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サトリの異世界楽隠居譚  作者: 夢落ち ポカ(現在一時凍結中)
第二章 転生(憑依)して超頑張ったら学園に入学しちゃったよ
29/46

第27話 サトリの長い一日(5)―――夜

あらすじ、ビーチェが誘拐された!?

…続きます。

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

 

(サトリ視点)


 ビーチェが誘拐されたらしい。


 学園から帰ってきて、チビたちやビーチェが見習いをしている定食屋の店長が孤児院に来て聞かされた俺はやられたと舌打ちする。


 エアによるとビーチェを定食屋に迎えに来た際店長から聞かされたとあり、捜索に出たかったが孤児院の護衛がある以上二次被害を懸念して動けなかったと謝罪を聞かされた。


 誘拐犯からの要求はない、怪しい。


 要求が来ない以上行動が制限されるのを分かっているのだとしたら、相当頭の回る相手だ。


 今頃誘拐犯―――おそらくは闇ギルドの人間は学園にいた暗殺者たちの安否確認でもしているのかもしれない。


 思った以上に相手はやり手らしいと思うと、俺は泣いている孤児院の院長シスターアニョーゼに頭を下げた。


「ごめんなさいシスター、俺がこの孤児院にいたばっかりに、ビーチェに怖い思いをさせた。

 すぐにこっちで対処するから、心配しないでみんなと一緒にいて」

「だ、だめですよサトリ!!

 相手は卑劣な誘拐犯です、ここは憲兵団に捜索願を…」

「いや、それだとビーチェに危険が及ぶ可能性が高くなるから却下で」


 うん、前世のドラマで誘拐犯が電話で言っていた。


『警察にチクッたら人質の命は』云々というやつだ、姑息だが効果的な手である。


「そ、そうですね、軽率でした…でも、そうなると…」


 アニョーゼも俺のする事に気付いたんだろう、渋っているようだけど止める気はない。


 相手がどうあれ、身内の人間に手を出した以上黙っていられるほど小利口じゃないんでね。


 とりあえず子爵のおじさんは後回しにしてビーチェの奪還からはじめよう。


 うん、頑張って今日中に全部片付けようかな。


 明日は宰相さんと会食だからさすがにドタキャンは出来ないし、この問題を後回しに出来るほど俺の肝は太くない。


「大丈夫、俺の作った魔導人形がいるから…シヴァ、ここは任せるよ。

 フレア、ガイア、エアは俺と一緒にビーチェの捜索だ」

「畏まりましたわマスター」

「「「はい、マスター」」」


 俺は孤児院を出ると、ビーチェの誘拐先と思われるスラムへと足を向けた。




 * * *



 スラムは歓楽街と隣接しているとあって、治安は他の地区と比べてとりわけ悪い。


 路地には娼館に所属していない路地裏娼婦や薄汚い浮浪者がいて通りをじっと見てカモを探していた。


 そんな中、おかしな三人組が現れた。


 アッシュフォード学園の制服を着た少年を筆頭に挟むように執事と従人(フットマン)が辺りを警戒しながら歩いていたのだ。


 だが、そんなおかしな三人組に誰も気付く様子は無い。


 それもその筈、彼らは全員が認識阻害の魔道具を使って周囲からその存在を認識出来ないようにしていたからだ。


「マスター、エアによれば歓楽街方面にはビーチェさんはいないようです。

 スラム街へ捜索範囲を広げ、このまま先行すると報告が来ました。

 どうされますか?」


 紅髪の執事―――フレアは主であるサトリに声をかけ、サトリはすぐに肯いた。


「引き続き捜索をよろしくと伝えて。

 …にしても、偶然の産物だった『共鳴機能』がこんな所で役に立つとはね」


 サトリのいう共鳴機能とは、魔導人形であるフレアたちに埋め込まれた機能の事だ。


 フレアたちの魔核炉は元を同じ魔石―――ベヒモスの物を使用されている。


 その際、巨大なベヒモスの魔石を一つの魔核炉にするより、四等分にすれば何か起こるのではと思いついたのがきっかけだ。


 最初からベヒモスの魔石でなく、そこそこの等級の魔物の魔石を利用する事で実験し、これが結果的にある発明を生み出した。


 特定の魔道具間の会話を可能とした、トランシーバーである。


 魔石には特定の波長があり、割る事でお互いを求め合うという傾向に気付いたサトリはその特性を活かし、通信を目的とした魔道具を作り嵌め込む事でトランシーバーという代物が出来てしまった。


 これには師であるアニムスも困り顔で『これはまだ広めない方がいい』というほどで、サトリはその言葉に従ってこの機能を現在作ろうとはしていない。


 フレアたちの魔核炉にはこの共鳴機能を施した以外、試作品で作ったトランシーバーは存在しない。


 これはお互いの連絡や連携の際に使うくらいでサトリとの繋がりはないためフレアたち限定の機能といえよう。


「……マスター、エアから続報です」


 歓楽街の端を越え、スラムに侵入したサトリは耳を傾けた。


 細い路地には綺麗な格好でスラムに侵入したサトリたちを歓迎しようというゴロツキが現れるが、フレアが手を動かすと路地の壁が浅く引き裂かれ、驚いた彼らは一目散にその場から逃げ出していく。


「ビーチェさんが見つかりました、ここから五百メートルほど先にあるボロ宿です。

 部屋にはビーチェさんの他に監視役が一人、外の入り口に一人、ボロ宿の入り口に三人の計五人です。

 練度はそれなりに高いようですがエアの敵ではないようで、このまま強行突入して奪還も可能との事です。

 如何なさいますか?」

「奪還して、言うまでもないでしょ?

 監視役は両手両足、あと顎を砕いて行動不能にして、絶対に殺すのは厳禁ね」


 エアからの朗報にサトリは不機嫌な声でフレアにエアへビーチェを奪還するように命じた。


 監視役を殺さないのはこの後情報を吸い取るためだ、交渉なんてする気はサトリには最初からまったくない。


 制服のポケットにはウルスラが入っていて、ボロ宿に着いたら即座に制圧した後、命乞いも聞かずウルスラの餌にする気でいた。


「失礼いたしましたマスター。

 直ちにエアにそのように伝えます。

 あと、ビーチェさんは何かの薬品を嗅がされたのか、意識がないようです。

 奪還した後、エアはそのまま孤児院まで引き返しますがよろしいですか?」

「そうして、ビーチェに血生臭いところを見せるわけにはいかないからね。

 エアにはビーチェを孤児院に返したら今度はヴィレッジ子爵邸の方を潜入するように伝えておいて。

 あくまで潜入目的だから、情報収集優先ね」


 エアは広域探索にも長けた魔導人形だ。


 その中には風系統魔法を使っての聞き耳や気配を散らすことで隠密なども可能とする、冒険者でいう所の斥候(スカウト)としての役割を持っていた。


 こと探索や調べ物に関していえば、万能とも言えるフレアよりも突き抜けて優秀なエアはこうした薄暗い仕事を多く任されている。


「…了解したとの事です。

 ……マスター、エアが突入し監視役及びボロ宿内にいた誘拐犯の無力化に成功。

 そのまま離脱したとの事です。

 あとの敵は三人ですね」

「仕事が速くて助かるよ。

 …もうすぐか。

 あーあ、こんな事ならもっと早く自分の家建てればよかったよ」


 サトリはこの事態に以前から計画していた『持ち家』を買って一人暮らし―――フレアたちを込みで―――しようとしていたが、良い物件がなく仕方なく王都郊外の土地だけを買って自分好みの家を作る為にここ最近屋敷の設計を書いていた。


 どうしても間取りの問題から度々出てくる為、地盤固め以外何も終わっていないという遅延振りである。


「その通りかと。

 この際選り好みをせず、業者に丸投げした方が良いのではないでしょうか?」

「……うん、賛成。

 ……マスター、時間かけ過ぎ」


 二人から揃ってダメ出しを喰らい、サトリは後日商業ギルドへ建築の依頼をする事になるのだった。



 * * *



 スラムの奥にあるボロ宿、その入り口にいた三人が同時に奇異なものを目にした。


 それは執事に従人、そしてアッシュフォード学園の制服を着た少年という、ここがスラムでなければ特に不思議に思うこともない面子だ。


 しかし、このスラムにいる事自体が奇異であり、おかしなことなのだ。


 学園の生徒の大半は貴族出身者が多く、仮にスラムに用があるとしてもお忍びとして服装くらい変えるのが暗黙の了解というものであった。


 学園の制服を着てスラムや歓楽街を闊歩すれば、すぐに噂となって学園とその生徒の醜聞に繋がるからだ。


 そして、その少年の顔がようやく肉眼でもはっきりと見えるようになった時、男たちは動揺した。


「豊穣の錬金術師!?」

「バカな、まだ何も手紙も遣していないのになぜ!?」

「上に伝えろ、人質を―――」


 慌てて三人の内一人がサトリたちを背にしてボロ宿へと駆け込もうとしたが、それは遅きに失した。


「―――やれ」


 身も凍るような声が辺りに響く。


 それは慈悲の欠片も無い酷く暗い声で、それを発した人間の機嫌がどれほど悪いのか一瞬で窺い知れるものだった。


 飛び出した執事と従人―――フレアとガイアが男たちに襲いかかる。


 一瞬にしてガイアが背を向けた男の膝裏から膝を蹴り砕き、瑞々しいナニ(・・)かがグシャリというおぞましい音を立てる。


 男が勢いよく倒れ込んだと同時に両肩を握り潰し、最後に顎を粉砕した。


 息があれば後はどれだけ瀕死に追い込もうと構わないという、容赦の無さが透けて見える無惨な光景をサトリは目にしたが、心には何の波紋も起きずただ成り行きを見守っていくだけだ。


 フレアは二人を相手取ったが、エアが言った通り大した実力者で無かったお陰なのか、サトリがガイアに視線を向け、戻した後には既に終わっていた。


 両手両足を輪切りにされ、下顎を切り落とされた二人は夥しいほどの血を流した男たちは失血死寸前の状態になっていた。


 同じ作り手に造られていながら、ここまで対処法に差があるのは個体差というものなんだろうと益体も無く思うサトリなのだった。


 サトリは血生臭く不快な気にさせられるが、生きているのならと懐からミミックスライム―――ウルスラを取り出し地面に置ぃ。


「ウルスラ、ご飯だよ。

 頑張って食べてね」

「…ゴハン…タベ…ル」


 誘拐犯から嘘偽り無い情報を得るため、サトリは男たちに無慈悲な最期を与える事にした。


 音程の外れた声がウルスラから聞こえ、ズリズリと男たちに近寄っていく。


 降伏勧告も交渉も一切無い、ただ一方的な虐殺に、サトリを知る者がその場にいれば絶句していただろう。


 光を灯さない、暗い眼をしたサトリは男たちがドロドロになって溶けていく様子を目に焼き付けた。


 男たちからは『死にたくない』という一身でサトリに救いの目を向けるが、異能を使っていないサトリにその思いは届く事は無い。


 届く事は無いが、何が言いたい事は分かっていた。


 だが、その願いを聞き届ける余裕は今のサトリには無い。


「…ガイア、これ済んだら闇ギルド襲撃してきて。

 今分かっている隠れ家を全部潰して、今回の計画を立てた奴を殺してきてね」


 三人を平らげたウルスラを手の平に乗せ、ボロ宿に入りながらサトリはガイアに命じた。


 体重の所為で階段を上る事の出来ないガイアも渋々ながら肯き、エアが行動不能にしていた男二人を同じようにウルスラの餌となる。


「はぁ、憂鬱(ゆううつ)だぁ。

 なんだって人がやりたい事をしようとしている途中でこいつら邪魔してくるのかなぁ。

 ほっといても役に立つ道具なんて俺が不便だと感じる限り作り続けるって言うのに」


 サトリにとって、この世界は不便極まりないものだ。


 だから自分の都合のいいように世界を少しずつ変えていっている、文明が歪に発達する事は間違いないだろう。


 思いつく限り不便と感じればその都度作っていく、他人を待つよりも自分で設計して作った方が早いと理解しているからだ。


 たとえサトリ以外が必要と感じずとも、自分がよければもうそれでもいいと開き直っているというのもあるが。


「…ますタ……なに……キク?」


 消化し終えたのか、ウルスラがサトリに声をかける。


 サトリはこの五人がどうしてビーチェを誘拐したのか尋ねた。


「…シッパ…イの……ホケン…ウえが…はんだん」


 耳心地の悪い声が聞こえ、サトリは闇ギルドが念には念をと保険代わりにビーチェを攫った事に腹を立て不快な気持ちになるが、怒鳴る事はせず次の質問をぶつけた。


「じゃあ次に、匿名の手紙を送りつけた人間は誰か分かる?」

「……まだ…シラベ…チュう。

 け…ど、きょ…カイア…やし…ギルド…みて…ル!!」


 たどたどしいウルスラの言葉から『教会』の言葉が聞こえ、サトリはその情報を求めた。


 ウルスラが得た情報によれば、匿名の手紙を得て直ぐに闇ギルドはこれを送ってきた者を捜索したらしい。


 候補として、一人の男がいて闇ギルドはその男を追跡した。


 だが、王都の東区までで男の足取りは消えた。


 付近をくまなく捜したが見つからず、その付近にはイヴェルダ教の大聖堂があり、闇ギルドは教会関係者がこの件に関与しているのではと憶測を立てているそうだ。


「……教会かぁ。

 どうしようかなぁ……今敵対しても良いこと無いんだよなぁ」


 イヴェルダ教は世界最大の宗教だ、サトリ個人の力でどうこう出来る相手ではない。


 最強の魔導人形がいようと、どこかで限界が来る。


 力尽くとなれば尚更だ、世界中の殆どの人間が敵となり、サトリに安住の地は無くなるだろう。


 自らの称号―――『豊穣の錬金術師』と呼ばれていようとそれは避けられない未来である。


 スローライフなど望めるものでなく、強引な手段はかえって命取りになるのが手に取るように分かったサトリはどうしたものかと頭を悩ませた。


 ―――というのはサトリ個人の見解だが、実際はまるで違った。


 世界は既にサトリという個人の作り出す物を期待している。


 農業しかり、生活必需品しかり、娯楽しかりと経済を確実に回せる価値を生み出し続けるその頭脳の安全を注視しているのだ。


 特に国の上層部はサトリを手に入れる事が出来ないのならのびのびと何かを作ってほしいと思っているほどで、大陸西部から半年近くの時間をかけて書状を送りつける国もあった。


 そしてその下層、平民たちもサトリの生み出す作品を待ち続ける者も多く、昨今の腐敗したイヴェルダ教の関係者よりも、世界的な不作不況を救ったサトリを崇める者も数多くいた。


『聖人』や『現人神』といったサトリの不本意な二つ名は知らぬ間に増え続けている。


 世界的な宗教であるイヴェルダ教だろうと、看過できないほどにその数は現在進行形で増え続けている。


 貧困に喘ぐ自分たちを助けもせず、腐敗に満ちた権力闘争に情熱を燃やす彼らに見切りをつける者たちは多かった。


 そんな彼らがサトリにもし何か起こったことを知ればどうするのか。


 イヴェルダ教に待っているのは、未曾有の破滅だけであろう。


 イヴェルダ教がサトリを取り込みたいのは、こうしたサトリを信奉する者たちごと確保したいという狙いがあるのだが、当の本人はまるで知らずにいた。


 現在サトリが考えているのは、『いっそのこと大陸から逃げて絶海の孤島に引き篭もろうかなぁ』という現実逃避である。


「マスター、如何されますか?」

「……もう闇ギルド、行ってきてもいい?」


 心配そうな顔を覗かせるフレアと、マイペースにも闇ギルドへと向かおうとするガイアにサトリはどっと疲れたように、大きなため息をついた。


「……うん、とりあえず子爵のおじさんに話を聞いてから考えよう」


 問題を先延ばしにし、サトリはボロ宿を出てガイアと分かれた。



読んで頂き、ありがとうございました。

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