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閑話(1) 古き監視者たち

閑話その1です。

毎日投稿…何話まで続くのかは不明です。

別のお話も書いているので…一区切りつくまではちゃんと連続投稿…1週間位します?

 


 アースラ大陸にある、どことも知れない洞窟で、その密議は始まった。


 洞窟には結界が一つとしてなく心許無いが、大陸においてこの場を知る者は限られている。


 洞窟の中には小さな祠があった。


 何を奉っているのかも不明な祠だが、ただその祠からは異様なほどの魔力が渦巻いている。


『…揃ったようじゃな、では、始めるとしようか』


 しわがれた声が祠で響くが、その場には人の影すらない。


 声の主は、奉納されていた三つの水晶の内の怪しく光る赤い水晶からから発せられていた。


『灰燼の、深緑の、生きておるかな?』


 赤い水晶からの呼びかけに、残りの青、緑の水晶が怪しく光る。


『おー、生きてるぜ鉄血の爺さんよ』

『翁、そもそも呼び出したのは私だよ、生きていない訳がないだろう?』


 猛々しい声と、それとはまったく反した落ち着いた声が青と緑の水晶から返ってきて―――鉄血の翁、ハルヴァールが呵呵(カカ)と笑い、赤い水晶が反応した。


『深緑のところの人形が来て、魔王の奴めが復活…いや、降臨しようとしておると聞かされてな、ワシ等としても各地の監視に忙しくこうも時間が延びてしもうた、いやいや申し訳ないのう』

『俺のところはちょうど面倒の根源を潰したところだぜ?

 またぞろ転生者の奴が「転生チート」とかやろうとしていたのを見つけて消した(・・・)ばっかだからな!!

 まったく、見つけるまで都市が三つも潰れていたのは最悪だったぜ』


 獰猛な笑い声を上げる青の水晶―――灰燼の蒼狼、デウスが忌々しいといった様子を隠さずに愚痴っている。


 大陸中央部近くにある国の、一つの村の生み出した技術を狙った都市がことごとく返り討ちに遭い、結果デウスが出張るまで被害は増し続けていたという報告に二人が呆れ果てていた。


 そして最悪なことに、その発明は今なお被害者は増え続けているという事態を起こしていて、その根絶に忙しいというのである。


 件の転生者―――カズトが行った所業に三つの水晶からは呆れや嫌悪といった感情の混じった魔力が漏れて、洞窟内は一時殺気立った。


『…私のところはベヒモスめが現れてね、いつものように狩らせてもらったよ。

 まぁ弟子に売ってしまったから手元にあるのは一部だがね』


 対処は出来たが由々しき事態だと―――深緑の賢者、アニムスはそれでもおかしそうに笑っていた。


『…そうじゃ、それじゃよ深緑の。

 お主の弟子のことで聞きたいことがあったんじゃよ』

『おうよ、俺の勘もビンビン感じたぜ?

 お前の弟子、転生者だろう?

 何で生かしてやがるんだ?』


 転生者と分かっていながら何故生かしたままなのか怪訝な様子の声をしたハルヴァールと、不可解とばかりに事態の読めていないデウスの二人に、アニムスは笑い声を収めて返した。


『あの子は他の転生者と違って、害を振り撒かないからね。

 知っているだろう、肥料だの農機具だのが最近ポンポン特許をとっては作られているのを』


 楽しげに、自慢げに話すアニムスにその場に弟子である豊穣の錬金術師サトリがいたら『誰この人』と顔を引き攣らせていただろう。


 普段褒めるにしてもここまで手放しで褒めやしないとばかりに、親バカならぬ師匠バカを炸裂させているアニムスに、赤と青の水晶からは困惑とも受け取れる魔力の波動が漏れていた。


 このハイエルフとは長い付き合いではあるが、楽しげに語る声を聞くのは本当に久方ぶりだったのだ。


 このアースラ大陸を監視する役目を負ったエルダードワーフ、シンウルフの二人は毒気を抜かれたのか、祠に充満していた殺気も霧散していく。


『…そうじゃな、現物はワシも見せてもらったが特に怪しげな薬も混ぜられておらんかったな、臭かったが』

『俺も買ったぜ、鼻が曲がりそうだった。

 …で、特に世界にとって有益安心(・・・・)だから生かしてんのか?

 お前の魔導師としての腕を疑ってる訳じゃねえが、転生者だぜ?』

『疑い深いな二人とも、まるで私の弟子のようだ。

 無論だとも翁、デウス、私の名を賭けて断言しようとも。

 あの子は…転生者サトリはこの世界の害とはならないよ。

 何なら見に来るといい、きっと分かるさ』

『…アニムスや、お主その転生者の小僧に薬でも盛られておらんのじゃな?』

『なんつうか、魅了の魔法でも喰らった感じの全肯定だったな、念の為に俺が行ってくるか?』

『中央からじゃとお前さんが近いからのう、東の担当をしておるワシじゃと時間が幾分かかる。

 ワシもおっつけ行くから先に見ておいてくれんか?』


 アニムスの変貌振りに二人も心配になってきたのか、監視の役目を負っている土地を離れてまで安否を直に見ようとして、あれよあれよという内に二人は直属の部下に引継ぎを任せていく。


 慌しい時間が過ぎていきながら、一足早く済ませたデウスがアニムスにいくつかの質問をした。


『なぁアニムスよ、お前も転生者のクズ共がやらかした惨劇を覚えてるだろ?

 他の大陸の連中の監視役や俺も爺さんも覚えてるぜ?

 しかもお前は一際…家族を転生者どもに殺されただろうがっ、どうして信用できる!!』


 この世界にはアースラ大陸以外にも大陸はいくつもあり、それぞれの監視者たちがいた。


 彼らは転生者たちがかつて起こした悲劇を再び起こさせない為に監視してきた。


 見つけた際は監視してその危険性を鑑み対処していく。


 だが、そうした監視者たちの殆どはかつて転生者たちに強い恨みと憎しみを持っていて、大抵の転生者たちは生まれてから十年、最長で十五年と経たない内に危険(・・)と判断されて殺されていった。


 アニムスもかつて家族を、妻と娘を失った経験から監視者の役を負った一人でもあった。


 だが、その彼がどういうことか転生者を堂々と弟子として認め、しかも宝物の如く大切に扱っているとなれば、アニムスをよく知る二人からすればおかしな事としか思えなかった。


『無論、今でも私の持論は変わらない、転生者は危険だ、特に彼らの齎す技術はね。

 だが、あの子には他の転生者にない長所を持っていた』

『長所?』

『己の天分をよく理解していたことだよ、前世の異能から既に唯人でなかったあの子は人を恐れていた。

 だからこそ自分の出来る事を把握してそこから起こりうる未来を予測した…まぁまだ見通しは甘いけどね。

 そしてあの子は自分が齎す技術の結果、この世界を崩壊させるような危ないものは作らない事を一人で決めたんだ、五十にも満たない童がだよ?

 他の転生者とは違って現実がよく見えている、少し間は抜けているが可愛いものさ。

 ああそれと、家族の事については復讐も終えているし区切りは負えているよ』


 デウスはハルヴァールやアニムスのように頭が良くない。


 監視者は頭の良し悪しで選抜されているものではないからだ。


 求められるのは能力、転生者や過去彼らが遺した災厄の種を摘み取る対処能力があるかないか、それだけである。


 アニムスの声からは虚偽や欺瞞といったものを感じ取れなかったデウスはやはり件の転生者は珍しい存在なのかと思うようにはなったが、実物を見なければやはり何も最終的な判断はつかなかった。


『……まぁ、来るまでに精々見れる程度にしとくんだな。

 もしそいつがダメな奴だったら頭から噛り付いてやる』

『まぁ、ありえない話だがいいよと答えておこうかな?』


 引き篭もりたい当事者(サトリ)のいない場所で自分の命運が左右されていることを知らず、本人はエプスタイン領へ馬車に乗っていたのだった。



読んで頂き、ありがとうございました。

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