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閑話(2) エプスタイン領での出来事(上)

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

明日は2話更新です。

 





 エプスタイン領領都リディティア、初代エプスタイン侯爵の妻の名を冠した錬金術師派筆頭貴族、エプスタイン侯爵家の本拠地に、一人の少年が従者を連れてやってきた。


 名をサトリ、豊穣の錬金術師とも呼ばれ、今や世界に名を轟かす天才錬金術師である。


 馬車に揺られながら領都リディティアを眺め、初めて王都以外の大都市を見たサトリは興奮していた。


 最近の王都と同じく、路上は清潔を保っていて活気のある大通りである。


 王都から領都までに途中命知らずにも盗賊が襲撃したが、サトリの保有する魔導人形三体(・・)―――現在次女であるエアはサトリと別れ情報収集の任務へと旅立った―――により被害は一切なく、馬車に乗り続ける腰の痛みといった諸々な問題を除けば概ね快適な旅を過ごしていた。


 しかもそれが一度でなく、エプスタイン領に入ってから何度も遭ってしまい、快適ではあるが不快な思いをしていたこともあり、領都の光景はサトリにとって新鮮なものだったのだ。


 ちなみにこの盗賊狩りのおかげでエプスタイン領は数ヶ月に渡って盗賊被害が激減するのだが、蛇足のようなものである。


「…馬車の旅は辛いね、絶対改良してやる。

 …それにしても、さすが錬金都市とも呼ばれているリディティアだね、怪しいお店がいっぱいだ!!」


 サトリの視界には目深くフードを被った性別不明な錬金術師が客に怪しいガラス瓶を突き出して値段交渉をしているのを見て楽しそうに笑っていた。


 つい最近『手押しポンプ』を特許申請して試作品と共に商業ギルドに提出してそのまま王都を出たサトリにとって、盗賊狩り以外で久しぶりに楽しい時間を過ごしていたのである。


「褒めていないでしょうそれ?

 まぁ、怪しいお店が見えるのは否定しないけど…」


 と愚痴を零したのはこのエプスタイン侯爵家の令嬢デイジーである。


 思い切ってこの長期休暇中にサトリをこのエプスタイン領に誘い、現当主である兄フランシスと会える機会を作った立役者だ。


 彼女には他にもサトリを誘った理由もあったのだが、異能を使っていないサトリはデイジーが挙動不審な態度をとってもまるで気付いていなかった。


「…怪しくは見えてもこの領都には優秀な国家錬金術師たちが多く店を構えている。

 腕前は心配ないだろう…ふぅ」


 さり気なくデイジーのフォローに入ったのはヴィレッジ子爵家四男のアゾルである。


 ヴィレッジ子爵領地はエプスタイン領の隣ということもあり、デイジーに誘われたということもあって同乗したのである。


 馬車の中にはサトリ、デイジー、バルト、そしてアゾルという一歩間違えれば醜聞になりかねない構成だったが、サトリに対してちょっかいをかけてどういう目に遭ったか、被害者たちの深刻度合いから誰もその手の裏工作に走らなかったのは行幸といえよう。


 不機嫌な表情を努めて隠そうとしているアゾルだが、あまり隠し切れておらず眉間に皺が寄っていた。


「…あっ、あれが侯爵家の…?」


 サトリが馬車の窓から身を乗り出して大通りの先にある()を眺めていると、デイジーが肯いていた。


「そうよ、この先にあるのが侯爵家以上の貴族に許された城、アイライン城よ」


 サトリの視線の先には幾重もの結界が張り巡らされた漆黒の居城が近付いていた。




 * * *


(サトリ視点)


 デイジーのお兄さん、フランシスはなんと言うか、第一印象がぽやんとした、何ともフレンドリーなお兄さんだった。


 全体的にデイジーが父親似なんだが、フランシスの方は母親の方に似たんだろうか、きつい目付きじゃないし何故か楽しそうな表情がデフォルトのようである。


 うん、少し魔力が漏れているけど魔導師としての実力はかなりのものだね、それなりに効果で強力な護符もつけているし、優秀な人なんだろう、何せ若くして当主になれた人だし。


 このフランシスさん、御年二十三歳、名門エプスタイン家どころか、名門貴族の中で最年少当主でございます。


 下に弟さんが一人いるようで現在は補佐をしながら執務に当たっているとか、親子間の仲は悪かったようだけど、兄妹間では良好だったようである。


「…サトリです、初めまして侯爵様」

「初めまして、サトリ君。

 フランシスだ、名高き豊穣の賢者(・・)殿を我が城に迎えられて光栄だ」


 …なんか豊穣の錬金術師がランクアップして『豊穣の賢者』になっていた、ホワイ?


 あれ、俺影で呼ばれているの錬金術師の方だよな、何で師匠みたいなすごい人でもないのに賢者なんて呼ばれているんだ?


「……お兄様、豊穣の錬金術師、ですわよ」


 デイジーがやんわりと訂正をするのだが、フランシスは柔和とした表情を崩さずゆっくりと首を横に振った。


「いやデイジー、実は我が領地ではサトリ君のことを賢者アニムス殿にちなんで豊穣の錬金術師でなく、『豊穣の賢者』と呼ばれているのだよ。

 サトリ君は今や世界を救ったといっても過言でないほどの功績を立てた錬金術師。

 その知恵は魔力を持たない民に配慮のある発明が多くあり、実に効果的なものばかりだ。

 ああ、先日届いた『魔導トラクター』も良かったね。

 力の無い私でも農作業が出来てよかったよ、魔力を使えない民の為の代案として馬を使って鋤くというのも余っている馬を民に一時的に貸し与えることで魔道具と同等の状態に持っていけるという配慮も実にすばらしい。

 それと―――」


 すごい、ぽやんとしているけど(なかみ)はしっかり詰まっていたようだ、マシンガントークが止まらない。


 ていうか、トラクター使ったんだ、貴族なのに。


 少し前まで敵対していた人間が作った魔道具を良く使う気になったもんだな。


 思わず尋ねてしまったが、それに対してフランシスは特に気にした様子も無く気さくに返してきた。


「ああ、私はその辺り全く気にしていなくてね。

 私は技術に嘘は無いと思っているんだ、そこに善人も悪人も無いとね。

 派閥の三分の二はもう君と敵対しようと思っている者はいないかな、残りの三分の一は今年中に当主を交代させるから、心配はいらないよ?

(そういえばヴィレッジ子爵家が自分から当主交代をしたのは何でなんだろうな?

 あそこの当主は政治感覚の足りていない残念な職人だと思っていたんだけど…何の心境があったんだろう?

 まぁ、手間がちょっと省けたから別にいいかな、少し確認する必要はあるんだろうけど…まぁ四男のアゾル君が一緒にここまで来たのを察するに、サトリ君が関わっているんだろうぁ)」


 うわー出来た人だ、すごい出来た人だ。


 けどそこは貴族、腹黒いところは通常装備だった、ぽやんとしているから良く出来た天然さんかと思ったら天然腹黒系の人だった。


 しかもアゾルとの関係もそれとなく察しちゃっているし、頭の巡りも良い人みたいである。


 うん、残念なイケメンだな!!


 そういえばアゾルはあの後すぐに城に用意されていた馬車に乗って自領に帰ったけど、今頃馬車の旅第二弾なのか、大変だなぁ。


「…サトリ、今へんなこと考えたでしょう?」

「はっ!?

 いやいやデイジー様、そんな訳ないじゃないですか!!」


 な、なんという勘の良い奴だデイジーめ、思わず挙動不審になったぞ。


「っていうか、師匠に申し訳ないんで、そういうのはちょっと賢者呼びは止めてほしいです。

 自分お金儲けとかを目的にあの肥料とか道具は作っただけなんで」

「切っ掛けはどうあれ、世の評価は変わらないと思うよ?

 遅かれ早かれサトリ君は賢者と呼ばれるだけの功績を立てているんだ、過小評価は良くないね」


 どうしようこの人、人の話し聞かないタイプの人間だ。


 まぁいいか、心の中読んでいる辺りそれほど俺に敵意を持っている人間じゃなさそうだし。


 貴族だから敵意抜きで何かしそうな怖さはちょっと残っているけど…その時がくればデイジーに頼んで何とかすればいいかな。


「はぁ…」

「聞いた話サトリ君は領地経営になんて興味もないだろうから陛下も大変だろう。

 ああ、そういえばこの話は流れたんだったかな?

 他国出身の人間とはいえ爵位を渡して縛りつけようなんて案が出た時は賢者様にケンカを売っているのかと冷や冷やしたね

(ケルヴィン公爵家が率先して潰したからよかったけど、あの手の人間は派閥に関係なく現れるから困る)」


 なるほど、そういえば一時期そんな話があったと師匠から聞いたことがあったな。


 囲い込みには良い手だとも思う、功績は十分立てているし、領地なんて授かれば更に縛れるからな。


 その後待っているのは貴族のご令嬢との婚約で血縁作って更に面倒な縛りが増えて…ヤダヤダ面倒くさい。


 何で俺がどうでもいい(・・・・・・)奴らの為にあくせく働いてやらないといけないのさくだらない。


 そういう面からすれば貴族には本当に頭が下がるね、そんな面倒な連中を管理しないといけないだなんて。


 内政をしていれば当然小さな問題から大きな問題まで多々あると思う、領地運営なんてその最たるものだ。


 月々、年間の税収、灌漑工事、軍備、数えだしたらキリがない。


 …で、俺がもし貴族になればそんな面倒が待っている?


 冗談じゃない。


 いや、そんなことになったら何が何でも逃げるよ、学園中退してでも逃げる。


 俺のスローライフと対極にあるといってもいいでしょ貴族だなんて。


 腐敗しているのはそいつらの問題であって俺の所為じゃないし、管理して上げているんだから少々の贅沢は御褒美といってもいいだろう、毎日すると自滅するから止めてほしいけど。


「そうよね、サトリなら聞いた途端逃げ出して十年くらい世間から消えてしまうかもしれないわね。

 貴族の血なんて引いてないサトリに爵位や領地なんて枷にしかならないわ」

「だね、師匠には悪いと思うけど、そんな事になったらこの大陸からいなくなる自信があるね!!」

「いやな自信だわ…」


 嫌そうな顔をするデイジーだけど、俺への理解度が深まっているので大変結構なことである。


 まぁ深まった所で特典がある訳でもないんだけど…いや、あったからあのアゾット剣になったのか?


 どうしてだろう…デイジーが少なからず俺に好意を抱いているから?


 かといって、貴族の時点でお嫁さんになれないんだけどね俺平民だから!!


 お婿さんという手もあるにはあるけど…結局のところ思いっきり囲われているよね不自由待ったなしだ!!


 そもそも俺の性格とか異能がある所為か女の子に好かれても筒抜けすぎてちょっとね…エッチな時大変よ繋がってるからさ、もうどっちがどっちか判らなくなるし。


 結婚願望なんてそもそもあるかも怪しいんだけどね…こ、これが独身貴族(ボッチ)か!!


 べ、別にいいし、女の子に夢なんて持ってないし。


 俺にはフレアたちとかウルスラとかいるから寂しくないし!!


 ……極稀に俺の異能の効かない女の子いないかなぁって切に思うことなんてないし!!


 物作って美味しい物食べて好きな時に寝て起きていれば無人島で一生過ごせるくらいメンタル強いもん!!


「自分が好きなことして満足して死ねればいい人だからね俺は。

 もっというと人らしく面白おかしく自分のペースで生きられればそれでよし」

「貴族だったとしても…いえ、なったとしても即廃嫡待ったなしね」

「致命的に自分第一な子なんだね、私も研究したいという欲求は強いけど、やっぱり貴族なのかな。

 そこまで突き抜けたことはないかなぁ」


 出来た貴族ってすごいなぁ、生粋のドMさんたちだ変なの。


 その後、謝罪を受け入れた俺は話せる範囲での自分の事情とお互いの研究を話し合ったりして楽しんだ。




 * * *




 夜も更けてきた頃のアイライン城の一室で、エプスタイン家の兄妹は家族会議を行っていた。


 最近当主となったフランシス、デイジー、そして最後にやってきたフランシスの弟の男レインズである。


 文官服で現れたレインズはまだ夕食をしていなかったのか、がつがつと食べながら二人の兄妹の話しを聞いていた。


「…そう、やっぱり難しいのねお兄様」

「すまないねデイジー、私も頑張ってはいるんだが…君の『婚約者候補』、まだ見つからないんだ」


 通常、貴族の結婚事情というのは早期に決まっているものだ。


 血縁を大事にするということもあって、釣り合う家系はもちろん、年齢、容姿、相手の懐事情、能力、世間の評価、といった諸々の要素が必要となってくる。


 これは彼、あるいは彼女たちが生まれてくればすぐに決まっていき、年端もない内に婚約者がいるというのが常識とさえなっている。


 だが、エプスタイン家は事情が変わっていた。


 錬金術師派筆頭貴族という事という事情もあり、釣り合う家系が他派閥の筆頭貴族家か派閥内の有力貴族しか存在しないのだが、先の戦争が切っ掛けでデイジーと婚約をしていた貴族家は辺境ということもあり断絶してしまったのだ。


 婚約自体が白紙になったのだが先代当主、デイジーたちの父はすぐに次の婚約者候補を見つけることが出来なかった。


 既に決まっている同年代の子息令嬢ばかりで、釣り合う家系はおろか戦後ということもありエプスタイン家に相応しい婚約者が見つからなかった所為である。


 そしてずるずると時は流れ、当主が交代しフランシスの代となってもこの問題は祟っていた。


 既にフランシスとレインズは婚約者がいて、内フランシスは結婚式も済ませて妻には第一子を身篭っていた、エプスタイン家の次代は安泰といえよう。


 レインズにも婚約者がいて結婚は既に秒読み段階。


 兄よりも早く結婚するのは由々しきことという世間の目を回避するため、功績を立て次第式を挙げるという事となっていた。


 婚約者がいないのはデイジーだけである。


「…兄上、この際高望みなんてせず派閥の中から有能な貴族家に輿入れさせれば良いのでは?」


 冷静でいて合理的な言葉を返したレインズに、フランシスは嫌だと拒否した。


「何を言うんだいレインズ!?

 デイジーがお嫁さんに行くのなら相手の家はもちろんしっかりとした人でデイジーの生活を不自由にさせないだけの経済力があって年の近い…あ、そうそうカッコよくてデイジーに優しい男じゃないと任せられないよ!!

 ただでさえサトリ君の件が追い討ちのように祟って派閥の外からの感触も悪い、派閥内は粛清しまくって内部の状況が不安定な今、デイジーの問題はある意味我が派閥の将来がかかっているんだよ!?」


 完全にシスコンの台詞だが、派閥の将来がかかっていると言うのも本音なのだ。


 他家へ嫁ぐということは、その他家との繋がりを強化することで更なる繁栄をという面が強くある。


 もちろん、恋愛結婚というのも有り得なくもないが、先の条件を乗り越えてまで恋愛結婚をする猛者はそうそういない。


「…それは分かる…大事な妹を危険な輩に任せたくはない…が、そんな完璧超人いるのか?

 やはり高望みし過ぎだと思う」

「サトリ君が貴族になりたい…なんて一言言ってくれたら黒い噂のする貴族家脅して養子にさせてデイジーの旦那さんに…という手もあったんだけど、彼貴族になりたくもないしそもそも貴族嫌いみたいだからね、完全に手詰まりだよ」

「…お兄様、その養子先の貴族潰して爵位だけもらう気じゃないですか」

「手頃な伯爵がいたからね、有効活用したかったんだけど…」


 呆れているデイジーに、さも当然のように腹黒い一計が潰れてしまったことにフランシスはどうしたものかと頭を悩ませた。


 レインズもサトリという平民の少年を利用する計画を知ってはいた。


 だが成功するとも思っていなかったのでどうでもよかったのか、食後の紅茶を飲んで一息ついていた。


「お兄様、別に私は結婚出来なくても…」


 と、デイジーも自分の将来の夫のことよりも錬金術師として身を立てていこうと覚悟しようとしたとその時、レインズから特大の爆弾が投下された。


「―――いっそ平民落ちして好きな奴と結婚でもした方がいいんじゃないか?

 デイジーお前…サトリという少年のこと気に入っているんだろう?」


 フランシスに送られてきたデイジーの手紙をある程度知っていたレインズは、デイジーが身分差を度外視してサトリという少年に好意を抱いているのに気付いていた。


 貴族とはいえ比較的仲の良い兄妹という事もあり、自分の今の生活を捨てられるのなら、と聞いたのである。


 サトリにレインズも直接会ったことがないのではっきりとしていないが、世間での評価は天井知らずの高さだ。


 容姿も醜いという訳でなくどちらかというと可愛らしい部類で、経済力に関してはその気になれば大身の貴族よりも裕福な生活を送れるほどだ。


 身分という壁さえ考慮しなければこれほど有力、否、超優良物件は存在しないだろう。


 実際に商人連合に所属している学生がサトリにアプローチを仕掛けているという情報も上がっていて、『豊穣の賢者(サトリ)の妻』という世界を見ても屈指の『地位』になるのであれば、身分が平民となってもデイジーを下と見る者は少なくなるだろう。


 フランシスもまさかその手もあったのかと言わんばかりの表情をしていたが、当事者であるデイジーは身も蓋もなく慌てた。


「レイン兄様!?

 ど、どうしてそのことをっ!?」

「兄上から手紙を見せられてな、なんとなく察した。

 で、どうなんだデイジー、お前にエプスタイン家と縁を切ってまで豊穣の賢者と縁を繋ぐ覚悟はあるのか?」

「そ、そんな、きゅうにいわれましても…」

「まぁ出会って半年程も経っていないし、憧憬と好意が入り混じって良く分かっていないんだろう。

 だが、まだ時間は三年ある…などとは思わないことだ、既に商人連合は動いているし他国もまだ動きは見えないが手を拱いてただ座す様なことはしないだろう。

 それに比べてデイジー、お前には他の者たちと違ってあらゆる面でリードしているんだぞ?」


 サトリの周囲でもっとも身近な異性といえば最近誘拐されたビーチェもいるが、それよりも日常的に会ってお互いの分野で話し合える相手というのは恋愛という面から見て圧倒的アドバンテージを得ているのはデイジーただ一人だ。


 しかもデイジーとサトリは気心も知れているのか良く笑い合ったり言葉を崩して会話をする仲だ、貴族と平民という関係上破格の関係といえよう。


「…けど、サトリはそういうの色恋に興味がないというか…」

「だったら意識させろ、この際エプスタイン侯爵家の事を考慮せず…いやむしろエプスタイン家を利用する気持ちで押せ、押しまくれ。

 正直お前の性格は慣れていない奴は怖気付いて結婚生活も辛いものになり兼ねん。

 そこにきてとズケズケと物を言う彼は最高のパートナーだろう」

「レインズ、言い過ぎだよ」

「フランシス兄様、否定してくださらないのですね…」


 実際にデイジーの言葉にきついものがあるのは確かで、それとなくフォローしたつもりのフランシスだったがまったくしていないのに気付いたデイジーははぁと溜息をついた。


「…まぁ、サトリに好意がないと言えばウソになりますわ。

 けど、サトリに迫ったとしてもそれで嫌われたりしたら私…」

「嫌われてもいない内から何をグチグチ言っている。

 嫌われたら謝れば良い、幸い学生の身だ、よほどのことで無い限り大事にはならない。

 子供のケンカなど大抵が誠心誠意謝ればどうにかなるものだ。

 あと三年で大陸からいなくなるのなら、早くしないと一生会えなくなるんだぞ、それでもいいのか?」


 デイジーはサトリのことを思い出していた。


 取り巻きの娘たちに騒がれて出会いは最悪に近かった。


 常識知らずの才能に嫉妬の炎も燃え上がらず、ただ凄いと思ったのはサトリだけだった。


 性格はお世辞にも良いとは言えない、よく自分をからかってくるし、人を喰った笑みと慇懃無礼(いんぎんぶれい)な態度が顔を見せて来るくらいだ。


 だが、決してデイジーのことを女だからと見下したり、蔑んだりという事は一切無かった。


 エプスタイン侯爵家のデイジーではなく、デイジーという個人を見てくれたのは兄弟たちを除けばサトリだけだった。


 ただそれだけではあるが、デイジーにとってそれは何よりも嬉しいものだった。


 あの人を喰った笑みに思わずドキリとしたのは趣味が悪いと言えなくも無いが、物好きな部類だったのだろうと思うとむしろ自信になった。


 好きな相手の悪い部分すらも好ましいと感じられるのは、純粋な好意なのではと思ったのだ。


 ―――そして、デイジーは覚悟を決めた。


 サトリを自分に振り向かせると。


 最終的にエプスタイン家を出てでも、寄り添おうと。


 懸念としては、謝意としてデイジーがサトリに嫁ぐのではと勘違いされないことだろう。


 そう思い込まれたが最後、デイジーの初恋(・・)は悲惨な形で終わる恐れがある。


「……たまに相談のお手紙を出しますので、協力してくださいね?」

「将来の義弟がサトリ君かぁ…家を傾けない程度には協力するよ!!」

「むしろ逐一送って来い、お前の性格上何かやらかしそうで怖いから業務に障りが無い限り協力しよう」


 デイジーはサトリにアタックする事を決め、兄弟たちも快く協力してくれる言質を取ったデイジーは


 明日からサトリと出かける服を決めるため一足早く談話室を出ていったのだった。




 ―――そして、デイジーの覚悟などまったく知らないもう一人の当事者(サトリ)はフレアたちが護衛する中、高級なベッドでだらしない姿で夢の世界に旅立っていた。





読んで頂き、ありがとうございました。

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