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閑話(4) ちょっとしたデート?

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

次は明日の21時です。

 




(サトリ視点)



 告白された、保留しようとしたら関係がちょっと変わった、らしい。


 あの告白騒ぎの後、色々と二人で約束事ができた。


 二人きりの時は―――フレアたちは勘定に入れない―――お互い名前呼びをして敬語を一切使わないこと…これである。


 はぁ、何でこうなったんだろ。


 本当に人間ってわからない…心が読めてもわからないって意味わからないよ。


 そんな俺たちは今、領都をお忍びで散策…デイジーいわく『デート』をしている最中だ。


 前世において俺は二十年少しの人生を歩んできた中で、異性と付き合ったことは数少ないがあった。


 もちろんデートもしたことはある、神経を使う『作業』だったと記憶している。


 やれ服を見せてくる彼女に『似合う?』と聞かれて気の利いたことを―――異能のおかげでそれほど彼女を怒らせる事はなかった―――返さないといけないし、食事は何故か彼氏の俺が奢る役。


 プレゼントも毎月必要で…正直留学時代バイトをしても生活がマシにならなかったのは交際費の中のプレゼントに費やしていたからだ。


 挙げ句エッチは異能の所為で…これはいいや、とにかく大変だった。


 そう、そんな訳で異性との交際、デートについて良い記憶なんて一つもない俺は、げんなりしてデイジーとのデートに同伴…していたのだが、思いの外予想と違った。


「…サトリ、どうこの領都は?

 賑わっていて凄いでしょう?」

「王都の中央市場みたいな喧騒ですね、お客も冒険者…魔導師が多かったり儲かっていそうだ」


 俺の視界には重厚な鎧をした剣士や怪しげなローブに身を包んだ魔導師が店の店主と値段交渉をしている場面を目撃した。


 冒険者―――民間、貴族、果ては国からの依頼を請け負うフリーの何でも屋。


 雑兵クラスから達人クラスまで雑多に所属している彼らはどこにでもいる存在だ。


 荒くれ者が大多数を占めるが、常識的な連中もある程度いる正直あまり関わりたくないというのが俺の見解だな。


 別に冒険者に依頼しなくても俺出来るし…主にフレアたちがやるんだけど。


 しかも冒険者って強制依頼とか指名依頼とか面倒な制度があるらしくて無視したら何らかのペナルティがあるとか絶対に所属したくないよまったく。


 商業ギルドみたいにランク―――金、銀、銅の三つ―――毎の所属料を払えば後は違法行為をしない限り直接干渉してくることはないからな。


 ああでも、金ランクの商人には貴族とか国からの融資の願い出が引っ切り無しに来るとかいう話を聞いたから、面倒なのはどっちもどっち…いや、商業ギルドの方がマシかな、金でどうにかなるし。


 金とは人類が生み出した偉大な発明である、うん。


「国で一番錬金術師が多い都市だからかしら、魔道具を求める冒険者や貴族が多いのよね。

 そうそう、貴方がお師匠様であるアニムス様に授業料として払った技術…魔導式キッチンはこの都市ですべて受注しているのよ?」

「ああ、あれここで作ってたんだ。

 …あ、本当だ、魔導式キッチンがある」


 デイジーの指す方向を眺めてみると、コンロと一体型の魔導式キッチンは身なりの良いチョビ髭の男性とその妻らしき女性に早速一台購入されて、従者をしていた執事とメイドが重たそうに馬車へと運んでいる。


 売れ行きは好調のようである、俺の金になる訳じゃないから別にどうでもいいけどね。


「…あー、そういえばうちの孤児院のは俺が作ったやつだから買ってないや」


 作った方が早かったし安上がりだったし…師匠に渡した技術使っていないから違反していないからってやり過ぎたんだよなぁ…デイジーが修行先のキッチンと違うから大変って困っていたっけ。


「いや、買いなさいよ」

「素材が余っていたからつい…いま作っている屋敷のは買おうかな、いくつか欲しい」


 一台最低金貨五枚から…うん、最高級のやつを三台買おう、爆買いである。


 交渉の末、一台金貨二十枚の奴を三台買うからといって四十五枚で買った、まずまずの交渉である。


 店主は泣いていた、反省はしていません。


「…デイジー様、つまらなくない?」


 なんだか俺ばっかり楽しんでいる気がする。


 それになんていうか、今日俺はエスコートされている側だ。


 おかげで退屈とは無縁だし楽しませてもらっているけど、デイジーは勝手知ったる地元である。


 つまらないのではと尋ねてみたが、予想に反してデイジーの反応は楽しいと返してきた。


「あら、楽しいわよ?

 私の育ったこの領都をサトリに見せられるのだもの、私のことを知って欲しいという事もあるから、つまらなくなんかないわ

(サトリはどんな風に育ってどんな町に住んでいたかは聞いてみたいけど、まずは私の方から歩み寄らないとね。

 さてと、次は…)」


 うん、嘘はついていないみたいだ。


 やっぱり彼女は嘘をついていない、なんていうか明け透けでさっぱりとしている。


 なんていうか…異性と一緒にいて息苦しくないっていうのは新鮮な感覚だ。


 身近な異性は…たまに息苦しいというか居たたまれない気になるからちょっとね。


 …はぁ、なんだか最近異能使いまくってるな、前世よりも頻繁に使ってる気がするよ。


 それだけ臆病になったという事もあるんだけど…好意を持たれている異性に使うのってなんだか申し訳ない気持ちになるんだよなぁ…止める気はないけど。


 俺一人で完結するはずだった世界に飛び込んで来る彼女、デイジー。


 疑ってはいない、けど確認せずにはいられない。


 俺は彼女を受け入れるべきなんだろうか?


 そもそも結婚してどうするのか、付き合うだけはいけないのか?


 結婚に何を望んでいるのか、それが分からない。


 デイジーは俺と一緒にいたいという、好きだから一緒にいたいと、歩き続けたいという。


 普通の人との感情の感覚に乖離が見られる俺には心は読めても理解できなかった。


 結婚と連想して、行きつく先に『子供』というキーワードが現れる。


 夫婦の結晶とも呼べる子供。


 俺とデイジーとの間に子供が生まれれば、俺は不要に、好きじゃなくなるのか?


 わからない、わからない。


 どうすればいいのか、わからなかった。


 もやもやを抱えたまま、デートの時間は過ぎていく。


 こんな思いを抱えたまま、デイジーにエスコートしてもらって申し訳ないという気も湧き上がってきた。


「…サトリ、そう難しく考えなくてもいいのよ?」

「えっ?」


 突然、心を読まれたのかと思った俺は声を上げてしまった。


 デイジーは少し寂しそうにして笑う。


「貴方がどんな過去を歩んできたのかを、私は知らない。

 話せないこと、辛い事がたくさんあったんでしょう。

 それに対して、私からは何も言えないわ。

 辛かったのね、苦しかったのね、怖かったのねとは言えるけど、実際に経験してもいない事に共感出来ないし返って貴方を不快にさせるだけだわ。

 けど、私は貴方と向き合いたいと思っているの。

 だから一人で納得しないで私に伝えて?

 貴方が今何を思って、何を伝えたいのかを。

 私は、それを待っているわ

(なんだか随分と悩んでいたけれど、何かいけないことを言ったのかしら?

 さっきの話からすると、過去についてかしらね。

 …時期尚早だったようね、もう少し仲が良くなってからにしましょうか)」

「……ごめんね、デイジー」


 そうとしか返せなかった俺は、余計にデイジーに寂しそうな顔をさせてしまう。


「謝罪してほしかった訳じゃないのよ」


 なんというか、情けない男である。


 なんだかんと駄々を捏ねて対人関係に怯えている俺を、デイジーはひたすら辛抱強く待ってくれている。


 異能がなかったら、さっきの一言で恋に落ちていたと思う。


「…ごめんね」

「本当に、困った恋人候補だわ」


 諸手を挙げて、無防備でやってくる彼女。


 心も読めて疑いようもなく好かれているのに及び腰な自分。


 この関係が、これ以上前に進めるのか。


 順調な筈の俺の楽隠居への道筋に、重い命題がやってきた。





ヘタレな主人公の巻、でした。

読んで頂き、ありがとうございました。

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