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サトリの異世界楽隠居譚  作者: 夢落ち ポカ(現在一時凍結中)
第二章 転生(憑依)して超頑張ったら学園に入学しちゃったよ
27/46

第25話 サトリのいない一時(1)―――昼

続きます、長いです、戦闘回です、グログロです。

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

 



 アッシュフォード学園において人気のない場所で、一人の少年が歩いていた。


 レイヴァン王国では珍しい黒髪の少年で、普段からお供の執事やメイドを連れていた彼が学園の端ともいえるこの場所にいるのは奇異に映るだろう。


 そして木々のさざめきと風の吹く音以外、少年だけぽつんと佇んでいて、ますます異常な場となっていく。


 そんな中で、おもむろに少年は制服を脱ぎ始めた。


 上着だけでなく、ズボンまで脱ぎシャツとパンツ姿になった小柄な少年は両手を広げてただ黙って佇んでいる。


 十秒も経たない内に、それ(・・)は起きた。


 どこからともなく何かが投げ込まれ、それは少年に吸い込まれるようにか細い体に突き刺さる。


 それは細く鋭い鉄棒の様なもので、棒手裏剣と呼ばれるものだ。


 光の反射によって何かが塗りこめられているような、毒々しい色を見せていた。


 二度、三度と少年に鉄棒が突き刺さり、耐えられなくなったのか少年は膝から崩れ落ち、倒れた。


 突き刺さった当初はびくりと震えていたが、倒れてからは身動ぎ一つしない。


 五分経ち、十分経ち、静まり返ったこの場に人影が現れる。

 数にして五人、いずれもマントと頭巾で体格や面相を見せまいとする意図で構成されたその集団は周囲を警戒しながら倒れた少年を取り囲んだ。


「やったのか?」

「ああ、手応えはあった」

「だが不自然だ」

「おい、おかしくないか?」

「早く離脱しよう、何かがおかし―――っ!?」


 死体の確認をしていた五人の内、最後に声を上げた者の声が途中で遮られた。


 それに気付いた四人(・・)は反射的に散開し周囲を警戒する。


 最後に声を上げていた者が動かなくなり、少年に重なるようにして倒れているのに気付くのにそう時間はかからなかった。


 いつの間にか四人になっていたのだと気付くと更に動揺が走り、注意深く四人は気配を探った。


 だが、いくら探ろうと四人を襲撃した者の気配は見つからない。


「…逃げたのか?」

「いや、まだこの場にいる筈だ」

「かなりの凶手だ、油断するな」

「くっそ、こんな依頼受けるんじゃなかったぜ」

「―――まぁ、合格としましょうか」


 声のした方向に瞬間的に先程の鉄棒を打ち込んだが、その方向にいた存在はあらゆる意味で規格外だった。


 打ち込まれた計四本の鉄棒を全て素手で捕らえたのである。


「赤髪紅眼…目標(ターゲット)の護衛、魔導人形か!!」


 リーダー格の男が煮え滾る殺意を眼前の敵に叩きつけるが、飄々とした様子の執事―――豊穣の錬金術師の守護者である魔導人形、【劫炎のフレア】が四人の()に微笑んだ。


 フレアの左右を同じく【閃雷のエア】、そして【破城のガイア】が既に臨戦態勢で構えていて、一触即発の状況を生み出していた。


「マスターを殺したという達成感には酔いしれましたか?

 満足したのなら…死になさい」


 機械的で温かみの欠ける、だが確かな殺意のある言葉をフレアは口にする。


 エアとガイアが飛び出す。


 魔導人形と、暗殺者の戦いが、人知れず始まった。



 * * *



 サトリの作り出した魔導人形(オートマタ)には数多くの機能が搭載されている。


 仕込み武器は基本として、その他にもその驚異的な力を補佐する為、探知機能を組み込まれていた。


 魔導人形は熟達の武芸者と違い、気配を読むといった感覚的な芸当は出来ない。


 だが、この探知機能を備えていれば話は別だ。


 魔力感知、熱源感知、電磁波探知、重力感知、風読みといった機能を駆使し、気配を探るのだ。


 魔力を一切漏らさず、熱を発さず、肉体に電流が流れておらず、微動だに動いていない、このどれか一つが欠けていれば魔導人形は異常を察知し対処が可能となる。


 たとえ肉体を持っていなくとも、あらゆる異常を感知する機能を持つ魔導人形に死角はない。


「ガイアガイアッ、どっちが多く殺すか競争しよっ!!」

「……やだ、エアお姉ちゃん早いからボク負ける」


 陽気なエアに対して抑揚のない反応を見せるガイアたちは暗殺者の懐に飛び込もうとするが、既に臨戦態勢に入っていた暗殺者たちはこれを散開して離れた。


 煙玉を地面に叩きつけ、かわしたと同時にエアとガイアが煙幕に飛び込んだ瞬間を見計らい棒手裏剣を放つ。


 一度気取られた暗殺者が純粋な戦闘者と戦うのは圧倒的に不利な状況だ。


 だから一度煙幕で視線を切り、仕切り直しを図ろうとしたのだ。


 棒手裏剣を放ったのは、とっさに方向転換して追撃されるのを牽制するためだ。


 そしてこの暗殺者はかなりの手際を見せ、煙玉を地面に叩きつけ、かわしたと同時に棒手裏剣を放っていたが、他の暗殺者はフレアのいた場所にも煙玉を投げつけていたのだ。


 打ち合わせなどしていないのに、この見事な連携はフレアも驚かされた。


 だが、それだけだ。


「―――その姿を見た以上、この場から逃げる事は不可能です」


 事務的で、名と反した冷たい声を口にしたフレアの声が辺りによく響く。


「なにっ!?」

「ギャッ!!」

「ぐっぞぉっ!?」


 暗殺者たちの悲鳴が聞こえ、煙幕の中でフレアは自らの攻撃に手応えがあった事を認識した。


 何かが地面に転がる音がして、フレアはその方向に歩き出す。


 ゆっくりと歩きながらフレアが煙幕から出て行くと、そこには暗殺者たちが血塗れの姿で呻き倒れている姿があった。


 フレアは三人の暗殺者が倒れているのを確認して、辺りを見回す。


 エアとガイアもいない事から、最後の一人を追跡しているのだろうと思うと、暗殺者相手の対人データを元となった魔導人形レトの戦闘記録をいくら持っていようと実戦となれば齟齬が出るのだと今回の経験を教訓にするのだった。


「……ふむ、一人足りませんね?

 不可視にして無音の攻撃を避けるとは、少々侮っていたのでしょうか?」


 フレアは暗殺者たちの技量を正確に測り切れていなかった事を恥じると、念の為にと暗殺者たちに向かって腕を振った。


 瞬間、暗殺者たちの手首と足首が切断され、呻き声が悲鳴と嗚咽、そして怨嗟の声で溢れ返った。


 完全に逃走と反撃の手段を奪う事で尋問に注力で切るようにしたのだが、人間の価値観から大きく逸脱した魔導人形に慈悲はなかった。


 そう、たとえサトリの偽者(ダミー)を用意して暗殺者に襲わせはしたものの、もしこれが本当にサトリ本人が襲われていたかと思うと、フレアの思考回路に不明瞭なノイズが発生するほどに今回の一件は根が深かった。


「―――やったー、あたしの勝ちですよガイア!!」

「……負けてない、勝負してないし」


 暢気な声がしてきたので、フレアが振り返ってみるとエアとガイアが最後の暗殺者を捕らえて片足ずつ持って戻ってきた。


 ところどころ切断されたり、抉れていたりと損傷は激しいが、生きてはいるようである。


「お疲れ様です二人とも。

 ガイア、引き摺って帰ってきたのはいいですが、血が地面に流れています。

 貴方の魔法で後始末は任せますよ」

「……分かった」


 フレアはガイアに指示すると、次はエアに向き直って指示をする。


「エア、貴女は周囲の警戒をお願いします。

 この者たちが人避けと防音の魔道具を設置展開している事は分かっていますので目撃者の可能性は限りなく低いですが、マスター以外の者が作った魔道具など不安で仕方ありませんからね。

 探知して魔道具の回収をお願いします」

「はいはーい、もう場所特定してあるから十秒で持ってくるね!!」


 暗殺者たちは人避けや防音といった魔道具を合わせ、暗殺し易い状況を作り出して行動を起こしていた。


 もちろん提供したのは雇い主であるヴィレッジ子爵だ。


 闇ギルドはこの使い勝手の良い魔道具を報酬にしていた、暗殺者にとって垂涎ものの魔道具だ。


 今回の一件で、ヴィレッジ子爵はもちろんだが、闇ギルドにも報復は決定している。


 彼らには一切の慈悲はなく、希望の一片も残すことは無いので全てにおいて徹底していた。


「…あとはウルスラ(・・・・)ですね。

 ウルスラ、食事を済ませてすぐに来なさい」


 フレアは最初に手をかけた暗殺者のいる方向へと声をかける。


「……………ゴポッ」


 ―――最近になって、サトリの使い魔二号であるウルスラの種族名が分かった。


 スライム種ではあるが、異常種であり上位種の『ミミックスライム』と呼ばれる希少種だった。


 対象の魔力を取り込むことで擬態し罠にかける事で生きてきた、スライムの中でも特に好戦的な種族だ。


 ある時は瀕死の魔物となって倒れているところを捕食しに来た魔物を逆に取り込んで捕食し、ある時は人の姿で倒れて助けようとした相手を取り込んで捕食するという凶暴な種だ。


 サトリはウルスラに魔力を与え続け、遠目から見ても自分と見分けがつかないくらい正確な擬態をウルスラにさせる事に成功した。


 元々の目的はウルスラに午後の講義を代理出席させようという邪な思いから発生したものだったが、こうした『おとり作戦』にも利用出来ると考えていたので、今回起用してみたのだ。


 結果は暗殺者が見間違うほどの成功を収めた。


 ウルスラは自分の上に被さっていた暗殺者を取り込んで三十秒とかからずに消化すると、跳ねながらフレアの元にやってきた。


 フレアは尋問を開始していて、新たにやってきたウルスラを指差してこういった。


「さて皆さん、これ以上何も喋ってくれないのでしたら、貴方たちをこのスライムのご飯にしますよ?

 皆さんが知っているかは不明ですが、スライムというのは魔力というのが大の好物で、肉体を消化した後は貴方たちの魔力の大本…まぁ、魂までも食べてしまうんですよ。

 貴方たちの職業からして地獄行きは決定しているんでしょうが、その地獄にも行けない、完全な無になってしまう訳です。

 素直に話してくれたら、憲兵団に突き出すくらいで勘弁してあげましょう、如何ですか?」

「……………ゴポッ」


 判別し辛い声ともいえない音を上げるウルスラに怯えた一人の暗殺者が、他の瀕死の暗殺者たちの制止を振り切って喋り始めた。


 どうやら、暗殺者たちは雇い主が貴族であるという事までは知っているが、それ以上の情報を知り得ていなかった。


 金払いもいいということで闇ギルドでもトップクラスの暗殺者を雇ったのかもしれないが、その結果が全滅である。


 フレアはガイアが後始末を終えて帰ってきているのを確認し、エアが既に隠されていた二つの魔道具を暇そうに転がしているのを見て頃合と思ったのか、最後に尋ねた。


「っていうかフレアお兄ちゃんの武器ズルイよっ!?

 (・・)なのになんであんなにぶっつんぶっつん切れちゃうの!?」

「……あの糸ヤバイ、音しないし、いつの間にか切れてる。

 ……フレアお兄ちゃんの武器以外全部近距離武器なのに、あれ射程範囲長い。

 ……うん、ズルイ」


 エアのいう糸とは、サトリがオリハルコンで作ったフレア専用の武器だ。


 中距離から遠距離まで射程があり、その切れ味は鋼鉄を易々と切り裂く、人の肉体強度では残酷で酸鼻な光景にしかならないだろう。


 妹弟たちの抗議に苦笑しながら、フレアは暗殺者に最後の質問を問いかける。


「……最後に聞きましょう、闇ギルドはどこにありますか?」

「だ、だめだっ、それだけはいえねぇ!!

 言ったら殺される!!」


 その言葉に、ペラペラと喋っていた暗殺者が間の抜けた答えを返した。


 ここで正直に話して憲兵団に突き出されたとしても、情報を漏らした暗殺者を闇ギルドは絶対に許さないという。


 裏切り者は必ず殺すという誓いが闇ギルドの鉄則のようで、たとえ殺されても話せないと暗殺者は頑なに口を噤んだ。


 この場でウルスラに魂ごと消滅されるよりも、仲間を売る事は出来ないと暗殺者はいうのだ。


 ならば、フレアの取る選択は一つだ。


「では、貴方たちに用はありません。

 ウルスラの遅めの昼食になってもらいましょうか」


 ウルスラはのっそりと暗殺者たちを取り込んでいく。


 痛みは無い、対象を油断させる為に麻痺毒を付与した触手で体が溶けていくという正気では耐えられない最期を暗殺者たちは味わう事となった。


 四肢が溶け上半身も溶け始めたところで、フレアが口を開く。


「いい事を教えてあげましょう。

 ミミックスライムは対象の魂まで取り込むと、擬態した際に喋ること(・・・・)も可能なんです。

 貴方たちをウルスラが美味しく頂いた後、貴方がペラペラと喋ってくれた情報を精査しますね。

 では、さようなら」

「なっ、くっそがああああああっ!!」


 おそらくは従順な振りをして偽の情報を流そうとしたのだろうが、フレアの一言で暗殺者の諦観めいた目に一瞬にして憤怒が宿った。


 どんな形であれ一矢報いようとしたのだろう、全て意味を為さなかった。


 フレアの言った言葉は真実だ。


 これについてサトリは偶然知ったのだが、ミミックスライムは対象を取り込んだ後、魂から情報を得て学習する知性を持ち合わせていたのだ。


 詳しく調べていく内に、サトリはウルスラの生態が他のスライムと違うことを知り驚愕した。


 通常子供でも鋭い枝を持って核を貫けば死ぬはずのスライムだが、ウルスラ―――ミミックスライムは他のスライムとは違う特異性を持っていた。


 いうなれば総核演算とでも呼べばいいのか、ミミックスライムにはその液体全てが核であり、その核一つ一つはパソコンのような演算機能を有していたという異常個体だったのである。


 通常のスライムが持っているという核をミミックスライムも同様に持っているが、調べていく内にこれは偽物であり、死んだ振りという知的行動をするほどには知能を持っていた。


 魂からの情報を得て学習する際、無数のパソコンによる演算機能の読み込みをする事でその取り込んだ魂の持っていた情報を全て自分の物にするのだ。


 これがミミックスライム、スライムという最弱種族にありながら唯一討伐難易度B級上位という凶悪性を持った魔物だ。


 狩りに成功し続けた末には、たとえ上級冒険者でも命を奪われかねないだろう危険種である。


 断末魔を上げた暗殺者はウルスラという常識の範囲外にあった魔物に一矢報いる事も出来ず消化されるのだった。


「…まったく、あんな手の平返しをする暗殺者の言葉を鵜呑みにする訳ないでしょうに。

 手際はそこそこでも、頭の出来は悪かったようですね」


 フレアの無情ともいえる感想を尻目に、エアとガイアは気にした様子も無くただ先程の勝負の勝敗を白黒つけようと睨み合っていたのだった。




 * * *



 暗殺者たちを全て葬り去って、結婚も全てウルスラに消化させた後、喧嘩に発展しそうになっていたエアとガイアをフレアは止めて今後の予定を計画していた。


 そしてその中には、液体の中に人らしい口がパクパクとしながら声を上げていた。


「…あのしゃべっていたの…ウソ、いってた」


 口だけの存在―――ミミックスライムのウルスラは擬態させた口は声帯が安定していないのか、たまに音程の外れた声を上げながらも機械的に情報を吐き出し続ける。


「いらいぬし…しってる、ヴィレ…ッジししゃく。

 ますたー……ころしたら、ヴぃれっじ…おどす…キ、だった。

 ヤミギルド…ばしょいっぱい…かくれが…イッパイ、ある」

「依頼主に関しては正直どうでもいいです、どうせ焼きますので脅される心配なんてしていません。

 闇ギルドの方は面倒な連中ですね、治安の悪化が懸念されるので殲滅出来ませんし、困ったものです」


 フレアはウルスラからの情報を精査していくと、ヴィレッジ子爵の未来をそう断じた。


 闇ギルドの暗殺者たちがサトリを暗殺する事に成功した後にヴィレッジ子爵を食い潰す気で脅そうとしたのだろう、取れない皮算用をした代償は命で購う結果に繋がったのだ。


 問題は闇ギルドである。


 ウルスラからの情報によると、闇ギルドはスラム街の奥にあるが、そこが闇ギルドが構えている建物ではなく、あくまでアジトの一つという事だ。


 いざという時の為に、複数のアジトを持って逃走経路を確保して隠れ家もあるという事なので潜伏先も複数確保しているという念の入れっぷりである。


 サトリを暗殺するというフレアたちにとって許し難いその所業の報復に闇ギルドを殲滅しようとしても、殲滅し切れるかも定かでなく、また殲滅したとしてもスラム街の治安悪化が懸念され、フレアとしてもこの案件はすぐに判断出来ないでいた。


「フレアお兄ちゃん、もう十分情報は手に入ったんだし、マスターが放課後帰ってくるまで待っておけばいいんじゃないかな!!

 今日はパーティーだからそっちの準備もあるんだからねっ!?」

「……エアお姉ちゃん、それはまだ時間に余裕あるから後にして。

 ……今はマスターに暗殺依頼した連中の問題が、最優先」

「ガイアは心配性だなぁ!!

 大丈夫だよっ、現状の戦力なら後手に回ってもすぐに挽回して圧倒出来るからね!!」

「……ダメ、被害出たら、マスター怒る。

 ……マスター怒ったら、うるさいのにまた怒られる」


 ガイアのいう被害とは、見知らぬ他人ではなく孤児院の人間の事を指している。


 ガイアが懸念しているのはそこだ。


 彼らに何かあれば、間違いなくサトリは怒りその矛先を闇ギルドのあるスラム街へと向けるだろう。


 文字通りの殲滅戦を繰り広げるだろうし、その分被害も甚大だ。


 誰も止める事は出来ないだろうが、その代わり後日の問題が降りかかってくる。


 国という、国家権力が。


 性能試験の時でさえ、学園に形だけだが注意されたのだ。


 だが、今回は王都へ確実に被害が出る以上、国が見過ごすなどありえないだろう。


「そうですね、確かにそれも問題です。

 マスターがお怒りになれば、間違いなくスラムの被害など度外視して殲滅戦を展開させるでしょう。

 そうなれば国が黙っていません。

 それはマスターの師であるアニムス様にもご迷惑がかかります。

 ここはやはりマスターにご報告して、その後考えましょう。

 エア、貴女の試算では後手に回ったとして時間的にどのくらいの猶予があるのです?」

「事態を知って対処したら切り札使わなくても三十分いらないよ!!

 あと切り札使ったら三分で終わっちゃうね!!

 スラムが吹き飛んじゃうけど!!」


 エアの演算能力はフレアと同等だ、フレアもその試算と同様の結果を導き出した。


 あらゆる可能性の中で最も高いのは孤児院から孤児を誘拐し、それを以ってサトリを脅すという卑劣外道の手段だ。


 効果的ではある、酷く逆効果な結果となろうが。


 たとえ十分で対処可能と申告すれば、サトリが少しは冷静さを取り戻してくれるだろうと信じるフレアなのだった。


「エア、貴女は今すぐ孤児院に帰りなさい。

 万が一の為、孤児院の護衛に回るのです。

 我々と人間の価値観はやはり理屈では動かないという懸念事項がある限り、完璧な予測は不可能です。

 可能性は一つでも多く摘むに限ります、行ってくれますね?」


 この暗殺が失敗した事が知られれば、間違いなく次の一手は孤児院に手が伸びるだろう。


 その時、力の無いアニョーゼや孤児たちに悪意の手が伸びる前に対処出来れば時間稼ぎは十分だ。


 一刻も早く戻る必要性があった。


 夜まで持てば、報復が始まる。


 今頃講義を受けながら、ヴィレッジ子爵をどう処理(・・)するか考えているサトリを迎えればどうとでもなった。


「はーい、じゃあ行ってくるね!!」

「……いってらっしゃい」


 エアが手を振って学園から出て行くのをガイアが見送った。


 フレアはウルスラを回収し、エアから受け取った魔道具を手に取る。


 小型化されているとはいっても設置型の魔道具とあって粗のある作りだが、外面は関係なく性能は確かなのだろう。


 そんな魔道具を作れる優秀な人間が、わざわざ危険を冒してサトリを暗殺しようとするのか、フレアには分からなかった。


 人に近い感情や演算回路を持つフレアでも、理屈だけでは説明出来ない人という存在の複雑さに答えは出ないのであった。





久々の戦闘回…うーん、微妙だったでしょうか?

強すぎてまともな戦闘にならないのはままある事ですのであまり気にしていませんが。

そもそもこの作品、戦闘回多く出す予定ありませんので。

出す時は出しますが、一話くらいで終わります。

読んで頂き、ありがとうございました。

感想お待ちしています。

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