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閑話(5) エプスタイン領での出来事(下)

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

明日の21時にまた投稿です。

400Pt超えました、ありがとうございます。

 




 領都リディティア、日夜錬金術師たちが新たな研究や発明を模索し夜遅くまで家屋に火の灯っている不夜の都だ。


 そんな彼らが月に一度研究の進捗を疲労し合う会合が行われていると聞き、サトリはデイジーと共に顔を出した。


 これもデートの一種であるらしく腕を組んでいるのだが、居心地が悪いのか離さないデイジーを何度か睨むが何度かして諦めたサトリは会合の行われている講堂の最前列(・・・)で壇上を眺めている。


 この会合の主催者はエプスタイン侯爵家が取り仕切っていて、将来有望な錬金術師を発掘しようと行っているのだ。


 そんな会合に特別ゲストとして参加したサトリはいわゆる『客寄せパンダ』状態で、見学しに来た錬金術師派の貴族や発表する錬金術師たちに熱い視線を向けられていた。


 利用されていい気はしないサトリだが、自分以外の錬金術師の研究に興味があったので、それが上回った結果だった。


 デイジーは当主であるフランシスの名代として、錬金術師の卵としてここに送られてきた。


 サトリが錬金術師として卓越しているのは知っているが、自分以外の錬金術師の研究を見て、何らかのインスピレーションの手助けになればと思い誘ったのである。


 とはいえ、錬金術師の卵として大層な意見も口に出来ないためエプスタイン侯爵家が雇っている筆頭錬金術師のインクラッドも連れ立っていた。


「デイジー様、このパンフレットに書かれているのなんか物々しいのばっかりだね」


 サトリが目を細めてパンフレットをデイジーに見せると、デイジーはそうねと小さく肯いた。


「食い詰めた錬金術師の大半がここにいると言って過言でないわね。

 一発逆転を狙って兵器関連が多いけど、つい最近戦争があったばかりだから危機感を募らしている錬金術師もいるのよ」

「なるほど、俺はデイジー様に贈ったアゾット剣(アレ)以外じゃ攻撃的な魔道具は片手ほども作っていないからね。

 用途と目的が違う以上、使われる技術にも差異は出てくる。

 楽しみだな」

「サトリ殿は魔道具を兵器として使うのに何か忌避感でもおありなので?」


 目を細める好々爺といった風のインクラッドは不思議そうな目でサトリを見つめていた。


 インクラッドは良くも悪くも錬金術師といった人間で、兵器も作れば一般に普及しそうな魔道具も何でも作る。


 後先など露ほども考えない人間なので、彼の作った魔道具で大量の死傷者が出たとデイジーから聞かされていた。


「いや、自分が作るとシャレにならない規模の物にしかならないから、使い道もないし。

 それに自分にはフレアたちがいるから兵器を主目的とした魔道具なんて作る必要ないんですよね。

 お金もあるし」


 サトリの場合、兵器を作らずとも別の魔道具や発明品を作ればその特許料などで莫大な富を得られるため、進んで兵器を作る気が起きなかったのである。


 実際に大量破壊兵器を使って大量の死者が出た時、その原案を作った開発者がそれ以降後悔し続けたという逸話を知っているサトリとしては、彼らの二の前になりたくもなかったという理由もある。


 一番の理由としては、師であるアニムスに怒られたくないという個人的なものだが、死活問題でもあった。


「なるほど、人を不幸にする兵器よりも、人を幸せにする魔道具の方が幾分良いということですな」

「サトリの場合、お師匠様に怒られたくないっていうのも理由なんじゃないの?」

「バレてる!!」

「ハハハ、師父は怒ると怖いですからな」


 インクラッドは笑うや否やそろそろ始まるといって壇上を見つめた。


 最初の発表者の準備が終わったのか、段々と行動の内部は静けさを増してきていた。


『―――それでは、第四百三十四回定例発表会を開催いたします』

「多いね!!」


 司会の言葉に三十年以上長く続いている会合なのかとサトリは驚くが、会場の拍手でその驚きはかき消される。


『まず初めに―――』




 * * *




 サトリは発表者たちに思ったことをストレートに伝えていった。


 大抵が兵器に関した魔道具の進捗状況だったため、魔術回路の負荷をどう軽減するかを指摘した。


 その大半は『現在検討中です』と返す者たちばかりで、碌な回答を得られないで会合は進行し続けていく。


 時折『改良の余地があるので来月の会合で発表します』と前向きな回答をする者もいたが、来月にはサトリはいないので結局のところ回答を得られていない。


 楽しみだった会合の中身がこれでは肩透かしもいいところで、途中で帰りたい気持ちが湧き上がってきたのだった。


「…なんか、この人たちが食い詰めている理由がすっごい分かる気がする。

 やる気無さ過ぎ、検討の前に自分の状況見ろって言いたい」

「言っても良いと思うわよ、私も言いたいし」

「お嬢様やサトリ殿に言われると彼らの将来が潰れますので、お止めくだされ」


 この会合に意味があるのだろうかと真剣に考え始めたサトリだったが、次の発表者の内容を見て一旦棚上げにした。


『では次に、ドリトル男爵家次男ヘキソル殿の研究内容です。

 主題は「黄金の稲穂―――豊穣への道筋」です。

 内容は錬金術を使った肥料に関したものです』

「わぁ詩的」

「サトリ、貴方の作った肥料に関して発表するみたいよ?」

「ほぼ毎月肥料に関しては追加で商業ギルドに申請しているからどれのこと言ってるんだろうね?」


 それぞれの土地が育てている植物によってはサトリの作った肥料では発育の遅い者も出ているという報告を商業ギルド経由で知っているサトリはその土地に合った肥料、栄養価の高い物や技術の重ね掛けといった対策をして特許に関する隙は無い。


 穴はあるがその穴も時期に塞ぐだろうというのがサトリとしての見解だったが、このヘキソルという男性が何を思って自分の『金儲け』の為の研究にケチをつけてきたのか興味があったのだ。


 他人事のような調子でサトリはヘキソルの発表に耳を傾けた。


 曰く、今作られている肥料よりももっと凄い物を作った。


 曰く、従来の収穫量は二倍以上、成果は出ていて既に検証に入っている。


 曰く、複数の薬品を混ぜ合わせた肥料こそが世界最高だ。


 云々云々等々とつらつらと発表するヘキソルは時折サトリを見ては不敵に笑っていて『私の方がお前よりも優れている』と言わんばかりの、否、実際に心の内で思っているのにサトリはただ『ふぅん』と思うだけだった。


 その隣ではヘキソルの鼻につく態度に不快感を示している二人がいたのだが、サトリは異能を使っていなかったので気付くことはなかった。


『―――それでは、質疑応答に入ります』


 この発表は講堂の中にいる者たちも注目したのか検証はどんな方法か、どんな植物にその試作された肥料を使ったのかという質問にヘキソルは臆したりせず返していく。


 その中で、サトリは使われた薬品についての質疑があった時、目を細めた。


「…あー、アレ(・・)やっちゃったんだ」


 苦々しそうな顔をするサトリに、デイジーは不思議そうな顔をして首を傾げた。


「ねぇサトリ、ヘキソルが使った薬品って何なの?」

「劇薬」

「あれは指定禁止薬物じゃから、あまり出回っておらんのですじゃ」


 サトリの言葉にインクラッドも苦々しそうな顔をしていた。


 この二人が揃って同じ顔をしているのにデイジーは何か嫌な予感を抱いたのか、ある事を尋ねた。


「…ねぇサトリ、あの肥料、何か拙いのかしら?」

「収穫した食べ物が超絶薬臭くて食えた物じゃなくなるね。

 しかも土地が汚染される」

 「具体的にいうと?」

「地下水がダメになって、井戸から汲み上げた水を飲んだら健康被害が出るくらいかな?」


 サトリは化学肥料のデメリットのようだと感じたが、この試作肥料の一部資料を読んだだけでメリットが大量収穫以外はデメリットの塊のように思えた。


 化学肥料ならばサトリもいくつか試作したことがあった。


 |窒素(N)は大気中にいくらでもあるし、|リン酸(P)や|カリウム(K)もアニムスを通じて手に入れて実際に孤児院ではなく商業ギルドに借りていた土地に使っていた。


 化学肥料は少量使用するだけで効果が見られるので有機肥料よりも省力効果は高い。


 成分溶出が早く、想定通りの肥効が得易いという利点もある。


 他にもメリットはあるが、化学肥料というのはデメリットもあった。


 特に土壌の酸性化、これが最大の問題だ。


 過剰に化学肥料を使えば土地すらも汚染してしまうというデメリットもあり、かつ窒素以外の材料が中々手に入らないのでお蔵入りしたのだ。


 だが、ヘキソルの作った試作肥料は化学肥料のデメリットを更に越える毒物だった。


「大問題じゃない!!」


 デイジーが憤るのにサトリとインクラッドも肯いた。


 使われた劇薬はただでさえ指定禁止薬物なのだ、これを生産すればたとえ特許を取ったとしても儲けは出ない上に土地が汚染されるという良い所無しの『兵器』を生み出すことに他ならなかった。


「…インクラッドさん、分かってると思うけど…」

「分かっておるよ、こんなものは認められんわ。

 ちょっと抗議してくるので待っていてくだされ」


 インクラッドは立ち上がると、拍手されて有頂天になっているヘキソルに近寄っていく。


 それを見た者たちは何か問題があったのかと首を傾げるが、ヘキソルが口にした薬品が原因で叱責されていると気付く者は少なかった。


「…それにしても、サトリはよくあの劇薬の名前を知っていたわね?」

「あー、あれね、うん」

「歯切れが悪いわね?

 元々は何に使われるのよ?」

「し、知らない…!!」

「嘘つき、知っているから困っていたんじゃない。

 話なさいよ」

「し、知らないったら!!」


 サトリは言えなかった。


 劇薬の名は『桃色の猪』。


 不妊症に悩む夫婦の為に使われるもので、サトリはアニムスに記憶を焼き付けられて知ってしまっただけなのだ。


 材料に多くの魔物の睾丸や陰茎、その他多くの毒物を混ぜ合わせたサトリとしても二度と作りたくない劇薬に、口を閉ざしたのだった。


 その後、ヘキソルはインクラッドに抵抗するが、サトリが『土地がダメになるし健康被害の強い検証結果しか得られないからこれ以上は研究しない方がいい』という鶴の一声でヘキソルは膝をついてうな垂れたのだった。


 ヘキソルはエプスタイン侯爵家に今回研究に使った資料や検査結果の提出を命じられるが一定の評価を得られた。


 半年は研究と生活する資金を得て、事態は収束するのだった。


 その後、ヘキソルは王都にある魔法省錬金術科に所属し兵器関連の開発に特化した錬金術師となる。


 後にこの兵器―――『土地枯らし』がスレイン帝国に猛威を振るう事となるのだが、それは随分と先の話である。




読んで頂き、ありがとうございました。

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