けて正座を崩してのた打ち回った。


 店の外にまで響いた悲鳴に不審に思った通行人だったが、休業中の札のかけられたアニムス魔道具店に誰一人として近寄る者はいなかった。


 同情するフレアたち―――やはりガイアは呆れている―――をよそに、アニムスは引き出しから一枚の羊皮紙を取り出した。


「魔道具に使用する魔力の消費、その利点を述べよ」

「魔道具に安定した魔力供給が可能になって、加えて消費する魔力や魔石の消費量が減ることや利便性が増します?」

「疑問形にしなくてもいいから、正解だよ。

 今の魔道具には欠陥が多い、私はそのことをあえて無視してきた。

 理由は至って簡単、この手の技術は応用がし易くて、調子に乗ったら確実に兵器にも転用される恐れが高いからだ」

「……あー、言われて見ればそうですよね、国家錬金術師の人たち頑張って兵器作ろうとしてましたよ、論理上不可能な兵器とかね」

「予算の無駄…とも言えなくも無い。

 この技術が広まれば確実にその無駄だった予算を補填するだけの利益に繋がるからね。

 …つまり、それだけ危険な技術を使うよりもっと地味で画期的なものが無いか、転用しようの無い技術をこれまで私は作ろうとしてきた」

「…師匠、前から出来ていたのに今まで秘密にしていたんですね?」


 この口調や調子から、サトリはアニムスが何を言おうとしているのかに気付いた。


 手っ取り早くサトリにも危険だが効果の見込める技術を教えることも出来たが、過激な監視者とやらの所為でそれを教えてしまうとサトリにも命の危険が出てくるので、それを避ける為にもう一つの、兵器に転用のし辛い地味だが効果の見込める技術を教えようという事になったのだ。


「まぁね…私は商業ギルドに特許申請しない。

 私が作ったものをサトリはそのまま貰って、それを核にして浄化槽を作ればいい。

 サトリにこれ以上注目されると二人を誤魔化しきれないからね」


 設計図はアニムスの手により上書きされるが、賢者とまで称されたアニムスが作るとなれば不安になることも無いサトリは頭を下げた。


 形式上はサトリはこの技術を知らず、アニムスから供与されたものを使用する事で浄化槽を作ったことになる、という筋書きだ。


「…なんか、手のかかる弟子でごめんなさい」


 アニムスが作った技術をサトリが手にすることで、浄化槽にアニムスしか知らない区画を捻じ込みブラックボックス化させる。


 簡単だが効果的な案だった。


 水道局の要望にも応えられるし、危険な技術を知ることで命の危険からも何とか遠ざける事にもなる。


「この技術はそのうち教えるけど門外不出だ。

 だから他の国家錬金術師にも教えることは出来ないし、故障したら私かサトリが直しに行くしかない。

 …まぁ、練成陣を一枚噛ませるだけのお手軽技術だから滅多な事じゃ壊れることは無いね。

 二百年に一度あるか無いかだろう」

「師匠、俺それ死んでません?

 ていうかその頃には俺引き篭もってますよ?」

「師匠の呼び出しには命がけで駆けつけないとね?」

「おおう、師匠横暴…」

「バカ弟子の尻拭いは疲れるなぁ」

「師匠俺お茶入れましょうか?

 あ、肩も揉みますっ!!」


 サトリはこの一件以来、何かあればすぐにアニムスに『報・連・相(ホウレンソウ)』を心がけるようになり、やらかすことは激減した。


 とはいえ、無自覚な面についてはいまだ衰え知らずで被害は相変わらず、それでも被害が減少したことに感謝した者たちは密かに増えていったのだった。





またやらかした主人公。

水道です、調べてみましたがなんといいますか…水道って大事なんだなって思いました(棒)。

読んで頂き、ありがとうございました。

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