表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サトリの異世界楽隠居譚  作者: 夢落ち ポカ(現在一時凍結中)
第二章 転生(憑依)して超頑張ったら学園に入学しちゃったよ
31/46

第29話 サトリの長い一日(6)―――夜

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

 




 その日、ヴィレッジ子爵家当主レヴァノンは一日中苛立ちと罪悪感に苛まれていた。


 自らの失態で、自分の属している派閥のみならず、国をも巻き込みかねない大事件の片棒を担がされたという情けない自分にどうすればいいのか途方に暮れていた。


 領主としての役割よりも錬金術師としての本能(・・)を優先した所為で領地を荒廃させ、奴ら(・・)の悪事に加担する事になろうとはと後悔し続けていた。


 そして何より自分の作った魔道具が彼の―――サトリという自らよりも優れた錬金術師に害の及ぶものになると分かっていながら、本気で作ってしまった自分の業の深さに呆れていた。


 錬金術にかまけ過ぎて領主としての役目を全うに出来なかった愚か者、それが自分である。


 そしてそんな彼はその罪悪感その他諸々に対し逃げるかのように、地下にある自分の研究室へと足を向けた。


 研究さえしていれば、この罪悪感を一時でも忘れていられる。


 そんな一心で彼は研究室へと向かっていき―――、


「あ、ようやく来た。

 遅いよ子爵のおじさん?

 八分の遅刻です!!」


 ―――罪悪感の原因(サトリ)が、自分からやってきた。



 ***



(サトリ視点)



 やってきましたヴィレッジ子爵邸。


 当然ながら貴族様のお屋敷とあって警備をしている私兵がいる。


 門番いるから空飛んで警備は抜けてきた、うん、職人肌な錬金術師の屋敷だから防御結界系の魔道具展開させていると思ったけど、そんなことなかった。


 お金なかったんだろうね、俺の住んでいる孤児院は普通にやってるけど。


 けど警備ザル過ぎるだろう、番犬ぐらい放っておけよ見回りもいないじゃん。


 そんな風に愚痴りながら、先行させておいたエアの助力で窓からお邪魔させてもらった、不法侵入だけど気にしない。


 どうやら最近ヴィレッジ子爵―――以下レヴァノン―――はここ最近地下にある研究室によく篭っているらしいとエアは使用人たちの会話を聞いていたので、そこでドッキリ待ち伏せを仕掛ける事にした。


 一時間もしないうちにレヴァノンはやってきた。


 ちなみに、研究室の中は物色してはいない。


 おじさんの主な研究がアゾルと同じ効率よい魔道具を作る為の設計図を山のように作っては削って床に削れた皮が散らかっている不潔な研究室だとか思っていないからな。


 レヴァノンの第一印象はくたびれた研究者だ、少なくとも俺の知っている貴族の男性でこれほど覇気のない貴族は見たことない。


 四十代で中肉中背加えて猫背、陰鬱な雰囲気を纏った貴族とは思えないほどの研究者だ。


 美形…の筈だ、息子がそこそこの美形だし、親であるレヴァノンも見られる顔をしている筈である、無精ヒゲとボサボサの髪の毛で分からないが。


 予想よりも八分ほど遅いな、どうやら聞こえてくる心の声からは俺に向けての後悔と安堵と悔しさ(・・・)だった。


 ははっ、すごいやこのおじさん。


 俺を殺せなかったことの悔しさじゃなくて、自分の作った|魔道具が役割を全う出来なかったっていう悔しさ《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》の方が強かったぞ、すぐに後悔が押し寄せてきて押し潰されたけど、種火が残っている。


 マッドとマトモを行ったりきたりしている中堅以上の錬金術師っていうところかな?


 会話通じるかな?


「あ、ようやく来た。

 遅いよ子爵のおじさん?

 八分の遅刻です!!」


 レヴァノンが部屋に入ったと同時にバタンと扉は閉ざした、エアが扉の裏に待ち構えていたからね。


 これで退路は塞いだ。


 フレアは俺の側で護衛役だ、襲いかかってくるとは思えないけど念のためだ。


 さて、お話の時間だよ。


「わ、私を殺しに来たのか!?

(ど、どうやって私の魔道具を防いで暗殺者どもを撃退したのだ、一定の空間を切り取り学園の監視している魔法から目くらましをして、更には魔道具の周囲に気配を撹乱させる効果まで付加したのに…違う、そうじゃない!!

 どうやって私の元まで辿り着いたのだ?

 あれだけ人間を割いたのだぞ、私の元に辿り着くにしても、まだ一日も経っていないじゃないか!!

 く、くそう、あの大司教め、私を売ったのだな!?)」


 うーん、レヴァノンからの心の声によると、どうやら王都にいる大司教―――マール・デーヴィという奴が黒幕のようである。


 あちゃー犯人見つかったか、俺にかかれば名探偵いらないね、聞こえちゃうから。


 どうやらマール何某はこの国の貴族を影から操り、俺をこの国から『保護』という名目で取り込もうと画策したらしい。


 しかもご丁寧にこのレヴァノン以外にも手を伸ばしている貴族がいるらしく、伯爵クラスの上級貴族にまで声をかけてやがる。


 恩を教会に押し付けられて仕方なくやったようだ、さすがにイヴェルダ教国からの指示かまではレヴァノンからの情報では得られなかった。


 …まあ、最低でもイヴェルダ教国が関わっていたという事が分かればそれで十分だし由としよう。


 それにしても…マールか、随分前アニョーゼに懸想してこっぴどく振られたブタ野郎だったっけな。


 脂ぎった顔つきにダルマに手足のついた気色悪い男だったと記憶している。


 孤児院が貧窮していたのはあいつの所為だ、運営費ちょろまかしているのを知っているのだ俺は。


「ああ、勘違いしないで。

 俺はおじさんを殺しに来た訳じゃないから。

 ていうか、殺すなら俺直接会いに来たりもしないでしょ?」


 アゾルにはこのおじさん殺すって言ったけど性格さえ除けば優秀な錬金術師だからな。


 何のために俺が魔導人形を作ったと思ってる、こうした七面倒な厄介(・・)を押し付けるためだぞ?


 暗殺(そういう)担当はうちの元気花丸印、次女のエアがやってくれるから、そういうのいいんだよね。


 レヴァノンの背後ではエアが楽しそうにナイフを構えているけど…しまいなさい殺さないんだから。


「そういう事ならナイフは仕舞っておくね!!

 けど何かマスターにしようと変な真似しようとしたら一瞬で首刎ねるよ!!」


 相変わらず満面の笑顔で物騒な発言をする娘である、頼もしいけどちょっと怖い。


 レヴァノンも『き、気をつけよう』なんて怯えちゃってる……いい気味である。


「ああ、ちょっとお話したかったんだ。

 マールのブタ野郎に嵌められた感想を直接聞きたくてね?」


 事件は繋がった、真相はこうだ。


 不況と不作のダブルパンチを喰らっていたヴィレッジ子爵はブタ野郎(マール)に背負ってしまった借金を肩代わり、チャラにしてもらった。


 その代償として、このマッチポンプ―――つまり暗殺者を俺に向かわせて失敗、レヴァノンが真犯人だと周知させ俺をこの国からイヴェルダ教国へと迎え入れるまで―――に組み込まれたのだ。


 哀れ弱味を捕まれたレヴァノンは闇ギルドにも目をつけられ―――こちらは脅迫される前に殲滅したが―――危うくスケープゴートにされる所だったのだ。


 哀れ過ぎて笑えてくる、何この茶番劇。


 これ、俺がうっかり死んだらどうするつもりだよって話だろ。


 レヴァノンは俺の発言が全ての真相に辿り着いたんだと気付くとへたり込んだ。


「…最悪の気分だ、弱味を捕まれて利用された挙句使い捨てとは…よくよく私は天に見放されているらしい。

 領主となってからは錬金術にも没頭出来ないし、かといって領地を放り投げることも出来ず何とか錬金術を活かした発展をしようとしたがうまくいかず…あの生臭ブタ野郎に利用されて…」


 …うん、この国の貴族って限界超えると口悪くなるんだな、国ぐるみのお家芸ですか?


「…若い頃は良かった、錬金術にかまけていられて領主になる事など忘れて没頭していたものだ。

 学園ではよく講義中に―――」


 加えて今度は昔語りだよ、何これ同情してほしいのか?


 いや、あんたの事情とか知ったこっちゃないから。


 迷惑かけられた挙句謝罪も無しに同情を誘うとか俺を嘗めてるのかって話だよ。


 妙に芝居がかっているし…こいつ自分の境遇に酔ってるな。


 典型的な自己陶酔型の悲劇のヒロイ…じゃなくて、悲劇のヒーロー気取ったアホと話している暇なんてないので、物理的に止めた、主に俺の右手で。


 おそらく今生で初めて他人に物理的な暴力を振るった瞬間である、ちょっと楽しい。


 渾身の右ストレートとはいえ助走をつけた十二歳の一撃だ、勢いよくすっ転ぶ―――エアは既に横にどけていた―――現実に強引に連れ戻されたレヴァノンは左の頬に手を当てて喚き出した。


「なっ、何だ!?

 殺さないといったではないか!?」

「いや、殺さないとは言ったけど殴らないとは言っていないから。

 あと聞きたくもないおじさんの昔語り聞かされても困るわけ。

 おじさんの錬金術師としての腕前は敬意を表するけど、別におじさんの人生まで含めて敬意を表している訳じゃないから。

 はっきりいっておじさんにかまけている時間は少ないんだよ。

 明日には俺宰相閣下と会食があってさ、それまでにこの下らなくて笑えない茶番劇を終わらせて仮眠とって楽しい(・・・)会食したいわけ。

 少し前まであのブタと接触していたのなら今あいつがどこにいるか吐いて、早く」


 大方教会にいるんだろうけど行って誰もいなかったら面倒だからな。


 まぁ、いないとしても歓楽街で娼館にでも行ってるイメージあるからそれほど探すのは苦労しそうにないが。


 四、五発ほど腹癒せに殴って候補地をあげてもらった、気が立っているのか心なしか殴ると気分がスカッとする。


 やっぱ基本教会にいるみたい、娼館は行かなくて娼婦を教会に呼びつけているらしい、神の家で姦淫に耽るとか不信心にも程があるだろう、どれだけ腐ってるんだよ。


 …という事は、娼婦が目撃者になる可能性も出てくるわけか。


 気絶させればいいかな、別に今回ブタを殺す事はしないし。


 あのブタはすぐに殺すなんてもったいない。


 じわじわ痛めつけて甚振って絶望してあの世へと旅立ってもらわなくちゃな。


 ああ、教会近くまで闇ギルドからの追跡をかわした奴は拉致して情報絞り上げてからぶっ殺そう。


「…さて、そろそろお暇するかな。

 おじさんもこれに懲りて少しは領主のお仕事頑張りなよ?

 デイジー様のお兄さんが派閥の長やっているらしいけど、そのお兄さん不正とか大嫌いな性格しているらしくて、今回のこと知れたら首切られちゃうよ?」


 うん、物理的にね?


 あくまでもレヴァノンは被害者だっていうのが俺の見解だから。


 ていうか四、五発とか言っておきながら十発以上殴ってるし蹴飛ばして十分報復した。


「ああ、息子(アゾル)にも感謝しなよ?

 誘き寄せる役やらせていたみたいだけど、ギリギリのところで踏み止まって庇ってくれたんだ。

 もし知らずにいたら、今頃この家潰していたよ?」


 まぁアゾルの心の声が聞こえていたしどうあっても防げていたけどね。


 あと潰すのは俺じゃなくて国だけど、その場合一族郎党処刑される可能性が高いかな。


 豊穣の錬金術師を暗殺しようとか……いや別に俺が偉いとか思ってはいないけど世間の評価を考えれば俺を暗殺しようとして依頼したレヴァノンたち子爵家を生かしておく筈ないでしょう。


 最低でも三親等までの処刑くらいしないと収まらないよ。


 けどそれは困る、凄腕錬金術師の家系を未遂で終わった事件で失うなんてもったいないからな。


 後日ビーチェにお詫びの品を匿名で送りつけるようきつく言って、俺は子爵家からお暇した。


 最初から最後までザルな警備だった、泥棒とか暗殺者が入り放題じゃねえか。


「しかしまた錬金術師派が問題を…デイジーも可哀想に、これバレたら本当に拙いな。

 バラす気ないけど」


 未だごたついてる錬金術師派にトドメの一撃になりかねないからな。


 今回は大目に見てあげよう、俺は先達には優しいのだ。


「……マスター、お帰り」

「や、やっときたっすねこのマジキチ魔導人形のマスター!!

 遅いっすまさかヴィレッジ子爵を磨り潰していたんっすか!?

 やっぱマチキチのマスターはマジキチっす!!

(よかった、ようやくこの怖くて嬉しくない二人っきりの状態から開放されるっす!!

 命乞いを何度した事か、やっぱ魔導人形ってやっぱマジキチっす!!)」


 人目の入り難い路地でガイアが俺たちを待っていた…のだが、なんか喧しい獣人がいた。


 こいつがフレアから報告のきていた情報屋か?


 ていうか磨り潰すって何だよ、物騒な。


「ガイア、どうしてこの煩いの連れてきたの?」

「……勝手についてきた、有用だから殺せないし、困ってる」


 そっか、勝手についてきたなら仕方ないね……やたらめったら殺しまくられてもちょっと困るんだけどいいや。


「それじゃ次は教会に行こう。

 ラインベル大聖堂にあのブタはいるらしい。

 話しつけてさっさと帰るよ、あとキツネのお前はもう帰っていいよ邪魔だから。

 たまに呼び出すからその時は馬車馬の如く働いてもらう。

 別にお前闇ギルドの人間じゃないから殺されなかったと思うけど?」


 するとキツネ獣人のクラフトは固まった。


「えっ、けどこの少年…ガイアって魔導人形俺のこと隙あらば殺そうとしたっすよ?」

「……余計なこと、話すな」

「うひょあぁっ!?」


 ガイアがクラフトに殴りかかろうとするが、それよりも先にクラフトが避けた。


 命懸けの漫才を見ている気分だ、笑ってやるべきなんだろうか?


「ガイア、もうこいつは殺さなくていいから。

 敵じゃないの、オーケー?」


 ガイアに言い聞かせると、渋々だがガイアも言うことを聞いた。


 何だろう、クラフトの奴ガイアに何かしたのか?


「…………むぅ、分かった、殺さない」

「いつもの倍悩んでるっすけど命の保障されてよかったっす!!

 じゃあ俺はこれにて!!

 何か用があったらすぐさま参上するっすね!!」


 クラフトはまるでその場からいなくなったかのように消えた、キツネ獣人が得意な幻影魔法だろう。


 キツネ獣人は獣人の中でも珍しく魔法が得意な種族だからな、幻影魔法となれば逃げたりするのには最適なんだろう。


 まぁ、うちの四兄妹にかかれば不可視の相手でも対処は可能だけどな。


 さてと、次でラストだ。


 会いたくはないけど、あのブタの顔を拝みに行くとしますか。



結局殺しませんでしたね、この選択がどうなるかは未定です。

とはいえ、契約によりアゾル君はこの件に関して一切口外できないので、とりあえず反省しているレヴァノン子爵の事も考えると収まるところに収まっています。

結構殴ったり蹴ったりしていましたが、収まっているんです。

読んで頂き、ありがとうございました。

感想お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ